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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第九章

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第569話 嘘か誠か

 努がダリルをなじった後には165階層に向けての宝物集めと飛行船強化を済ませ、リーレイアPTも翌日には突破を目指し本格的に動くこととなった。


 ただ、その辺のポーション屋に急ごしらえで作ってもらった毒ポーションは、金ミミックの開閉している口に投げ入れると目に見えて効くことも判明した。



「毒、普通に効きましたね……」

「ね……」



 夕方過ぎにギルドへと帰ってきたダリルはふと呟き、それに努は同意する。物理もスキルも効きが悪いミミック相手に毒という選択肢が日本生まれのゲーマーが思い浮かばなかったことに、彼は何とも言えない顔をしていた。



「しかし、あの巨大ミミックに効くほどの量の毒ポーションを今から確保できますかね? もう周りも気づいているようですし、納品には大分時間がかかりそうですが」



 ただその可能性については努たち以外にもユニスPTの神台を見て気付いた者がいたのか、リーレイアが視線を向けたギルドの買い取り場では沼階層の素材が頻繁に取引されていた。この調子ではその素材を用いて毒を作るポーション屋は既に手一杯になっているだろう。



「サブジョブ薬師の出番かもね。ミミックに食わせるなら味を気にする必要もなさそうだし」

「でもあんまり不味いと吐き出したりして、効きが悪くなったりとか?」



 そんなソニアの冗談も含んだ返しに、努は真剣な顔つきのまま顎に手を当てる。



「……実際有り得るかも。森の薬屋で作ってくれないかな」

「エルフは毒杯を口にして生涯を終えるって言うし、毒薬作りも上手そうだしね」

「毒と薬は紙一重というやつか」

「えー? それって馬鹿と天才の間違いじゃない?」

「そうだそうだー」

「…………」



 口を挟んだもののソニアに訂正されたガルムは、それに乗っかってきた努共々冷ややかな目で見下ろした。



「低身長と高身長は紙一重に言い換えた方がいいか?」

「ん? それを言ったら戦争だよ?」

「周りが高身長すぎてチビに見られる僕の身にもなってほしいね、僕は平均よりは上ですぅー」

「おい寝返ったな……」



 ガルム、ダリル共に180cm越えでゼノもそれに少し届かないぐらいではあるため、その三人と比較されると日本の平均身長くらいの努はチビ扱いである。シルバービーストに拾われるまでは栄養状態の悪い状態で生きてきたソニアは、歯噛みするような目で二人を見上げていた。



「え? もしかして見下してますか?」

「してませんよ……」



 無限の輪の女性陣の中ではディニエル、コリナに次いで三番目の身長であるリーレイアは、静観していたダリルにいちゃもんをつけている。それに彼はげんなりとした様子で返したが、先ほどと違いそこまで恐縮している様子もなかった。


 そんな身長談義をしながら普段より短い受付列に並びPT契約の解除を済ませていると、ソニアと同程度の背丈の女性がその大きな狐尾で風を切るように歩いてきた。



「おや、ツトムはまだ突破してないですか」

「ちんちくりんがしゃしゃり出てきたな」

「ちんちくっ……!?」

「どうもー」



 努の返しにユニスは信じられないと言わんばかりに目を剥き、ソニアは同士でも見るように彼女を見つめている。そんなユニスの後ろからは深淵階層で臨時PTを組んでいた槌士のクロアがにこにこで手を振っていた。



「はーぁっ。せっかく飛行船の刻印図面を共有してやろうと思ったのですが、そのような態度では渡す気になれないですねっ」

「第二支部で散々持ち上げられただろうに、わざわざここまで来るとかもはや病気じゃない?」



 飛行船刻印で一足先に165階層を突破したユニスPTは、第二支部で活動できる権利を得たにもかかわらずわざわざ本部にまで練り歩きにきた。そんな承認欲求の塊でも見るような目で見てくる努に、ユニスは抗議するように狐耳を立てている。


 ただそれも数秒しない内に大人しくなり、何処か納得した顔で腕を組む。



「……やっぱり、刻印士のお前もあれぐらいのことは考えてるとは思ってたのです。でも、なんでツトムは飛行船刻印やらないのです?」

「さぁ、何でだろう」

「…………」

「個人的にもう刻印はお腹いっぱいっていうのが本音ではあるけどね。中堅たちのメンテナンスでもう手一杯だし」



 未だに元最前線組が詰まっているウルフォディアを中堅探索者に突破させるために呪寄装備は未だに作り続けているし、浮島階層でも戦闘で刻印が破損することはままある。それでも努が装備に支払える費用の範囲内で律儀にメンテナンスを怠らないからこそ、中堅探索者たちとの信頼関係を築けている。


 ただそのメンテナンス作業はピークより落ち着いたとはいえ今でも毎日数時間はかかるので、努は探索の時くらいは刻印から離れたかった。今のユニスのような発売直後のゲームプレイ中脳汁ドバドバ期間は終了したのだ。



「いち早く突破したのはいいですが、あんまり飛行船に頼りすぎるのも多分探索者としてよくないのです。……でも170階層でも使えたらぶっちゃけ強くないのです? 次の階層まで負ける気がしないのですよ」

「その辺りは実際に170階層を見ないことには何とも言えないしね。まぁ、また一人で全速前進でもしなければ問題ないんじゃない? その時にはまた止めてもらえばいいだろうし」



 努はそう言って後ろに控えていた濃い灰色の髪色をした猫人を見つめると、彼女は恐縮したように頭を下げた。そんな猫人を守るようにクロアは大の字で立ち塞がったので、努は苦笑いを零す。



「クロアさんも随分と活躍しているようで何よりですね」



 深淵階層での活躍から観衆から一躍注目を浴びたクロアは、今もアイドル的な側面も見せつつ探索者としての実力も磨きをかけていた。アイドル事務所に所属していたとはいえ他の探索者と同様に数年間の下地があったからか、彼女はそのチャンスを見事物にしていた。



「……え、敬語? ツトムさん、敬語になってません?」



 ただそのチャンスを作ってくれた当人から何処か他人事のように言われたことに、クロアはショック丸出しの顔で思わずそう尋ねた。



「……そうだったっけ?」

「いや、確かに二ヶ月くらい前だし最近は色々ありすぎてあれかもしれませんけどね? クロアとツトムさんはもう少し砕けた話し方ではありましたよ?」

「あ、その自分の呼び方でちょっと思い出してきたかも」

「あ、そこなんですね!? はーい、クロアですよー。もう少しクロアのこと思い出してくれると助かりまーす。臨時とはいえPTも組んでて、呼び捨てにもしてたんですよー」



 忘れ去られた幼馴染のように言い寄ってくるクロアに、努は気が抜けるような声を零しながらソニアを見下ろす。



「ソニアで上書きされちゃったかもです」

「いや全然タイプ違いません?」

「……ふーん。新人さん、調子に乗っちゃってる感じだ?」

「流石、165階層を最速でクリアしたPTは違いますなぁ」

「うぅ……。最速なのにこんなに歓迎されてないのおかしいよぉ」



 そんなクロアのやけに実感の籠った言葉に何も言わず尾を垂れ下げている獣人たちを見た努は、彼女らはギルド第二支部であまり良い扱いは受けていなかったことは想像できた。練り歩きにきたのではなく、逃げてきたと言った方が正しいのかもしれない。



「……あー、ドンマイ」

「ならクロアに刻印装備、奢って下さい」

「奢りの額が凄いことになってない?」



 その悲しさが嘘か本当か判断がつかないクロアの物言いに、努は冗談を返すに留めた。

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