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12話目 覚悟と妥協


「魔王様の特訓メニューはガノイ達と相談するとして…テドラ老師、魔王様はいつから激しい運動ができるようになりますか?」


 ゼノンの質問を受けて、テドラは公平の方を見る。


「ふむ…まあ、今すぐでも大丈夫そうじゃが、念のためもう一回寝て起きるまでは待ったほうが良いじゃろう。」


 テドラの言葉にゼノンは、そうですか、と言い公平の方を向いた。


「では魔王さま、とりあえず先ほどの三つは行うとして、他にもやりたい運動はありますか?」


「いやいやいや、ちょっと待って。腹筋と腕立て伏せそれぞれ1000回なんて無理だよ! 若い頃ならともかく、33にもなってそんなの体力が続くわけないよ!死んじゃうから!」


 ーーデスクワークで筋力という筋力がなくなってるからね⁉︎


 公平は、ゼノンの無茶なトレーニング内容が彼の中で既に決定していることに焦り、無理無理と首を振る


「若い頃だってそれぞれ最高で500回までしかやったことないし、しかも走り込みまでするんだろう⁉︎ 不可能だよ!」


 もうちょっと減らしてよ、という公平の必死の説得に、ゼノンは少し考えると、


「その、魔王様がおっしゃられる若い頃というのは、貴方様が人間だった時の話ですよね? だったら大丈夫です。人間が知恵と工夫に秀でているように、魔族も体力と耐久性には他の種族よりもはるかに優れていますから!」


 と言い、ぐ、と握り拳を作った状態で、親指を天井に向けて立てる。


 ーーあー、そっか。今は人間じゃなくて魔族なんだった。


 それならなんとかなるかも、と納得しかけた公平は、しかし、ある事を思い出す。


「…でも、俺は町娘程度の力しかないんだよね?」


 生まれたときからレベルが5ある純粋な魔族とは状況からして違うように思える。


「確かにその通りです。しかし、やってみないことには始まりません。それにーー」


 ゼノンが話しながら公平の元に近づいて来た。


「ーーその程度で弱音を吐いているようでは封印の遺物を探しに行くなんて土台無理な話ですな…行くなら、の話ですが」


 他には聞こえないように囁いたゼノンの言葉に、確かに、と納得する。


 ーーそうだよな。こんなことでうじうじ言ってるようじゃ駄目だよな。


 パン、と両手で頬を叩き、気合いを入れ直す。


「よし! 君の言う通りとりあえずやってみるよ!

あと、どうせなら魔法も特訓したいんだけど」


 現状、身体能力よりもメールの丘で使ったことのある魔法の方が役立ちそうだ、そう判断した公平がゼノンに打診する。


「そうですね、そちらの方にもうってつけの者がおりますので、私から言っておきます。」


 ゼノンはそう言うと、ところで、と話を変えた。


「実はこの件とは別で魔王様にお頼みしたいことがありまして」


「…? なんだい?」


 公平が答えると同時にゼノンが、ずっと黙って立っていたデュレストを呼び寄せる。


「あれを」


 ゼノンの指示にデュレストは、畏まりました、と言い部屋から出て行く。


「わしももう帰ろうかの」


 その後をテドラが追うようにして欠伸をしながら出て行った。

 自由だな、と公平はテドラを見ながら思う。

 少ししてデュレストが布らしきものを持って帰って来た。


「魔王様、これにお召替えなさっていただけますか? 見た所お召し物がボロボロのようなので」


 デュレストの言葉に公平は自分の姿を見る。


 ーー俺の一張羅がボロボロ…ってよくスーツのままで寝てられたな!


 改めて自分がいかに疲労していたのかを実感する。

 デュレストから着替えを受け取ると、公平はゴソゴソと着替え始めた。


「麻…かな? 作られたのがだいぶ昔なのか、ごわごわするけど、サイズはピッタリだ。」


 ぴっちりとしたスーツから解放され、体が軽くなったような気がする。


「ありがとう。これ、どうしたんだい?」


 誰かのお古だろうかと思い、デュレストに質問した。


「はい、その昔魔王城に攻め込んで死んで行った人間の骸が放置されている場所から、比較的状態が良いものをとってまいりました」


 ぴし、と公平が固まる。


 ーー…聞かなきゃよかった…


 公平は数秒前の自分を殴りたくなった。

 知らなければ何も思わずに着ていられたが、死体から剥ぎ取って来た衣服となれば、なにか怨念のようなものがついている気がして落ち着かない気分になる。

 公平は、うわー、と頭を抱えた。


 ーーまじかよ…しかもデュレスト君の雰囲気を見るには、特に悪いことをしたとか思っていないようだし、魔族の中では普通ってことか?


 微妙な気持ちになる。

 しかし、ボロボロのスーツに再び袖を通す気にもなれず、結局着続ける事にした。


 ーーあーあ、一番高かったのになー…


 池中社長に会う、ということで気合いを入れて着て来たものだった。


 ーーもし今元の世界に戻れたとしても、こっちと同じように時間が経過していたら商談は終わっているだろうし、そもそもこっちの問題を放っておけないから、解決するまでは戻れないな…


 というか、上司に怒られることを想像すると戻れない、というのが本音だった。

 それどころか、大切な商談をすっぽかしているので下手したらクビである。

 公平は泣きたくなった。


 ーー部下も心配…はしてないかもしれないが、特に田中は確実に心配してないだろうけど、迷惑をかける事になると思うと申し訳ないな。

それに、池中社長も今回の一件で心証は最悪だろうな。


 本気だったのにな、と呟く。

 それを聞いたゼノンが首を傾げた。


「何かおっしゃいましたか?」


「いや、ただの独り言さ。それで、頼み、というのはなんだい?」


 ゼノンは、はい、と頷くと、


「実は、魔王様がお持ちであったあの面、なのですが、どうも魔王様以外に触れられないようになっているらしく、回収していただきたいのです」


 と言った。

 公平は、確かにそんな物もあったな、と思い出す。


 ーー鞄がベッドの端にあったからすっかり忘れてたけど、あのひょっとこの変なお面、俺以外に触れられないとか変な上に面倒臭いな。


 わかった、と公平が言うと、そのままゼノンに連れられて、倒れてから初めて部屋を出ることとなった。







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