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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第八章
399/410

雷鳥の矢

「面倒なことは弟子に任せて師匠は女遊びですか。そーですか。死ねばいいのに」



 努からバレないように少しずつ席を近づけて距離を詰めていたユニスとは対照的に、殺意の波動に目覚めていそうなロレーナはそんな捨て台詞を吐いて足早に更衣室の方へと去っていった。だがその背中は殺意とは裏腹に何処か寂しげでもあった。



「ちょっと、早く追いかけなさいよ!」

「いや、更衣室まで行ったら僕が捕まるでしょ」

「そういうことじゃなくてっ!! あんたと恋仲なんて広められたくないんだけど!? ただ相談に乗ってただけって説明してきてよ!」

「…………」


 本当に気持ち悪いなといった顔をしている努にアルマは畳みかける。


 

「それに何!? あの状況でなんで追いかけないのよ!! だから攻略トップなのに人気出ないのよ!! この甲斐性なし!!」

「こっちは人気商売で食ってないんだよ、ブス」

「ぶっ、ぶすぅぅ!? あーー!! ちょっと、そこの! 早くあの子を追いかけなさい! 誰かが行ってあげないと駄目よ!!」

「おーい、ツトムよぉ……」

(お節介おばさんは伊達じゃないな)



 そしてキレ散らかしたアルマは近くにいたシルバービーストのクランリーダーであるミシルを連れ、更衣室へと走っていった。そんな二人を澄ました顔で見送りながらも、更なるお節介お姉さんが近づいてくるのを見てため息をついた。



「あの」

「そろそろ百階層戦も佳境だし、神台観戦に集中したいんだけど」

「……アルマさんとは随分と話し込んでいたじゃないですか。そんなに断る理由はないと思いますけど」



 そう言って席を詰めてきたミルウェーとそれにちゃっかり付いてきているユニスを前に、努は一番台を見上げた。



「今まではあまり動きがなかったからね。でも今は心臓が破壊出来るかの瀬戸際なんだ」

「……確かにそうかもしれませんが、お話しするぐらいは出来ますよね?」



 明らかに自分たちを避けるための言い訳だとミルウェーは少し思ったが、一番台を見てみれば確かに努の言う通りコリナたちの百階層戦は終盤に差し掛かってもいた。


 心臓の早期破壊という戦略を取っているコリナたちの戦闘風景は、先に攻略を果たした努たちとは明確に違っていた。一番の違いは、心臓から飛び出た恐ろしいほど赤い鮮血から作り出された新たな血分身と血武器だ。


 初見の対応にも慣れているハンナが十手も避けられずに即死するほどの速さに、一番VITの高いゼノですら安定して受けられない攻撃力を兼ね備えた鮮血武器。


 それにハンナのような素早さに、ディニエルと同程度の射撃能力を持ち、ゼノのように頑丈で、リーレイアの近接能力を持っている滅茶苦茶な性能をした鮮血分身も脅威であり、二人はそれにしてやられていた。


 爛れ古龍の心臓から血を介してマリオネットのように操作されている最終兵器とも見て取れるそれらを前に、無限の輪PTは苦戦を強いられている。



「うおぉぉぉ!? 皆、力を貸してくれぇぇ!!」

「治癒の願い! 何とか耐えて下さい!!」



 既に狙われたハンナとディニエルは死亡し蘇生待ちの状況で、ゼノもコリナの支援回復がなければ持ちこたえられない状況にある。彼は鮮血武器に左手に持つ盾ごと腕を貫かれ、そのまま顔面まで到達しそうになったところで無理やり腕を振り切ることで回避した。縦から真っ二つに両断されてしまった左腕はコリナの回復スキルで治ったものの、鮮血分身から瞬く間に放たれた血の矢は鎧を貫通してゼノの鳩尾を抉った。



「ツトムたちの時とは、まるで逆みたいなのです。あれはどちらかと言えば最後の守りだったのです。でも今回は最後の攻めっぽいのです」

「……暴食竜の最期に近いかもな。恐らく心臓を捧げさせるか、追い詰めるかでパターンが変わってる」

「!!」



 そんなユニスの雑な考察に思わず補足してしまった努は、尻尾を毛先までピンと立てて嬉しそうにした彼女に気づいて視線をゆっくりと逸らした。



「なるほどなのです。じゃああとは、どれだけ持ちこたえられるかにかかってるのです!」

「…………」

「コリナさん。よくあれだけスキルを回せていますね……。あれもツトムさんが教えたんですか?」

(鬱陶しい……)



 ダンジョンに関することなら絡んでくれると思ったのか、それからもユニスは一番台を見ながらあーだこーだ努に話しかけ、ミルウェーもそれに従っていた。そんな二人の会話に努はむずむずとしたものを感じながらも、乗せられるのは癪だったのでしばらく無視していた。



「それにしてもあの人、よく保たせているのです。祈祷師とは思えない対応速度なのです」

「あんな人がこれからも出てくると思うと、ゾッとしますけどね」

「……流石にあれほどの祈祷師はしばらく出ないだろうけど、もう少しヒーラーとしての需要は上げていきたい。コリナを中心に祈祷師の立ち回りが広がればいいとは思ってるよ」



 しかしこのまま黙っているのも馬鹿らしくなったので、ヒーラーについての話題が出た時からは努も話には加わった。


 相変わらず精度の高いコリナの死を予測する能力により、ハンナとディニエルは素早く蘇生されて態勢を立て直す。その間に鮮血武器と鮮血分身を相手にして瀕死状態のまま何とか保っていたゼノは、空中で気絶して地面に墜落した。



「あたしに、任せるっすよ!」



 流石に鮮血分身と鮮血武器を同時に初見で対応するのは無理があったが、一度殺されたことによってハンナの危機意識は上書きされた。



「相手が勝手に血は流してくれてる。ハンナの援護に徹した方がいい」

「そうですね。サラマンダーブレス」



 更に心臓からの流血が増したことから無理に攻撃せず防御に徹していいことを悟ったディニエルは、リーレイアにそう指示をしながら血武器を片っ端から撃ち落として援護を始めた。



「っ……」



 しかしそれでも変幻自在に変化する鮮血分身の動きを完全に見切るまでにはいかず、矢が二の腕を掠めて血が溢れ出す。このままではまた殺されると本能的に理解したハンナは無色の魔石を使用して血に濡れた翼に魔力を循環させながらも、ちらりとコリナの方を見た。



「くっ……はっ……!」



 スキルの連発により一気に精神力を消費したことにより、コリナは猛烈な眩暈と吐き気を催して地面に膝をついた。しかしそれでも地面の土を握り締めながら意識を手放すことはせず、事前にかけていた聖なる願いによって精神力が回復するのを待っていた。



「あの鳥人、また雷魔石を使う気なのです? また失敗――」

「いいんだよ、あれで」



 ここで先ほども失敗した雷魔石を再び使おうとしているハンナに、ユニスは失望したような声を上げた。だが努は一番台を見上げながらそう呟く。その反応は意外だったのかユニスは途中で口を閉ざし、ミルウェーは訝しげな顔をしていた。



「いざという時に自分の保身を考えてリスクを取れない奴よりかはマシだよ。それに少しは考えたようだしね」



 ハンナが激情に駆られてただ突っ込んだ先ほどとは違い、感覚的ではあるが自分で考えた末にその手段を選んだことを努は評価していた。成功率は確かに低いが、雷の魔力を身に纏わなければ鮮血分身を相手に出来ないと彼女は悟ったのだろう。


 そして、ハンナはそのリスクを見事通した。背中の青翼には雷の魔力が帯電し、静電気で彼女の青髪は浮かび揺らめく。鮮血分身の放った血矢を金色の速さで避けると共に、リーレイアが撃ち漏らした鮮血武器すらも神の眼では追いきれないほどの動きで避け切った。


 それからハンナはコリナとゼノの態勢が整うまでの間、疾風迅雷の動きを以てして爛れ古龍の猛攻を全て避け切っていた。そして雷の魔力がそろそろ打ち止めであることを理解していた彼女は、最後に右の拳を振りかざし距離を詰めた。



「食らうっす!!」



 そんな緊張感のない声とは裏腹に、彼女の右腕から放たれた閃光は轟雷を響かせた。全体を映し出していた一番台すらも真っ白になる規模の攻撃に、観衆たちは目を見張った。



「くっ……そっ」



 しかしそれでも尚、鮮血分身はゼノのVITを受け継いでいたこともあり何とかその身を保っていた。だがもう矢を撃てるような状況にないからか、鮮血武器をハンナに投擲する。先ほど放った攻撃の反動で全身が痺れている彼女に避ける術はない。



「やると思った」



 だがその投擲は先ほどまで鮮血武器を相手取っていたディニエルがパワーアローを放って弾き返し、それでも尚勢いの衰えなかった剛矢は鮮血分身の胸へと突き刺さった。



『ごぼッ……』



 鮮血分身から血が漏れ出すような音がした後、それは霧散して消えていった。それと同時に爛れ古龍の心臓も完全に機能を停止し、光の粒子が漏れ出す。


 その光景を見てコリナは腰が抜けたように地面へとへたり込み、鎧を紙のように切り裂かれて半裸になっていたゼノは何とか疲れ切った腕を上げて勝利を祝った。そんな一番台を見てギルドにいた探索者たちは拍手を送り、外からも大きな歓声が響いてきた。



「これで、無限の輪は全員百階層を突破したことになるのです! おめでとうなので……ツトム、どうしたのです?」

「……いや、何でもないよ」



 心配するように顔を覗き込んできたユニスにそう返しながらも、努は青ざめた顔で一番台を見ていた。見覚えのある用紙を不思議そうな顔をしているディニエルが手にしているその姿を。


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[一言] どうやら神様はとんでもなく性格が悪いようですなぁ
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