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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第九章

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540/549

第540話 残りし者なら

 浄化から守る円陣の組み方に慣れているゼノとソニアの指導もあってか、努は無傷のまま天空城に一人残った。その周囲には抜け殻のように四人の装備が散らばっている。だがそこに胴回りの防具は一つもない。


 その下では全体浄化によりウルフォディアも黄金鎧が弾け飛び、剝き出しになった体を白いベールで覆っている。そんな大天使がお着替えをしている間に努も遠慮なく緑杖を掲げた。



「レイズ」



 努の発したレイズはいつも通りその効力を発揮して空に軌跡を描くと、天空城の床にゼノが横たわった状態で蘇生された。亜麻色の服を羽織っている彼の胴体にだけ刻印装備が残り、そこに取り付いている呪寄は微かな鼓動を鳴らしている。



「素晴らしい」

「ヒール。その様子だと問題はなさそうだね」

「あぁ、成功だ!!」



 未来を夢見てのコールドスリープから目覚めたように目を輝かせているゼノの様子からして、呪寄装備に不具合は見られなかったようだ。彼は亜麻色の服を点滴でも外すように取り払い、さっと防具を装備して最後に銀髪を払う。



「それじゃあ、アーミラとダリルをレイズしてからタンクよろしく」

「任せたまえ」



 そう言ってゼノは胸を叩いて目を閉じると同時、進化ジョブの演出が始まる。そんな態勢のまま動かず神聖なオーラを纏った彼はゆっくりとその瞳を開けると、静かに宣言した。



「レイズ、レイズ」



 浄化されてしまえば蘇生可能時間外となってしまった時と同様発動すらしないレイズ。それは二つとも天に昇り二人の探索者を天空城へと呼び戻した。



「ハイヒール、ハイヒール。さぁ、二人とも装備を整えたまえ」

「レイズ」



 ウルフォディアからのヘイトを大いに稼いでいるアーミラと、タンクを務めていたダリル。そんな二人からのヘイトをレイズによって受け持ったゼノはついでに回復も施した後、指示を仰ぐようにソニアを蘇生させた努を見やった。



「……あー、ちょっとトラブル発生かも」



 ゼノやアーミラと比べると分かりやすい、ダリルの装備に付いている呪寄がやけに元気な鼓動を見せている様。それを確認した努はマジックバッグから万年筆と刻印油の入った瓶を取り出す。



「ダリルの刻印が機能停止してる。ゼノ、しばらくは独壇場で頼むよ」

「なんと。独り占めして構わないのかい?」

「魔法陣の数が明らかに多い。アーミラとソニアに殲滅を任せるから、ゼノはウルフォディアを頼む」

「んだよ、ウルフォディアに全力ぶつけようと思ってたのによ」

「すまないね、アーミラ君。しばらくは私の舞台のようだ。付いてきたまえっ!」

「うるせぇ」



 亜麻色の服を雑に腰へ巻いて着替え終わったアーミラは地面に落ちていた大剣をひん掴み、スキップするように天空城を飛び出たゼノを追いかけた。



「……もう少し浄化を乗り越えたことに浸らせてほしいよ」



 ソニアは年寄りのようにぼやきつつも、関係性の薄い努がいるにもかかわらず下着も隠さずに手早さ重視で装備の着替えを済ませていた。



「三人での判断はしばらくソニアに任せますね」

「りょーかい。ゼノの進化数も余裕あるし、しばらく大丈夫だよ」

「恐らく五人残ったことでウルフォディアの行動にも多少の変化はありそうです。実際モンスター召喚の魔法陣が明らかに多い。そこだけは警戒お願いしますね」

「でも今のところはそれだけだし、三人いるだけでもこっちとしては天国だよ」



 今までの後半戦では攻撃性が更に増したウルフォディアと相変わらず召喚され続けるモンスターを、二人だけで相手取りながら火力も出さなければならなかった。その人手が一人増えただけでもソニアからすれば大助かりだし、努とダリルが残っていることも未だに信じられないほどだ。


 ソニアはびよんびよんと細い尻尾をバネのように跳ねさせながら、興奮冷めやらぬといった様子で二人に続く。そして天空城に残った努は気まずげな顔をしているダリルに向き直った。



「体力と精神自動回復の刻印刻めば問題なさそうだから、こっちはしばらく見学かな」

「すみません……」

「僕が背中側に刻印集中させたことも原因だから、しょうがない。むしろ前の方が盾で防いで被弾少ないから、こっちにしとくのが無難だった」

「いや、被弾しすぎたのはこっちの責任なので……」

「だからといって被弾を避けすぎて前を張ってくれない方がこっちとしては困るから、存分に壊してくれていいよ。どうせ直せるんだし」



 幸い努は刻印士として現役であるため、呪寄に刻印を仕込むのは問題ない。それにウルフォディアとの実戦経験を積ませようとするあまりに彼がフルボッコになっても構わないと判断したのは努だ。



「ただ、装備してる状態で呪寄に刻印すると装備者の精神力が吸われるらしい。無理そうなら青ポーション飲んでいいから、気張りなよ」



 そう断りを入れた努は光魔石を利用した万年筆での刻印を始めた。



「……あれ~? 呪寄が消滅しない分、楽って聞いてたんだけどな」

「……あの、流石に、飲みますね」

「このペースだと不味いかもね。何とかなるかなぁ」



 ただ努は最近刻印作業を職人任せにしていたこともあり悪戦苦闘が続いたので、精神力が削れてタンクをしている時よりも辛そうなダリルは青ポーションを三本飲む羽目になった。



 ――▽▽――



「来たか」



 努たちが悪戦苦闘している頃。白い仮面を被ったウルフォディアが突如として操り糸にでも引かれたようにすーっと上に上がる。その動作を確認したゼノは強がるようにその笑みを深めた。


 成れの果ての全体石化進行と似ているそのモーションは、160階層に挑む者なら誰もがトラウマになるであろうものだ。それにはソニアも進化ジョブを解除しヒーラーも出来るように切り替え、アーミラに指示を出してモンスターの殲滅に努めさせた。


 瞬きした内に左手にも浄化の剣を握っていたウルフォディアは、ヘイトを受け持つゼノへ舞うように近づいた。そして繰り出される剣舞は初見では到底反応できない速度と密度を以て、探索者を射殺す。


 だがその剣舞をゼノは既に何百回と受けてきた。浄化の剣で斬られれば当然のように浄化されて蘇生は叶わず、かといってその剣戟だけでも見切ることは非常に困難だ。


 それでも浄化の剣を避けることは160階層攻略の大前提であり、ウルフォディアがその剣戟を当てるために牽制で繰り出す光弾や蹴りなんてものは避けようがない。ただそれをターゲットが切り替わらないタイミングを見計らって食らい死に、ヒーラーに蘇生してもらい即ヘイトを取りにいけばその剣舞の時間は何とか凌げる。


 ウルフォディアに精通しているヒーラー。ステファニーやコリナならば多少狙われても見慣れた行動を先読みして時間を稼ぐことができる。なので後半のウルフォディア戦では二人が剣舞の対応を完璧にこなさなければならない。


 だが問題なのはその間にもウルフォディアに召喚されたモンスターは迫ってくることだ。大抵はウルフォディアの剣舞に巻き込まれて消えていくが、その多い数もあってか数匹は紛れ込んでくる。


 その不確定要素によってウルフォディアの剣舞攻略の難易度は飛躍的に跳ね上がる。単純に浄化の剣を避けている間に雑魚敵から小突かれて隙を晒し死ぬこともあれば、その乱入でウルフォディアが動きを変えて予測を見誤ることもある。



「神龍化」

「エクスプロージョン、ハイヒール」



 だが今はソニアに加えてアーミラまでモンスターを受け持ってくれるため、ウルフォディアとの一対一が実現している。それに光弾を受けても死なない刻印装備もあるこの状況なら、剣舞の完封も夢ではない。



「――――」



 PTを元気づける威勢の良い声も、自分を映す神の眼すらも意識しない。緊張の糸が張り詰めたまま動きを止め、ゼノはウルフォディアの剣舞を盾で受け流し致命傷は避けることを繰り返していた。



「エクスヒール」



 その身に受けざるを得なかった光弾によって内臓が焼けたように熱く、蹴り飛ばされた衝撃でゼノの額から派手に血が流れる。だがそのダメージを進化ジョブによる回復スキルで自らを癒した彼は、すぐさま解除し追撃の光弾を盾で受け流す。



「プロテク、ヘイスト」



 そんなゼノに対して送られる黄土色と青の気。アーミラがいるおかげか普段よりもモンスター処理に余裕のあるソニアから送られた支援に、ゼノは自然と笑みを浮かべた。このような御膳立てを貰っても剣舞を完封できないなど、タンクの名が廃る。


 それからもタンクからすれば延々と続くのではないかと思える一分半の剣舞。それを彼は余裕すらも残して防いだ。


 そしてウルフォディアの左手に持つ剣が霧散し、それが矢のように飛び散る初見殺しをゼノは当然の如く滑空して避ける。悠々とした顔で銀髪をたなびかせるゼノに神の眼が寄る。



「何とかなるものだね」



 神の眼にそう告げて額に付いた血を拭ったゼノは、寄せてくれたであろうソニアにハンドサインで礼を示した。



「さよならだ、ウルフォディア。苦しくもあり、楽しかったよ」



 そしてゼノは彼女の後ろから迫る駄目押しの努とダリルを見据え、額に指を当てて敬礼を飛ばしながら神の眼に宣告した。

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作中でも何度か言われてたけどヘイトの溜まるレイズをタンク職が出来るってやっぱり強いなぁ ダリルは……どんまい!!
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