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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第九章

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第474話 あざとい後輩

 努の警護役と探索活動からのリフレッシュも兼ねて一人迷宮都市に残ったガルムは、スタンピード組を見送った朝過ぎから彼に付いていった。



「それじゃ、行ってくるよ」

「うむ。今のところオルファンがダンジョン内での鉢合わせを狙っている節はないが、いずれにせよ気を付けろ。敵が何処にいるかわからんからな」

「誰を見て言ってるんだ、糞犬?」

「ポテトの恨みは恐ろしいっすよ……」

「ユニス、頼むぞ」

「わ、わかったのです」



 額に青筋を浮かばせているエイミーと何故かおどろおどろしいハンナを前に、ユニスは少し混乱しながらもガルムからの頼みに頷く。そして114階層へと向かっていった努たちを見送り、受付にいる顔馴染みの人たちに目礼しつつギルドにある神台を眺める。



(懐かしいな)



 時間帯からしてそこまで潜っている者はいないものの、114階層が百番台以内に映ることはなかった。一桁台のほとんどは150階層主の攻略中で、二桁上位は141から149階層を探索してレベル上げや宝箱目当ての狩りなどを行っている。それより下は120階層から130階層がメインで、たまに孤高階層で唯一映される場所である135階層と、レイド戦である白門での戦闘風景が見えるくらいだ。



(ゼノが予想していた通り、120階層までが百番台のボーダーラインか。そこまでは狙われることも少ないだろうが、百番台以内に映るようになればオルファンからも捕捉されやすくなる。それに個人を狙いやすい135階層もある。そこが抑えられればいいのだが……)



 孤高階層の中で唯一PTが組めて神台にも映る135階層は、白門と違いその時に潜っている者たちの中でランダムに組まされるので完全な固定PTを組むことはできない。階層更新を妨害することが目的ならば、その時を見計らい大人数で135階層に潜り続ければ努のPTには数人オルファンが混じることになる。そうなってしまえば135階層の突破は厳しいだろう。



(ゼノから聞いた限り手立てがないわけではないが、やはりスタンピード組が頼れないのは痛手だな。努たちの進行状況にもよるだろうが……)



 オルファンには135階層に潜れる探索者が軽めに見積もっても数十人、アルドレット工房の協力もあれば更に膨れ上がるかもしれない。それに対して努たちPTは五人だけなので、数の暴力で封殺されることになる。


 しかしそれならばこちらも135階層に潜る人数を増やせばいい。そうすれば少なくとも努以外全員オルファン、なんてPTが構成される確率は少なくなる。もしそこに自分が入ることができれば仮に三人相手だろうが跳ね除けられるだろうし、努たちの勢力が過半数を占めれば135階層の攻略も難しくはなるが可能にはなるだろう。


 だが問題は努に協力してくれるような者たちがスタンピードによって軒並み迷宮都市から離れていることだ。彼はむしろ最前線組との距離を詰めるチャンスだと張り切っていたが、今の状況は協力を見込める者たちがごっそりと消えた中でアルドレット工房率いるオルファンを迎え撃たねばならないピンチであるともいえる。



(……出来ればダリルにケリをつけさせたいところだが、見るに耐えん)



 ダリルが無限の輪を抜けて自ら創設した孤児集団のオルファン。それは数年ほど上手く回っていたものの、彼の失墜から道を踏み外すまでは早かった。若さ故に力を持て余したところを悪い大人にそそのかされ、今ではアルドレット工房の傀儡と化していることにすら気付けない。


 それはかつての自分とて同じだった。神のダンジョンの探索者として名を上げ始めて力を増していた時、ガルムもまた悪い大人に騙された経験はある。そもそも騙されていることにすら気付かずにとある施設の警護を請け負っては報酬を受け取り、当時は困窮していた孤児院に寄付をしていた。


 身寄りのない者たちを集めて仕事の斡旋、又は支援するための施設だと聞かされていた場所を襲撃してくる者たちを、ガルムは警護役として対処し目覚ましい活躍をしていた。自分の守っている場所が犯罪クランの奴隷売買所だとは露とも知らず、植え付けられた正義を信じる――もとい妄信するしかなかった。


 思えばその仕事を続けているうちに何処かおかしいと思うところはあった。孤児院育ちでそこまで高等な教育こそ受けてはいなかったものの、警備の仕事だけでここまで高額な報酬がもらえることなんてあるのかという違和感。施設を出入りしている一部の者たちの羽振りはやけに良く、かと思えばその着飾った見た目とは裏腹に生気が感じられない顔をした男女も出入りする。


 この施設は果たして本当に聞かされている通りのものなのか。そんな小さい疑念はまだ少年心とはいえ確かにありはしたが、自身を育て上げてくれた孤児院を持続させるには金がいることも確かだ。そんな中この仕事を切るのは惜しいし、正当なものに違いないと思い込みたい気持ちもあった。


 そんな胸中の内に警備団とギルドが協力しての大規模な掃討作戦が始まり、自身を下したカミーユからその施設の現実を突き付けられた。そこで踏み外していた道を正してもらい罪を償った後、ガルムはギルドへと加入し今は無限の輪のクランメンバーとしてここにいる。



(だが私が手を出して押さえたところで、ダリルは納得するのだろうか? ……どうすれば、いいのだろうな)



 ダリルが無限の輪を抜けると言い出した時は咄嗟に反対はしたが、よくよく考えればこれは彼が独り立ちする良い機会とも思った。なのでしばらくは見守るつもりではいたものの、何かといらぬ心配をして配慮をしては関係が悪化していった。ゼノやリーレイアから過保護かもしれないと指摘されてからは、クランリーダーの仕事に忙殺されることで期間を置いた。


 そんな冷却期間のおかげもあってか直接会っても険悪な雰囲気になることはなくなったが、今でも何だか気まずい関係のままであることに変わりはない。それにダリルが自分に抱いていた悪感情が、そのまま努の方へと転化されてしまった懸念もある。


 努はあくまで故郷に帰るために無限の輪を設立し、クランメンバーを利用していただけに過ぎない。そして結局同じように自分たちを捨てた努が許せないというのがダリルの表向きの主張だが、それは些か求めすぎである。



(……そんな無償の愛をくれる者など、それこそ血の繋がった親子ぐらいだろう)



 そして血の繋がった親でさえ、誰もが子に無償の愛を注ぐとは限らない。金銭的な理由で子を手放すことなどさして珍しい話ではないことは、孤児院育ちなら体感していることだ。


 勿論、ダリルもそれを理解していないわけではないだろう。建前ではなく本音の部分を推察するに、余裕のなかった努の行動故に生まれてしまった贔屓や、オルファンを共に支えてきたミルルがやけに努を気にすることに対する嫉妬だとか、他にも色々な事情が窺える。



(ままならんな)



 出来ることならまた三年前と同じメンバーで、という思いはあるがそれは自分だけで叶えられるものではない。ガルムはそこに目当ての人物はいない一番台と黒の門番の方をちらりと見た後、一つため息をついた。



 ――▽▽――



(……宇宙の法則が乱れてそう)



 深海が広がる113階層を抜けて黒門に立っていた努は、視界一杯に広がる黄金色の砂漠とそれをさんさんと照らしている水に包まれた太陽のようなものを見てそう思った。突然の砂漠ではあるものの一応は深海階層の続きという側面もあるのか、青い空には水膜が張られていて色鮮やかな熱帯魚のようなモンスターが泳いでいる。



「装備も着替えたいですし、一旦帰りましょうか」

「そうだね」



 そう言うや否や黒門の枠上部を逆手で掴んでひょいと飛び上がったクロアは、そのまま空中で半回転してから掴み直して滑空するように帰還の黒門へと入っていった。



「う゛っ」



 それを感心した目で見ていたハンナは同じように飛び上がったが、力み過ぎたのか結構な勢いで黒門の枠に頭をぶつけてそのまま後ろへ倒れるように帰っていった。



「えい」

「え? はっ、おまっ……! あっつぅ! 熱いのです!」



 初めて見るであろう砂漠を前にわくわくとした顔をしていたユニスはエイミーに背中を軽く押され、素足のまま熱々の砂上に落とされて喚いている。



「馬鹿やってないで早く帰れよー」

「ふざけるんじゃねぇです!!」

(フライ使えや)



 キレ気味のまま高速足踏みで何とか熱さを凌いでいる彼女を横目に努も亜麻色の服を羽織って帰還の黒門を潜り、ギルドの更衣室で着替えを済ませる。


 そしていつもの集合場所に向かうと、黄土色の大きな尻尾を置くポジションを落ち着かなさげに変えているクロアが既に座っていた。その隣では何やら鉄棒運動のイメトレでもしている様子のハンナもいる。



「……あの、お二人、遅くないですか? まだ黒門からも出てきてませんけど」

「あー、もしかしたらまだじゃれあってるかもしれません」

「……しまった。なら最後まで残ってたのに……」



 ぺたんと犬耳を伏せて残念そうに俯いたクロアはひとしきり落ち込んだ後、あざとげに首をふるふるとしてから努を見上げた。



「それなら先にご飯食べちゃいますか?」

「あ、んじゃあたし二番定食でー」

「それじゃあ、席取っておいてください。ツトムさん、行きましょ」

「あぁ、うん」



 パシらせるつもりが逆に席取りをパシらされてしまったハンナは状況を飲み込めず少しポカンとした後、この裏切り者と言わんばかりに睨み付けてきた。


 そしてハンナの扱い方がわかってきたらしいクロアに手を引かれるままギルド食堂に向かい、並び始めたところで彼女は手をパッと離した。



「エイミーさんユニスさんはもはや鉄板って感じですけど、お二人も何だかんだ仲良いですよね?」

「ハンナが万能すぎるっていうのが大きいですけどね。良くも悪くも馬鹿なんで誰とでもすぐ打ち解けますし」

「んー、確かにそれも否めないですけどー、でも初見の異性に対しては結構警戒してる感じもしますよ? ……強力すぎる武器を持っているが故に、といったところでしょうか、ね?」



 そうは言うものの平均値よりは大きいであろう自身の胸に視線を落としたクロアは、ギルドの受付嬢のように微笑みかけてくる。それから少し間が空いたがそれでも彼女は上機嫌そうな顔のまま見つめてくるので、努は居心地悪そうに尋ねた。



「えーっと、そんなにエイミーとPT組めるの良かったですか?」



 するとクロアは目を丸くした後、少しつまらなそうに唇を尖らせた。



「……勿論、それはそうですけどね。今回の臨時PTを切っ掛けに、あわよくばエイミーさんと僅かながらでも繋がりを得られたらいいなと思ってたのは確かです。それが今ではまさかまさかの同じPTですよ。クロアの計画、良い意味で台無しですよ? あ、一番二つと、二番一つでお願いします。あとオレンジジュース追加で」

「それはまぁ、良かったんじゃないですか?」

「でもでも。それじゃあクロア、ツトムさんに恩を売れないじゃないですか。110階層じゃ大して見せ場作れなかったのに、レベルも高いエイミーさんが加入してきちゃますますクロアの出る幕がないです」



 エイミーとPTを組むことはクロアにとって悲願でありとびきり嬉しい誤算ではあったが、当初の目的からはむしろ遠ざかったともいえる。このPTでエイミー以上にアタッカーとして輝ける自信もないので、努に借りを作らせることも難しくなった。



「なので今、色々模索中です」

(この後高い壺でも買わされそう)



 茶目っ気のあるウインクをかましてくるも様になっているクロアからオレンジジュースを受け取った努は、内心そんなことを思いながらストローを咥えて視線を逸らした。

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