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太陽のような君へ  作者: ひで
小学校編
22/55

真実

『どこにいるんだ、栗山!!』


 見つからない。

 焦りが思考を邪魔してくる。


『焦るな。焦ると頭が上手く回らない』


 しかし、それに反してどんどん焦りが募る。

 栗山がまだ帰って来ていないということはどこかで動けないようになっている可能性もある。

 無理矢理思考を巡らせる。


『栗山はまだ誰にも見つかっていない。ならいるのは人の往来が少ない場所って可能性が高い。昼休みに往来が一番少ないのは四階だけど音楽室も美術室もコンピュータ室も鍵が掛けてある。それ以外の場所は……駄目だ、分からない』


 これ以上考えている時間はない。

 とりあえずまだ行っていない所に行こうと思い走り出そうとした瞬間、一つの記憶が引っ掛かる。

 こんな時間に清掃中の札がかかっていた四階の女子トイレ。

 特に気にしていなかったがあれなら放課後の掃除時間まであそこに入る人は誰もいない。


『あそこか!!』


 階段を全力で駆け上がる。

 たどり着いた四階には誰の姿もない。

 清掃中の札がかかった女子トイレの扉を躊躇なく開ける。


「栗山!!」


 そこには全身びしょ濡れになって床に横たわっている栗山がいた。


「栗山!!大丈夫か!!」

「……駒井君?なんでここが……」

「さっきこの階のトイレに行ったとき女子トイレに不自然な清掃中の札がかかっているのを思い出したんだ」


 栗山は苦しそうな息をしている。

 それを見て怒りが沸々と湧き上がってくる。


「……ごめんなさい」

「えっ?」

「駒井君に貸してもらった教科書、ぐちゃぐちゃになっちゃった……」


 栗山の目線の先には濡れてぐちゃぐちゃになった紙くずが落ちている。


「そんなの気にするな。栗山は何も悪くないだろ。身体は動くか?」

「……動かないの。自分の身体じゃないみたいに……。なんでだろ……」

「分かった。とりあえず保健室行くぞ」


 自分の上着を栗山に被せて、お姫様抱っこする。


「……駒井君、汚れちゃうよ」

「気にするなって。出来たらどっかに掴まっといてくれ」

「……うん。……ありがと」


 ゆっくり俺の袖を掴む。

 栗山は話すのもしんどいようだ。

 保健室まで急ぐ。


「はあっ、はあっ、はあっ……」

「……駒井君、重い?」

「いや、軽い。大丈夫だ」


 なんとか保健室に辿り着き中に入る。

 周りを見渡すが先生はいないみたいだ。

 とりあえず栗山をベッドに寝かせる。


「とりあえず服を着替えた方が良いな。……栗山?」


 栗山はさっきよりも息が荒く、顔が赤い。


「お前……熱があるんじゃないか?」


 おでこに手を当てる。


「熱いな。くそっ、どうしよう……」


『こんな時に先生がいないなんて』


 右往左往しているとドアが開き、維織が入ってくる。


「栗山さん!!」

「……白瀬さん」

「酷い……。なんでこんな……」

「維織!!いい所に来てくれた。栗山が熱あるみたいなんだ」

「え!?……本当ね、熱い」

「だから栗山の服を着替えさせてやってくれ。俺は薬とか冷えピタとか探す」

「分かったわ。……見ないでよ」

「見る訳ないだろ」


 後ろを見ないように薬を探す。

                   ・

                   ・

                   ・

「ふう、とりあえず落ち着いたかな」


 栗山の服を着替えさせ、薬も飲ませた。


「……ごめんね、二人とも。迷惑ばっかりかけちゃって」

「何を言っているのよ。あなたは何も悪くないのよ。悪いのは……」


 維織は唇を噛み締める。


「……栗山、真実を教えてくれないか?」

「……うん」


 栗山がゆっくりと話し始める。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 あれは忘れ物をして授業中に教室に取りに言った時だったの。

 体調が悪いと言って保健室に行ったはずの花園さんが私の机から教科書を取ってどこかに持って行こうとするところを偶然に見てしまった。


『あれは花園さん?確か保健室に行くって言ってたはずじゃなかったっけ?それにどうして私の教科書を……。……まさか!!』


 駒井君と白瀬さんに相談しようと思ってそっと戻ろうとした時、足が掃除道具箱に当たってしまい鈍い音が廊下に響く。


「!! 誰!?」


 慌てて逃げようとするが目が合う。

 花園さんはいつものように笑いながら話しかけてくる。

 でも、まるで知らない人のように見えた。


「胡桃ちゃんじゃない。どうしたの?まだ授業中だよ?」


 乱れていた呼吸を落ち着ける。


「……花園さんこそ保健室に言ってたんじゃなかったの?そ、それに何で私の教科書を。」

「これ?これはねぇ教室で拾ったの」


 バレバレの嘘を笑いながら言う姿に背筋が凍る。


「……今までのこと全部花園さんがやってたの?」

「あれ、いつもは麗香ちゃんって言ってくれるのにどうしたの?そんな他人行儀に」

「胡麻化さないで!!」

「……今までのことって?」

「教科書隠したり机にペンキかけたりしたことだよ!!」


 思わず大きい声が出てしまう。

 そうしないと足の力が抜けそうだ。

 花園さんは諦めたように息を吐く。

 しかし、顔は笑ったままだ。


「はあ、まさかよりにもよって胡桃ちゃんが教室に戻ってくるなんてね……。少し強引になりすぎたかな」


 花園さんは他人事のように話し続ける。


「……どうして?花園さんはあんなに仲良くしてくれたのに……」

「仲良く、ねぇ……。確かに最初は胡桃ちゃんとも友達になりたいと思ってたけどね。……あの事がなかったら」

「あの事?」


 花園さんの顔が怒りで歪む。


「忘れてるでしょ?胡桃ちゃんは沢山の人の中から選ばれたくせにそれを無下にして騙して、そのことすら忘れてのうのうと生活している!!私はそれが許せない。……許さない、絶対に!!」


 彼女が何を言っているかは分からない。

 でもいつもの花園さんはもういなかった。

 私は怖くなって逃げようと後ずさる。


「あの二人に言ったらどうなるか分かってるの?」

「えっ?」


 足が止まる。


「もし胡桃ちゃんがあの二人に言ったら……あの二人も胡桃ちゃんと同じ目に遭っちゃうかもよ?」


 彼女は相変わらず笑っている。

 しかし、目は笑っていなかった。


「そ、そんな……。あの二人は関係ないよ!!」

「それは私が決めることだよ。胡桃ちゃんが決めることじゃない。で、どうするの?」


 答えは決まっている。

 駒井君と白瀬さんを巻き込むわけにはいかない。


「……分かった」

「物分かりが良くて良かったよ。でもこれだけじゃあな~」


 彼女は楽しそうな笑顔を浮かべる。

 その顔はまるで何かのゲームをしているように楽しそうだった。


「じゃあまずはあの二人から離れてもらおうかな」

「えっ!?そ、そんな……」

「あの二人と一緒に居られると色々面倒だからね。今日の放課後にでも二人に行って来てよ。分かった?」


 ここで何か言っても無駄だと分かった。


「……分かった」

「じゃあ頑張ってね」


 彼女は私に笑いかけて教室を出て行った。

 私の教科書は床に捨てられていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「それでその日の放課後に二人と話をしたの」


 やっぱり犯人は花園で合ってたみたいだ。

 話を聞いて怒りがさらに湧き上がる。

 維織も言わずもがなだ。


「そうか……。でも、俺達のことなんて気にするなよ。そんなことくらいで俺達はどうにもならないよ」

「そうよ。それでも私達に相談してくれれば……」


 栗山は困ったように笑いながら静かに首を振る。


「言えないよ。大好きな友達なんだもん。迷惑かけられないよ」

「……栗山の気持ちは分かったよ。俺達のことを考えてくれたんだな。ありがとう」

「ありがとう、栗山さん」

「……うん」


 本題はここからだ。


「……それで、今日はいったい何があったんだ?何でこんなことに・・・」

「……私が音楽の教科書を持っていたことについて花園さんが責めてきたの」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 授業が終わってすぐに周りの人達に気付かれないように四階のトイレに連れ込まれる。


「何で胡桃ちゃん、教科書持ってるの?他のクラスに貸してくれる人なんていないでしょ?」

「こ、これは……」


 駒井君からは誤魔化せって言われていたけど良いアイディアが思い付かない。

 頭が真っ白になって何も話せずに居ると、彼女は何かを思い出した。


「……そう言えば今日、駒井が教科書忘れて怒られてた。教室では持っていたはずなのに。……まさか!!」


 私が手に持っていた教科書を奪って中を見る。


「あっ!!」

「駒井……博人。へえ、そう言うことね……」

「こ、駒井君は関係ないよ!!私が勝手に!!」

「へえ、胡桃ちゃんは馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿だとはね……」


 彼女は教科書を半分に引き裂き、地面に投げ捨てる。


「な、何して!?」

「ふざけるな!!」


 彼女の目は怒りで燃えている。


「私がせっかく情けをかけてやったのにこういうことするんだ。ならもう知らないよ?あの二人がどうなっても」

「!! 止めて!!お願い、あの二人には何もしないで!!」


 服を掴んで懇願する。


「離せ!!」


 振り払われバランスを崩し壁にぶつかって床に倒れる。


「痛っ!!」


 倒れた私を見る彼女の目は泥のように黒く淀んでいた。


「駒井もムカつくのよ。人のことを馬鹿にしたようなこと言って。私が……こいつより劣ってる?」


 彼女は水の入ったバケツを見つけると、私に勢いよくかけてくる。


「!! やめっ……ゴホッ、ゴホッ……」

「ははっ……ははは……」


 笑い声がトイレに響く。


「惨めだね。でもお似合いだよ。こんな女を好きになるなんて高田君の目も節穴だなあ」


 バケツを私の近くに投げ捨てて入り口に歩いて行く。


「じゃあね、胡桃ちゃん」


 笑顔でそう言うと彼女は扉を閉めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「それで身体が動かなくなっちゃって、昔倒れた時と同じ感覚で……私死んじゃうのかなって思って……」

「大丈夫よ。あなたは死んだりなんかしないわ」


 維織は目に涙を浮かべながら栗山の手を優しく握る。


「教えてくれてありがとう、栗山。あとはゆっくり休んでな」

「うん……」


 栗山の頭を優しくなでる。


『結局今回起こった原因はほとんど俺のせいだな。ちゃんと責任はとらなきゃ』


「維織、昼休みはあと何分だ?」

「えっ?あと十五分くらいだけど」

「分かった、ありがと」


 ゆっくりと立ち上がる。


「ちょっと行ってくるよ」

「えっ?どこに行くのよ」

「お花摘み」


 保健室を出る。

 お花摘みというのはトイレに行くことの隠語だ。

 しかし、もちろんトイレに行くわけじゃない。

 俺が摘むのは花は花でもクラスに咲く……悪の花だ。

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