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23話目 名もなき迷宮その2


 毒消し薬が効き、動けるようになった公平は護衛達と共に再び移動を開始した。

 途中ワームの他に、スライムやトカゲのような魔物が出て来るが、先ほどの上位種が出て来たときのようになることはなかった。

 魔物を倒しながらさらに迷宮の奥に進む。


「止まれ」


 ガノイの言葉に全員が足を止めた。


「魔王様、少しこちらへ」


 ガノイに呼ばれ、公平が前に出る。

 すると、ガノイのいる場所から先が、緩やかな下り坂になっていることに気づいた。


「この先がもしかして、二階層目、かい?」


 はい、とガノイが頷く。


「今日進むのはここまでです。魔王様、ここの地面を見てください。」


 そう言って、坂とは少し離れた地面に松明を近づける。


「この辺り一帯だけ地面の色が変わっています。

ここはセーフティゾーンと言って、身を隠せばほとんどの場合魔物に見つからないようになります。」


 確かにガノイの言う通り、若干だけ他の場所より地面の色が薄くなっている。


「へえ、でもなんで魔物に見つからないんだい?」


 それって変だろう、と公平が質問する。


「はい、迷宮内部はコアから放出される特殊な力で満たされています。ですが、たまにこうしてコアから放出される力の影響を受けない場所が何故か出てくるのです。

そういった場所には、コアから放出される力から生まれた魔物はあまり寄り付きません。

地上になかなか魔物が出てこないのも同じ理由です。」


 なるほど、と頷く。


 ーーそりゃ、魔物もそんな制限がつかなきゃこんなところさっさとおさらばしてるよな。


 狭いし、と公平は思った。


「一説によると、魔物はコアから放出される力のない場所では、あまり長く生きられないようです。

魔物がどれほど生き、どう暮らしているのかがわからないので、確かなことかはわかりませんが。」


 陸に上げられた魚みたいな感じかな、と想像する。


「まあ、つまりはここで一泊するってことか」


 公平の言葉にガノイが頷いた。

 今日はここで休み、明日から二階層に行くそうだ。

 休むといっても、各自交代で見張りと食事や睡眠などを取るので、満足に休めるというものでもないらしい。

 

 ーー最初に俺とガノイ君が休んで、ルトナ君、ペルド君、モルイス君の順番で見張りをし、最後に俺とガノイ君で見張りをすると。


 公平はセーフティゾーンであろうと、時には魔物も侵入してくるから見張りは必ずいると説明を受ける。

 そこで、交代のタイミングはどうやって決めるのかと聞くと、時間光なるものがあるらしい。

 それはさっき戦っていたワームの体内にある毒袋にただ火をつけたものであるが、これがどの毒袋に火をつけても必ず同じ時間に閃光を放ち、毒袋ごと消えるのだそうだ。

 ちなみに城て見張りをしている兵士もこれを使っていて、8つ消えるごとに交代する。

 今回は各自一つずつが見張りの持ち時間である。


「閃光って、眩しかったら見つかるんじゃないのかい?」


 いえ、と公平の言葉にガノイが首を振る。


「何百年もこの方法が用いられてきましたが、一度も見つかったことがないそうで、魔物には見えないようです。」


 ーーまじか…


「万が一見つかったとしても、この迷宮の中ならばなんとか対応出来ますから、心配する必要はないです。

さて、魔王様、食事にしましょうか。」


 公平が、ああ、と答えてずだ袋から食料を取り出す。

 すると、ガノイにそれを仕舞う様に言われた。


「…? 食事にするんじゃないのかい?」


「食事にはします。ですが、魔王城から持ってきた食料はあくまで非常食。迷宮内では通常倒した魔物を食べて過ごします。」


 そう言って、ガノイが自身の持つ割と大きい袋から、先ほど倒したワームを数匹取り出した。

 見れば通常のワームの他にあの上位種のワームも袋に入っている。


 ーー確かに、どうせ魔物を食べるんだから持ってきた物をたべるより、その場で倒したものを食べる方が効率的か。


 しかし、ワームを食べるのかと思うと微妙な気分になる。


「まず蟲系の魔物は、頭部に毒袋があります。」


 ガノイが話しながら、懐から取り出したナイフでワームの胴体を切り開く。

 確かに頭部には、脳の様なものの他に紫色のあからさまな袋の様なものがあった。


「この毒袋を破らない様に、頭部ごと落とします。

毒袋を破ってしまうと、全身に毒が回り食べられなくなりますが、このように、取り除いてしまえば頭部以外は食べられるようになります。」


 ダン、と地面に当たるまでナイフを振り下ろされ、ワームの頭部が跳んでいく。

 それと同時にワームの体が一瞬跳ねたかと思うと、勢いよく緑色の体液が噴き出した。

 うわぁ、と公平がワームとは反対側に後ずさる。


 ーーど、毒じゃないって分かってても、嫌だな…


 毒を持つ魔物のほとんどが、体内のどこかに毒袋という器官を持っており、そこさえ除いてしまえば毒がかかる心配はないが、反射的に避けてしまう。

 それを見ていたラウロが、ガノイからナイフを奪い、こちらに手渡してきた。


「次 魔王様 let's try♪」


 ーー俺が捌けってことか。


 正直、気色悪いがこれから先迷宮に入るたびに必要になる技術だろう。

 ガノイの方を見れば、彼も頷いていた。

 ワームを一体もらって、ナイフを構える。


「最初はワームの頭部から尻にかけて浅く切れ目をいれて、開きます。そして毒袋の位置を確認後、頭部を落とせば終わりです。」


 ーーようは魚を捌くときと似たような感じなんだな。


 ガノイの指示通りにナイフをいれる。

 しかし、若干深く切り込んでしまったため、毒袋が破れた。


「あ…すまない。失敗してしまった。」


 大丈夫です、とガノイが言う。


「失敗したものは毒に触れないように、セーフティゾーンからなるべく離れた場所に捨ててください。

そうすれば、他の魔物が食ってなくなりますから。」


 その言葉に頷き、毒に触れないように失敗したワームをセーフティゾーンの外に捨てる。

 なんでも、捌くのに失敗したワーム以外にも、戦闘中に毒袋部分を壊して倒した個体も迷宮内に放置するらしい。

 失敗したワームを処理し、もう一体別のワームを受け取って捌く。

 今度は失敗せずに毒袋を取り除くことができた。


「では、食べましょうか。」


 そう言って、ガノイは胴体だけになったワームを生のまま食べだした。


 ーー生のまま⁉︎


 よく考えれば、燃やすものがほとんどないので生で食べるしかないのだが、公平は躊躇した。

 毒持ちの、それも緑色の体液を滴らせたカブトムシの幼虫を人間の胴体ぐらい大きくした魔物である。

 食べるのは仕方ないとしても、火ぐらいは通したかった。


 ーーうーん、でもここで魔力を使うと魔力切れになりそうな気がするんだよなぁ…


 それはまずいな、と思い、公平は諦めてワームを生のまま食べることにした。

 ぐちゃり、となんとも言えない食感の後に、これまたなんとも言えない味が口内に広がる。

 美味しくはない、むしろ不味い。

 その不味さはスライムのそれを遥かに上回っていた。

 ぶちぶち、と歯でワームの胴体をちぎりながら食べる。

 美味しくはないが、量だけはあったので食べ終わる頃には満腹になった。


「食べ終わったら、次は睡眠をとります。

交代が起こしに来るまでは眠ることができますが、何が起こるかはわかりません。

多少眠りにくいでしょうが、座ったまま眠るようにしてください。」


 ーー座ったままか…


 公平は、元の世界での帰宅途中の電車内を思い出し、ずだ袋を枕にして、顔を伏せながら眠る。

 当然すぐに眠ることなどできないが、少しぐらいなら眠ることが出来そうだった。










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