2話目 甲冑とか中世ヨーロッパなイメージ
さてーー突然よくわからない場所に来てしまって混乱していても仕方がない。
「とりあえず深呼吸だ深呼吸‼︎ーーヒッヒッフー
ヒッヒッフー…あ、違うわこれ」
思っていたよりも自分自身が混乱していたことに気づくが、とりあえずは落ち着いた。
ーーふむ。
状況把握のために今一度、冷静になった状態で周りを見回してみる。
すると、自分の足元を中心に、半径2メートルほどの円が地面に描かれていた。
よく見れば何やら複雑な模様が描かれている。
「なんだこれ? 落書きか?」
じぃ、と覗き込むがそれが何なのか全くわからない。
むしろ見れば見るほどよくわからなくなっていく。
ーー他にもないのか?
円の向こうを見渡すが、どこにもこれと似たようなものはない。
「なんで俺の周りだけ…」
そっと、複雑な模様の描かれた足元に手を伸ばすと、青白い稲妻と共に、手に鋭い痛みが走った。
「うおっ⁉︎ いってぇ!」
静電気に触れた時のような痛みに即座に伸ばした手を引っ込める。
ーーなんだこれ⁉︎
見れば、手を伸ばした付近の模様からビリビリと音を立てながら稲妻が出ている。
「よくわからねーが、危なねぇな…この円の中から出た方が良さそうだな」
そう言って、そのまま円から出ようとした瞬間。
ーードドドドドドッ‼︎
激しい地響きと共に、地面がぐらぐらと揺れだした。
ーー今度は何だ‼︎
地響きは、何やら自分から見て右側からだんだんと近づいてくる。
ふ、と顔を向けるとーー大量の甲冑を被った何かが、馬に乗って一直線にこっちに駆けてきていた。
「な、なな、なななな⁉︎」
ーーう、馬ぁ? それに甲冑⁉︎ まじでどうなってんだよコレェ‼︎ ここ日本じゃねぇの⁉︎
日本ではおそらくありえないであろうその光景に立ち竦んでいると、今度は反対側からも何かが近づいてくる気配がした。
「うそん」
振り向いた先には打って変わってトカゲのようなものに乗った馬面の怪物や背中から羽の生えた怪物、あからさまにデカすぎる怪物など、到底人間とは思えない魑魅魍魎の有象無象が津波のように押し寄せていた。
「どどどどど、どうしよう⁉︎ どうするべき⁉︎」
ありえない光景に、円から出ること叶わずその場で右往左往する公平。
と、そこへ先ほど右側から近づいていた甲冑の軍隊の第一波が、公平の元へ到達した。
「うおぉぉぉぉ‼︎ 魔王覚悟ー‼︎」
馬に乗った甲冑の兵士が、公平に向かって馬上から槍を振り下ろす。
ーーうえぇぇぇー⁉︎ 俺ェ⁈ マオウって誰? 絶対人違いだって⁉︎
しかし、心からの叫びは恐怖で声にならず代わりに持っていた営業用の鞄で目の前を防御する。
ーー死ぬ! 死ぬ! 絶対に死んだ‼︎
来るべき衝撃を覚悟して目をぐっと瞑る。
だが、いつまでたっても何も起こらなかった。
恐る恐る目を開けてみる。
すると、先ほどまで槍を振り上げていた兵士が、馬と一緒に倒れていた。
ーー…? 一体何が起こったんだ?
特別何かをした覚えはない。
ーーはっ、そうか!
「ーー営業用の鞄に秘められた力がーー‼︎」
すぐ隣で、同じように槍を振り上げた別の兵士が、円のあるすぐ上で、何かに阻まれるように弾き飛ばされた。
ーー違ったみたいだな…
どうやらこの変な模様の円の描かれた場所には、何も通すことができないようだ。
ーーつまり、この円の中にいれば安全ってことか?
「ーーおい魔王! 卑怯だぞ! その''魔法陣''から出てこい‼︎」
倒れた兵士のうちの一人が声を上げる。
「誰が出て行くか‼︎」
ーーなんだったらこの上に一軒家建てて一生住むわ‼︎
とりあえずは身の危険から遠ざかった安心からか、先ほどまでの恐怖が一気に怒りに変わる。
「大体マオウってなんだ! 俺には保田公平というかっこいい名前があってだな…」
「結界が張ってあるぞ! あれを壊せば魔王はガラ空きだ! 総員攻撃ーー‼︎」
「…って聞けよーー‼︎」
今度は公平に向かって矢の雨が降り注いだ。
ーーうおおぉぉぅああああーー‼︎
円の中で思わず倒れこむ。
矢は先ほどと同じように、中に入ってくる前に全て弾き飛ばされていった。
「ふ、ふう。 来ないって分かってても怖いものは怖いな」
「魔王さまぁぁぁーー‼︎」
今度は、また逆側から叫び声と大群が押し寄せてくる音が響く。
ーー今度はこっちかぁー⁉︎