27話目 サログド迷宮その2
あれ以降、トーチツイッギーは出て来なかったが、魔物はわんさか出てきた。
道幅や天井までの高さが桁違いに大きくなったのも要因だろう。
公平達はなかなか奥に進むことができなかった。
「この!」
公平は目の前の蛇に向かって魔法をぶつけるが、体が硬すぎてほとんど攻撃が通らない。
蛇はロックスネイクと言って、体が石でできていた。
「魔王様、ロックスネイクを引き付けられますか?
僕が背後から切ります!」
ペルドの言葉に公平は頷き、魔法の他にそこらへんに落ちていた石を投げて、蛇の注意をいっぺんに引き受ける。
ロックスネイクは牙に毒を持っていて、噛み付いてくるが、距離を取れば攻撃されることはない。
蛇を挑発しながら注意を逸らしているうちにペルドが後ろから蛇の首を力任せにぶった切った。
ーー俺と同じロングソードの筈なのに、何故か鈍器を当てたような音がしたんだが…
蛇は切れたというよりも、押しつぶされたような断面をしている。
確かに死んだことを素早く確認すると、公平は次の敵に向かった。
「あー、数が多いよ…」
先ほどのロックスネイクの他に、壁にびっしりと張り付いた藤壺のような魔物が次々と毒を飛ばしてくる。
ルトナが持参した盾で防いでくれるが、量が多く何発かは自力で避けなければならない。
幸い藤壺のような魔物は移動が遅く、弱いが数が多すぎるので、倒さずにロックスネイクや他の魔物を倒しながら進んでいく。
ーーある意味これトラップだよな…なんで弓矢じゃないんだろう…見てるだけで気持ち悪くなってくるんだけど。
公平は昔から同じような物が密集した状態が苦手だったので、気分が悪くなった。
だが、止まるわけにもいかない上、向こうは攻撃を飛ばしてくるので見ないわけにもいかず、我慢しながら進む。
ガノイを先頭に、ラウロを殿として一団になって藤壺のような魔物が張り付いているゾーンを抜けると、いきなり周りが黄色いレンガで出来たような風景に変わった。
「…? 迷宮の中なのにレンガ…?」
「迷宮内では時折、このように雰囲気が変わりますが、コアがなくなると途端にただの土壁となるので、一種の幻覚のようなものであると考えられています。」
ガノイの説明に納得する。
公平はまだセーフティゾーンに入ったわけではないものの、魔物が辺りにいないので、少し安堵した。
ーー…一気に魔物が強くなったな。
前回までは剣が一撃か二撃はいれば倒すことができたが、今度は繰り返しダメージを与えなければ倒せないものや、さっきの蛇のようにそもそも攻撃が入らないものが出てきた。
そういった敵には誰かと協力して向かう必要が出てくる。
ーー本当は一人で倒せないとダメだんだろうけど…
はあ、と公平はため息を吐いた。
くよくよしていても仕方がない、というよりそんな暇がないのだが、とりあえずは一人で倒せるようになることを目標とすることにした。
「oh やっちまったぜ♪」
後ろから来ていたラウロの声と共に、いきなり迷宮内が震動した。
慌てて後ろを見ると、ラウロのさらに後方に迷宮内にぴったりと収まるサイズの球体状の鉄球が天井から落ちて来た。
さらにその鉄球はゴロゴロと速度を増しながら公平達の方に転がって来た。
ーーなんて典型的な罠ーー‼︎
叫び声を上げながら一目散に鉄球と逆方向に全力で走る。
「何やってくれてるの君ーー‼︎」
公平は後ろのラウロに向けて叫んだ。
「慣れて いるから 油断した 検討を祈る アディオス〜♪」
ラウロはいつもの調子のまま地面にあった突起を踏んだかと思うと、地面に空いた穴に落ちていった。
「あ、先に逃げやがった!」
フゥ〜、というラウロの声が穴から聞こえてきて、公平はイラっとする。
「ラウロ様は迷宮担当ですから、構造をよくわかっておいでなのですわ。」
共に逃げるルトナの言葉に、公平は、じゃあなんでさっき引っかかったんだよ、と思う。
「とりあえずこの鉄球どうするんだい? この状況で魔物が出てこられたらたまったもんじゃないぞ!」
「鉄球自体を破壊してしまうか、ラウロ様のように逃げ込めるところを探すしかありませんわね。あんな風に」
ルトナが示す先では、ガノイは壁にできた窪みに、ペルドは天井の穴に、モルイスは魔法で自身を極限まで薄くして壁に張り付いていた。
ーー全員逃げた! 特に最後は大丈夫なのか?
隣で走っていたルトナも、あら、と言ってラウロと同じように地面に空いた穴に落ちていった。
公平は一人になった。
「うおおぉぉぉ! 死ぬうぅぅぅ!」
叫び声を上げながら逃げるが、徐々に鉄球が近づいてきた。
ーーあれを壊すのは無理だろ! どこか逃げられる場所は…
しばらく走っていると、前方に行き止まりが見えた。
万事休す、と思っていると、行き止まりの横に細い抜け道を見つける。
公平は急いでその中に逃げ込むと同時に壁に鉄球がぶつかって激しく地面が揺れた。
鉄球がぶつかる瞬間、松明を落としてしまい、辺りがよく見えない。
公平は火魔法で新しい松明に火を灯した。
蛇の巣窟だった。
「ぬわー⁉︎」
一難去ってまた一難、狭い通路に蛇が何匹もいた。
蛇は公平を見た瞬間襲いかかってきた。
公平は蛇の攻撃を避けながら奥に逃げる。
すると、何故か前方にラウロがいた。
「ラウロ君⁉︎」
「よお 魔王様 この先 行き止まり ここで 倒さねーと 死んじまう 俺も 協力してやる そいつら倒すぜ yeah♪」
腑に落ちない何かを感じつつも、勝率が上がったと公平はラウロの側に寄って、蛇と対峙する。
ーーまず、多対ニから一対ニに持ち込みたいな…
一匹でも厄介な蛇である。全部同時に相手取るとなると勝てないだろう。
公平はそう判断し、一匹を残して通路全体に土魔法で壁を作り、他の蛇が来れないようにする。
「ラウロ君はどうやって戦うんだい?」
蛇と一定の距離をとりながら質問する。
「俺は これ♪」
それはレコードくらいの大きさの円盤型の刃物だった。しかも二枚ある。
変なポーズをとりながらラウロは二枚とも蛇に向かって投げたーー筈だったのだが、一枚は蛇に一枚は公平にブーメランのように曲がって斬りかかってきた。
「危なっ!」
間一髪のところで避ける。
ーーこいつ俺のことを殺す気か…!
「oh すまない 手元が狂ったZE♪」
戻ってきた武器を受け止めながら抜け抜けとそう言った。
本当かよ、と公平は思いながら蛇の方を見る。
蛇の体には傷が付いていたが、ダメージが入っているようには見えなかった。
公平は剣を構える。
ーーどうする、今まで攻撃が入らなかった相手だ。
公平は先程までの戦闘を思い出す。
確かあの時、ペルドは同じ剣で倒していた。
違いは経験と物量だ。
オークは体が大きく、重さもある。
それに対して公平は身長は元の世界と同じ平均程度。
体重も普通である。
ーーだったら攻撃に重さを乗せればいい!
公平は剣を鞘に戻すと、木魔法で木でできたハンマーを作り出した。
魔力がごっそり減るが、構っていられない。
公平は蛇の攻撃を避けながら、その頭にハンマーを振り下ろした。
重さで蛇の頭が若干ひしゃげるが、ギョロリ、とその目を公平に向けてなおも攻撃してくる。
その後も二、三回ハンマーを振り下ろしたことで、やっと蛇は動きを止めた。
「よし、次!」
土魔法で作った壁に蛇が一匹だけ潜れる大きさの穴を作り、出てきたら再び穴を塞ぐ。
一連の動作で魔力がさらに減るが、ここで魔法を解除すれば何匹もいる蛇を同時に相手取らなければならなくなる。
額に汗を滲ませながら、一匹一匹処理していく。
時折ラウロも攻撃するが、たまに牙を折ったりする程度で殆ど外していたが、危ない場面で意外と役に立った。
最後の蛇を倒し、公平が地面に膝をついた辺りで、抜け道の入り口の方が少し明るくなった。
どうやらガノイ達が鉄球を退けたようだ。
バタバタ、と兵士達が中に入ってくる。
「魔王様こちらへ、セーフティゾーンまでの道を確保しました。」
誰かが言い、皆で抜け道を抜ける。
途中で、ラウロが来た道から脱出したらよかったんじゃ、と公平は思ったが、脱出できたし気にしないことにする。
ガノイに連れられて、鉄球が転がって来た道を戻ると、あの抜け道とは逆側の壁に広い道があった。
「こんなところにも道があるんだ。」
「はい、迷宮内は複雑に枝分かれしていますから、どこに通路や行き止まりがあってもおかしくないです。」
公平は荒い息を整えながら中に進んだ。
少し行くと前回と同じようにまた色が薄い土だけの場所があった。
しかも今回は周りがレンガなのでわかりやすい。
公平はセーフティゾーンに入ると、そのまま寝転がった。
そして、そのまま意識を失った。




