1話 俺、死んでしまった
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「えー、ゆえに人間は自然本能的にポリス的動物であると、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは……」
梅雨のジメジメした季節、ほとんどの生徒が顔を伏せている教室で俺は授業を真面目に聞くわけでも、かといって特にやることもなくただのんびりとしていた
ただ別にこの時間を苦痛だとは思わない、なぜなら何の変哲もない平々凡々な人生こそ俺の望んだものだったからだ。だったからと過去形になっているのはつまり普通な人生ではなくなったということで。
俺は現在進行形で普通ではない現象に巻き込まれていた。一瞬まばゆい光に目がくらんだと思った次の瞬間には意識がなかった。ほんの一瞬の出来事。でもこの一瞬で今後の人生が大きく変わるだなんて考える暇もなかった。
気がついたらみんなが立っていた。なんだ別に超常現象とかじゃないのか、と安心したが、すぐに普通じゃないなと分かった。なぜなら机も椅子も無くなっていたし、何より真っ白だったからだ。上も下も全部白。もはやどっちが上なのかわからないくらいに、例えるなら海に潜って目をつむった時とよく似ていた。修学旅行が懐かしいなぁと思っていると、どこからともなく声が聞こえてきた
『やぁ、君は死んでしまった。でも、君の死には意味があるんだ。君はこの世界では普通の高校生だけど僕の世界では君は勇者になるんだ。それで……って、ええええええ!!!!なんでこんなにいるの!?』
まるで小学生が頑張って練習して覚えた劇のセリフみたいだなと思った。声は高かったので女の子なのか?
でも最後のがちょっと気になる。まるで手違いで俺たちが死んだみたいな言い方だったが
『おねーちゃーん!どうしよう。勇者以外にもいっぱい人が来ちゃった!ねぇ、どうすればいいと思う?
『あ、ちょうどよかった。最近モンスターが少ないと思ってたのよね。勇者以外にいらないのがあったら適当にモンスターに転生させといてー』
「おいおいおいおい!いくらなんでもそれは酷いだろ!俺たちのことも考えてくれよ!そもそもなんで俺たちはこんなところにいるんだよ!」
といったのは、田口勇気、学級委員でクラスのまとめ役、誰とでも仲が良く、成績もそこそこ優秀というまさに勇者みたいなやつだ。こいつが勇者だと言われても1人ぐらいしか文句は言わないだろう
『確かにそうだね!勇者の頼みだし、聞いてあげる!
じゃ、他の人たちはランダムな生き物に転生するってことで!ちなみになんで君たちがここにいるか、だったけど私にも良くわかんないの、勇者である君が死んだから魂を拾ったんだけど他の人たちもついて来ちゃったんだよね』
「いや、ランダムな生き物ってモンスターより酷くなる場合もあるってことで、むしろ前より酷くなったんじゃ」
俺のツッコミの甲斐もなく再び意識は薄れていった