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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第八章
391/410

鑑定の結果

(普通に帰ってきちゃったけど、大丈夫だよな? 後でもちゃんと帰れるような仕様になってるよな? いや、流石にあの時間で物理的に入れるわけないしさ。これでこの世界にずっと滞在することが決定されたとしたら、結構キツいぞ。流石の糞運営でもそこまではしないよな?)



 結局無事にギルドへと帰ってきてしまった努は事の次第に内心焦りながらも、さり気なく前に出て警護してくれているガルムの後を歩いた。



「突破おめでとうございます! ところで黒門についてですが――」

「あの黒門、開かなかったのか!?」

「おめでとう! やっぱすげぇな!」

「百階層の先はありそうですか!?」

「ちょっとーー!! どくっすよっ!! 通してほしいっす!」



 無限の輪の百階層突破。そして恐らく神のダンジョンがこれから先も続く展望が神台から見えたこともあってか、努たちPTの下には嬉しそうな探索者や記者たちが殺到していた。ギルド内はまさにパニックで酷い有様だった。


 一斉に詰めかけた者たちをギルド職員が総出で押さえている間に努たちは急いでギルドを出て、騒ぎが広まる前にクランハウスへと避難した。



「ギルドにハンナさんたちもいましたよね? 置いていった形になりましたけど……」

「俺は知らねー」

「ここで私たちと外に出ても余計な混乱を生むだけだ。それにいずれ帰ってくるだろう」

「ごめん、わたしはちょっと休んでくるね」



 三人がそうこう話している間にエイミーはそう言い残すと、階段を早足で駆け上がって自室へと向かっていった。ただ百階層の突破とその先があることに浮かれている様子の三人は気に留めることもなく、オーリに宴の提案をしていた。



(……まさかな)



 努との訓練でエイミーは精神力が減りすぎても顔に出すようなことはないが、背後の尻尾はへなへなになる。彼女がギルドに帰ってきてから精神力不足になるまでスキルを使ったとすれば、それは何なのか。


 少し嫌な予感がよぎった努はすぐに二階へと上がり、エイミーの部屋の扉をノックした。



「体調が優れないみたいだけど、大丈夫?」

「あっ、大丈夫だよー?」

「それ、精神力不足のせいだよね? 青ポーションあるから飲みなよ」

「うんー」



 そんな会話を交わしながら扉を開けると、そこには明らかに挙動不審なエイミーがベッドに座っていた。そして努は静かに扉を閉めると、ベッドの上に置いてあったクリア装備に目をやった。



「それ、鑑定したんだよね?」

「え? あぁ、うん。そうだね」

「…………」



 エイミーに何と声をかけたらいいのかわからず、努は黙り込む。もしかしたら彼女はクリア装備を鑑定し、その能力を知ってしまったのかもしれない。先ほどの何処か白々しい会話からして、努の予感は確信へと変わり始めていた。


 だがもしかしたら、エイミーはまだ核心的な情報には触れていないのかもしれない。黒杖を鑑定した時に全ての能力がわからなかったように、鑑定スキルでもわからないことはある。自分が発する言葉でそのヒントを与えてしまうかもしれないと思うと、努は何も喋れなかった。



「あ、青ポーションは?」

「……あぁ、はいこれ」



 努は自分用に余っていた青ポーションの細瓶を腰の留め具から引き抜いて渡した。それを恐る恐るといった様子で受け取ったエイミーはちびちびと飲み始める。


 最も付き合いの長い二人が今まで経験のしたことがない、微妙な距離感。それでも自分から進めば地雷を踏む可能性もある努は動けない。


 そして青ポーションを飲み終えて精神力を回復したエイミーは、借りてきた猫のように努へ空の細瓶を返した。



「もう、大丈夫だよ」

「……そうみたいだね」

「……あれ? 珍しいね、ツトムがわたしの部屋に自分から留まるなんて。これはあれ? 噂に聞くOKのサインとかっ!? 駄目だよ! 下にみんながいるのにっ!」

「…………」

「困っちゃうな~。いくらツトムでもそれは流石にダメだよ~。男の人はもうちょっとムード? っていうのを大事にしなきゃ!!」



 そんな生易しい空気でないことはエイミーも承知の上だっただろうが、彼女は敢えておどけて見せた。しかしそれでも帰る様子のない努を見てもう引けないことがわかったのか、くしゃっと顔を歪めた。


 そしてクリア装備の下に隠していた、ステータスカードに近しい用紙を取り出した。



「……ごめん、これ、鑑定しちゃったんだ」

「……そうか」



 異世界からの帰還申請書、と書かれた用紙を差し出してきたエイミーを前に、努は困ったように呟いて立ち尽くした。約二年間誰にも明かさなかった努の正体は、その用紙に全て記されていた。



 ▽▽



「……なるほどね」



 鑑定によって真実を知ってしまったエイミーから渡されたその不可思議な用紙をベッドに腰掛けながら閲覧した努は、百階層突破後に起きた帰還の黒門の異変に納得がいった。


 努がこの異世界から帰還するための条件に、クリア装備などは全く関係なかった。


 この用紙を用いて百階層を突破した者が許可を出すこと。それだけだった。そして偶然にもこの用紙をクリア装備と同時に渡されたエイミーは、その鑑定を終えたと同時に努が黒門に近づいているのを見て慌てて許可を外したようだった。



(鑑定スキルのあるエイミーにこれを渡した時点で、神の悪意が透けて見えるな。地獄に落ちろ)



 もしエイミー以外の誰かにこの用紙が渡っていたら、努はもう本当の意味で帰還を果たしていただろう。これが偶然なわけがない。神からの嫌がらせ行為に他ならないだろう。



(それに、一回の不許可ごとに許可人数を増やす仕様も意味が分からない。エイミーだけなら説得して何とかなったかもしれないのに……。まぁ、ガルム辺りか? いや、ダリルの方が丸め込むにはいいか……)



 それにエイミーがあの場で一度不許可にしたことにより、努が異世界からの帰還を果たすにはもう一人の許可者が必要になってしまった。神様の癖にネズミ講のような仕様を用いていることに内心で舌打ちしながら、努は焦りを隠せずに頭を掻いた。


 そんな努の珍しく焦った様子を見かねて、エイミーは口にした。



「……ツトムは、帰るつもりなの?」

「……悪いけど、そのつもりだよ」

「……な、何で?」

「エイミーはもう見たと思うけど、この用紙に書かれていることは真実だよ。僕にとって神のダンジョンは、ゲームみたいなものだったんだ」



 この用紙には努が日本にいた時の人生年表なども書かれていたので、エイミーに嘘をついても意味はない。半ばやけくそ気味な努の返しに彼女は食らいつく。



「ゲームって、それはよくわからないけど、でも」

「わかりやすくいうと、僕にとってここは夢の世界みたいなものだってことだよ。いつまでもここにいるわけにはいかない。現実があるのなら、帰らないといけない」

「夢って……ここも現実でしょ!?」



 食い気味に横から近づかれて手を握られた努は、失念したように息をついた。



「……そうだね。言い方が悪かった。確かにここも現実だよ。頬を抓っても目が覚めるわけじゃない。でも僕にとってはそんな認識なんだよ。この世界は僕にとって都合が良すぎるんだ。神のダンジョンでモンスターを倒すだけで生活できるなんて考えられないし、いくらお金を稼いだってゲーム通貨にしか思えない。申し訳ないけどね」

「……それじゃあさ」

「っ!」



 突然エイミーに押し倒された努は危機感を覚えて叫ぼうとした。しかし彼女の顔が異様に赤くなっているのを見て、自分が想定したこととは違うことを確認して止めた。



「げっ、現実より、凄いことだってあるんだよ……?」

「……あまり慣れないことはしない方がいいよ」

「い、今も現実って思ってないってことぉ!? わたしだってやればできるんだからぁ!」

「いや、興奮しすぎだし、あと服破る勢いで脱がそうとするの止めてくれる? それなら自分で脱ぐよ自分で」

「うっ……」

「くっくく、あ、ごめんなさい」



 そう言われると目に見えて怯むエイミーに努は思わず笑ってしまうと、自分を押さえる力が強まったのですぐに止めた。



「えっ、えぇ……!?」



 そしてベルトを緩めようとゆっくり手を動かしたところで彼女が目に見えて動転して力が抜けたので、努はそのままベッドから脱出すると乱された服装を整えた。



「ちょっと僕も今は考えが纏まらないんだ。これからのことは今から考えて後で詳しく話すから、このことは誰にも言わないでくれ。頼むよ」

「うぅっ……!! うぅーーー!!」



 恥ずかしさで死にたいと言わんばかりの声を枕に顔を埋めて何とか押さえているエイミーにそう言い残して、努はその用紙を持ったまま彼女の部屋から退散した。


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[一言] 据え膳食わぬは男の恥だぞ!
[一言] (   ・᷅ὢ・᷄ )チッ そのままモチっと進めば良かったのに…(   ・᷅ὢ・᷄ )
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