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22話目 名もなき迷宮その1


 その後五日間、魔物と戦い、無詠唱を使わずに魔法特訓を行った結果レベルがなんと3も上がった。


 ーーでも、やっぱりまだ低い…赤ちゃんレベルか…


 心もとない戦力のまま、最初の迷宮へと旅立つ日が来た。

 公平の持つロングソードとひょっとこの面を身につけ、他に毒消し薬や、食料などを渡されたずだ袋に詰める。

 今回行く迷宮は魔王城のすぐ近く、街を抜けたあたりにある初心者向けの名もない迷宮である。

 迷宮は難易度が高くなればなるほど、内部に階層ができるそうで、今からいく迷宮はたった2階層しかないらしい。

 出てくる魔物も、戦ったことがある弱いものばかりであるそうだ。

 しかも、護衛にはガノイの他に三人が付く。


「そうは言っても、怖いものは怖いよな…」


 公平はずだ袋を背負い、護衛を伴いながら周りに聞こえないように呟く。

 迷宮に行けば、当然死の危険も伴う。

 初心者向けとはいえ、初めてのまともな実戦である。

 怖がるなという方が、無理な話であった。


「街を出てすぐの迷宮に向かいます。

攻略にかかる期間は通常半日程度ですが、今回は初めての、それもル・デイダニア迷宮の攻略の下準備として行きますので、2日間潜る予定です。」


 ガノイの言葉に公平は頷く。


 ーー街に出るのは初めてだな。


 魔王城を抜けると、すぐに街中に入った。

 しかし、そこはスラム街のように荒れ果て、今にも崩れそうな建物ばかりであった。


「想像はしていたけど…酷いな…」


 はい、と共の一人であるオークの兵士が頷く。


「おいらが住んでいる場所も、昔は綺麗だったです。

でも、太陽さなくなってしまってからはどこも…ボロボロですだ…」


「…どこも、か」


 街を抜けると、民家どころか何もない、ただの荒地が広がっていた。

 驚くほど何もない。転がる草さえない。

 とぼとぼと歩いていくと、前方に妙なものが見えた。

 アフロだ。そうアフロだ。


 ーーいや、なんでアフロ⁉︎


 独特のリズムを刻みながら、アフロ頭の男がこちらにやって来た。


「Yo! Yo! お前ら魔王様 団体? yeah♪」


「来たか。魔王様、こちらは案内役の迷宮担当指導官ラウロです。」


 ガノイの言葉に、公平は、いやいや、と顔の前で手を振る。


「どう見たってアフロ頭の人間じゃないか、なんでそんなに平然としていられるんだ⁉︎ しかも指導官⁉︎」


 何を言っているんですか魔王様、とガノイが首をかしげる。


「彼はどう見たって魔族じゃないですか。しかも俺と同じオーガ種ですよ。」


「いやいやいや、俺の知ってるオーガ種はこんな頭していないし、角生えてるし、そしてこんなにひょろひょろじゃなかったと思うよ⁉︎」


 ーーむしろ態度とか見る限り、俺と同じように向こうの世界から来たんじゃないの⁉︎


「何を言ってるんだYo どこからどう見ても、俺魔族だZE♪」


 どこからどう見ても魔族に見えないんだが、と公平は呟いた。


「確かに見た目は変わっていますが、れっきとした魔族の、それも実力者ですよ。」


「その通り さっさと行くZE 迷宮が待ってる♪」


 アフロ頭の男がさっさと歩き出してしまったので、仕方なく公平も後を追った。

 しばらくすると、何もない荒野の中に大人一人がやっと通れるくらいの穴があった。

 ラウロによると、ここが迷宮らしい。


「ここが迷宮…中は、何も見えないな…」


 屈みこんで見るが、中は真っ暗でよくわからない。

 するとラウロが中に松明を放り込んだ。

 1、2メートル程下に、地面が見える。


「迷宮 何も見えない これ常識 探索するなら はじめに照らす 覚えておけYo♪」


 ーー話し方はイラっとするけど…迷宮は明かりがないと何も見えないのか。


 癇に障りながらも、納得する。


「では、魔王様。俺が最初に降りて、次に、ルトナ、ペルド、モルイスの順に降ります。その後に続いてください。」


 ガノイがそう言い残し、穴に向かって飛び降りた。

 あとに続いて、ルトナ、ペルド、モルイスと呼ばれたオーク兵が降りる。


 ーー浅いし、大丈夫そうだな。


 公平も降りようとして、ふと視線を感じて振り返った。


「君も降りるんだよね…?」


 後ろで変なポーズをとりながら、こちらを見ていたラウロに話しかける。


「俺は 最後に 降りる ZE♪」


 あ、そう、と言って公平も穴に飛び降りた。


「せいぜい実力を見さしてもらうぜ、魔王様」






 ーー今何か聞こえたような気がしたんだが…


 気のせいか、と首をかしげる。


「まあ、いいや。」


 公平は頭を振ると、迷宮内を見回した。


 ーー星明かりとか、民家の明かりでぼんやりと見えていた地上と違って、中は本当に暗いな…


 ずだ袋の中から松明を取り出して、魔法で火をつける。

 改めて迷宮を見ると、そこは一本道になっていた。

 天井は高くもないが狭くもなく、道幅は何人かが横に並んでも大丈夫なほどの広さがあった。

 地上に空いた穴からはとても想像できない内部であった。

 同じように火打ち石や魔法で火をつけたガノイ達が集まる。


「魔王様、この先は魔物も出て来ますので、剣を持ってください。」


 ガノイの言葉に頷き、新調ごうだつした鞘から剣を抜く。

 見れば、周りのガノイやオーク兵もそれぞれ武装していた。

 何故か後ろにいるラウロは、何も持っていないが、きっと彼は素手で戦うか、いざとなったときに取り出すタイプなのだろう、公平はそう思うことにした。


「では行きましょう。」


 松明を片手に進む。

 すると、早速魔物が出て来た。


「ワームです!」


 ちょうど公平の手前の地面の下から、ワームが顔を出す。

 そして、訓練の時と同じように毒を吐き出した。


 ーーおっと!


 毒を避け、剣を振り下ろす。

 するとあっけなくワームは死んだ。


「あれ、弱ってないからもう少し強いものだと思っていたけど…」


 予想外の手応えのなさに、ポカン、とする。


「低級の魔物ですから、弱らせていなくてもそれ程力は変わりません。ですが、今みたいに真正面から来るとは限りません。

決して慢心だけはされませんように」


 ーー背後から来る可能性もあるってことか…


 公平は頷き、辺りを警戒しながら歩を進める。

 途中、スライムやワームが飛び出して来たが、冷静に処理しつつ、ときには護衛の誰かが対応した。


「今日はやけに魔物が少ない…これなら一日で最下層までつくかもしれませんわ」


 オーク兵の一人、ルトナが周りを見ながらそう言った。

 公平は少ないのか、と呟く。


「普段はもっと居るものなのかい?」


「はい、普段なら五体から六体ほどが同時に出て来てもおかしくないのですが、今日は一体か二体ずつしか出て来ませんの。」


 おかしいですわね、とルトナが言う。

 

「うーむ、これは一体…」


 ガノイがそう言った瞬間、地中から何十体ものワームと、普通のワームとは違う斑点模様があるワームが飛び出して来た。


「噂をすれば…全員構えろ! 今回は上位種も居るぞ!」


 ガノイが叫び、それに合わせてラウロ以外の全員が戦闘体制に入る。

 上位種というのはある魔物が一定以上の強さを得て、状態が変化した個体のことを指すそうだ。


 ーー見るのは初めてだけど、多分あの斑点のやつがそうなんだろう。


「上位種は俺が対処する! 魔王様を含め他のものは通常のワームを頼む!」


 ガノイが上位種に鉄球で殴りかかり、他のオーク兵はそれを邪魔しようとする通常のワームに斬りかかった。

 公平も一歩遅れて向かおうとして、ふと頭上に違和感を覚えた。

 周りに注意しながら天井を見上げると、ワームが地中を這うときに出来る筋が三本あった。

 ちょうど、筋の切れ目からワームが顔を出す。


 ーー上からも来るのかよ!


 公平は咄嗟に土魔法で地上から頭上に繋がる障壁を作り、吐き出す毒を防ぎながら、攻撃するが、すぐに地中に潜り込み、逃げられる。

 ただ天井にいる、というだけでひどくやりにくい。

 三体いるうちの二匹はなんとか倒すが、あと一体が倒せない。


「くそ! ファイア!」


 顔を出した瞬間に火魔法をぶつけるが、追いつかない。


 ーー早い! なんでこんなに早いんだよ!


 すると、攻撃が当たらないと判断したのか、ワームがスルスルと降りて来て、地上に出た。

 最後の一体はガノイが戦っているのと同じ上位種だった。

 斑点のあるワームが連続で毒を吐き出し、何発か公平に当たる。


 ーーな、やばい…!


 ワームの毒は死に至る。上位種ともなればそのスピードは通常のものと比べて段違いに違う。


 ーーくそっ! とりあえずこいつを倒さないことには毒消し薬を取り出せない!


 公平はがむしゃらに攻撃を繰り出すが、簡単に避けられて当たらない。

 そうするうちに、公平の視界が歪んだ。

 立っていられずにその場に膝をつく。

 それを好機と見た上位種のワームが鋭い牙を見せながら、襲いかかって来た。

 やばい、と思うが動けない。

 公平が諦めかけた、その時、静観していたラウロが上位種のワームを蹴り飛ばした。

 ワームはゴロゴロと転がり、止まったところを踏み潰される。


「ーー…、魔王様 毒消し薬 持ってるかい♪」


 最初に会った時と同じ軽薄な言葉で、しかし、その眼差しは真剣みを帯びながらラウロが聞いてきた。

 ずだ袋の中に、と公平が答えると、背負っていたずだ袋に手を突っ込み毒消し薬を取り出すと、即座に公平に無理矢理飲ませた。

 薬が少し気管に入り、咽せる。


「魔王様! ご無事ですか!」


 そのタイミングで他のワームを全て倒した、四人が戻って来る。

 

「何があったんだ」


 ガノイがラウロに聞く。


「上位種の 毒に当てられた だが 薬は飲ませたZE♪」


 上位種、の言葉にガノイが眉間にしわを寄せる。


「…天井か」


 その通り、と変なポーズをとりながらラウロが答えた。


「この階層でその行動をする個体はいなかった筈だが…上がって来たのか? まあいいーー魔王様、どうされますか、一旦魔王城に戻られますか?」


 ガノイが公平の様子を見ながら問う。

 公平が迷っていると、ラウロが口を開いた。


「ここ迷宮 予想外なんて予想の内 何があるかわからない この程度で 折れるなら 迷宮攻略諦めろ yeah♪」


 それはできない、と公平は即座に首を振った。


「俺は最後まで行く。」


 その言葉に満足そうにラウロが頷いた。








 

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