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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第八章
395/410

真実の告白

「ガルム、ちょっといい?」

「……何だ?」



 百階層攻略に向けてギルドへと向かったディニエルを見送ったガルムは、先ほどから話しかけるタイミングを待つように様子を窺っていた努に振り向く。そしてこちらをじっと見つめてきた彼の目を前に、普段と変わらない様子で答えたつもりだった。


 しかし努は若干呆れたように笑った後、残念そうに首を振った。



「お互い隠し事は下手みたいだね。それじゃあこっちで詳しく話そうか」

「…………」



 そう言ってマジックバッグに手を入れながら客間の方へと歩き始めた努に、ガルムは慎重な足取りで付いていく。そしてしんと静まり返る客間のソファーに座った努は、何やら不可思議に光る用紙のようなものを手渡してきた。



「それ、自分で読める?」

「…………」



 ガルムはギルドへ入る試験を突破できるくらいの学力を持ち合わせていたし、何よりその用紙に書いてある文字は不思議なほどすらすらと読めた。そしてその用途と努の経歴を読み解いていくにつれ、事の重大さに用紙を持つ手が震えた。



「……これは、本当のことなのか?」

「そうだね。それは百階層を攻略した後の報酬で、エイミーが初めに手に入れて鑑定したんだ。ガルムが僕たちを訝しんでいたのはそれが理由だよ」

「…………」



 一度目を通しても混乱して頭に入らない部分が多かったので、ガルムは再度その用紙内容を見直し始める。それから五分ほどガルムが落ち着くのを無言で待った努は、彼が用紙から目を離したのを見計らって声をかける。



「僕はどうしても元の世界に帰らなきゃいけない。身勝手なのは百も承知だけど、ガルムには僕が帰還するまでこの用紙を預かっていて貰いたい」

「……わ、私がか?」

「多分、僕の帰還に反対する人は何人か出てくる。ディニエルとか、リーレイアとかね。それにエイミーも今は大人しいけど、いつ心変わりするかわからない。もし力づくで来られたら僕に対抗する手段がない。だからガルムには、帰還に同意しなくてもいいから僕に協力はしてほしい」

「…………」



 そう言って真っ正面から頭を下げてきた努を、ガルムは放心したまま見つめることしか出来なかった。だがいつまでも頭を下げている努にハッと気づき、何とか絞り出すように言葉を紡ぐ。



「す、すぐには答えられん。協力はしたいが……しかしだな……」

「勿論、今すぐ答えてくれとは言わない。明日まで返事を待つよ。ただ、他のクランメンバーにはまだ言わないでおいてほしいかな」

「それは、約束するが……」

「そう。それじゃあ、僕は神台を見てくるよ。取り敢えず、その用紙はこれに入れて預かっておいてほしい」

「うむ……」



 そう言って予備のマジックバッグを机に置いて努は客間を立ち去って行った。その後ガルムは何度もその用紙を見直した後、爆弾でも処理するようにそれをマジックバッグへとしまいこんだ。



 ▽▽



「ストリームアロー」

「カウントフルバスター!!」



 ハンナが溜めに溜めたコンボ数に比例した威力を秘めた拳が爛れ古龍の心臓に直撃し、その衝撃で鼓動が停止する。それに合わせてディニエルが事前に放っていた流星群のような矢が心臓に降り注ぐ。



「スプレッドアロー」



 彼女は放つ矢の威力が一番高まる距離を維持しながらも、心臓の出血を防ぐために固まっている血栓を狙い撃ちしていく。その途中何度かヘイトが逸れて血武器がディニエルに襲い来るが、金色のポニーテールを揺らして走りながら避け矢で迎撃していく。


 ディニエルの立ち回りは神のダンジョンが出来てステータスやスキル追加が落ち着いた数年でほぼ完成していて、九十階層まで変わりはしなかった。しかし努に二流の烙印を押されてからはその立ち回りを一から見直し始めた。


 その中でもディニエルが特に見直したのは、自身の視野だった。初めこそ最後まで諦めないような気持ちを育てようとしたものの、百年かけて築かれてきた自身のメンタルが早々変わるはずもない。


 しかしそれから彼女は自分が諦めたくなるような状況を突き詰めて考え、まずはあの状況でも諦めなかった努のような視野の広さを身につけようと意識し始めた。彼とてそこまで気持ちでゴリ押すような性格ではないため、こちらの方がディニエルには合っていた。


 それからも九十階層時点の自分を越えるため非常に細かなこと、スキルの使い方なども見直しを進めた。それに百階層の対策として爛れ古龍の観察も率先的に行っていたため、たとえ自分にヘイトが向いたとしても一人で捌き切ってしまうほどの動きを可能にしていた。



「よそ見は、駄目っすよぉぉぉ!!」



 そんなディニエルにばかり目を付けていた爛れ古龍からヘイトを取り戻すため、ハンナは高揚した顔で炎魔石を砕き、大きな魔力を以てして血武器が凝固してしまうほどの熱波をお見舞いした。


 ディニエルのしていることは実質的には避けタンクに近いため、ハンナはその目にメラメラと対抗心を燃やしている。そんな彼女の動きもディニエルに追いつきたい一心もあってか、感覚的に研ぎ澄まされていく。そんなハンナに応えるように精霊契約により近くにいたシルフも風力を上げ、彼女がもっと素早く動けるように追い風を吹かす。



「あの調子なら本当に二度目の心臓破壊まで出来そうですね。化け物が二人いることが前提ですが」

「ははは……」



 シルフの無茶によって精神力がどんどんと削られているため青ポーションを飲んでいるリーレイアの言葉に、コリナは苦笑いをしながらタリスマンを握り二人へ癒しの光を何とか合わせている。


 白魔導士でいうところのメディックと同じ効果を持つ癒しの光は、祈るだけで効果を与えることが出来ない。そのため彼女は確実に当てられる時を見極め、回復の祈りと合わせて二人を支援していた。


 コリナたちPTは回復機能を持つ肝臓を破壊した後は、努たちと違う作戦で爛れ古龍の突破を目指している。その中でも今試行しているのは早期に心臓を二度破壊することである。


 今は立ち回りを見直したディニエルの調子が異様に高いため、リーレイアとゼノの賛成もあって彼女を活かすような作戦を採用している。その中でも心臓への徹底的な攻撃による短期決戦型の作戦は、今から努たちの築いた正攻法に切り替えて戦うよりも期待値が高かった。



「エンチャントォォォ!! ホーリー!!」



 今では実質的にディニエルとハンナが避けタンクをこなしながら絶大な火力を爛れ古龍の肝臓と心臓のみに集中させ、三人はその補助に回る形になっていた。既に肝臓の完全破壊と心臓を一度破壊するまでは安定していて、アンデッド化についても聖騎士のゼノと聖水作成スキルを持つコリナのおかげで対策が済んでいる。



「さて、二人共そろそろ攻撃を抑えてくれたまえよ! 私の出番だぞっ!」



 ただアンデッド化の兆候により血武器の強化が入ってからは流石の二人も安定しないため、そこはゼノが全力でヘイトを取りながら爛れ古龍が心臓を捧げるまで戦況の安定化を図るようにしていた。


 ゼノの声と共にコリナは支援回復を緩めにし、リーレイアもシルフへ割り当てていた精神力を抑えて二人の動きが過熱しないように努める。そうでもしないとディニエルはまだしも、ハンナが中々止まらないからだ。



(パワーアローの角度はもう少し修正できそう。祝福の光も邪魔にならないようになった)



 今回のPTではまるでユニークスキル持ちのようなエースと化しているディニエルだが、その思考はむしろ謙虚な方だ。それでいて以前のようなだらける姿はなく、攻撃を止めた今も弦の引き過ぎで痺れている指先を擦りながら思考を攻略に向けていた。


 だがその謙虚な姿勢は自分の先に越えるべき相手がいるからだ。初めて弓を手に取った二十歳の頃から今まで、ディニエルは様々な者たちを越えてきた。それは近所の狩人から始まったが、百歳を超えた今となってはもう越えるべき相手自体がいなくなっていた。



(勝ち逃げは許さない)



 ここ十年は張り合いを感じない相手ばかりだったが、久しぶりに見つけた獲物。それを逃がしてなるものかと彼女は痺れた指に構わず弓の弦に手をかけた。


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[一言] ディニエルに知られたら帰れないだろうなぁ
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