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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第九章

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第475話 事務所一押し新人、努

「ほんとスライムってよく出てくるよね。手を変え品を変え」

「人並みに戦ってはくるので注意して下さい。あとたまに奇襲で中身が飛び出してもきますので」

「りょーかい」



 刻印の紋様が浮かび上がっている鎧の中には粘体が詰められ、首からはまるで顔のようににゅっとはみ出ているスライムたちを前にエイミーは気怠げに呟く。そんな彼女の隣でモンスターの特徴について話していたクロアは、その返事だけでびっくりするほどニコニコしていた。



「人型相手だと楽でいいっす♪」



 既にその鎧スライムたちを複数相手取っていたハンナは、強烈な日光から肌を守っている長袖やフードをひらひらとさせながら剣の斬撃や盾の殴打を避け続けている。


 その途中で鎧スライムの腕部分が風船のように膨らみ、継ぎ目から散弾のように青い粘体が発射される。しかしその予備動作を察知していたハンナはすぐ飛び上がり空中を蹴るようにして鎧スライムの背後に回っていたので、鎧すら溶かした酸弾を食らうことはなかった。


 それにモンスターの放つ攻撃をヒーラーやアタッカーがいない場所に撃たせることも、ようやく思い出してきたのか自然とできるようになってきている。



「ヘイスト、メディック。……あいつらが寄生してる刻印装備は10から20レベルで作れるくらいのやつですが、機能してないものもあるのです」



 そのことに満足でもするように腕を組んで後方待機していたユニスは、各々に支援スキルを付与しながら鎧スライムが寄生している刻印装備にも目を向けていた。どうやら鎧スライムの刻印装備は風化しているからか、刻印の恩恵が得られるかはまちまちのようである。



(エイミー、強くない……? 40レベの弱体刻印施してあるんだけどな。あと倒し方がエグい。アサシンかよ)



 そしてレベル上げと連携慣れのためにモンスターを見つけては軽く攻撃し釣っていた努は、鎧スライムの首元に飛びつき何の躊躇もなく手を突っ込んでシェイクでもするようにして核を刻んでいるエイミーを空から眺めていた。


 百階層攻略をした時のエイミーも『ライブダンジョン!』廃人が見たら一目置くくらいの実力はあったが、今の彼女は更に磨きがかかっていた。元々型に囚われないセンスの塊みたいな動きでモンスターを翻弄することが多かったが、その面影を残しつつ廃人特有の殺戮マシーンみたいな末恐ろしさもある。



「スタンピング! さっ、次行きましょう!」

(あとクロアはやけに戦闘早く終わらせようとしてるな。深海階層の遅れを取り返したいのか? ……それにハンナも避けタンクの勘が戻ってきてからは力持て余してる感じするし)



 エイミーが核を刻めなかったものの目に見えて怯んでいる鎧スライムを大槌で叩き潰しているクロアは、昨日より明らかに探索のペースが速い。それに踏み潰されたカタツムリのように原型すら残していない鎧スライムの姿を見るに、全力で戦闘に励んでいるようにも見える。以前はあくまでガイドのような立ち回りで他の四人に任せることが多かった。


 弱体刻印持ちとはいえハンナエイミーにクロアまで本気を出せば、いくら努がモンスターを釣ってこようともものともしない。そんな中支援スキルを飛ばしていたユニスは暇そうに欠伸を噛み殺しながら、砂の中に半分埋もれている水の中魔石や水に浮いている油のように浮かんでいる刻印油を回収していく。



「装備は消えちゃうのですね。しけてるのです」

「宝箱から出るだけマシじゃない。結局刻印油はいるみたいだけど」

「……なら自分で彫った方が早くないです?」



 宝箱からドロップする装備は刻印だけが刻まれたものなので、刻印油は自前で用意しなければ効果を発揮しない。極稀に隠し刻印が見つかるなんてこともあるが、基本的には刻印の紋様で装備の効果は判別できるため、ショボい装備は一応持ち帰られるものの刻印油を一滴も垂らされず埃を被るパターンが多い。



(相変わらず宝箱のドロップ率クソとはいえ、市場で呼びかけて集めればそれなりの数にはなる。大量に仕入れれば刻印油塗るだけでレベル上げ捗るんだろうけど、眠ってるはずの在庫はアルドレット工房が押さえてるんだよなー。もし本当に刻印のこと考えてないなら少しは余るはずだし、確信犯だろ)



 刻印の紋様からして価値なしと判断された装備は捨て値で販売され、それは様々な流通経路を辿るも最終的にはアルドレット工房に渡ることが多いようだ。ゴミ同然のドロップ装備もついでに値をつけて引き取ってくれるアルドレット工房の下請けを有難がる話は、神台市場でいくつも耳にした。



「……本当に全部貰ってもいいのです?」

「ん? そもそも装備階層の刻印油の適正価格は報酬から引いてるから、あげてるわけじゃないけど」

「あ、そうなのです? ……一応言っておくのですが、ぼったくるんじゃねぇですよ~」

「もし価格が気に食わなかったら刻印油受け取らなければいいよ。その分の報酬は魔石かGにするから」



 とはいえもはや無限の輪の派閥ともいえるユニスが、今更刻印油をまともに買えるとも思えないのでレートは良心的にしてある。それに努はもう141階層以降の刻印油でなければ大してレベル上げができないし、彼女には刻印士後続の鉄砲玉としても機能してもらいたいので投資も兼ねている。



「あ、当たりっぽい魚群見つけました。黒門あっちですね」

「了解」



 大槌を肩に担ぎながら上空を泳いでいる魚を見つめていたクロアは、黒門に続くであろう魚群を見定めて努へと知らせる。あまりフライで高度を上げすぎると上空の魚たちに捕捉され水鉄砲が飛んでくるため、努たちは低空飛行で先導する彼女に付いていく。



「ハンナ、避けタンクの調子戻ってきた?」

「んふ~」



 一年半ほど魔流の拳の修行に専念していたとはいえ、残りの半分は普通に最前線で避けタンクをしていたハンナは百階層での失敗も経てブランクを感じさせることはなくなった。そんな彼女のおかげでアタッカーに専念できるようになったエイミーは弱体刻印すらものともせず遊び半分でモンスターをしばき倒し、それに乗せられるようにクロアもペースを上げていた。



「百階層の立ち回りからしてもう少し様子を見ようかと思ったんだけど、もう問題なさそうだね。ユニスも欠伸するぐらい余力ありそうだし」

「……まぁ、余裕っちゃ余裕なのです」



 迷宮都市と帝都のダンジョンは環境が違うとはいえ、エイミーとユニスはレベル150になるぐらいまで探索者として活動している。そんな二人からすれば今の探索はぬるゲーに他ならないだろうし、ガイド役とはいえ140階層を越えているクロアも同様だろう。


 そして調子戻ってきたの話を詳しくと言わんばかりに青翼をひょこひょこ動かしているハンナを横目に、努は参ったねと笑いながら頭を掻く。



「ただこのままの状態で探索ペース上げられちゃうと、僕の刻印士のレベル上げが追いつかないんだよね。だから進行役のクロアには緩めでいいよって言ってたんだけど、ハンナの実力が戻った時点で探索がぬるくなりすぎてる節もある。それもそれで問題だし、方針を変えようと思う」

「……方針?」

「キャリーってわかる?」



 胡散臭い新商品でも紹介する販売員のような笑みを浮かべている努の言葉に、ユニスやハンナは狐耳と青翼をもたげる。



「事務所一押し新人アイドルの売り出しみたいなもの、って言えばクロアにはわかりやすいかな? 一押しの子を神台に映すために強いPTで組ませて、到達階層をゴリ押しで上げる的な」

「まぁ、そんな感じの悪い意味合いだとは思いましたけども……。だけど、ツトムさんなら理解しているとは思いますけど、キャリーされた人で大成した人なんていないですよ。孤高階層越えられた人、一人しか知りません。それにその人も結局141階層から戦闘に付いていけずに引退しましたし」

「僕なら実力的に大丈夫……って思いたいところだけど、もし駄目だった時の保険としてキャリーされてる間に刻印士のレベルを全力で上げる。具体的には孤高階層までに最低50、出来れば60以上には仕上げたいところだね」

「……いや、でもそれなら普通にレベル上げしながら探索者としての実力をつけていっても――」

「ぷくくくっ……」



 ぶっきらぼうな説明をしてクロアを困惑させていた努を見て、エイミーは思い出し笑いでもするように肩を震わせた。そんなデリカシーに欠けるエイミーの態度を戒めるようにユニスは慌てて腕をつついたが、当人の努もニヤニヤしている。



「エイミーは二度目だし、同じ感じで頼むよ。前と変わらずシェルクラブまでは役立たずだろうけど、ちゃんと成果は出すんで」

「相変わらずだねぇー。今度ばかりはそんなことしても意味ないかもしれないのに?」

「あ、でもまた幸運者って言ってきた時には容赦しないんで」

「……うーん。いや、うーん、それは触れづらいにゃー? というか、よく覚えてるね! 忘れてくれてもいいんだよ!?」

「エイミーは一々僕の地雷を踏み抜いてくるし、もうネタにするしかないでしょ。あれで駄目なら三年前のなんて絶対駄目じゃん。あれに関しては僕もまだ抵抗はあるけど」

「だね! いや、少しはマシになったと思うんだけどな! でもまだちょっと怖いな! ほんとごめんね!!」

「こちらこそ」

「……あの、私たちにもわかるよう詳しく教えていただいても?」

「絶対やっ!」



 二人はそんな古参トークをして周囲を置いてきぼりにしていたが、エイミーオタクであるクロアだけは目を輝かせながらも空気を読まずに突っ込んで撃沈されていた。

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