幕間3 モルキーノ連邦
バーリシア王国から数日かけ、ポルネは自分の国であるモルキーノ連邦に戻ってきた。
「ただいま戻りました、長官。」
そして、自身の上司に当たるゴバード将校にバーリシア王国での会談内容を報告した。
「やはり、魔王誕生は本当であったか。」
長官の言葉に、ポルネが頷く。
「その上、どうやら魔法も使う様子。確認できたのは土魔法と黒魔法の二つです。」
「二つも、か。流石にこれ以上ないと願いたいものだ。…しかしまあ、この時期になって魔王誕生とは厄介だな。小国を寄せ集めてできたこの国はまだ纏まりにかける。
技術と兵力に富んだモルキーノ連邦といえど、利権を狙う周辺諸国と魔王を同時に相手取るにはいささか役不足だな。」
長官は自身の愛用しているモノクルを弄りながら、ポルネから会議で配られた資料を受け取る。
「ふむ、あの魔術師サリア・バーリシアを相手に逃げのびたのか。ますます厄介だな。仕留められなかったのが非常に手痛い。」
はい、とポルネが言い、そのまま話し始める。
「メールの丘はバーリシア王国の領土。流石に我が国の兵を差し向ければ外交問題に発展しますので見送りましたが、何人かさし向けるべきでしたかな?」
いや、と長官が首を振る。
「余計な火種をばら撒けば、火消しが面倒だ。
そうだな、議会で話し合う必要があるだろうが、おそらく暫くは様子見だろう。
これはあくまで予想だが、上院は結界が壊れた後、まず魔族と周辺諸国を戦わせて情報集めに徹するだろう。
その後で人間側が勝てばそちらと、魔族側が勝てばあちらとその領土を巡って戦うことになるだろうな。」
「それが一番こちらの消耗が少ないですから、おそらくは」
長官の言葉をポルネが肯定する。
「問題はそれまでにいかにこの国を平定するかだな。未だ弱小国家との合併・吸収が続いている。その中で部族間の抗争も相次いでいるようだ。…戒厳令はすでに敷いてある。」
「それは…すぐに対応せねばなりませぬな」
ああ、と長官が頷く。
「全く、強大な力を持つ連邦の傘下に加われるという利点を無視して、やれ伝統だ、やれ格式だと無益な争いをする連中の気がしれん。
頭の痛いことだ。」
ふう、と長官が溜息を吐く。
「それでは、私は失礼いたします。」
「ああ、報告ご苦労だった。」
長官に一礼し、退出する。
すると、メールの丘に他国と合同で調査に行かせた部下のうち一人が外で待っていた。
「ポルネ将官、ご報告が。」
「なんだ」
調査に行っていた兵士が、透明な魔力遮断の箱に紙を入れたものを差し出す。
「現場にこのようなものが落ちておりました! どうも魔王が戦闘中ばらまいた物のようです!」
「魔王が。術式が込められた魔力媒体か?」
「まだなんとも。どうやら特殊な素材で作られているようで、鑑定が不可能です。」
鑑定が不可能か、とポルネが呟く。
「それは厄介だな。箱の中にあるのが全てか?」
兵士が、おそらくは、と答える。
「ふむ。強力な術式が仕込まれている可能性がある。
絶対に箱から出さずに研究班に回せ。」
は、と兵士が敬礼し、そのまま足早に去っていく。
「魔王。突然現れ、魔法を操り、その上鑑定不可能な物まで用意するとは、重ね重ね面倒なことをしてくれる。」
ポルネは廊下を歩きながら肩を竦める。
窓から外を見れば、訓練された兵士達が規律正しく行進していた。
ーーモルキーノ連邦は強大になった。
初めは弱小国家が数個寄り集まっただけの集団であった。
それが今ではこの世界で一二を争う強国になりつつある。
ーー伝統? 格式? 歴史? くだらない。技術を磨き、兵を育て、その勢力を伸ばしたこの国を見れば、それがいかに滑稽なことであるか一目瞭然だ。より強い力を得たものが勝つ。今はそういう時代だ。
その証拠に、昔は大国であり強国であったバーリシア王国が今は見る影もないではないか、とポルネは思う。
ーー魔術師サリア・バーリシアがいなければ遠の昔に無くなっていただろう。伝統や格式に縋り付き、馬鹿な王政を続けた結果だ。
ポルネは薄く笑った。
ーー我がモルキーノ連邦が世界の覇権を握る日も近いな。




