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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第九章

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424/426

第424話 配慮のない再会

(あの鳥頭……まぁそうなるだろうなとは思ったけど)



 値段の張りそうな飲食店を自ら勧めてきておいて会計の時には金がないと言い出したことぐらいは水に流そうと思っていたが、後ろに三人ほど連れて店に戻ってきたハンナには流石にイラっとした。



「あれ、師匠はどこいったっすか?」



 ただハンナがギルドでお金を下ろすのだとしたら、もしかしたら神のダンジョン探索を終えたクランメンバーもついでに連れてくるかもしれないな、と想定はしていた。なので努は外から彼女の話し声が聞こえた途端にお手洗いと嘘をつき、一旦その場から離れて陰から様子を窺っていた。



(ただでさえ今日ハンナに見つかったことが想定外だったのに、ここでよくわからないけど恨まれてるっぽいリーレイアまで連れてこられたらたまったもんじゃない。……まぁ、ガルムとゼノとコリナだけっぽいのは救いだけど)



 ハンナの話を聞いた限りでは何故かリーレイアからヘイトを買っていることがわかっていたので、もし彼女がいるならこのまま隠れてやり過ごすつもりだった。ただ見た限り危うそうな面々はいなかったので、努はさも今お手洗いから帰ってきましたといった風を装いながら四人に歩み寄った。



「……あれ?」

「あっ、師匠―!! どこ行ってたっすか!?」

「トイレ行ってただけだよ。それじゃ、さっさと会計済ませてきてくれ」

「……無一文のくせにそんな態度、よくできるっすね」

「人に奢る気満々で高級店に入ったのに、会計の時になるまで自分が無一文だってことに気づけなかった奴が何言ってんの? それでわざわざ一人で店に残ってあげた僕にそんな態度、よくできるっすね」

「…………」



 ハンナの非難を軽く流して邪険にでもするように手で払うと、彼女は屈辱で顔をぷるぷると震わせた後に無言で会計へと向かった。そんな様子を後ろで見ていた三人は少し唖然としていたようだったが、その中の一人は陽気な笑い声を上げながら努に近づいた。



「あまりお変わりないようで何よりだね!」

「そっちもそこまで……というか逆に三年前より若返ってない? どうしたの?」

「ツトム君の遺してくれた財産で磨きをかけたおかげだよ。まだまだ改善の余地はあるがね。それはともかく、無事に帰ってこられたようで何よりだよ!」



 三年前の記憶よりもむしろ若々しくなっている印象の強いゼノは、思わず眩しさで目を覆いたくなるように真っ白な歯を煌めかせた。他にも地毛である銀髪は女性に負けず劣らないような艶やかさがあり、肌は化粧でもしているんじゃないかと思えるほどに綺麗だった。


 まさか自分の遺した財産が外見に注ぎ込まれるとは思いもしなかった努は軽く笑ってしまいながらも、前衛的な服装をしたゼノからの握手に応じた。



「ん?」



 そしてその隣にいるコリナも何故かびっくりしていたのでよく見てみると、どうやら千切れんばかりに左右へと振られているガルムの尻尾が自分の身体に当たって驚いていたようだった。



「…………」



 その後ガルムからも無言で手を差し伸べられたので、努はそれに応じた。するとガルムの頭上にある犬耳はくしゃりと萎れ、振られる尻尾からの風圧に両隣の二人は思わず苦笑いしていた。



「変に待たせちゃって悪いね。でもお陰様で故郷との踏ん切りはついたよ」

「……それは、何よりだ。……ただ、私たちはあまりツトムの帰還については助力できなかったように思える。自力で帰る手段を見つけたのか?」

「うーん。その手段はあったと思うし、割と頑張ったつもりではあるんだけど、僕もあまり実感はないんだよね。もしかしたら帝都のダンジョン攻略してるエイミーのおかげかもしれない。まぁ、帝都から手紙が来ればわかると思うけど」

「そうか。……少し、鍛えたか?」

「まぁ、帰ってきてからリハビリするのもどうかと思ったからね。多少は鍛えてきたよ」

「そうか。……そうか」



 少なくともガルムから手を放す様子が見られなかったので努から思いっきり力を緩めてみると、彼はハッとしたような顔をした後に離れた。そして気まずそうに視線を逸らしたので、ダリルともこんな感じなんだろうなと思いながらコリナに目を向けた。



「ハンナから聞いたけど、コリナにも色々とクランのことで気を遣ってもらったみたいだね。突然抜けた形になって申し訳ない。それに今も立派に無限の輪のヒーラーをしてくれてるようだし、本当にありがとう」

「い、いえ、私はそこまで大したことはしていませんよ。……その言葉はディニエルさんとか、アーミラに言ってあげて下さい。私はそこまで気にしていませんし、むしろあんなに莫大な遺産を遺されて逆に怖かったくらいです。後で全部お返ししますね」

「え? ゼノみたいにパーッと使ってくれてよかったのに」

「それをしたら私はむしろ身を滅ぼしそうだったので……」

「……もう会計は終わってるっすよ」



 以前よりも少し垢抜けた様子のコリナと話していると、拗ねた様子のハンナが下から邪魔でもするように入ってきた。そんな彼女に促されて努たちは店の外に出た。



「そういえば、リーレイアは一緒にいなかったの? 神台を見た時はいたはずだけど」

「なんか、師匠のことを言ったら先に帰っちゃったっすね」

「……リーレイアさんは、どうでしょう。あまり気持ちを顔には出しませんから」

「……クランハウスに入った瞬間に刺されるとかないよね? もしありそうなら守ってくれよ?」

「コリナに治してもらえればいいっすよ。ついでにあたしも修行の成果を見せてやるっす」

「勘弁してくれ」



 自分の目ではあまり追えないような本気のシャドーボクシングをしているハンナに、努は結構引きながらそう言った。



「…………」

「いや、さっきからなんだよ」



 そして店の外に出てからはやたらに上から頭をつついたりぽんぽんとしてくるガルムと、鍛えているとかいって肩や腕を触ってくるゼノに振り返る。



「……ツトムが、いるな」

「安心したまえ、ガルム君。ご覧の通り夢ではないようだよ」



 どうやらガルムはまだ夢の可能性を拭いきれないようで、その存在を再確認するためにやたらと触ってきていたようだった。そしてゼノはその手伝いをしていたようだ。



「私も初めて自分の赤子を目の前にした時は、夢なのではないかと思いはしたからね」

「僕は赤ちゃんと一緒かよ。……って、ゼノ、子供生まれたの?」

「最近二児の父になったよ!」

「そうなんだ。それはどうも、おめでとうございます」



 ゼノとピコとの間に子供が生まれていることを知った努は、少し感慨深そうにしながら祝福の言葉を送った。



「なんか師匠は、子供とかに興味なさそうっすよねー」

「今は別にないね。取り敢えず明日からレベル上げもしなきゃいけないし」

「おっ、それなら手伝うっすよ?」

「いや、僕のレベル上げに関しては無限の輪とは別のところで済ませるよ。それで停滞してアルドレットクロウと紅魔団にこれ以上突き放されるのも癪に障るし、ハンナは無限の輪で修行の成果を見せてくれると助かるかな。魔流の拳の練度、結構上げてるみたいだし」

「ふ~ん。まぁそういうことなら別にいいっすけど~」



 提案を断られたことと期待を込められた返しが重なったからか、ハンナはもにょもにょとした顔のままそっぽを向いた。



「しかし、何処でレベル上げをするつもりだ?」

「一先ずギルドでPTを探そうとは思ってるよ。あっ、それともう一つ候補はあるかな。ほら、僕って一応身分としては元々孤児って扱いだからさ? 丁度挨拶しておきたい人が運営している団体があるらしいし」

「…………」



 そんな努の言葉で察しはついたのか、ガルムも何ともいえない顔をしながら押し黙った。



「まぁ、クランメンバーについては僕が何とかするよう努力するよ。自分で撒いた種だし」

「ディニエルとかアーミラにぶっ殺されないよう精々頑張るっすよ! あとはー、ダリルとか? リーレイアとか? その他にも師匠に怒ってた人いると思うっすから!」

「わかってるよ。でも取り敢えず、クランハウスに入ってリーレイアが急襲してきたら守ってくれよ。それに毒とか仕込まれるかもしれないし、メディック定期的に打っておいた方がいいかな」

「…………」



 ずけずけと酷いことを言っている努をコリナは流石に咎めようとしたものの、嫌がらせに下剤を盛るくらいはやりそうだと同時に思ってもしまったので何も言えなかった。それは努の後ろにいた二人も多少は同じ気持ちだったのか、無言を貫いていた。



「……外観はそんなに変わってないね」

「…………」



 そうして四人で話している内に無限の輪のクランハウスへと辿りつき、努はそんなことを呟きながらガルムを盾にして玄関へと向かった。ガルムはそんな彼を非難するような流し目で見つめはしたものの、その犬耳はきちんと警戒するようにきりりとしていた。

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リーレイアにしてもツトムにしても……まあこれまでと日頃の行いよね
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