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幕間2 サリア・バーリシアという女

今回は短めです。


 父親であるゲルマ13世に帰還を知らせ、サリアは部屋に戻ると、侍女達に命じて人払いをし、ドレッサーの前に座り項垂れた。


 ーーまた、父上の期待に応えられませんでした。


 はあ、とため息を吐く。

 魔王を後一歩のところまで追い詰めたにも関わらず、最後の最後で取り逃がしてしまった。


 ーーあのとき、あのメールの丘にいた魔王はまだ魔力をうまく使いこなしていない、いいえ、自分の置かれている状況がよくわかっていない様子だった。

きっとあのときが一番チャンスだったのよね、隙だらけだったし。


 魔王は生まれたばかりだったのだろう、姫は魔王についてそう結論付けた。

 見た目こそ何十年も生きたような外見をしていたが、魔族の見た目とその年齢は必ずしも一致しないので、不思議な事ではない。


 ーーそう考えると、あの結界は、卵、のようなものだったのかしら?


 魔族がどのように生まれるのかはよく分かっていない。

 胎生の者や卵生の者、果ては何もないところから突然現れたりと一貫性に欠けているのが原因だ。


 ーーあの結界は厄介だった…まさか、私の使える魔法の中で一番威力の高いものを真っ先に使ったのに、壊すのにあれ程時間をかけてしまうなんて。


 その隙に魔王は突然横から出現した宝箱を開け、よくわからない禍々しい仮面を取り出した。


 ーー今思い出しても、あの仮面は気味が悪かったわ。


 そして魔王があの仮面をつけてから、何やら様子が一変した。

 突然地面に仮面を投げつけたかと思えば、また被り、そうかと思えば、いつの間にか味方の兵士に囲まれながらも、あの短時間で習得したのか魔法でこちらの攻撃を瞬時に防御していた。


 ーー極めつけは、あれね。


 魔王の逃亡に気づいた瞬間、魔術師が総力を挙げて遠距離魔法を飛ばしたにもかかわらず、もう当たる寸前、といったところで気づいた魔王に全て防がれてしまった。


 ーーなんで…? あの距離で気づいたなら詠唱が間に合わない筈。

どれだけ、早口で呪文を唱えたのよ。


 まさか、無詠唱?という考えがサリアの脳を横切るが、即座に馬鹿馬鹿しい、と言ってその考えを切り捨てる。


 ーーきっとあの魔王は気づいていないふりをしていたのね。

そうすることで、こちらの油断を誘い次の攻撃をさせないために。


 その罠にまんまとハマってしまった、と呟き奥歯を噛む。


「父上はああ言ってくださったけれども、きっと失望してらっしゃるわ。」


 先ほどの父との会話を思い出す。


 ーー父上は優しい方。私が一つ上の兄に憧れて魔法を習いたい、と言ったときも、微笑みながら許してくださった。


 この国では女は年頃になると、花嫁修行をさせられるようになる。

 当然、この国の王女であるサリアも例外ではなかった。

 しかし、サリアの希望と、王の鶴の一声で、サリアは花嫁修行ではなく魔術師となるための修行に打ち込んでいった。


 ーー私が当代一の魔術師と呼ばれるようになれたのは全て父上のおかげ。


「私はなんとしても父上の期待に応えたいの。」


 今の父の望みは魔王討伐と、口には出さないけれど魔王領の占領。


 ーー私が生まれる以前に奪われたというマーガ密林。それを契機に国が衰退し、国民が嘆いていると父上はいつもおっしゃっていた。


「領地を取り戻し、さらに魔王領の資源を得れば、きっと父上の言う昔のような素晴らしいバーリシア王国に戻る筈。

だからーー次は逃さない。」


 姫の前の鏡が、ぱりん、と割れた。







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