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13話目 魔族の見た目は概ね二足歩行する動物


 部屋から外に出ると最初と違って、何体かの魔族とすれ違う。

 皆、公平を見た瞬間廊下の端に避けて頭を下げるので、変な気持ちになる。


 ーー重役になったみたいだな。今までは避ける側だったから、少し気分がいいな…申し訳なさも感じるけど。


 公平は、こういうところが出世できない理由なんだろうな、と思った。

 隣を歩く道案内役のゼノンによると、公平がいた部屋は大広間のすぐ近くで、歴代の魔王が使っていた部屋なのだそうだ。

 道理で広いはずである。

 ふと、道の端に避けている魔族達を見て、公平はある事に疑問を抱いた。


「なあ、ゼノン君。素朴な質問なんだけど、魔族にも性別ってあるよね?」


「はい、もちろんです」


「…男か女かってどうやって判断しているんだい?」


 公平には魔族の姿からはその性別を判断することができなかった。

 その質問にゼノンは、あからさまに変な顔をした。


「それは、本当ですか?」


「じ、実は…」


 お恥ずかしながら、と続ける。


「まさか、私やテドラ老師や他の兵士達も…?」


 公平が、こくり、と頷くと、ゼノンは衝撃を受けたかのように固まった。心なしかそのヘビのような顔にヒビが入ったように見える。


「…それは…なんというか…大変ですね。」


 ゼノンの言葉に公平は苦笑いする。


 ーー他になんとも言えないよね、分かるよ。でも、どうしようもないんだよね。


 犬や猫の性別が一見しただけではわからないように、魔族もまた見た目では全くわからなかった。


「…きっと、慣れてくれば分かるようになりますよ…多分。

私とテドラ老師、それからガノイは男です。

城にいる兵士のほとんどは男ですが、稀に女性もいますので、気づいたらこっそりと教えるようにします」


 ゼノンの気遣いが心に染みる。

 しかし、公平には魔族の性別が見分けられるようになる自信は全くなかった。


「着きました。」


 そんなこんなで、大広間の前に来ると、道のど真ん中にあの面は落ちていた。

 何やらその周りにドーム型の囲いができている。


「どうやら持ち主の手から離れると自動で結界が張られるようで…」


 ーーどう見ても往来の邪魔だな。


「なんか、ごめんね」


「いえ、魔王様が悪いわけでわないので」


 ゼノンが首を振る。

 公平が面に手を伸ばすと、結界は、す、と消え、いとも簡単に拾うことができた。


 ーー安っぽいお面だな、多分これがないと魔法は使えないんだろうけど、なんでひょっとこなのかな…


 公平は他の物ならもっと使いやすかっただろうに、と思った。


 ーーこんな祭りの屋台に売ってそうな…祭り?


 なにか引っかかるものを感じたが、結局気のせいだろう、とその考えを捨てる。


「ゼノン君。ちょっと中を覗いてもいいかな?」


 これも回収したことだし、と言って公平は大広間の方を指した。


「構いませんが、特に見て面白いものはありませんよ」


 いいから、いいからと大広間の扉を押す。

 …開かなかった。


「魔王様、その扉は外開きです。」


「…はい」


 扉を引いて開けると、中は広々としていたが、誰もいなかった。


「あれ、誰もいないのか?」


 そりゃそうですよ、と後から入ってきたゼノンが言う。


「わざわざここに何かしに来る者は居りませんし、そもそもこの部屋自体一同が会する時にしか使いませんから」


 なるほど、と納得する。


「しかし、城に入ったときも思ったけど、どこもかしこも広いね。

人間達の城もこんな感じなのかい?」


「さあ、それは流石にわかりませんね。ただこの城が広いとは思いますよ。なにせ、およそ3000体いる魔族のほぼ全てがこの部屋に入りきりますから。…容量的にはギリギリですが」


 ーーそれは広いな。


 大広間の中は石でできている上に、たまに水が滴り落ちるものの、広さと場所が城の中心部ということでいざという時はここに逃げ込むようになっているらしい。

 公平は、へー、と感心する。


「最も、そのような使い方をしようと決めたのは先代の魔王様が亡くなってからですので最近ですが」


「それまでは何に使ってたんだい?」


 ーー会議とか…は流石に広すぎるか。何かの催し事かな?


「はい、主に歴代の魔王様達が勇者と戦う場として使っていらっしゃいました。

街中で暴れられてもこちらの被害が甚大になりますし、万が一勇者が勝った場合でも、城を崩すことで勇者を倒すことができる、というのが主な理由ですね」


 あー、確かにイメージにぴったりだ、と公平は言った。

 さらに魔王が瀕死で生きていたときのために隠し通路がこの部屋のどこかにあるのだそうだ。


「意外と生々しい…まあ、命が掛かってるんだから当然だけど。

ところで勇者は今もいるのかい?」


 いたら面倒臭そうだな、と思い、ゼノンに質問する。


「さて…先代の魔王様が亡くなられてから数年後、その代の勇者が病死したという話を聞いて以来、特に新たに誕生した、と言う情報はありませんね。

ただ、満足に情報を集められるような状態ではないのでいささか信ぴょう性に欠けますが。」


 ーー確かに俺がいるくらいだから、勇者がいてもおかしくないな…


「やっぱり勇者って強いの?」


「そうですね、個人差はあるようですが概ね。

特に勇者は白魔法を使いますから。」


「白魔法?」


「白魔法とはーーいえ、いい機会ですから属性魔法について説明しておきましょう」


 ゼノンはそう言うと、説明を始めた。


「まず、属性魔法の基本は四種類。火、水、木、土です。

火は木に強く、土は火に強く、水は土に強く、木は水に強い。

このように属性ごとに得意不得意が分かれています。

ここに、魔王様だけが使える、白魔法以外の全属性を無力化できる黒魔法。

勇者だけが使える、黒魔法に唯一対抗できるが、それ以外には効果を発揮しない白魔法。

が加わります」


「へぇ、ということは、黒魔法は防御にしか使えないのか?」


 いえ、とゼノンが首を振る。


「そもそもこれらの強さの指標は、同程度の力を持つ術者同士の場合であって、術者の間に明確な力の差があるとまた話が変わってきますし、その中で黒魔法は防御はもちろん、魔法の打ち合いになった際、相手の術者がどれほど力を持っていても、真正面から黒魔法の攻撃が当たれば、無効化して攻撃を通すことができる極めて例外的なものとなっています。」


 ーーつまり、

 木<火<土<水<木

 木 火 土 水<黒

 黒<白

 白<木 火 水 土

 で、黒魔法と白魔法以外では使う奴の力の大きさによって、この相関関係は変わると。


 ふむふむ、と頷きながら続きを促す。


「また、属性魔法を使えるものは極めて少なく、大抵は使える者でも一人につき一つの属性、多くても二つまでとなっています。

メールの丘で相対したサリア・バーリシアのように稀に三つ属性魔法を使える者がおりますが、全属性となると長い歴史の中でもただ一人。

我々から太陽を奪った賢者だけです。」


「賢者は規格外だった、ってことか。」


 はい、と公平の言葉をゼノンが肯定する。


「あれは規格外、というより化物ですね。…一体どうしたら人間からあのような者が生まれるのか…寿命で既に死んでいることが唯一の救いですね。」


 ーー化物に化物と呼ばれる人ってどんだけだよ。逆に見てみたかったな…


 確実に負けそうだけど、と心の中で付け加える。


「さて、魔王様この後は如何されますか?」


「うーん、そうだな…まだ魔王城の内部も一度見ただけでよくわかっていないし、ゆっくり見て回りたいかな。」


「そうですか、ではご案内いたします」









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