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26話目 サログド迷宮その1

今回不快な表現が出てきますので、飲食中に読まないでください。


 最初の迷宮から帰還後二日間魔王城で休息や前回の戦闘の反省を行なった。

 そして今日から次の迷宮である、サログド迷宮に一週間行くことになった。

 メンバーは前回と同じである。

 今回の迷宮は魔王城より西の、離れた場所にあるので途中で野宿してから迷宮に突入となる。

 前回と同じように街から出ると、途端にあたりは何もない荒野になった。

 しかも距離が長いのでガノイ達がいなければ同じような風景が続く中、自力で帰ってくることはできないだろう。


「今回向かうサログド迷宮ですがーー」


 歩きながらガノイが説明し始める。


「前回と同じく兵士の訓練場として使われていますが、前回の迷宮と違って、あちらはまだ戦えない魔族でも集団で向かえばなんとかなる程度の難易度でしたが、今回からは純粋に力を求める魔族の訓練場であり難易度は段違いです。

さらに、内部も四階層しかないにも関わらず、複雑に枝分かれしているほか、強力な魔物やトラップもあります。」


 方法と頷きながら、公平は気になったことを尋ねた。


「迷宮なのにトラップ? 誰が仕掛けているんだい?」


「元は迷宮内で偶発的にできた仕掛けを、攻略後に復元して訓練用に運用しています。

仕掛けをしているのは迷宮の担当者であるラウロですね。

元のままのものもあれば、若干改良されたものもあって、俺でも気をつけなければ引っかかるものもありますので、気をつけてください。」


 公平の質問にガノイが答える。


 ーーまたあいつかーー!


 公平はあのアフロ頭を思い出し、内心で叫んだ。

 なんとも言えない気分のまま歩き続けると、前方に建物が見えた。

 小屋だ。

 簡素な作りでボロボロだが、風は凌げそうである。

 ガノイ曰く、今日はここで一泊し、翌日ここから少し行った先のサログド迷宮に向かうそうだ。

 ちょうどいい機会だったので、ガノイ以外の三人と交流することになった。


 ーー前回は時間が取れなくて交流できなかったからな…


 ガノイだけは外で見張りである。

 

「おいらはモルイスです。北の農村地帯の生れです。」


 公平から見て正面に座るオーク兵がモルイスと名乗る。


「農村地帯って、あの密林を開拓したところかい?」


 公平の質問にモルイスが頷く。


「おいらの家族は貧乏ですだ。それに兄弟がたくさんいて、食い扶持に困ったもんで何人かと街まで来たです。

兵士になれば食いもん一杯取れるて聞いて、兵士になったです。」


 そうか、と公平が相槌を打った。


 ーー農村地帯でさえ食い扶持に困るのか…


 さらにモルイスから話を聞くと、農村地帯でさえ満足に食料が取れないのだそうだ。


「しかし、太陽が見れるのは僕からしたら羨ましい。僕は街で生まれて、太陽を初めて見たのは魔王様救出のときだけだからな…。」


 そう言ったのは三人のオーク兵の一人、ペルドだ。


「君は街から出たことがないのかい?」


「出たことがないわけではないですが…農村地帯のように、太陽があるところまでは行ったことがないんです。」


 つまり、モルイス君とは逆か、と公平が言う。


「はい。僕達は全員同期ですが、生まれも育ちも、兵士になった理由も違います。」


 ほう、と公平が頷く。


「僕が兵士になったのは、ガノイ隊長に憧れたからです。

誰よりも強く、僕と同じ貧民街からの出身であれほど出世した魔族はいません。

僕達貧民街のヒーローです。」


 ーーガノイ君は貧民街の出身だったのか…知らなかったな。


「というか、身分なんてあったんだ…世間知らずだな、俺。」


「仕方ありませんわ、今の時制、身分制度なんてあってないようなものですわ、魔王様。

私の一族は元は魔王領の中でも上の方に位置する上級貴族だったのですが、一族は飢餓でほとんどが死に、今は私しかおりませんの。

貴族も貧民も、皆飢えるか病にかかるかの状況でその日を必死に生きておりますから。」


 公平の呟きに答えたのは、オーク兵のルトナだ。

 見た目は他の二体とあまり変わらないのだが、女性らしい。


 ーーうーん、絶対口には出さないけど、全く分からん。


 魔族の性別を判断することを諦めた公平が、そっとため息を吐く。

 ここにいる全員がそれぞれ何かしらの苦労をしてきたようだ。


 ーーそりゃ、魔王に期待をかけるよな。ゼノン君の話では普通魔王は強いし。


 公平は自分の弱さを不甲斐なく思った。

 話しながら食事の用意をする。

 ここは迷宮ではないので、当然城から持ってきた食料が夕食だ。

 もぐもぐと乾燥したスライムを食べる。

 前の迷宮から帰還した後地味に気になって、ゼノンにスライムについて質問したところ、なんでも核を壊すとスライムの外側の膜が破れ、中身の液体がサラサラになって飛び出すのだそうだ。

 なので、スライムを生きたまま放置すると何故か水分が抜けて、スライムの干物ができるらしい。

 謎だな、と思いながら公平は若干硬いスライムを食いちぎる。

 ふと見ると、ペルドが何かを飲んでいた。


「なあ、ペルド君。君は何を飲んでいるんだい。」


 水がない魔王領では飲料物は他で代用するしかない。

 公平は普段スライムの絞り汁を飲んでいるが、スライムは高級っぽいので、そうそう飲めるものではないと思い、気になって質問した。


「僕が飲んでいるのはワームの体液です。」


 帰ってきた答えに、え、と声を漏らす。


「あら、いいですわね。私はブロックスネイクの唾液ですのよ」


「おいらはウッドキャンサーの尿ですだ。」


 ゲテモノばかりの飲料物に、公平は気が遠くなった。


 ーー水が、恋しい。


 公平は少し太陽を封印した人間達を恨んだ。











 迷宮と同じく交代で見張りつつも、よほどのことがない限り何も起こることがないので交代達は十分休むことができた。

 翌日ラウロとも合流し、とうとう迷宮攻略の開始である。

 今回の迷宮は、禿山の一角にできた洞窟だ。

 なんとも崩れてきそうで恐ろしいが、コアがある限り絶対に崩れないそうだ。

 松明に火をつけ進む。

 すると、ワームやスライムといった見慣れた魔物の他に、50センチ位の手足が生えた木のような魔物が現れた。

 木のような魔物は公平達を見る(といっても目はないので、そう見えただけだが)と一目散に逃げ出した。


「え、あれ…?」


「あれはトーチツイッギーですね、今使っている松明の元です。

何故かトーチツイッギーだけは襲って来ずに逃げます。

一番使える素材なので、見つけたらすぐ狩るようにしてください。

こんな感じにーーヤァ!」


 声とともにガノイが短剣をトーチツイッギーに向かって投げる。

 そして、逃げ出すトーチツイッギーの胴体部に短剣が深々と刺さり、倒れた。

 すぐにオーク兵の一人が回収する。


「おー、すごいね。」


「これくらいは当然です。」


 公平はガノイを褒めながらオーク兵が回収したトーチツイッギーを見る。


 ーー確かに松明と同じ素材だ。っていうことは、ベタベタした液体はこいつの体液か…


 公平は死体を見ながら思った。


「何故かこいつだけはどこの迷宮の、どこの階層にも現れます。

トーチツイッギーは松明の他に、毒消し薬にもなる非常に有用な魔物です。」


 ガノイの説明に、今まで飲んでいたのもこれか、と思うと微妙な気持ちになった。











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