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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第六章
260/410

ヒーラーのすれ違い

 クランハウスで夕食を終えた後、努はリビングでエイミーのステータスカードを見ながら立ち回りの相談に乗っていた。



「んにゃー、ツトムってほんとは双剣士だったりしない?」

「違うよ」



 双剣士について纏めてある書類を両手で上に掲げながらそう言ってくるエイミーに、努は机に肘をつきながら答える。ただ努は白魔導士がメインだったとはいえ『ライブダンジョン!』で全てのジョブをレベルカンストまではやりこんでいた。そのため双剣士の装備やスキルの使い方などは知っているのでアドバイスくらいなら出来た。


 それに光と闇階層では双剣士は取り合えずこれ持っとけといわれる、天地開闢てんちかいびゃくという名称の強力な双剣も宝箱からドロップする。他にも双剣士の装備知識ならば努に並ぶ者は存在しないため、そのアドバイスは非常に効率的である。



「でも双破斬続投で新しいスキルを使わないっていうのは、ちょっと意外だね。この十個だけでいいの?」

「高レベルで習得するスキルって、実戦で役に立たないことが多いからね。使う機会はあるんだろうけど、限定的な場面で使うことが多いんだよ。僕も七十レベルで覚えたオーバーヒールとか使ってないし、エイミーもまずは最初のスキルを固めていくといいよ」



『ライブダンジョン!』では初心者帯でも楽しめるよう、実用的で使用頻度が高いスキルは四十レベルになる頃にはほとんど使用出来るようになっている。それ以降に手に入るスキルは限定的な場面でしか役に立たないものが多く、上手く使わないと死にスキルになることが多い。


 現に努も七十レベルになって覚えた、一人を全回復させるオーバーヒールは一度試しで使って以降は使用していない。確かに一度でどんな怪我も回復させるという効果は強力であるが、そもそも必要な精神力とヒールヘイトが尋常ではなく高いため早々使える場面がないからだ。


 エイミーも七十レベルで覚えたスキルは刃を打ち鳴らしてクリティカル率を上昇させるというもので、これも効果と精神力消費が釣り合ってないのであまり使用していなかった。なので努の言っていたことにはある程度納得したし、それに今まで使い込んでいた双破斬を捨てなくていいとも言われて結構嬉しそうな顔をしていた。



「やー、てっきりもう双破斬とはお別れだと思ってたから、よかったなー」

「別に一番初めに習得したスキルだからって弱いわけじゃないからね。スキルも少しは応用も利くから使い込むのは悪い選択肢じゃないし、精神力管理の練習にもなるしね。これからはスキル中心で動いてみるといいよ」



 この世界では『ライブダンジョン!』と違って精神力が減ると気分が悪くなるというデメリットが存在するため、スキルに頼らない立ち回りをしている者が多い。エイミーは元の身体能力に戦闘センスもあるが、努から見ればまだ効率的なスキル回しが出来ていない印象があった。ただそれはエイミーだけでなく、全員に言えることだ。



「それにしてもわたしのためだけにこんなに色々書いてきてくれるなんて……ありがとね!」

「いいよ。これは事前に書いてたやつだし」

「ふーん。……ねぇ。事前に書いてたってことはさ、わたしがこの時期に聞いてくると思ってたわけ?」

「まぁ、そうだね」



 エイミーについては努もアタッカーの中で一人出遅れる可能性を考慮していたので、事前に対策は考えていた。九十階層で一軍に採用するかは微妙なところだが、百階層までにはアーミラやリーレイアに負けないアタッカーにしたいと思っている。


 ただエイミーから何か言われない限り知恵を貸すつもりはあまりなかった。そして受身のままではいけないことは彼女も薄々気づいていたのか、もにょもにょとした顔で努を見つめた。



「ほんっとうにツトムはわたしに冷たいよね! 少しは特別扱いしてくれたっていいじゃんー!! 迷宮都市一番のアイドルなのに!」

「特別扱いしたらしたでエイミーはどうせ拗ねるでしょ。実力で何とかしてくれ」

「ぜんっぜん拗ねないよ! だからもっとわたしを褒めて撫でてくれてもいいんだよ!?」

「九十階層の一軍にでもなれたら考えるよ」

「言ったね!? 今わたし記憶したからね! はい! 誓約書せいやくしょも書いてね!」

「どんだけ必死なんだよ……」



 紙とペンを取り出して押し付けてくるエイミーに引きつつも、九十階層で一軍に選ばれた暁には頭を撫でるという誓約書を努は書かされた。その誓約書をエイミーは宝物のように受け取ると、すぐに動いてリビングの扉を開けた。



「一応聞いておくけど、何処いくの?」

「ギルドでスキルの練習してくる! じゃあね!」

「明日に響かせない程度に抑えてね」

「うんー!」



 扉から顔だけ出してそう言い残すとすぐにどたばたと玄関で靴を履き替え、クランハウスを出て行ったエイミーを見送る。するとクリーム色の長髪をゆるくねじってハーフアップにして纏めているコリナが、頃合いを見計らったように出てきた。



「エイミーさん、元気ですね」

「アイドルやってるだけあって、メンタル強そうですしね」

「……そうですね。ここには、凄い人ばかりいてびっくりします」



 PTが全滅した直後だからか、コリナは触れたら壊れてしまいそうな儚い顔で微笑んでいる。そんな様子のコリナに努は目を線のように細めて腕を組んだ。



「コリナは全滅経験割とありますよね? 何でそんなに落ち込んでいるんですか?」

「えっ。それは、落ち込みますよ。あんな豪華なPTメンバーで全滅してしまったんですから……」

「確かに強いPTメンバーだったとは思いますけど、終盤は正直全員酷かったですよ。みんな新しいことを試した結果自滅したようなものですから、そこまで気にしなくていいと思いますよ」

「で、でも。ツトムさんなら全滅まではさせなかったですよね?」



 不安そうに目をきょろきょろとさせながら見上げてくるコリナに、努は腕を組んだ。



「僕と比較してもしょうがないでしょう。白魔導士と祈祷師は同じヒーラーですけどジョブは違いますからね」

「そ、そうですけどぉ」

「それに僕だって全滅させたことなんていくらでもありますよ」

「え? でもツトムさんって、まだ死んだことないって……」

「確かに神のダンジョンでは一度しかありませんけど、他のところでは失敗ばかりしてましたから」



 努も『ライブダンジョン!』では数々の失敗をしてきている。例えば自分がヘイト管理を失敗して早々に死んでしまったことや、回復対象を間違えてそれがきっかけに全滅など、数えきれないほどの失敗を経験している。


 他にも効率を拗らせて人間的に駄目な失敗もしてきて、ようやく今の形に落ち着いている。そのことを思い出すだけで努としては嫌な気持ちになるし、もっと上手くやれたらという気持ちもわいてくる。



「あっ……」



 だが『ライブダンジョン!』のことを知らないコリナにとっては、その失敗の意味合いが変わって聞こえていた。神のダンジョン以外での失敗、つまりは外のダンジョンでの全滅経験。それを努がしてきたようにコリナは勘違いして、何かを察したような顔をした。



「ツトムさん、無理にお話しにならなくても、大丈夫ですよ」

「……そうですか。確かにあまり話したくないことではありますので、助かります」

「はい……」



 コリナは看護師をしていた時に外のダンジョンで怪我を負った探索者も看護していたため、そういった話は何度も聞いたことがある。そして自分の黒歴史を思い出して苦々しい顔をしている努を、気遣うような目で見つめた。



「ツトムさんも、初めから出来たわけではないのですね……」

「そうですね。だからコリナも経験を重ねていけば上手くなりますよ」

「……はい。確かにここならば、ツトムさんと違っていくらでもやり直しが出来ますからね」



 そんなコリナの言葉に努は少し疑問を覚えたが、彼女は以前それほど恵まれていない環境で探索者をしていたことを思い出した。神のダンジョンで全滅すれば装備の大部分を失うことになるので、資金に余裕のないPTだとやり直しが出来ない状況に陥ってしまう。コリナにはそんな経験もあったのだろう。


 だが無限の輪は資金に余裕があるため全滅しようがいくらでもやり直しが出来る。それに最初から黒杖売却で資金に困らなかった自分に対する苛立ちもあったのだろう。そう努は捉えて安心させるような笑顔を作った。



「えぇ。そうですね。なので何度全滅しても構いませんので、頑張って下さい」

「……っ! はい、そうですね……そうですね。頑張ります……!」



 そんな努の笑顔はコリナから見ると自分を気遣って無理に作っているものに見えて、その感情を察してコリナは思わず涙ぐんだ。他の探索者からよく話を聞いていたが、外のダンジョンでの全滅を経験した者は心を病んでしまう者が多い。コリナもそんな探索者はいくらでも見てきた。


 しかし努は自分のためにそんな心の傷を見せてまで励ましてくれたのだ。感受性の高いコリナは思わず涙がこぼれてしまいそうになったが、何とか我慢して頭を下げた。


 そしてそんな二人の何処かずれた会話は解消されることなく終わったが、翌日のコリナは昨日の全滅を引きずることなく立ち回ることが出来ていた。


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