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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第七章

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血塊

 黒い血が集まっている箇所を緑の気が包み、赤々とした肝臓が再生される。一見すると敵に塩を送っているようなものだが、コリナたちが挑んだ際の映像を見て仕様を確認していた努には勿論狙いがある。


 黒い血が集まって臓器が再生している時にも攻撃自体は可能だ。しかしそうすると黒い血が他の箇所に移って再生を始めてしまうので、狙って行いでもしない限りは時間のロスとなる。特にヒーラーの役割を担う肝臓を後回しにされていつまでも破壊出来ない状態に陥ると詰んでしまう。


 努の目標としては爛れ古龍が時間経過で完全再生するまでにいくつかの臓器を不全状態にすることなので、敢えて早く再生させ早期の破壊を目指している。



「モンスターが回復してるってのは、何だか落ち着かねぇな」



 その作戦を事前に知らされているPTメンバーは努のした行動に若干の違和感こそあれど、それで集中を乱すことはなかった。そして完全に再生された肝臓へ攻撃するように指示が飛び、アーミラとエイミーはそれぞれ龍化と龍化結びを使って削りにかかる。



(アタッカーの火力は十分だろうし、一先ず肝臓はすぐに破壊出来そうだな。問題はその後……)



 アーミラの大剣によって切り裂かれ胆汁が溢れ出している肝臓を眺めた後、努は再生が始まった肺に視線を移す。肺は現段階で腐食のブレスが強化されることが判明していて、努だけが知る情報としては酸素を取り入れることによる血の強化、運動能力の上昇などがある。



(出来るなら肺も破壊しておきたいところだけど、そうすると腸を破壊する時間が足りなくなる。胃が破壊出来るならその時間を生み出せるけど、撒き散らされる胃液が噛み合ってPTが壊滅するリスクがある。嫌な択だな……)



 安全策を取ってこのまま進めるか、状況が悪化するかもしれないリスクを取って余裕を生みに行くか。今からPTで多数決を取ってこれは皆で決めた作戦だから誰も悪くないね! とでも言ってしまえば楽になるのだが、そういうわけには行かない。こればかりは唯一の情報を持ちPTリーダーでもある自分が一人で決めなければならない。



(……ここで余裕を作っておかないと、後々詰む可能性が否定できない。そもそも今でも未知の要素が多すぎて対処できる余裕がないんだ)



 現状の爛れ古龍でも手強いことに変わりはない。大量の血を自在に操っての攻撃に、これから更に増える血管と増えていく臓器によって攻撃性能は増していく。それに懸念事項である肺が復活してからの腐食ブレスに、胃が完成してからも胃酸を吐き出しての攻撃はダリルでも耐えられない威力を持つ。これから先タンクは厳しい戦いを強いられることになるだろう。


 それに胃を壊すアタッカーにも大きなリスクが伴う。もしそれで死ぬことになれば火力が減って臓器を破壊するペースが落ちてしまい、戦いにならない事態も考えられる。


 だがこのまま安定策で動き、もし初見殺しの攻撃をされた場合は臓器破壊が間に合わなくなって詰む可能性が高い。爛れ古龍に思考能力と理性を持たせる脳が完成してしまえばヘイト関係なしにヒーラーが狙われるため、こちらに勝ち目はない。それを防ぐためにいくつかの臓器を不全にして脳の完成時間を遅らせるわけだが、もし初見殺しで臓器破壊が遅れれば終わりだ。


 九十階層ではPTメンバー全員で合わせて事前に動きを練習していたおかげで、初見殺しの攻撃を受けても挽回できる余地があった。だが最低限の準備しか出来なかった百階層ではそれも期待は出来ない。選択を誤れば詰む未来が見えている。



(リスクは承知の上だ。そのリスクを最小限に抑えるのが僕の――ヒーラーとしての役目だろ。このまま進んでも余裕のないまま初見殺しを受けて負けの気配しかしないし、もし攻略が失敗した時に得られる情報も少なくなる)



 今回最低限の準備で百階層へ潜ったのはステファニーに先を越される可能性を考えてのことなので、既に死ぬリスクを度外視で挑んでいるのだ。ここでリスクが取れなければその意味もなくなる。



(肝臓、肺、胃を完全に破壊する。そうすれば腐食ブレスのケアも出来るし、脳の再生も遅れて余裕が出来る。僕が全力を尽くせば通せる択だ。ここは死ぬ気で頑張るしかない)



『ライブダンジョン!』でアプデの度に新規のモンスターを相手にしてきた経験則を元にした爛れ古龍の観察と、九十階層での初見殺しを加味してこの先の作戦方針を結論付けた努は肝臓の様子を確認しながら血槍を壊しているダリルへ支援回復を送る。



「思っていたより問題はなさそうだな。冬将軍を攻略する時に模擬戦を多くこなした甲斐があったか」

「最悪でも高いVITでゴリ押しも出来るし、しばらくは任せても大丈夫そうだね」



 先ほどまで血の武器を捌いていたガルムはダリルの戦いぶりを感心したような目で見つめながら、青ポーションを飲んで精神力の回復に努めている。努はガルムの言葉にそう返しながら青ポーションを補充すると、肺の再生と肝臓の破壊が完了したことを確認し拡声器の魔道具を手にしてアタッカーに指示を出す。



「アーミラ、ヘイトを落ち着かせたいから一度帰ってこい。エイミーは悪いけどそのまま肺の破壊に取り掛かってくれ」

「ぅぅうにゃーーー!! りょーかい!」

「いや、本当に悪いね」



 龍化結びの影響もあってか大分声を張ったエイミーの鬱憤を晴らすような返事に、努は思わず苦笑いを零しながらそう返した。そんなエイミーに向かって去り際に軽口を叩いていたアーミラは赤い翼をはためかせてすぐに戻ってきた。



「割と楽に破壊は出来たな」

「肝臓は最重要だからあの調子で構わないけど、後でバテるのは勘弁してくれよ。それとエイミーが仕事をしてるからこそ破壊が早く進んでるんだ。そこは理解しておけ」



 エイミーはコリナから臓器のことについて詳しく聞き、図を基に何処が弱いのかを付け焼き刃ではあるが把握している。そして双剣でその箇所に細かな切れ込みを入れ、アーミラの一撃がより効くように調整を行っていた。地味ではあるがそのサポートを兼ねた攻撃は上手く機能していた。



「それと、竜への畏れは問題なさそう?」

「あぁ、お陰様で問題ねぇよ」

「……お陰様?」



 そう聞き返すとアーミラはさも光栄そうに肩をすくめながら口にした。



「何せあの暴食竜の討伐を指揮した白魔導士様がいらっしゃるからな。それが後ろに控えてんのにこっちがビビッてたってしょうがねぇだろ?」

「はぁ、なら少しはその白魔導士様に気を遣った動きは出来ないんですかね。エイミーを見習えエイミーを」

「俺の分もお前が今みたいに気を遣ってくれんだろ? だから問題ねーよ」



 自分と話しながらもダリルとエイミーへ支援スキルを飛ばして着弾させている努を半目で見つめながら、アーミラは小馬鹿にでもするように舌を出した。



「はいはい。ユニークスキル持ちのアタッカー様が気持ちよく立ち回れるように僕も頑張らせて頂きますよ。少し休憩したらすぐ肺の破壊に取り掛かってもらうから、それまでは龍化解除して大人しく休んでいてくれ」

「へいへい」



 つまらなそうに返事をしながら龍化を解除して努に手渡された青ポーション瓶を受け取った彼女は、大剣を地面に突き刺して一息ついていた。そしてエイミーがせっせと肺の中心から広がる筋に切れ込みを入れている間に、酸素を取り込んだことによって鮮血のように赤く今までよりも鋭く尖った血武器が出現するようになった。



「っ!?」



 突然素早く大盾を掻い潜ってきた赤い剣にダリルは驚いたが、首を狙いにきたそれを左腕で防ぐ。A+のVITによって怪我はせずに済んだが、今までよりも異様に速い血武器の出現にダリルは少し動揺している様子だった。だがそれを落ち着かせるようにメディックとヒールの弾丸が着弾し、彼は気を取り直すように大盾を構え直した。



「アーミラ、あとガルムもそろそろ代わろうか」

「おう、それじゃあツトム、後ろは頼むぜ」

「……私も、任せる」

「へぇー。珍しいね。神の眼持ってくるから二人共もう一度言ってくれない?」

「死んどけ」

「…………」



 それから少し休憩を挟んだアーミラとガルムを再出撃させ、前に出ている二人と交代させる。ダリルは肺が出来てから変化した血武器の特性をガルムに伝えながらヘイトが取られるまで少し様子を見ていて、エイミーは龍化結びも合わさって怖い猫目になったまま戻ってきた。



「一先ずお疲れ様。コリナが教えてくれた臓器の切れ込みは上手く機能してるみたいだね」

「そーだね」



 エイミーは先にアーミラが休憩に入ったことを根に持っている様子だったが、攻撃力の差を理解しているからか文句は言わなかった。そんな彼女に努は労りの言葉とメディックをかけながら空の青ポーション瓶を入れ替えた。



「あの様子なら肺もすぐに壊せそうだ」

「でもまた再生されちゃうんだよね」

「それでも爛れ古龍の治癒能力が上がるであろう肝臓を放置したまま勝てるとも思えないからね。今は再生しないことを信じて臓器を徹底的に破壊するしかないよ」

「そだねー。……でもあんな立派な状態になる龍の名前が爛れ古龍って、なんかおかしいよね。ぜんぜん爛れてないけど」



 鑑定スキルによってモンスターの正式な名称がわかるエイミーによって、爛れ古龍の名は既に判明している。しかしコリナたちを全滅に追いやった爛れ古龍は初めの姿から一変し、完全状態になった時には神々しさすら感じる古龍へと変貌を遂げた。


 その姿形だけを見れば爛れ古龍という名前はしっくり来ないだろう。臓器と血管の束で構成された姿はおぞましさこそあれど、爛れという言葉は当てはまらない。努としても『ライブダンジョン!』で名前通り肌が爛れたアンデッド系のモンスターであった古龍の姿と乖離していることは懸念の一つである。



「パワースラッシュ!!」



 そうこう話しているうちにアーミラはエイミーが付けた切れ込みを利用しながら肺の根元にある管を両断し、左右の臓器を地に落とした。その姿を見てぐぬぬと歯噛みしているエイミーを横目に、努は爛れ古龍に目を凝らした。


 肺が破壊されてすぐに、臓器の再生を司る黒い血の一部が飛び出るように地面へと落ちたのだ。するとガルムを貫かんと迫っていた血武器が一瞬動きを止め、すぐに地面へと落ちた黒い血の塊へと殺到し始めた。


 武器を形取っていた血は液体へと戻り、黒い血と混ざり合う。そして地面からせり上がるようにして、まるでノームのように人型へと形作られていく。分厚い赤鎧と大盾、努よりも高い身長、そして犬人の中でも珍しい垂れた耳。


 ダリルのシルエットをそのまま切り出したような血の塊。爛れ古龍の身体を蝕む病原体を撃滅するべく作られた抗体。その抗体は大盾を前に構えるとその場から飛び上がり、肺を破壊したアーミラへと一直線に向かい始めた。


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