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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第二章
69/410

これから毎日練習をしようぜ?

 それから努は一度PTから抜け、アルドレットクロウの一軍PTで六十二階層に潜ってもらった。その間に努は二番台に映る一軍PTを観察しつつ、ステファニーにこなしてもらう練習を更に纏めてスケジュール化していた。


 アルドレットクロウのPT査定の日まで残り三週間近くあると努はルークに聞かされていたので、その日数を元にスケジュールを組んだ。そしてそれを六十二階層からクランハウスへ帰って来たステファニーに渡した。



「えっと、ツトム様。これは?」

「査定の日までの練習スケジュール表ですね。一先ず三週間分書いておきました」



 綺麗に引かれた升目ますめに日付、そして一時間単位で練習内容が割り振られた色で塗りつぶされている。ステファニーはそのスケジュールを会議室の円卓に座りながらまじまじと見つめていて、隣のルークがそれを覗き込むと彼は中性的な顔を引きつらせた。



「あの……見る限り、一日も休みがないように見えるのですが」

「ステファニーさんの予定がわからなかったものですからね。何かご予定でも?」

「えっと、再来週の週末には実家に一度帰る予定がございますね」

「それではその日はいつでも出来る練習だけにしましょうか。ヒールの練習と秒数把握だけにしましょう」

「え?」



 先ほどの資料を読み込むことと二つの練習だけだと思っていたステファニーは、真偽を図るように努をじっと見つめた。彼は、ん? と小首を傾げた。



「どうかしましたか?」

「あの、いつでも出来る練習というのは、先ほど言われた練習のお二つですよね? ヒールの練習と、支援スキルの秒数把握。それ以外にも練習はあるのですか?」

「当たり前じゃないですか。あの二つはいつでもどこでも出来る練習です。手が空いたら常に行って下さい。ダンジョンや訓練場でしか出来ない練習がたくさんありますので、それはやる時にこちらで説明いたします。というわけですので今からヒールの練習を行って頂けますか?」



 努はそう言うやいなやヒールを唱えて頭の上で回転させ始める。ステファニーもおどおどしながらも細く短い指揮棒のような杖を持ってヒールを唱え、自分で見える上の位置でヒールを飛ばして回転させ始めた。


 まだスキルの操作は味方に飛ばすことでしか練習していなかったステファニーは、目を見張って苦労しつつもヒールを回し始めた。その明らかな不出来さにステファニーは恐る恐る努を見たが、彼は笑顔だった。



「最初は誰でもそんなものですよ。今日から慣れていけば次第に出来るようになりますので」

「そうですか。良かったですわ」

「その様子だと他のことに意識が割けなさそうなので、まずはヒールの制御に慣れて下さい。慣れてきたらぐるぐる回しだけでなく他の動きも自分で取り入れて見て下さい」



 自身の身体の周りをぐるぐると回したり、蝿のように動いているヒールを見てステファニーはこくりと頷く。



「それでは今日はお疲れでしょうし、その練習だけしていて下さい。それならば特に疲れることもないと思いますので」

「畏まりましたわ」



 努の変わった雰囲気にも慣れてきたのかステファニーは落ち着き、やる気に満ちた声で答えた。そしてクランハウスに割り振られた自室へと帰っていく。それを見送ったルークは晴れ晴れとした笑顔の努に声をかけた。



「つ、ツトム君? 大丈夫かい? 一応バッファーの指導の方を優先でお願いしたいのだけど……」

「えぇ。しかしバッファーの人はまず呼び戻すまでに時間がかかるのですよね? どのくらいかかる予定ですか?」

「この都市にもういないからね……三週間くらい、かな」

「おぉ。では三週間でステファニーさんを育てた後に、バッファーの方を指導すれば丁度いいですね。そのように予定を組んでおきます」



 はきはきと言いつつも書類をまとめて帰りの身支度をし始めた努に、ルークは言いにくそうにしながらも言葉を返す。



「いや……そもそもステファニーについては指導をお願いする予定はなかったんだ。彼女には自信をつけさせたくてね。それで君がステファニーを評価すれば彼女にも自信がつくと思ったんだけどさ」

「あー、あの感じだと自信はつかなかったようですね」

「うん。だからこれからはうちの問題だ。ツトム君がわざわざ苦労をする必要はないんだよ? 実際君はステファニーに最大の評価をしてくれていたんだし、これはステファニーの思考を読み間違えた私のミスだ」

「いや、いいですよ。もうステファニーさんに言ってしまいましたしね。あ、勿論追加報酬などは請求しないので安心して下さい。では時間も遅いので僕はこれで……」

「え!? あ! ちょっと!」



 一方的に会話を打ち切った努はそそくさと逃げるように会議室を出て行った。そんな努にルークは手を伸ばしたが、彼は既に扉を閉めて出て行っていた。



(……もしかしてステファニーに一目惚れでもしたのかな。いや、でもあれはそんな感じではなかった。なんなんだ……)



 努のかなり強引な会話の打ち切りとステファニーへの執念のようなものを見て、ルークは努の行動理由がわからずに首を傾げた。



 ――▽▽――



昨日さくじつは少し取り乱してしまって申し訳ありませんでした。ツトム様にご教授して頂けるなんて夢のようです。今日からよろしくお願い致しますわ」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。きちんと練習しているようですね」



 その翌日の朝。ステファニーはドレスを持ち上げお辞儀をしながらもヒールを地面の上でくるくると回している。努は嬉しそうに答えつつも顔を上げたステファニーと視線を合わせた。



「まずはギルドの訓練場で練習を行います。付いて来てください」

「はい」



 既に今日の訓練で必要な物や人はルークに相談して取り揃えて貰っているので、努はまず午前の訓練をするためにギルドの訓練場へ移動した。その後ろをやる気に満ちた爛々らんらんとした瞳をしたステファニーが付いていく。


 努がギルドの訓練場に着くと彼はよっこらしょと地面にしゃがみこんで準備運動をし始めた。そして立ち上がるとステファニーに練習内容を伝えた。



「まずは支援スキルです。ステファニーさん。僕にプロテクとヘイストを付与してもらっていいですか?」

「はい。プロテク、ヘイスト」



 ステファニーは杖を振るい努へ支援スキル二つを付与した。彼の身体に土色と青色の気が当たりVIT(頑丈さ)AGI(敏捷性)が上昇する。



「そうしたら効果が切れる十秒前に僕へ支援スキルを付与して頂けますか? しばらく僕はじっとしていますので」

「はい。わかりました」



 それから努はステファニーから少し離れた後に、入念にストレッチをしながら効果時間の十秒前を待った。ステファニーはプロテクを左手で、ヘイストを左足でリズムを取って秒数を数え始める。


 そして五十秒経ったのでステファニーは努にヘイストを飛ばした。つま先を手で掴んでいる努はヘイストを付与されると、ステファニーを見ずに口を開く。



「五秒遅れています。五十秒経ったら飛ばすのではなく、五十秒で支援スキルが着弾するよう意識して下さい」

「は、はい」



 その訓練は二時間ほど続いたがステファニーは二、三秒のズレにまで修正できたものの、それ以上は秒数のズレを修正することは出来なかった。努はストレッチを終えてパンパンとズボンに付いた砂を叩き落すとステファニーを十分ほど休憩させた。



「そろそろ休憩はいいですかね?」

「はい。問題ありません」

「それでは今度は自分が適当に支援スキルを避けますので、先ほどと同じようにお願いします」

「え? 避けるのですか?」

「はい。これは機動操作の練習になりますので」



 そう言って努はどうぞとステファニーに両手を差し向けた。彼女は努に支援スキルを付与した後、少し離れたまま動かない努を注意深く見つつも秒数を測っている。


 そして四十秒後半でヘイストを努へ飛ばす。努は左右に動いてそのヘイストを避けていく。これは金色の調べでディニエルを見て思いついた訓練方法である。あの時努はこの練習方法は使えると思い、AGIの高い者にでも依頼しようと思っていた。


 努は意外にも素早い動きでヘイストを避けていく。そして努に付与されていたヘイストが時間切れで消えると、彼は立ち止まってステファニーのヘイストを受けた。次はプロテクですね、とにこやかな顔でいう努にステファニーは杖を握って気を引き締めた。


 その後は何度か努に支援スキルを当てられたものの、大半は時間切れになってしまっていた。不慣れな機動操作を行ったことにより精神的に疲れてきているステファニーに、努は昼食がてら休憩を取らせた。


 ずっとギルドに篭もりっぱなしも良くないので努はステファニーを外に連れ出し、民衆に味良し値段良しと評判のレストランへに入った。


 お手拭きを貰い適当にメニューを見て注文し終わった努は、彼女にもメニューを渡した。彼女は沈んだ顔でメニューを見ると迷いなくページをめくって指を差し、給仕に注文を知らせる。そして給仕がお辞儀をして立ち去った後に大きいため息をついた。



「全然、出来ませんでした……」

「大丈夫ですよ。スケジュールでは予定通りなので」

「え? あ、はい」

「それと食事中もヒールとかプロテクとか、種類は何でもいいですけど飛ばしておいて下さい。あ、店の迷惑にならないよう机の下でやって下さいね」



 てっきり怒られると思っていたステファニーは努の和やかな雰囲気に動揺しつつ、運ばれてきた爽やかな果汁の混じったお冷を口にする。そして自身の足元でプロテクをゆらゆらと回し始めた。


 そして十分ほどで給仕が料理を運んでくる。ステファニーが熱心に下を見て何やら集中している姿を給仕は不思議に思いながらも立ち去っていく。



「ステファニーさん。料理が来ましたよ」

「はい!」



 努に声をかけられたステファニーは驚いて前を向き、目を離したプロテクは消えてしまった。適度に頑張って下さい、と努は言いながらも柑橘系かんきつけいのソースがかけられた鴨のソテーをナイフで切って口へ運んだ。


 思わず意識が食事に向いてしまっていたステファニーは少し椅子を引き、再びプロテクを唱えて机の足の周りで回転させ始める。そして努の椅子の下でぎゅるぎゅると回っている三種の色の気体を見てギョッとした。


 その後努は食事を食べ終わった後にさっさと会計を済ませると、丁度食べ終わっているステファニーを連れてまたギルドへ戻った。その道中に後ろを付いてきているステファニーに努は尋ねられる。



「あの、お会計は……」

「あぁ、いいですよ。ルークさんから経費として頂いていますので、この三週間の練習でのお金は全てこちらで持ちます」

「あ、そうなのですね」



 その努の言葉は勿論嘘だった。だが努は今のところ装備や備品をほとんど使っていないため、金が貯まってしょうがないところである。そのため彼は有望なステファニーを育てるためにある程度出資をしようと考えていた。



「午後からはダンジョンに潜ります。場所は沼ですね。PTメンバーはルークさんに用意して頂きました」

「沼、ですか?」

「はい。あ、あそこにいるみたいですね」



 怪訝な表情をしているステファニーをよそに、努はギルドの三十番台付近に集まっているアルドレットクロウのPTに手を振った。そのPTはアルドレットクロウの中で最下位のPTである、二十軍以下の者たちだった。


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