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太陽のような君へ  作者: ひで
小学校編
24/55

呼び名

「栗山さんどうしたのかしら」


 栗山が学校に来なくなって三日が経った。


「先生に聞いたら体調不良らしいけど」

「大丈夫かしら。……元々の病気が酷くなっているのかも」

「う~ん……。今日の帰りに栗山の家に寄ってみようか。場所はこの前栗山を送っていった時に分かってるし」

「迷惑じゃないかしら」

「とりあえず行ってみて会えるかどうか聞いてみよう。もし会えないって言われたらいつ会えるか聞いてみればいい」

「……そうね。行ってみましょうか」

                   ・

                   ・

                   ・

 放課後になり栗山の家に維織と共に訪問する。


 ピンポーン


 インターホンを押すとドアが開く。

 出てきたのは栗山の母親らしき人だった。


「えっと、どちら様ですか?」

「栗山さ……胡桃さんと同じクラスの白瀬と駒井と申します。今胡桃さんはいらっしゃいますか?」


 全部言われた俺はぺこりとお辞儀だけする。


「ああ、駒井君と白瀬さん?いつも胡桃から話を聞かせてもらっているわ。どうぞ上がって」

「えっ?い、良いんですか?」

「大丈夫よ。胡桃も二人に会いたがっていたから、会ってあげて」


 そう言われ維織と顔を見合わせる。


「それじゃあ、お邪魔します」

「お邪魔します」


 栗山の家に入れてもらう。

 するとリビングのドアが開き栗山が顔を出す。

 今日もずっと寝ていたようで着ている服はパジャマのようだ。


「ママ、誰が来……こ、駒井君と白瀬さん!?な、なんでここに!?」

「いや、学校に来ないから大丈夫かなと思って来たんだよ。そうしたら家に上げてもらえて」

「心配して来てくれたの?ありがとう!!」

「せっかく来たもらったんだし三人で胡桃の部屋で話して来たら?お菓子とジュースも持って行ってあげるから」


 栗山のお母さんの提案にはさすが遠慮する。


「いやいや、栗山が元気なのが分かったので大丈夫ですよ。そこまでご迷惑は掛けられません」

「そうね。ここでお邪魔します」

「二人とも何かこの後用事があるの?」

「いや、特に何もないけど」

「だったら寄っていってよ。久しぶりに二人とお話ししたいな」


 そう言われてしまうと無理に断れなくなる。

 玄関で靴を脱ぎ、二階に上がり栗山に部屋まで案内してもらう。


「どうぞ。ちょっとだけ散らかってるけど」


 栗山の部屋は女の子らしい可愛い部屋だった。


「可愛い部屋だな。維織の部屋とは大違いだ」

「……悪かったわね」

「ありがとう。白瀬さんの部屋はどんな風なの?」

「机と本棚とベッドしかない殺風景な部屋だな」

「必要最低限のものがあれば生活できるもの」

「でも、俺が昔あげたぬいぐるみはずっと置いてあるよな」


 雰囲気に似合わないでかいクマのぬいぐるみが維織の部屋に鎮座している。


「せ、せっかくもらったものだから。捨てるのはもったいないでしょ」

「いいなあ。どんなぬいぐるみなの?」

「昔、祭りでもらったクマのぬいぐるみを維織にあげたんだ。三~四年前くらいだけどな」


 しばらく三人での雑談が続く。

 すると栗山が嬉しそうに言う。


「三人でこんなにお話しするの久しぶりだね」

「……そうね」

「そうだな。色々あったから」


 聞きたかったことを聞く。


「身体は大丈夫なのか?」

「うん。昔から身体が弱いから風邪とかひくと人より長引いちゃうんだ。でももう熱もないから明日から学校に行けると思う」

「そう。良かったわ」

「心配かけてごめんね」

「俺達こそごめんな。もっと早く花園に白状されられていたらこんなことにはならなかったのに」

「そんなことないよ。二人がいなかったら今もずっと続いてただろうから。本当にありがとう」


 コンコン


 扉がノックされ栗山のお母さんが入ってくる。


「はい、お菓子とジュース」

「ありがとう、ママ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「二人ともそんなに礼儀正しくしなくてもいいよ」

「うん。二人とももっと楽にしてて。あっ、ちょっと私トイレ行ってくるね」


 そう言って栗山が部屋を出ていき、部屋に三人取り残される。


「えっと、じゃあいただきます」

「いただきます」

「どうぞ」


 お菓子を食べている途中に栗山のお母さんが話しかけてくる。


「今日は来てくれてありがとう。二人にはお礼しに行かないとと思っていたから」

「そんな、お礼を言われるようなことじゃありません」

「そうです。こうなったのも俺達が栗山に気を使わせてしまったからなんです。俺達がもっと上手くやっていれば……」


 トイレで倒れていた栗山を思い出すたびに花園への怒りと共に後悔と自分への不甲斐なさを感じる。

 もっと良い方法はあったはずなのに。

 俺達が選んだ選択より栗山が傷付くことがなかったもっと良い方法が沢山……。


「……二人は胡桃の病気のことは知ってる?」

「はい、栗山から聞きました」

「元々胡桃は人見知りで引っ込み思案だったの。病気で倒れてからそれがさらに酷くなって病院でもいつも一人だった」

「……」


 そのことは栗山も言っていた。

 病院では先生以外誰とも喋れなかったと。


「あの子は倒れて東京の病院に移ったから一年生から五年生まで学校には行っていないの。それもあって京都に戻ってきて学校に通っても友達ができるかずっと心配だった」


 確かに栗山はみんなと比べて授業の理解するスピードが遅い。


「でも初登校の日、学校から帰ってきた胡桃はとても楽しそうだった。優しい人達が話しかけてきてくれたって嬉しそうに話してくれたわ」

「それはたまたま席が近かったからですよ」

「それでもよ。あの人見知りの胡桃が話せているんだもの。きっと良い人達なんだなと思ってたけどやっぱり予想通り」


 栗山のお母さんはクスクスと笑う。


「駒井君はさっき胡桃に気を使わせたからって言ってたけど、それはあなた達が胡桃にとって大切な人になってくれたからよ」

「それは栗山さんもです。私にとって栗山さんは初めてできた同性の友達で……大切な人ですから」

「俺もそう思っています」

「……ありがとう、二人とも。家では私が守ってあげられるけど学校では何もしてあげられないから。これからもずっと仲良くしてあげてね。」

「はい」

「こちらこそです」


 扉が開き栗山が帰ってくる。


「あれ?何話してるの?」

「胡桃の言っていた通り二人共いい子だなってね」

「でしょ!!二人共優しくて良い人なの!!」


 目の前ではっきりと言われると流石に照れる。

 維織も少し顔を赤くしている。


「じゃあ私は失礼するわ。ごゆっくり」


 栗山のお母さんはお盆をもって部屋から出ていく。


「そう言えば二人に聞きたいことがあったんだ」

「なんだ?」

「……今、花園さんどうしてる?」


 花園の名前が栗山の口から出たことに驚く。

 維織も驚いているようだ。


「……なぜ?」

「ちょっと気になったから……」

「……花園も学校には来てないよ。もしかしたらもうずっと来ないかもしれないな」

「そっか……。……花園さんともお友達になれるかなって思ってたのにな」


 淋しそうな声で言う。


「栗山……」

「……大丈夫よ。私達がいるわ」

「白瀬さん……」

「そうだよ。維織なんて栗山と花園の仲に嫉妬してたくらい栗山のこと大好きなんだからな」

「そ、その話はしなくていいわよ」

「嫉妬?」

「ああ。栗山が花園に“胡桃ちゃん”って呼ばれるのを……どうした?」


 急に栗山の顔が真っ赤になる。


「あ……お、男の子に下の名前で呼ばれるのなんては、初めてだったから……」

「そうなのか?」

「う、うん。……も、もう一回呼んでほしいな」

「……え?」

「……嫌?」

「い、嫌とかじゃないけど」


『普段から維織を下の名前で呼んでるから抵抗はないんだけど……。そんな正面から頼まれると照れるな』


「……胡桃」


 ……顔が熱い。


「……ありがとう」


 栗山も顔が赤いままだ。

 微妙な空気が流れる。

 視線をうろうろさせていると視線の端で維織がむくれているのが見えた。

 慌てて話題を繋げる。


「えっと……あ、あれだよ!!これを機会にみんな下の名前で呼べばいいんじゃないか?なあ、維織!!」

「……ええ、そうね。良いと思うわ」

「いつまで経っても名字にさんくん付けだとなんか他人行儀だからな」


 無理矢理空気を変えようとするが維織はまだ少しだけ不機嫌のようだ。


「維織も呼んでみろって、なっ?」

「わ、分かったわよ。んっ!!」


 軽く咳払いをして喉の調子を整える。


『どんだけ緊張してるんだ……』


「……く、胡桃」

「うん!!えへへ、なんだか照れるな~」


 胡桃が照れる以上に維織の方が照れている。


「私は二人のことなんて呼べばいい?」

「胡桃が呼びやすいように呼べばいいよ」

「う、うん」


 まだ下の名前で呼ばれるのは慣れていないようで少し動揺しているが真剣に考え始める。


「そんなに考えなくても簡単で良いわよ」

「でもせっかくだから……」


 しばらく待つと胡桃が顔を上げる。


「ひーくんといーちゃん!!」

「へっ?ひ、ひーくん?」

「い、いーちゃん……」


 胡桃の考え付いた渾身の名前に思わず変な声が出る。


「呼び捨ては恥ずかしいし、博人君、維織ちゃんだと二人が呼び合う時と被っちゃうから」

「被ってても良いとは思うけど……。まあ、胡桃が良いならいいけどさ」

「なんだかむず痒いわね」


 二人で照れていると胡桃が俺達を笑顔で見てくる。


「いーちゃん」

「な、何?」

「違うよ~。名前だよ」

「あっ、ご、ごめんなさい」

「もう一回。いーちゃん」

「……胡桃」

「うん!!ひーくん」

「胡桃」


『なんだこのやり取りは……。でもまあ、悪くはないかな』


 この後、少し話してから胡桃の家を後にする。


「じゃあまた明日」

「また明日ね」

「うん!!ひーくん、いーちゃん、また明日。バイバイ」


 胡桃は俺達が見えなくなるまで手を振ってくれた。


「元気で良かったな」

「ええ。安心したわ」

「それにしても……ひーくんといーちゃんか。胡桃らしいと言うか何と言うか斬新だな」

「私は慣れるまでにしばらく時間がかかりそうだわ」

「俺もだよ」


 そんなことを言いながら空を見上げる。

 そこには綺麗な夕焼け空がどこまでも広がっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「二人とも帰ったの?」

「うん。また明日もう一回お礼言わなくちゃ」


 ママにさっきの話をする。


「へえ。駒井君も胡桃って呼ぶの?」

「えっ?う、うん」

「へえ、そうなんだ」

「私はまだ恥ずかしいけど、ひーくんはいーちゃんのこと昔から下の名前で呼んでるから慣れてるみたい」

「仲が良いんだね」

「家が近かったから生まれた時からずっと一緒なんだって。羨ましいなあ」


 ママは少し笑いながら聞いてくる。


「胡桃はさ、駒井君のこと好き?」

「えっ!?な、なんで!?」

「初めてできたお友達だし、さっき少し照れてるみたいな感じだったから。ちょっと気になっちゃった」


 確かにパパ以外の男の人と話すのはお医者さん以外初めてだから少し照れることもある。

 でも……


「……分かんない。同じ年の男の子と話すのが初めてだから。話すのは楽しいし名前を呼ばれると少し恥ずかしい。でもそれはいーちゃんにされても同じだから。……ひーくんのことはお友達としては大好きだけど、男の子としたら……そんなのじゃ……ないのかな?ん~……よく分かんない」

「……そうなんだ。まあそうだよね、まだ分かんないよね」

「それに……」

「ん?」

「ううん、なんでもない。部屋に戻るね」

「明日から学校だから無理しないようにゆっくり休んでおきなさいね」

「うん。お休みなさい」

「お休み」


 部屋に戻りベッドに横になる。

 寝ようと目を閉じるとさっきママに誤魔化した言葉を思い出す。


『それに……ひーくんにはいーちゃんがいるから。好きになんてなれないよ。なっちゃ……駄目だから』


 そう考えているうちに私はゆっくりと微睡みに落ちていった。

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