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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第六章

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変異シェルクラブ突破

 努の発言が朝刊に出たことによって、ツトムを利用してドヤ顔していた架空のファンは減った。本人が発信力の高い二番台を使って発言した後にも努を擁護出来るほど、その者たちには知識がない。


 そして餌場がなくなって次の地へと向かうイナゴのように、浅い知識をひけらかしていた者たちは一斉にそのポジションから去っていった。観衆の意見に合わせる迷宮マニアたちも成長して自分を追い越した弟子を笑顔で見送れる師匠だと褒め称えていたが、それでも一部では努を未だに擁護している者はいるようだ。



「おー、予想通りじゃん。凄いね」

「ふっ、それほどでもあるさっ!」



 努はゼノから話を聞いた時は、浅い知識をひけらかしている者たちを神台で煽り散らかして絶滅させてやろうと考えていた。ただゼノは謙虚にかつての弟子たちを褒めるだけで事態は収まると忠言してきたので、まずは彼の言う通りにやってみた。


 すると本当にその噂は翌日に大体解消されていて、情報屋から聞く限りでも架空のファンたちは絶滅していた。クランハウスからギルドへと向かう道中に受ける視線も以前より柔らかくなっていたし、昨日の発言も本心だったので努としては満足だった。



「……やった、か」

「つ、疲れたぁ! もう無理! もう一回もスキル撃ちたくない!」



 それから三日後。満身創痍のヴァイスとアルマが最後に止めを刺す形で、ドリームPTは変異シェルクラブの討伐に成功していた。随分と刺々しい形をした水の極大魔石を前にヴァイスは疲れたように膝をつき、ヘイトが溜まりすぎて動けなかったユニスはひょこひょこと狐耳を動かしながら二人にヒールを送っていた。


 ドリームPTは当初から考えていた戦法を変えず、最後まで攻め切ることを念頭に置いて戦い続けていた。ヴァイスとレオンのアタッカー兼タンクも変異シェルクラブ相手では上手く機能し、龍化出来るカミーユや黒杖を持ったアルマの瞬間火力も最後の押し切りに役立った。ユニスも幾度となく変異シェルクラブ戦をしたことにより、大分見られるヒーラーにはなっていた。



「……クソが」

「…………」



 対する無限の輪PTはあと一歩及ばずといったところで、ドリームPTに先を越される形になってしまった。避けタンクのハンナや龍化、龍化結びが使えるアーミラやエイミーなど、メンバー自体は悪くなかった。当初の変異シェルクラブに対する攻略も間違っていたわけではない。


 ただ変異シェルクラブの思いもよらない終盤の粘り強さに対して、無限の輪PTは中々解答が導き出せずに止まってしまっていた。


 避けタンクという役割は一撃もらえば終わりという不安定なものだが、ハンナは変異シェルクラブを相手にしてもかなり安定していた。そんな彼女を軸にして普段のように安定した立ち回りでいくのか、ドリームPTのようにとにかく攻め切るのか。その方針がPT内で上手く纏まっていなかった。


 その点ドリームPTは一貫して全員で攻め切って勝つという青写真が描けていて、上手く纏まっていたことが勝因の一つだろう。全員がヴァイスとアルマの考えたコンセプトを元にして動けていたので、動きに迷いがなかった。


 そして変異シェルクラブからドロップしたウニのように刺々しい極大魔石は、ギルドでのオークションに出品されることになった。その間ギルドに見世物として展示されている魔石を、中でもアーミラは悔しそうな顔で見つめていた。


 それから二日後に無限の輪PTも変異シェルクラブを突破出来たが、ドリームPTの火力押し切り戦法にならって攻略しただけだ。ウニ魔石を前にハンナだけは喜んでいた様子だったが、他のメンバーは納得していないような顔で神台に映っていたのが印象的だった。



「シェルクラブ突破おめでとう」

「…………」

「完全にお通夜だなー。ハンナだけケロッとしてるけど」

「え? あたし別にカエルの真似してないっすけど……」

「そうじゃない」



 暗い顔で夕方にクランハウスへ帰ってきた四人を出迎えた努は、言葉通りに受け取るハンナに思わずそう突っ込んだ。ただそんな冗談にアーミラとリーレイアはくすりとも笑わず、エイミーは苦笑いでコリナはしょんぼりした顔をしていた。



「取り敢えず明日は休みにするから、どうにか切り替えてくれ。次は九十階層に向けて動き出さなきゃいけないからね。それじゃ」



 それだけ言うと努はリビングに入ってオーリが整理していた書類を一緒に眺め始めた。そんな努の近くではソファーでディニエルがぐでんと寝転がり、エイミーを手招きしている。そんな彼女の下にエイミーとハンナは向かい、他の三人は二階に上がっていった。



「おつかれ」

「ありがと」



 ディニエルの言葉にエイミーは和んだような顔で答えると、ソファーに突っ伏した。そしてギルドで見たカミーユのしたり顔でも思い出したのか、じたばたと身悶えていた。



「す、数字が一杯っすね」

「これ、君が変異シェルクラブ討伐で使った魔石の総額ね? あといくつかロストもしたよね。他の四人と比べて随分多いと思わない?」

「お風呂入ってくるっすー!!」



 ハンナは努が持っていた書類を覗き込んだ後、逃げるように万歳して一階のお風呂場へと走っていった。そんな彼女に努は軽いため息をつき、地面に落ちた青い羽根を拾い上げてゴミ箱に捨てた。



「エイミー、アーミラたちは大丈夫そう?」

「ねぇ、わたしのことは聞かないの?」

「その様子じゃ大丈夫そうでしょ」



 肩揉みでもするように白い猫耳を触っているディニエルと、それを受けて気持ちよさそうに目を閉じていたエイミー。その様子を見る限り大して沈んでいないことはわかりきっていたので、努はそう返した。するとエイミーは心外そうな顔をしたが、すぐに温泉にでも入っているような顔で考え込んだ。



「多分大丈夫じゃないかなー。アーミラはギルド長に軽く煽られて不機嫌なだけだし、リーレイアちゃんもそこまで気にしてなさそう。コリナちゃんには、少し声をかけてあげた方がいいと思うけどね。結構責任感じてたみたいだし。あとエイミーちゃんもやさーしくいたわってあげるといいよ?」

「なるほど、ありがとう」



 最後を聞き流した努はクラン経営に関する書類を見終えると立ち上がり、氷の魔石を使用している冷蔵庫から水差しを取ってコップへと注ぐ。最近はもう冷えたものが恋しくなる季節になってきたので、冷凍庫にはアイスキャンディーなども入っている。努はいたわりの気持ちを込めてアイスキャンディーをエイミーに投げ渡すと、彼女は不満げな表情をしながら口に含んだ。



「実際に変異シェルクラブを討伐出来ただけでも凄いことなんだけどね。あのトゲトゲ魔石も珍しいから高く売れる見込みがあるし、迷宮マニアからの評価もかねがね好評だったし。あそこに勝てって言ったのは間違いだったかな」

「んー、でもツトムが言わなくても絶対意識はしてたよ。アルドレットクロウは控えの人たちだったから、実質あそこと競争になるのはわかりきってたことだし。それでもコリナちゃんは大分沈んでたみたいだけど、前とは見違えるほど強くなってたしねー」

「そうだね。ヒーラーとしてはかなり仕上がってきたし、まだ伸びしろもあるから」

「ツトムもうかうかしてられないね? 最近お弟子さんたちにも越えられたーって言われてるし」

「そうですねー」



 ちょっと意地悪げな目で言ってくるエイミーに、努は暢気そうな顔で水を飲んでいる。



「……なーんか危機感がないんだよなー。確かにまだコリナちゃんには抜かされてないんだろうけどさー。お弟子さんたちにはもう負けたつもりなの?」

「いやいや、実際今の僕の最高到達階層はステファニーに負けてるわけだからね。今も九十階層の神台を見て勉強の日々だし、今のところ迷宮マニアの評価も真摯に受け止めてるよ」

「ふーん……」



 何処か疑っているような目つきでアイスキャンディーを転がしているエイミーに努は謙虚な言葉を返し、自分も一番風呂を頂こうと二階に上がった。そんな努を見送ったエイミーもお風呂に入ろうと一階の大きな浴室へと向かい、ディニエルも付いていった。


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