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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第六章
262/410

シルバービーストとの同盟

(ある程度話題になってきたかな)



 努は神台に移っているアルドレットクロウのハルトが持つ、天地開闢てんちかいびゃくという双剣を眺めながらそう思った。ハルト自身の実力も高いのであまり目立ってはいないが、その白と黒の双剣が強力だということは光と闇階層に潜っている探索者なら気づき始める頃だろう。中でも天地開闢は光属性と闇属性を同時に扱えるため、非常に使い勝手が良い。


 基本的に今までの階層は前階層で得た装備で通用することが多く、攻略にそこまで詰まることもなかった。しかし光と闇階層ではそのセオリーが通用しない。八十一、八十二階層はある程度通る属性を使用することで何とかなるが、八十三階層からは明確に変わる。


 現にシルバービーストは八十三階層で止まり、アルドレットクロウも八十四階層で足踏みしている。それに八十五階層に出る中ボス的モンスターには、従来の装備では絶対に対抗出来ない。そのことはそろそろ八十五階層に入るアルドレットクロウが身をもって証明してくれるだろう。


 そしてアルドレットクロウが宝箱から光と闇属性を兼ね備えている双剣を手にしたことは、そこそこ話題に上がってきている。なので今が装備を整えるために光と闇階層の宝箱漁りをするチャンスだろう。光と闇階層には天地開闢以外にも強力な装備がいくつもあり、攻略に必須なため全員分は揃えておきたいところだ。



(でもこの世界の宝箱、仕様が面倒くさいからなー)



 ただ『ライブダンジョン!』と違ってこの世界の宝箱は中々に面倒だ。そもそも出現率が明らかに低くなっているし、身体に装備する必要性のある防具は宝箱を開けた者によってサイズが変わり、男性と女性でデザインも変わる。


 今までの対策装備は大体市場に流通していたし、狙って宝箱を開けたのはマウントゴーレムの熱線対策装備くらいだ。だがここでは相当数の宝箱を開けていかなければならない。


 一応宝箱で得た装備は腕の良い鍛冶師や仕立て屋なら分解して再構成することも出来るので、今のところは身体が大きいダリルやガルムが開けることが望ましい。ただ宝箱を開ける者のジョブに関するものが出やすい傾向にあるため、出来るなら各々引いた方が効率は良いのかもしれない。


『ライブダンジョン!』ならばただダンジョン攻略をぶん回せば宝箱は集められ、どうしても欲しいものは他のユーザーが出品しているマーケットで取引すれば大体の物は集められた。だが現状は光と闇階層に潜れる探索者は限られているため、市場に流れることはないだろう。



(この世界だと冒険者大分有用だよな。そもそも写真機引けたら一攫千金だし)



 冒険者というジョブは元々のLUK値が高く運を上げるスキルもあるため、宝箱の発見率が高くなる。しかし冒険者というジョブの探索者はあまりおらず、豊富な人材が集うアルドレットクロウですらあまり見ない。中途半端なステータス値に戦闘向きでないスキルが多いからだろうが、しかし光と闇階層に潜っている冒険者は一人だけ存在する。



(ミシルに掛け合ってみるかー)



 シルバービーストのクランリーダーであるミシルは、冒険者というジョブの中でも有名な男である。見知らぬ地でもありとあらゆる物を駆使して生き残る、まさに冒険者のような動きをその身で体現していた。それにタンクという役割が出てきてから、その生にしがみつく立ち回りは幅が増したように見える。


 そんなミシルと一緒にダンジョンを探索すれば宝箱の発見確率が上がり、光と闇階層の装備収集はやりやすくなるだろう。一緒のタイミングで同じ階層に入れば大体五割の確率で同じ場所に入れるため、共同でダンジョン探索が出来る。


 シルバービーストとは割と交流を持っている方なので、幸いにも交渉するきっかけはすぐに作れる。後は無限の輪と共同探索するメリットを挙げればいい。それについては現在シルバービーストが八十三階層で詰まっているため、共同探索時に情報と黒門の譲渡を条件にすればいいだろう。


 それとアルドレットクロウが豊富な人材を駆使して、自前でPTを二つ同時に潜らせて共同探索をしている環境も交渉材料になる。それでも動かなければ無限の輪からの資金、技術提供をすればいい。そこまで準備をしてから努はクランメンバーにそのことを相談した後、特に反対意見も出なかったのでミシルと交渉することにした。



「お、いいぜ」

「即決ですか。クランメンバーに相談しなくていいんですか?」



 それから早速ギルドの食堂で話してみたところ、ミシルは即決した。努がそう返すと彼は鼻の下にある無精ひげを指でじょりじょりと掻いた。



「俺らも正直詰まってたしな。ツトムの言う通り、攻略が楽になりそうな装備回収はしておきてぇ。無限の輪と組めば効率的に宝箱を発見できるだろうし、これ以上アルドレットクロウに離されるのも嫌だしな。……それにこういうのを準備してきた辺り、何が何でも共同探索取り付けるつもりだったろ?」

「いやだなぁ。その言い方だと無理矢理にでも契約させたみたいに聞こえるじゃないですか。お互い十分にメリットはありますよ?」



 事前に準備してきた契約書類をぴらぴらとしているツトムに、ミシルは野暮ったい目を光らせた。



「確かにどちらにも利はある。共同探索をして損にはならねぇ。だけどよ、無限の輪の方がちっとばかし利が大きそうじゃねぇか?」

「まぁ、ですよね。あ、そういえばミシルさん。今王都からの移民関連でお困りじゃないですか?」

「……よく知ってるじゃねぇか」



 王都から迷宮都市へ人が流入したことにより、新規の探索者が増えてギルドは大分活気を増している。神のダンジョンを利用して成り上がりを目指している者は多く、更に貴族たちもこぞって迷宮都市へとやってきた。


 アルドレットクロウはその移民と貴族すらも上手く利用して取り込み、規模を拡大している。金色の調べもレオンに求婚している女性が多数クランに入り、紅魔団も新規の入団試験を執り行っている。無限の輪にも移民の波は来たが、バーベンベルク家の庇護下にあるため影響はほとんど受けていない。


 その中でやはり中堅クランから成り上がったばかりのシルバービーストは王都からの移民や貴族から見れば、絶好の獲物に見えるのだろう。雪原階層での氷魔石騒動で豪商人たちから揉まれたとはいえ、まだそういった対処に慣れてはいない。


 それに今回は王都から来た孤児たちだけは入団させたいという意思もあるため、余計に対応が難しくなっている。特に貴族からの圧力は凄まじく、ミシルも中々苦労している節が見られた。



「その辺りに強い人たちと縁を持てる機会もこちらで設けますが、どうですか?」

「……もうちっとはたけば何か出そうだが、一番それで困ってたしなー。わかったぜ。それで頼むわ」

「はい。それじゃあこれにサインお願いします」



 こうして無限の輪はシルバービーストと共同探索をすることが決まった。



 ▽▽



 その翌日には新聞で無限の輪とシルバービーストが共同探索を行う記事が掲載された。そこには無限の輪とシルバービーストのPTたちが握手をしている写真が映し出されている。


 その写真の中で努と握手をしているロレーナを、クラン内の食堂にいるステファニーは能面のような顔で見つめていた。その足元で回っているスキルは荒ぶっているが、以前のようにステファニー自身が取り乱すようなことはしていない。


 その理由は、ステファニーはこの数日で真理を見つけたからだ。


 その数日、ステファニーは苦しみ悩んだ。これほどヒーラーとして頑張って実力も間違いなく一番の自分を見てくれず、他のヒーラーばかりを褒める努。もしかすると彼の目は既に他の女に汚されて曇ってしまい、本当のことが見えていないのではないか。だから自分を見てくれないのか。


 それに何故あんな怠惰の象徴みたいな兎のいるクランなんかと、共同探索をするのか。シルバービーストは確かに社会貢献といった面で見れば評価に値する。獣人の孤児はその有り余る身体能力で犯罪に走る者が多いが、シルバービーストはその受け皿となって子供たちにまともな道を歩ませている。


 だが探索者としてはゴミ同然だ。走るヒーラーでお馴染みのロレーナは今も低レベルの育成を週に一度は行っている。雑魚と組む時間など無駄であるし、そんなことをしているから八十三階層で詰まっているのだ。他の奴らも同様で、アルドレットクロウならば一桁軍に入れるかも怪しい。そんなゴミと何故努は組んだのか。


 もしかしたら、自分は幻想を追っているのかもしれないと思ってしまったこともある。努に対する尊敬の気持ちが独り歩きし、期待しすぎてしまっているかもしれないと。



(でも……そんなわけが、ないですわ! こんな素晴らしいものを書いて、私に託してくれたのですから! ツトム様、ごめんなさい、ツトム様ぁ……)



 しかしステファニーが何百回も読み直している、弟子期間が終わった後に努から渡されたヒーラーの教科書といってもいい書類。『ライブダンジョン!』での経験を加味して書かれているそれは、ステファニーにとっては聖書のようなものだった。


 こんな素晴らしい考えを書ける者が、この程度なわけがない。ステファニーはそう考えを固め、少しでも疑ってしまった自分を恥じて泣いた。


 そして努への尊敬を再確認したステファニーは、次にどうやって関係を取り戻すか苦心した。先日ギルドで努にドン引きの目で見られたステファニーは、地獄へ突き落とされたような気分だった。何故そんな目で見られるのか、わからなかった。


 その後部屋にいるツトム様に慰められて何とか自我を保てたものの、それでもまだ傷は癒えない。そしてこの傷は現実の努に慰めてもらわなければ癒えないと思ったので、どんな手を使っても関係を修復したいと思っていた。


 それから関係を改善するために色々なことを考えては顔を赤くして身体をくねらせたり、どす黒く濁った目で犯罪じみた計画を立てたりもした。だが最終的にステファニーがたどり着いたのは、やはり神のダンジョンに関わることだった。



わたくしがツトム様よりヒーラーが上手くなれば、絶対にあの人は見てくれる。たとえ私を嫌っていようとも、見ざるを得ない。まずは、それからですわ)



 現に努は嫌っているユニスであろうが神台で見て学び、アルドレットクロウでも査定までは無名だったキサラギすらもチェックしていた。弟子時代に行動を共にしていた分、努が神のダンジョンについては関心が高いことはわかっている。なのでもし自分を超える者が現れたとすれば、努は絶対に見るだろう。



(っく……!)



 努が自分のことを見ていると想像するだけで、ステファニーは顔がほころんでしまう。そしてその希望はステファニーを更に神のダンジョンへと駆り立てた。



(よく合わせられましたわ! それに何とか数秒前に繋げました! 今のは上手かったでしょう、ツトム様!? だから私を見て! ずっと!)



 それからステファニーは良い動きをした後は時折うっとりとした顔で神の眼を凝視するようになり、ファンサービスが良くなったと話題になっていた。


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