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太陽のような君へ  作者: ひで
編入と転入
35/55

試験と雑談

「い、行ってきます」

「行ってくるわ」

「おう。頑張れ」


今日は維織と胡桃の編入試験の日だ。

俺も付き添いということで日曜の朝っぱらから学校まで一緒に付いてきた。

終わるまで図書室で本でも読んで待っていようかとも思ったが、テストは全部で5教科もありかなりの時間がかかるので家に帰ることにする。


「駒井じゃないか。二人を見送りに来たのか?」


帰ろうとすると向こうから宮本先生が歩いてくる。


「はい。先生は仕事ですか?」

「ああ、休日出勤だよ。まあ特に用事があったわけじゃないから良いんだけどな」

「なるほど。お疲れ様です」


そう言えばとこの間のことを思い出す。


「そういえばこの前浴衣を貸していただいてありがとうございました」

「ああ、役に立てたなら良かった。急に祐子から電話が掛かってきた時は何のことかと思ったよ」

「でもよく浴衣なんて持ってましたね。今は実家じゃないんですよね?」

「桐谷祭には昔祐子とよく行っていてな。また行くかもしれないって言われて一応実家から持ってきていたんだ」

「そうだったんですか。昔から桐谷祭に行ってたってことは実家も近い所なんですね」

「そうだな。今住んでいるアパートからそう離れてはいない」

「じゃあなんで実家から出たんですか?」


そう言うと先生は少し恥ずかしそうに笑う。


「まあ、元々どこに就職が決まっても一人暮らしはすると決めていたんだよ。それに、、、その時ちょうど付き合っている男がいてな・・・」

「えっ!?そ、そうなんですか!?」

「・・・なぜそんなに驚く」

「いや、、、先生って付き合ったことあったんですね」

「失礼だな。こう見えても学生時代は祐子二人でモテたんだぞ」

「確かにそれは分かりますけど・・・。なんで別れたんですか?」


先生は少し渋い顔をする。


「・・・君には遠慮とか配慮の気持ちというのがないのか?」

「す、すいません。確かに無遠慮でしたね」

「まあいいが。ふう~」


先生は壁に寄り掛かる。


「些細なことだよ。私は無事就職できたがあいつは失敗してしまったんだ。それからあいつは少し荒れてしまった。それに私も就職したてで色々とストレスが溜まっていてな。それが積もり積もってなある日些細なことで大喧嘩になりそのまま・・・という訳さ」

「な、なるほど」


思っていたよりも重い理由で反応に困る。


「まあ元々私の就職が決まって暫くした時から浮気していたらしいがな」

「も、もう大丈夫です。変なこと聞いてすいませんでした」

「なんだその反応は。君が言うから話してやったというのに」

「い、いや。そんな重い内容だと思っていなくて。てっきりもっとどうでもいい理由かと。もしくは彼氏がいたという話自体が妄想とかかなって思っ痛ててて!!」


がっちりと頭にアイアンクローを決められる。


「君が私のことをどう思っているのか本気で頭の中を覗いて見たくなったな」

「わ、割れる!!頭割れます!!じょ、冗談ですから!!」


やっと離してもらえた。

頭がズキズキする。


「い、痛え・・・」

「余計なことを言うのが悪い」

「すいません・・・」

「まあ、いいさ」


先生は俺の頭をポンポンと撫でる。


「人は些細なことですぐに喧嘩してしまう。そこからどうなるかはお互いの信頼度の問題だ。君達だって私と同じように喧嘩をして離ればなれになってしまうかもしれないからな」

「まあそこら辺は大丈夫だと思いますよ。俺もあの二人も離れる気は全くないんで」

「そういうことをはっきりと言えるのは羨ましい限りだよ」

「先生だって祐子さんがいるじゃないですか。幼稚園の頃からずっと一緒なんですよね?」

「祐子は同性だからな。異性でそれができるのは凄いと思うぞ」

「俺達は友達同士ですからね。確かに恋人同士となると難しいかもしれませんが」

「君たちだっていつかそういう関係になるかもしれないじゃないか」


その先生の軽い一言に言葉が詰まる。


「・・・それは、、、多分ないと思いますよ」

「駒井はこの話題になると頑なに否定したがるな。何故なんだ?」

「・・・さあ、なんででしょうね」


誤魔化したように笑いながら肩を竦める。


「じゃあ俺は帰ります。帰って維織に言われてる勉強もしなくちゃいけないので」

「・・・ああ。しっかり勉強するようにな」

「はい。それじゃあ」


靴を履き歩いて行こうとすると先生が声をかけてくる。


「駒井はあの二人と出会って何年だ?」

「えっ?え~と、維織が十六年で胡桃が五年ですかね。どうしたんですか急に」

「そんなに付き合いが長いなら察しの良い君ならとっくに気付いているんじゃないのか?」

「・・・何がですか?」

「二人の気持ちにだよ」


呆れたような少し笑ってしまう。


「先生は本当にその話題好きですね」

「君がそうやってはぐらかすから気になってしまうんだよ」

「はぐらかしてるつもりはないんですけどね。ないと思うってちゃんと言ってるじゃないですか」

「そこでないと言うのがおかしいと私は思うんだよ。普通そんなに長期間の付き合いがあるならお互い意識しあったりするものじゃないのか?」

「それは、、、どうなんでしょうねえ」


とことんまで誤魔化す。

あまり明言はしたくない。

先生も仕方なさそうにため息をつく。


「まあこれは君達の問題だな。介入ばかりしてしまってすまない。どうも歳をとると若い人のそういう話に首を突っ込んでしまうタチのようでな」

「普段は歳のこと言ったら怒るのに。こういう時だけ使うのはずるいですよ」


今度こそ少しお辞儀をして玄関から出る。

そして歩いている時に今更ながら二人が試験を受けていることを思い出す。

胡桃は不安がっていたがきっと大丈夫だろう。

維織は言わずもがなだ。

夏休みもあと二週間ほどで終わる。

一変するであろう新学期に期待で胸を膨らませ青く晴れ渡る空を見上げた。

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