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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第七章
325/410

駄狐

「…………」



 クランハウスの外で騒いでいるのを放置するわけにもいかず、結局ユニスとその後輩であるミルウェーはオーリに招き入れられた。クランハウスに招かれてからようやく冷静にでもなったのか、緊張したように身構えたままソファーにちょこんと座っている。



「……えーっと、じゃあ僕らは準備してきますね」

「あぁ、よろしく」



 せめてもの嫌がらせにクランメンバーが行き交うリビングにユニスたちを座らせた努は、悪徳領主のように足を組みながらダリルを見送った。他にもリビングを通る度にハンナがちょこちょこと様子を覗いたり、朝は大体不機嫌なディニエルの視線が飛び交っている。


 そんな状況の中で座らされているミルウェーは小刻みに震えて既に半泣き状態だが、そんな後輩がいるからかユニスは強気に努を見返した。



「どういうつもりなのです」

「それはこっちの台詞だけど。朝からクランハウスに突撃してくるとはいい度胸してるね。金色の調べのユニスさん? 無限の輪に喧嘩でも売りに来たのかな?」

「ひえっ」

「……何を大事にしようとしているのです。これは個人間の問題なのです」

「ふーん」



 狐耳と尻尾を萎ませて今にも逃走しそうなミルウェーを軽く押さえながら、ユニスは冷静に努めた顔で返す。その返事に対してつまらなそうにしながら努は金と銀の狐人である二人を見比べていた。街中でも狐人は良く見るが金色と銀色は意外と少ない。割と良く見るのは黒色の髪と毛の者であり、金や銀はたまにしか見ない。



「それで、用件は?」

「これに決まっているのですっ!!」



 狐人のことについて考えつつもそう尋ねると、ユニスは御丁寧に向きまで整えてあった机の上の新聞をバシンと叩く。



「誰が女狐風情なのですぅぅぅぅ!! ちゃんと名前を出しやがれなのです!! 他の奴らはちゃんと出してやがるのに、何で私だけ出してないのです!!」



 昨日のステファニー騒動に関しては平日の午後すぎに起こったため、時間帯からして神台を直接見ていた者は少ない。当人のユニスもその時は八十階層で冬将軍と戦っていたため、ステファニー騒動の概要は新聞で補っている。そして女狐風情という目につきやすい言葉を切り抜いて見出しにされた記事を見て見事に怒り狂い、後輩の言葉も聞かず勢いでこの場に来ていた。



「あ、あれは観衆の気を引くための見出しと内容だって何度も言ってるんですけど……私が言っても全然信じないんです。ツトムさん、真実を教えてあげて下さい……」



 ミルウェーはたまたま休みでその時神台を見ていたため、努がユニスを評価に値する人物だと言っていたことを知っている。ついでに自分も最前線に通用するヒーラーだと言われて、思わぬ評価に驚いたと共にちょっぴり嬉しくも思っていた。


 そんな彼女の頼るような視線を受けた努は、任せろと言わんばかりに頷いた。何だかんだスタンピードの時もユニスを励ましてくれたことがあったので、ミルウェーはホッとした様子でこれからきっと喜ぶであろうユニスを見守った。



「その記事の通りだよ。駄狐」

「……え?」

「はあぁぁぁぁ!?」



 にっこりとした顔でそう言いのけた努にミルウェーは目をぱちくりとさせ、ユニスは台所にいるオーリが振り向くほどに大きな声を上げた。



「未だにあのメンバー引き連れて八十階層も越えられてない奴なんて、女狐風情で十分だろ? 何をそんなに怒ってるんだか、理解出来ないね」

「おまっ……!!」



 怒りで言葉にもならない声を上げているユニスを見て努は笑顔を深めながら、ソファーの肘掛けに腕を置く。そして馬鹿にするような顔でユニスを見下ろした。



「まだレオンとヴァイスは自分がタンクも出来ると勘違いしてるのか? アタッカーのついでにタンクも片手間で出来ると思ったら大間違いなんだよ、バーカ。レオンは前からハンナの動きも取り入れているようだけど、見た限り全部上辺の技術だけ。タンクの意識がまるでない。ハンナは元々タンクがやりたいっていう気持ちがあるからあそこまで機能してるんだ。変異シェルクラブ戦ではたまたま噛み合って成功したようだけど、失敗続きの現状をいつまで続けているつもりだ?」

「……レオンのことを馬鹿にするな、です」



 レオンの実践しているタンクについて小馬鹿にした様子で語った努に、ユニスは途端に目を鋭くさせて睨み付けた。もはや馴染みすらあるその目付きを久々に向けられた努は、くだらなそうに鼻で笑った。



「そんなに馬鹿にされたくなかったら結果を出してみろよ。まぁ、女狐風情じゃ無理だと思うけど」

「……ミル。行くのですよ。やっぱり記事の通りだったのです」



 ユニスは不愉快そうな顔で立ち上がると、だんだんと強い足音を鳴らしながらリビングから出ていった。そして努に背を向けるや否や顔をしわくちゃにしていた彼女を、ミルウェーは呆然とした様子で見つめた。



「……どうして」



 そして玄関を開けて出ていった彼女を見送った後、ミルウェーは意味がわからないといった顔で努を見やった。



「どうして、言ってあげないんですか? お団子レイズを開発したのは尊敬に値する、って言ってあげればいいじゃないですか。そうしたら先輩は、凄い喜んだはずです。貴方だって、あの時嬉しそうな顔で言っていたじゃないですか!」



 神台でユニスを評価していた時の努は、お世辞で言っている気配なんて微塵もなかった。自分の弟子が成果を出してくれたことを純粋に喜んでいる師の顔をしていた。そして今目の前にいる努も変わらないはずなのにあの言動はなんなのか、ミルウェーは理解出来なかった。


 そんな彼女に努は先ほどまでの偉そうな態度を改めると、至って普通の声で返した。



「別にあれが喜んだところで、僕に何のメリットもない。それよりかは逆にけなした方が新しい技術開発に奮起しそうだからね。甘い言葉はレオンにでも貰えばいいでしょ」

「先輩は、ヒーラーのことだけで言えば貴方からの評価だって大事に思ってるはずですよ!! さっき貴方には見せまいとしてましたけど、泣きそうな顔をしていたんですよ!?」

「……なんだ、君は少し気色が違うと思ったんだけど、結局は頭ハッピーセットな金色の調べの一人だったのか」



 非難するような目で見てくるミルウェーに対して、努は残念そうな声でそう告げた。



「そもそもレオンに対して支援回復を集中させる時点で、金色の調べのヒーラーは全員二流だよ。レベル高い人も数だけは多いけど、大体使い物にならない。その中でユニスは確かに技術開発の面で評価したけど、その悪癖は健在だ。だから女狐風情だの駄狐だの言ったのも本心だよ」

「…………」

「君は見た限りレオンと組んだ時も支援回復が均等だった。それに技術も光る物があったし、レベルも高いから最前線で通用すると思った。愛の強さで回復量が変わるだとか、妄言は吐いていないようだしね」

「……ありがとうございます。でもそれは、先輩にも言ってほしかったです」



 ミルウェーは悲しげな顔でそう言うと席を立ち、お辞儀をした後にリビングを出ていった。その姿を努は見送った後、切り替えるように深く息を吐いた後ダンジョンへ向かうための準備を始めた。



 ▽▽



(なんか……いつもと違うような?)



 九十七階層、主に火山階層で出現したモンスターが場内に出現する場所。そこでケルベロスを相手に避けタンクをしていたハンナは、目に映る青い気体であるヘイストの位置に違和感を覚えた。


 努の置くヘイストには大まかに二つの傾向がある。一つはその方向にハンナの動きを誘導するもので、彼女は自然とそれに従うことが多い。


 もう一つはピンポイントでハンナに当てるか、いくつかの選択肢を与えるヘイストだ。これはハンナの動きが良くなってきた時に使うことが多く、敢えて彼女に方向を選択させてリズムゲーム感覚でヘイストを潜らせて気分を乗せる際にも使っている。


 だが今日のヘイストはどっちつかずなものが少し見受けられ、それを感覚的にわかっていたハンナは戦闘が終わると青い翼で勢いを落としながら努の隣に着地した。



「ん? どうした?」

「師匠、なんかいつもと違くないっすか?」

「……何が違うと思ったの?」

「ヘイストがいつもと違うかんじするっす」

「え、マジか」

「まじまじっす」

「……わかった。意識して修正してみるよ。教えてくれてありがとう」



 若干萎えたような顔で礼を言った努は、おかしいなとボヤキながら小さなヘイストをいくつも浮かべては消してを繰り返す。こういった戦闘終わりの話し合いは日常茶飯事ではあるが、少し心当たりのあったハンナはいけずな奴めと言わんばかりの顔で努を小突いた。



「やっぱり朝のユニスちゃんが原因っすか~? このこの~」

「…………」



 いつもの小洒落た返しなりを期待して言ってみたのだが、努の反応はなかった。何だ何だと思いながらフライで浮かんで努の前に移動すると、恐ろしいまでの真顔でびっくりした。



「こっちで修正しとくから、魔石でも拾ってきて」

「お、おっす」



 珍しく不機嫌そうな顔でそう命じてきた努に声を思わず上擦らせ、ハンナは逃げるように魔石を拾いにいった。見るからに高品質そうな炎の魔石をしゅばばっと拾って努の足下に運んで離れた後、命拾いしたような顔で汗を腕で拭う。



(怖かったー。ダンジョンでもあんな顔するんだ)



 普段からそこまで感情を表に出さない印象のある努が、まさかあんな顔をするとは思っていなかったハンナはふぃーっと息をつく。するとそんな二人の様子を見ていたのか、リーレイアがノームを連れながら近づいてきた。



「いぇーい!」



 よっ、とでもいっているような様子のノームとハイタッチしたハンナは、続いてリーレイアを見上げた。



「どうしたっすか?」

「いえ、偶然少し話を聞いていたのですが、ツトムが調子を崩していたそうだったので。それに剣呑な顔をしていたので何かあったのかなと」

「あー、実はっすねぇ……」



 朝にクランハウスへ訪ねてきたユニスのことを話した途端に努が不機嫌になったことを語ると、リーレイアは興味深そうな顔のまま笑みを深めた。



「なるほど。それは面白そうなことを聞きました」

「あっ、駄目っすよ! もう言っちゃ!」

「わかっていますよ。ただ、あちらがアーミラをダシにしてきた時の反撃手段が欲しかったところでしたからね。その時は遣わせて頂くかもしれません」

「……あたしの名前は出さないっすよね?」

「情報提供者の安全は守りますよ」

「ならいいっす!!」



 黒い笑顔でそう言い残して努の方へ向かっていったリーレイアを、ハンナはホッとした様子で見送った。だがその後、状況証拠からしてハンナが教えたなと判断した努に捕まってハンナは御用となった。


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[一言] ツトムもユニスもツンデレだなぁ
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