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21話目 迷宮攻略に向けて


 翌日、諸々の関係上、クレアとガノイに一番に事情を話した。

 二人とも驚き、暗い顔になる。


「それは…魔王様の決定なら俺は従いますが、本当にいいんですか?」


 ガノイの言葉に公平は力強く頷く。


「それでしたら魔法の方も早めに仕上げないといけませんね。」


 クレアは早速何かを考え出した。


「とりあえず基礎魔法を要点だけ押さえて…後は全て属性魔法に時間を当てましょう。魔王様はいつ頃、ル・デイダニア迷宮に行かれるのですか?」


「一ヶ月後だ。」


 クレアの質問にゼノンが答える。


「だが、初めからル・デイダニア迷宮に向かうのは自殺行為。

何回か他の迷宮を巡ってからの攻略となるゆえ、魔王城内で特訓ができるのは5日程度だろう。」


 ゼノンの言葉にクレアとガノイの二人は顔を見合わせ、俯く。


「5日か…短いな。効率的に行ったとして…うん…」


 俯きながらガノイが何やら呟き出す。

 公平は内心で二人に謝った。


 ーー大混乱させてすまん。


「そうですね、こちらは今日から基礎魔法に加え、属性魔法の、それも実践に向けての模擬戦も行いましょう。」


 最初にクレアが残された時間の中での計画を決める。


「ならこっちは部下に魔物を捕まえさせますので、そちらと戦っていただきましょう。」


 次にガノイが計画を決め、公平が二人に賛同して頷く。


「俺が決めといてなんだけど、二人には無理をさせる。ごめん。」


「いえ、魔王様が頭を下げる必要はありません。

ただ、こちらといたしましてもどこまで魔王様のお力を上げることができるか…」


 クレアの言葉に、同じくとガノイも続く。


「…やるしかあるまい。こちらも保存食や護衛の兵士選抜などやれるだけの事はやる。

魔王様もこれより先は修羅の道。どう転ぶかわからない事を覚悟してください。」


 ゼノンがそう言い、三人がそれぞれ頷いた。





「ではまずは武術の特訓からですね」


 ガノイがそう言って何かを投げた。

 それは公平の目の前で体液を散らしながら落ちる。


 ーー芋虫? にしてはデカイな。


「ワームです。多少弱らせていますが、まだ攻撃できる程度に力を残してあります。こいつを倒してください。」


 ワームは公平の方を見ると、早速何かを飛ばしてきた。


「うおっ!」


 ギリギリのところで避ける。


 ーー早速か!


「今のはワームの持つ毒の攻撃です。当たればそこから毒が染み込み、やがて死に至ります。」


「まじで⁉︎ 危なかった…」


 ワームがその後も何発か飛ばしてくるが、今度は余裕を持って避ける。


 ーー見えてればなんとか避けられる。


 攻撃をかいくぐり、抜いた剣をワームに向けて振り下ろそうとした瞬間、ワームが地中に潜った。


 ーーえ、逃げた?


「油断しないでください、魔王様! やつは簡単に逃げません。

地中から顔を出した瞬間に攻撃してきます!」


 ガノイの言葉に公平は周りを見回すが、それらしき影は見つからない。


「あれ、どこにいっーー‼︎」


 ワームは公平のすぐ下から現れて、毒を飛ばしてきた。

 なんとか避けるが、服に毒がつく。


 ーーこいつー!


 公平はワームが逃げる前に、剣を振り下ろし、とどめを刺した。

 緑色の体液を吹き出しながら、ワームが死ぬ。


「お見事です。ですが、迷宮の魔物はこれよりもはるかに強い。

気を抜かれませんように。あと、その服はすぐに脱いだ方がいい。

変えの服を部下に取りに行かせますので、その間これを飲んでください。」


 そういって手渡されたのは毒消し薬だった。


「念のためです。」


 ガノイの言葉に頷き、大人しく薬を飲み込む。


「このあとも何匹か魔物を捕らえさせていますので全て倒していただきます。」


「ああ」


 その後、服を着替えた公平はガノイが出してくる魔物相手に何度も戦いを繰り返した。








 ーーまだ魔物を倒したときの感覚が残ってる…少し気持ち悪いな。


 早く慣れないと、という気持ちと慣れたくない、という気持ちがないまぜになって公平を襲う。


 ーー初めての実践…のようなものだったからな…あんなのが迷宮にはたくさんいると思うと、嫌な気分になるな…


「魔王様、次は魔法の特訓です。ぼー、としないでください。」


 クレアの声に公平は顔を上げる。


「いいですか、今日は早速戦いながら行なっていきます。

わからないことがあれば聞いていただいて結構ですが、終わるまで攻撃し続けますので、一時も注意をそらさないでください。」


 頷き、クレアの合図とともに始まる。


「では行きます! ウォーターアロー」


 早速クレアのもつ属性魔法である水を使った攻撃が飛んでくる。

 公平は慌ててひょっとこの面を装着した。


「魔王様! なんでもいいので他の属性魔法で打ち消してください!

技名はすでに教えてありますので、前詠唱なしで発動してください!」


 本当は前詠唱ありで練習したかったのですが、とクレアが唇を噛む。


「ええっと確か、水に強いのは木属性の…」


「早く!」


 公平のすぐそばまで迫った水の矢を前にクレアが叫ぶ。


「ウッドウォール!」


 技名を叫ぶと共に、木のような植物が複雑に絡み合いながら公平の前に出現する。

 植物の壁は水の矢が次々とぶつかり、穴を開けながらも全ての攻撃を防いだ。


「よっしゃ成功ーー」


「ウォーターストリーム!」


 次は濁流が公平の左右からやってきた。

 油断していた公平は濁流に飲まれる。


「油断しないでください! まだまだ行きます! ウォーターカッター」


 濁流に飲まれ、身動きの取れない公平に向けて、水の刃が飛んでくる。


 ーーやべっ!


「エルト!」


 石を飛ばす要領で自分の体を空中に投げ出し、刃と濁流の上に出る。


 ーーってもコントロールが…!


 空中でその身を制御できずに、公平は落下する。


「空中で防御できますか? ウォーターカッター!」


 その隙を突いて、クレアが再び水の刃を公平に向かって飛ばした。


 ーーやばい、言葉が出てこない!


 公平は咄嗟に技名を思い出すことが出来なかった。


 ーー確か、植物の壁…


 先ほどの木のような植物でできた壁を脳裏に思い浮かべる。

 もう無詠唱これしかない、とそう思った公平はそのまま魔法を発生させた。

 想像通りの事象が起こる。

 水の刃を防ぐことはできた。

 だが、自分の魔力がとんでもない量削られた感覚も同時にする。


 ーーまじか、無詠唱だと魔力が…とんでもない、量、くわ、れ、る…


 魔力不足で意識が遠くなった公平が重力に任せて落下する。

 地面ギリギリのところでクレアが発動した水に受け止められ、なんとか助かったが、公平はその場から動くことが出来なかった。


「ぐ、あ、動けな、い。」


 水の上でもがくが、立ち上がれない。


「これは…あの一瞬でおかしいくらいに魔力が減っています。

一体何をしたんですか、魔王様?

しばらく休んでいれば回復するとは思いますが…念のため今日の練習は中止です。」


「う、すまない…」













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