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24話目 名もなき迷宮その3


 その後、交代で休憩と見張りをし、全員がまわりきったところで次の階層に進むことになった。


「ここから先は昨日見た上位種の魔物も出てきます。引き続きご注意を。」


 ガノイの言葉に頷き、休憩中に整備した剣を片手に突き進む。

 緩やかな坂を下りきると、一階層目より広い空間に出た。

 当然魔物もわんさか出てくる。

 公平達は、それぞれ自分の近くにいた魔物と対峙した。


 ーー今回はスライムと、カエル?


 ガマガエル程度の大きさのカエルがスライムの近くにいた。

 カエルは公平を見ると舌で素早く攻撃してきた。

 剣で防ぐと、そのまま剣に舌が巻きついてきた。

 さらにカエルを飛び越えスライムが上から襲いかかってきた。


「この! ファイアボール!」


 カエルの舌に火球をぶつけると、カエルはたまらずに舌を離した。

 解放された剣を振りかぶり、飛びかかってきたスライムの核に剣を通す。


 ーー確かスライムは核を壊せば倒せるはず…!


 剣を抜くと、ばしゃり、とスライムの体が液体になって弾け、地面に落ちた。

 

「よし、とりあえずスライムは倒した。」


 あとはカエルだ、と向き合い、攻撃してくる舌をかいくぐりながらカエルに接近する。

 そして、カエルに向かって土魔法を使い、カエルが立っている地面を上げると、急な事に動きが止まったカエルに向かって剣を横薙ぎに振り、真っ二つに切り裂いた。

 カエルは、ピクピク、と少し動いた後に死んだ。

 公平は、こっちは終わったぞ、と言って仲間の元に戻った。


「これはスライムとラビリンスフロッグですね。

どちらも低級ですが、強さを増すと上位種に変化します。」


 ガノイがカエルを回収しながら説明した。

 それに公平がふむふむと頷く。


 ーースライムの上位種は赤いやつとか黄色いやつなんだろうけど、カエルの上位種はどんな感じなんだ? オタマジャクシは退化だろうし…まあ、そのうち会うだろう。


「そういえばスライムは核を壊すと液体になって死ぬけど、どうやって魔王城まで持って帰っているんだい?」


 他に倒した魔物の回収を手伝いながらガノイに聞く。


「スライムのようなはっきりとした形がなく、核に攻撃を入れるしかない魔物は生け捕りにして持ち帰ります。

なので、こういった魔物はなかなか有り付けない高級食材になります。」


 ほう、と公平は頷いた。


 ーーということは、俺は魔王城で結構贅沢な暮らしをしていたんだな。


 迷宮に来て初めて知る事実である。


「早く 来ないと 置いてくZE♪」


 もたもたしていると、案内役のラウロが急かして来た。

 急いで倒した魔物をガノイ達と一緒になって拾い集める。


 ーーあー、無駄に多いな!


 出て来た分だけ回収するので、ひたすら数が多い。

 回収した魔物は迷宮内での食料の他に、戦うことができない魔族達の食料にもなるそうなので、食べられるものは置いていくわけにはいかないのだ。

 拾うほどに手が体液でベタベタになる。


「うへぇ」


 ばたばた、と手を振りながらどうにか拾い終わるとラウロの後を追いかけた。

 追いついた辺りでラウロが、くるり、とこちらの方を向き、迷宮であるにも関わらず後ろ向きに歩きながら話し始めた。


「これから行く 最深部 迷宮のコアがある 取るのはNG 見るのはOK

力の源 強い魔物が寄ってくる 覚悟しとけYO♪」


 分かるような、分からないような説明に、公平の表情が渋くなる。


「つまりはコア付近は力が特に溢れていますから、強い魔物が出て来やすいんです。」


 ガノイが補足で説明をした。

 しばらく魔物を倒しながら進むと、奥の方に赤い光が見えた。


「魔王様、あれがコアですだ。」


 オーク兵の一人、モルイスが光を指差す。


 ーーあれが…


 近くまで来ると光の源の正体がはっきりとわかった。

 1メートル程度の荒削りの水晶のようなものが地面から数センチ程浮き上がりながら赤く光っていたのだ。


「コアをこの場所から動かすと、途端に迷宮は力を失いただの地面に空いた広い空間になってしまうので、絶対に触れないでください。」


 ガノイの言葉に公平が頷く。


 ーー確か兵士の訓練場と食料の狩場としての役割があるんだよな。


 力の源を失い魔物が居なくなってしまっては大変だ。

 立ち去ろうとしたその時、初日と同じように上位種のワームを含む群勢が襲いかかって来た。


「やはり来たか!」


 誰かが叫び、戦闘に入る。

 数は昨日よりも多く、前後左右、天井や足元からも出現した。


「何度も同じ手はくわないさ!」


 公平は天井一帯に薄く広げるように火魔法を展開し、上のワームどもを牽制しつつ、先に足元や地上に出てきたワームと戦う。

 前方に二匹、背後に一匹、地中に三匹ワームがいる上、そのうち二匹は上位種だった。

 まず、背後の一匹の攻撃を防ぐために木魔法で壁を作り、ガードする。さらに、地中の三匹と背後の一匹が出て来ないうちに前方の二匹の同時攻撃を避けながら剣で凪ぐ。

一匹の頭が飛び、もう一匹の体に少し傷がついた。

 そのタイミングで援護に入るように地中から二匹飛び出す。

 うち一匹は上位種だった。


「ちっ!」


 舌打ちしながら後ろに跳びのき距離を取る。

 すると、手が空いたオーク兵の一人が上位種以外の二匹を倒した。


「ありがとう! 魔法を出すから避けてくれ! ファイアニードル!」


 公平は細かい火の針で上位種の毒を吐き出す口を地面に固定し、その上から剣でとどめを刺した。

 魔法を同時に何度も使ったので、魔力が切れかけ脱力感に襲われる。


 ーー魔法はしばらく使えないな…



 背後の壁を解除すると、後方には通常のワームと上位種のワームが居た。

 どうやら地中に残った一匹がそっちに出てきたらしい。

 公平はワームの飛ばして来る毒に合わせて飛び上がり、ワーム達の背後に回った。

 そのまま一体を片付け、もう一体が振り返り攻撃を飛ばしてくるのでバックでよける。

 そして、天井の火を消すと、若干焦げながらもまだ生きていたワームが何匹か降ってきた。

 天井から降ってきたワームに潰され、地上にいた上位種のワームが死ぬ。


 ーーうわぁ、すごい体液の量だな…近づきたくない。


 だが、そういうわけにもいかず、落下で弱ったワーム一体一体にとどめを刺した。

 ワームの死体の山が積み上がり、これを自分でやったのかと思うと妙な達成感がある。


 ーー今更震えが…


 公平の手がぷるぷると震えた。

 いくら初心者用の弱い魔物しか出て来ない迷宮とはいえ、初日に負けた相手に勝ったのだ。

 当然恐怖もあったが、嬉しかった。


「魔王様、終わりましたか?」


 オーク兵の一人、ペルドが話しかけてくるので、ああ、と答える。

 全員が付近のすべてのワームを倒し、回収作業に入った。

 回収しながら気づくが、公平の倒したワーム以外はすべて毒袋のある部分だけ頭部ごと切り落とされて絶命している。


 ーーこれが実力差、ってやつか。


 公平はワームを倒したことに浮かれていた自分を少し恥じた。

 自分と兵士達との間にはまだまだ戦力的な力の差が隔たっていた。


「全員、回収したな! これより帰還する!」


 ガノイが叫び、公平達が頷く。

 そして、全員が来た道を戻り、迷宮を脱出した。











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