ドラゴン倒しちゃった
気がつくとそこは巨大な穴の中にいた。上を見ると登ることができない深さでぽっかり開いた穴も10メートルくらいありそうだ。そんな高さから落ちたためか起き上がろうとすると全身が軋み痛い。森の中のため微かに漏れた光が全身を照らす。
「あ……」
どう出ようか迷っているとこれまた巨大な洞窟が後ろ側にあった。トンネルくらいの大きさでかなり奥までありそうだった。進むしかないため体を無理やり起こし落ちていたラケットを拾い進む。途中から暗くなったため光の球体を出現させる。小さな光を頼りに進むため足元がよく見えなくて不安を感じていた。洞窟の中はひんやりとしていて肌寒かった。
「え……」
数十分進んだところで行き止まりになってしまった。壁のあちこちを触れ、行き止まりだということを確認する。冷たくゴリゴリした岩の感触がする。ボールを高く投げるが天井まで届かなかった。仕方なく痛む体を無視し、ラケットを使う。ボールが天井に当たる音がかなり遠くまで響くがそれは今、来た道に響いていただけだった。また、天井も特に何もなかった。どうすれば良いかわからずその場に座り込む。
「ゔぅぅぅぅう」
突然、洞窟内に生物のうめき声が響き渡る。瞬時に立ち上がりラケットを構え、対策を取る。
足はガタガタに震えラケットに力がしっかり入ってなくて持つだけで精一杯だった。徐々にうめき声が大きくなり姿を現わす。うめき声を聞いていた時から予想はしていたがドラゴンが目の前に現れ怖気付く。恐怖のあまりまったくうごけないでいた。どうやらドラゴンの住処らしかった。
「今回の御供え人はお前かよ」
急にドラゴンが若い男性のような声で愚痴る。急に喋り出したドラゴンに驚き動けなくなる。
「なんで、人寄越すんだよ、いらねんだよ」
キレ気味のドラゴンに混乱し、は……は……は、と掠れた笑いを漏らす。
「あ、そういえばお前、俺にボール当てたやつだっけ」
ドラゴンがそのことに気づいた瞬間、すかさず土下座の姿勢に入る。痛みなんて言っていられなかった。綺麗に正座し、深々と丁寧に下げ頭を地面にぶつけて叫んだ。
「ほんとっっっっうにすみませんでしたああああ‼︎‼︎‼︎」
叫び声が響き渡る。数秒の間があきドラゴンが口を開く。
「え、俺の言葉わかっちやうの?」
「は、はい!」
ドラゴンの言葉に戸惑いながら頭を下げた状態で返す。
「その姿勢なんかヤダからやめてくんない」
頭をあげるなんて恐れ多いと感じたため、このままで、と言った。しかしドラゴンがもう一度指示したため頭をあげる。
「あん時のこと、怒ってないからもういいよ、ほんでさ、あんたさん、どっから来たの?」
怒ってないと言われたが申し訳なさと恐怖で萎縮したままで質問に正直に答える。
「はい、地球の日本という場所からやって参りました」
使い慣れない謙譲語?尊敬語?を使う。
「そうか、異世界か〜。帰りたいだろ、俺、神様だから返してやることできるよ」
ドラゴンが意味不明な言葉を言ったためポカンとする。
「俺、何か、転移の力とか創造の力を持ってるんだよ」
ほら、といい炎を吐き出す。周りに煙が舞い上がる。咄嗟に口を服の袖で押さえる。
「あれ?」
不思議なことに数メートル先に炎が上がっているのにもかかわらず熱を感じなかった。煙が数秒で晴れ、目の前にベッドが出現する。しかもそのベッドはかなり豪華で白を基調とした天蓋付のダブルベッドだった。また、照明付きで少し暗めに調整されていてより美しく見えた。さらに洞窟にポツリと置いていることが魅力的に感じる。
「どうだ、すごいだろ、寝てみろ」
ドラゴンが誇らしげに僕に勧める。ゆっくりベッドに近づき横になる。ちょうど良い柔らかさのベットと枕に身を委ねる。
「あぁぁー」
全身の力が抜け、痛みがなくなっていく錯覚さえ起こさせる。いや、実際に痛みがなくなり傷が癒えていた。
「すごくね、治癒機能付きベッドだよ、初めて造ったけどできちゃったよ」
ドラゴン自身も驚いているのが声でわかる。
「それで、日本だっけ、帰る?」
「はい、大変お手間をかけるとお思いますがよろしくお願い致します」
ベッドの上でまた、深々と頭を下げお願いをする。
「あ、オッケー、じゃあねー」
こうしてわずか3日間の異世界生活転移は終わった。ちなみにドラゴンはあの世界では神のように崇められそれを倒そうとした僕を生贄にしようとしていたらしかった。そのため土下座をしていたのは僕ではなく飛び立ったドラゴンで、お祭りは怒りを鎮めるために行なっていたのだった。当然豪華な食材やフルーツは僕のためではなくドラゴンのためだった。




