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太陽のような君へ  作者: ひで
小学校編
18/55

前兆

「席離れちゃったね」

「そうだな」

「くじ引きだからしょうがないわよ」


 席替えが行われて俺達と栗山は席が離れてしまった。


「いいなあ、二人は近くで」

「まあ、他の人と仲良くなるチャンスだと思えばいいんだよ」

「……そうだね。班の人も女の子ばっかりだから仲良くなりたいな。あっ、じゃあまた後でね」


 授業のチャイムが鳴り栗山は席に戻る。


「俺たちはまた近いな」

「そうね。栗山さんの近くが良かったわ」


 俺と維織は隣の席になった。


「……悪かったな」

「冗談よ。……それより栗山さんはあの人達と仲良くなるのかしら」

「なんだよ、寂しいのか?」

「そ、そうじゃないわ」

「まあ、維織に出来た初めての女の子の友達だからな。大丈夫だよ、休み時間には来てくれるって」

「……それならいいんだけれど」


 しかし、俺の予想に反して栗山は休み時間もずっと席の周りの女子と話していた。

 特にクラスの女子の中心人物でもある花園麗香と仲良くなったようだ。

 今日は給食も花園と食べるらしい。


「ごめんね。一緒に食べようって花園さん達に誘われちゃって」

「いいよ、気にすんな」

「ごめんね。明日は一緒に食べようね」


 栗山は花園達に呼ばれ席に戻っていく。


「……博人の嘘つき。休み時間にはこっちに来てくれるって言ってたじゃない」


 維織がむくれながら凄い目で睨んでくる。


「しょうがないだろ……。てか、寂しくないんだろ?」

「さ、寂しくないわ。……寂しいというよりは……花園さん達が私達より仲良くなるのが嫌なのよ」

「我が儘というか独占欲が強すぎるのは嫌われるぞ」

「そ、そんなこと……気を付けるわ……」

「冗談だよ」


 維織がまた睨んでくるのを笑って誤魔化す。


「まあ確かに俺もちょっと……嫌かな」


 そうやって少し胡桃と一緒に居る時間が短くなっていた中である出来事が起こった。


「じゃあ帰るか」

「うん」

「ええ」


 三人で帰ろうと校舎を出た所で知らない男子が話しかけてくる。


「栗山さん、ちょっといいかな」

「えっ!?わ、私ですか?」

「うん。話があるんだけどいいかな?」

「え、えと。わ、分かりました。駒井君、白瀬さんちょっとだけ待ってて」

「分かった」

「分かったわ」


 男子が横を通り過ぎていく時にチラッと見ると会釈される。

 そして栗山はその男子と歩いて行く。


「……誰?あの人」

「いや知らないやつだから他のクラスだと思うけど。礼儀正しくて結構イケメンだな。……モテるんだろうな」

「……博人の方がカッコいいから大丈夫よ」


 いつも俺に文句ばっかり言う維織だが時々冗談でこういうことを言ってくる。


「ありがと。そんなこと言ってくれるのは維織だけだよ」

「そ、そうでしょうね。それより話って何なのかしら?」

「え~と?まあ放課後に男子が女子に話があるって言ったら一つしかないだろ」

「……告白?」

「多分な。まあ、栗山は可愛いからな。モテるんだろ」

「……まあそうね」


 そう言いながら維織はこっちをちらちらと見てくる。


「どうした」

「何でもない!!」

「お、おう」


 急に不機嫌になった維織を不思議に思いながら栗山を待つ。

 そして五分くらいして栗山は帰ってきた。


「待たせちゃってごめんね」

「早かったわね。すぐ終わったの?」

「そ、そのことなんだけど今から駒井君の家に寄ってもいいかな?」


 栗山がそんなこと言うなんて珍しいな。


「良いけど、どした?」

「ちょっと二人に相談したいことがあって」

「分かった、行こうぜ」


 三人で俺の家に帰る。


「あれ?胡桃ちゃんいらっしゃい。また遊びに来てくれたの?」

「今日は遊びに来たんじゃないんだって」

「そうなの?また後でジュース持っていくね」

「い、いえ。すぐ帰りますから、気にしないで下さい」

「良いから、良いから」


 部屋に入ってとりあえず俺は椅子に座り、二人はベッドに座る。


「それで話ってのは?」

「えと、さっきの話なんだけど……」

「ああさっきの。結局あいつは誰なんだ?」

「あっ、え~と、五組の高田君だって」

「全然知らないな……」

「それよりさっきって栗山さんが告白されたことかしら?」

「う、うん。そのこ……!! な、なんで知ってるの!?」

「分かるだろ、なんとなく」

「そ、そうなの?二人とも凄いなあ」


 話が進まないので少し急かす。


「で、それがどうしたんだ?」

「えと、それでねどうやって断ればいいのかなって思って……」

「断るの?」

「う、うん。知らない人だったし」

「イケメンだったのに?」

「……なぜ博人がそんなにイケメンに反応するのか分からないわ」

「えっ?だって女子はイケメンが好きなんだろ?」


 イケメンで性格も良いなんて優良物件だと思うけど。


「わ、私、顔は気にしないから」

「私も関係ないわ」

「そうなのか?二人が珍しいんだと思うけどな」

「珍しいのかなあ?そ、それよりもどうすればいいと思う?」


 困り顔の胡桃に維織が質問する。


「まず、ちょっとした疑問なのだけど。そもそも、その場で断れば良かったんじゃないかしら」

「考えてって言われちゃったから……」

「……なるほどね、やっぱり栗山さんは優しいわね」

「や、優しいのかな?」


 俺も質問する。


「明日にでも普通に断りに行くんじゃ駄目なのか?」

「いい人だったから理由もなしに断るのはなんか失礼かなって気がして……」

「そんなに気を使わなくてもいいと思うけどな。まあ、つまりは断るための良い理由を考えて欲しいってことでいいのか?」

「……うん、お願いします」


『どうしたものかなあ』


 三人で考え始めると栗山からも質問される。


「二人は告白されたこととかある?」

「俺は残念ながらないな。でも維織は昔何回かされてなかったっけ?」

「そうなの?」

「昔ね。でも全員その場で断ったわ」

「す、凄い!!カッコいい!!」


 栗山は維織に尊敬の目を向ける。


「でも断るのも結構疲れるものよ」

「そうなんだ……」

「維織は見た目は良いから初めはモテるんだけど、性格がきつすぎるから段々引かれるんだよな」

「悪かったわね。顔にしか興味ない男なんてどうでもいいわ」

「そういうところなんだよなあ~」


 口を開けば毒を吐く。

 でもその言葉の大体が本当のことだからさらに質が悪い。

 昔からずっとそうだ。


「だからいまいち参考はならないわね」

「まあ、維織と栗山では性格が全然違うからな」


 三人で頭をひねっているとドアがノックされ母さんが入ってくる。


「はい、ジュース持ってきたよ」

「わ、わざわざありがとうございます」

「ありがと」

「ありがとうございます」

「いえいえ。それでどうしたの?三人でそんなに悩んで」


 三人で考えても良い案は浮かばないだろうということで母さんにも意見を求めることにする。


「実はかくかくしかじかと言うことなんだよ」

「な~るほど。大変だね」

「他人事だな……他人事だけど。それで良い案ない?」


 母さんは宙を見つめて考える。


「胡桃ちゃんは断る理由が欲しいんだよね?」

「は、はい」

「なら、私に良いアイデアがあるよ」

「本当に?何?」

「教えて下さい!!」


 そう言うと母さんは俺を見てキメ顔を作る。


『あっ、嫌な予感』


「博人が彼氏のふりをして断ればいいんだよ」

「え、え~~!!」

「え、え~~!!」


 維織と栗山の叫び声が綺麗にハモる。


「な、何を言ってるんですか美由紀さん!!」

「そ、そんなの駄目です!!」

「駄目なの?なんで?」

「な、なんでと言われても……」


 栗山が口ごもるのを見て助け船を出す。

 俺もそんなことはしたくない。


「当たり前だ。そんなこと出来る訳ないだろ」

「そ、そうです。それにそれだと高田君のことを騙すことになっちゃいます。……傷つけることになっちゃいます」


 栗山の言い分に母さんは首を傾げる。


「別にいいじゃん。どう言っても相手を傷つけることになるんだからさ」

「うっ……そ、そうですけど」

「なるべく相手にダメージが少ないようにした方が良いと思うけど?」


 ……確かにそれは正論だな。


「まあ、それは二人が決めることだけどね。私は案を出しただけだから」


 母さんが俺たちをからかっている可能性もあるが、確かにそれが今の最善策でもあるな。


「……俺は別にいいよ。このまま考えてても時間の無駄だろうから。もちろん栗山が良いならだけど」

「わ、私は……白瀬さんがいいなら……」


 そう言って栗山は維織を見る。


「なんで維織?」

「だ、だって……」


 すると、維織は即答する。


「私は別に良いわよ。関係ないもの」


 しかし、言葉には少しトゲがある。


「何怒ってんだよ」

「別に怒ってないわよ」


 意見が揃ったところで母さんが手を叩く。


「じゃあ決まり!!詳しくは二人で決めてね。私は夕飯の支度があるから」

「分かった、ありがとう」


 母さんが部屋から出て行こうとすると支度を手伝うと言って維織もそれに付いていく。


「白瀬さん怒っちゃったかな」

「気を利かせてくれたんじゃないか?」

「……それなら良いんだけど」


 気を利かせてもらったけれど栗山との話し合いはすぐに終わった。


「とりあえず付き合ってる人がいますからって言えばいいんじゃないか?そう言えば相手は何も言えないだろ」

「そうだね。日にちは……」

「明日でいいだろ。面倒ごとは早めに越したことはないからな」

「分かった。……駒井君も付いてきてくれるんだよね」

「当たり前だろ。俺も一緒に行った方が信ぴょう性も増すからな」

「うん、ありがとう」

「お礼は母さんにでも言っとけ。それにまだ成功するかも分からないからな」

「うん、そうだよね。明日よろしくね」

「おう」


 栗山は言っていた通り用事が終わるとすぐに帰っていった。


「……栗山さんとちゃんと話し合えたの?」

「おう。明日さっさと終わらせようってことになった」

「まさか博人が彼氏役なんてね。大抜擢じゃない」

「母さんの案が良かったから乗っただけだよ」

「そう、まあ頑張りなさい。仮にも彼氏なんだから」

「仮にだけどな」

 ・

 ・

 ・

 次の日の放課後、栗山に高田を校舎裏に呼び出してもらい二人で待つ。

 維織は私にはやることがないからと言って先に帰ってしまった。


「……緊張してきた」

「すぐ終わるって。おっ、来たな」


 高田がこっちに走ってくるのが見える。

 そして、俺を見て不思議な顔をする。


「……君はあの時の。なんでここに?」


 そんなに不思議なことか?


「僕が栗山さんに話をした日に一緒に居たよね。確かもう一人の女の子と」


 高田が疑問に思っていることが分かると同時に冷や汗が背中を流れる。

 確かに俺はあの日あの場所にいた。

 そして何も言わずに栗山のことを見送った。

 彼氏ならあの時何も言わずに彼女のことを見送るだろうか。

 いや、見送らない。

 あの時の状況を見て誰も俺が栗山の彼氏だとは思わないだろう。

 俺だって思わない。


『これは不味いな……』


 思わぬ落とし穴を見つけた俺が慌てて栗山に耳打ちしようとする前に栗山が急に喋りだす。


「わ、私はこ、駒井君とつ、付き合ってるんです!!」

「……えっ?」


 高田が素っ頓狂な声を出す。


「だ、だから私は高田君とはそのつ、付き合えないんです!!ご、ごめんなさい!!」

「え、えと……付き合ってるの?」


 困惑した顔を俺に向けてくる。

 良い案は浮かんでいないが彼氏役に任命された以上上手いこと言うしかない。

 というよりここで失敗したら後で母さんと維織が怖い。


「ああ、付き合ってる……一応」

「ならなんであの時僕を止めなかったの?」


 考える暇なんてない。

 それにしても俺の言ったことは酷かった。


「あの時は……栗山のことを信じてたからな。その……俺たちはお互い強い愛で結ばれてるから。お、俺は栗山のこと大好きだから。だから……大丈夫かなって……」


 何言ってんだ俺は、テンパりすぎだ!!

 穴があったら入りたい……。


「……そうなの?」


 高田が聞くと栗山は顔を真っ赤にしながら答える。


「う、うん。わ、私も駒井君のことだ、大好きだよ」


 それを聞いて高田は大きく息を吐く。


「そうか、分かったよ。……てっきり君はもう一人一緒に居た女の子と付き合ってるんだと思ってたよ」

「そういうんじゃない。維織は友達だよ」

「……維織ね」


 ぼそっと高田が何かを呟く。


「ん?」

「いや、なんでもない。栗山さん、返事してくれてありがとう。それじゃあね」


 そう言って高田は歩いて行く。

 その姿が見えなくなったところで息を吐く。


「……悪いな。上手いこと言えなくて」

「ううん、ありがとう、一緒に来てくれて。でも……」


 でも?


「……恥ずかしかった」


 俺もだ。


「もう疲れたよ。帰ろうぜ」

「うん……私も疲れちゃったな」


 色々疲れた。

 主に精神が。


「もう告白されるのは懲り懲りだな。白瀬さんの気持ちも分かるかも」

「次があったらもっと良い手を考え…… !!」


 気配を感じて振り返る。


「どうしたの?」


 しかし誰もいない。

 今日は調子が悪いみたいだ。


「いや、なんでもない」

「でも駒井君、さっきのは白瀬さんに言っちゃ駄目だよ」

「さっきのって?」

「維織は友達ってやつだよ」

「なんで?だって友達だし」

「いいから。また白瀬さん怒っちゃうよ」

「よく分からないけど、まあ分かったよ」


 そんなことを話しながら校門を二人で出ていく。

 それをじっと見つめる陰には気づかないまま……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 二人が校門から出ていくのをじっと見つめる。

 そして二人の姿が見えなくなった時、口から言葉がこぼれた。

 その無意識に発せられた言葉で明日から起こる楽しいことを想像し思わず笑みがこぼれる。

 小さく鼻歌を歌いながら二人が通った校門に歩いて行った。



「絶対に許さない」

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