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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第六章
254/410

天国と地獄 

 八十一階層の構造は、当時の『ライブダンジョン!』でも少し話題になっていた。今までの自然的なダンジョンと違い、いきなり光と闇というワードが出てきたこと。そしてその構造も今までと様変わりしていた。



「うわー、綺麗っすねー」



 八十一階層に降り立ったハンナは周りの景色をキラキラとした目で眺めている。ハンナの言う通り辺りは宝石のように輝く綺麗な花が咲き乱れていて、さんさんと柔らかな日が照らしている。まるでメルヘン世界の中にでもいるかのような、のんびりとした空間がそこには広がっていた。


 努やゼノも予想していなかった光景に少し目を奪われていたが、ハンナほど感動した様子ではない。そしてリーレイアとアーミラに至っては、周りの景色を見て心底気色悪そうな顔をしていた。



「……新聞を見ていなければ、この景色も少しは楽しめたのだがね。だがあの様子だと、ハンナ君は新聞を見ていないのかね?」

「だろうね。そっとしておこう」



 宝石のような花を摘み取って一人きゃっきゃしているハンナに、ゼノは少し同情的な視線を向けていた。そして底意地の悪そうな笑みを浮かべた努は何も言わず、ゼノと共に花道を辿って八十一階層を進んでいく。



「おぉ! これはシルフの仲間っすか?」

「一応モンスター扱いだけど、無害だね」

「可愛いっす~」



 花の上に女の子座りをしている妖精のような見かけをした小さい天使たち。るんるん気分で一緒に走り回っているハンナは大分輝いて見える。だがそんな天使たちを見てアーミラは露骨に嫌そうな顔をして、リーレイアの肩に乗っているサラマンダーも口を閉じて我関せずと言わんばかりに沈黙していた。


 八十一階層には今のところ無害なモンスターしか存在せず、至って平和そのものである。最初は新たな階層に警戒していたハンナも、今では天使が作ってくれた花輪を頭に乗せて彼女らと一緒に遠足気分で歩いている。そして努は特にハンナを咎めることはなく、他の者たちは彼女が勧めてくる花や天使たちを露骨に避けていた。



「何でみんな天使さんたちと遊ばないっすかー? アーミラとかリーレイアはまぁわかるっすけど、ゼノは美しいっ! とか言って持って帰ると思ってたっす」

「……確かに美しいとは思うがね。だが天使を美しいと言って持って帰るというと、私が犯罪者のように聞こえるのだが?」

「奥さんと喧嘩別れした後も家の前で無理矢理寝泊まりするのは、多分犯罪っすよ」

「何故それをっ!?」

「この前奥さんと話してたオーリから聞いたっす」



 白い羽をぱたぱたと動かしている天使を手に乗せているハンナは、若干白い目で銀髪を気障ったらしく払っていたゼノを見つめた。そして神台に映像と音声を乗せている神の眼もしっかり付いてきているため、その事実は観衆へも伝わることとなった。


 脳天気な顔で話しているハンナに対して、大剣を背負っているアーミラは毒づいた。



「けっ、うちの避けタンクは脳天気なもんだな」

「アーミラがこの階層について知ってるのも意外だったけど、そういえば新聞読んでるもんね。そのキャラに似合わず」

「あ?」

「何でもないでーす」



 カミーユもアーミラが新聞を読んでいると聞いた時は大分驚いていたが、それは事実である。そして腹の底から出たような低い声を返してきたアーミラに、努は誤魔化すようにそっぽを向いた。



「サラマンダーもいつもより元気ないし、ここは精霊にも関係する場所なのかな」

「確かにそうですが、戦闘に支障はありません」

「わかってるよ」



 食い気味に言い返してくるリーレイアからも努は視線を逸らす。だが赤と緑の竜人二人組は、今回一軍を勝ち得ようと躍起やっきになっている節がある。なので努に対する実力アピールが凄まじかった。



「龍化は問題ねぇぜ。それに、龍化結びだって使える」

「この階層は先行しているアルドレットクロウやシルバービーストを見る限り、今まで見たことのないモンスターが多い。それに幽体系のモンスターも確認されています。柔軟に立ち回れる精霊術士が役に立つ場面が多いと思いますが?」

「あぁ? 幽体系のモンスターでも、スキル使えりゃあ倒せんだよ」

「はい? 別に貴女のことなど私は一度も口に出していませんが? ツトム、やはり彼女はPTの輪を乱します。それに比べて私はどうでしょう? 何も問題は起こしません」

「あ?」

「は?」

「少し落ち着け」



 努は二人の頭を冷やすように小さく纏めた撃つメディックをマシンガンのように連射した。そしてぱすぱすとほとんど効果のないメディックを受けた二人は、まるで反発し合う磁石のような勢いで離れた。



(まぁ、確かにリーレイアを起用するならここなんだけどね)



 八十一階層では光属性を持つ今まで確認されていないモンスターが出現するが、全体的に魔法耐性が低い傾向にある。それに九十階層主に対しても精霊術士は欲しい場面が多い。なので今のところ一軍に採用するアタッカーはリーレイアとディニエルが真っ先に浮かぶ。



(でも、龍化結びは大分面白そう。それに最近は龍化も相当安定してる。アーミラは全部、上げてきてるからなぁ)



 だが直感的にはアーミラの方が頼り甲斐がある。個人で全てを切り開いていった母の背中をただ追っていた彼女はもういない。以前の冬将軍戦を見て努は確信していた。今のアーミラは以前組んだカミーユよりも強いことを。そしてアタッカーとしてもディニエルに匹敵するほど、何処か任せられるような雰囲気が出てきた。


 九十階層主では努も全員に支援を回す余裕がないことも予想される。そうなるとアタッカーに対しての支援が手薄となり、どちらかにしか付与出来ない場面が出てくるだろう。


 だがアーミラには思わず支援継続したくなるようなDPSを叩き出す気配が、まざまざと感じさせられる。ディニエルやリーレイアにはない、何かやってくれるのではという期待。エースアタッカーの素質がアーミラにはあった。



(エイミーはPT総合で見れば大分機能するんだけど、個人力が少し劣るからなぁ。ディニエルとセットって感じが拭えない)



 エイミーも高水準のアタッカーであることに間違いはない。双剣士というDPS効率が良い部類のジョブに、彼女の戦闘センスも抜群に良い。だが本気を出さずとも弓術士トップであるディニエルに、龍化というユニークスキル持ちのアーミラ、それに全ての精霊を扱える恵まれた才能に、細剣の剣術も使いこなせるリーレイアと比べてしまうと、エイミーは一段落ちていると言わざるを得ない。


 勿論個人力だけでアタッカーの能力が決まるわけではない。エイミーには観衆を引きつける魅力があり、周りのPTメンバーたちとも上手く調和して立ち回ることが出来る。努から見るとエイミーは支援スキルを意識して立ち回ってくれるため、やりやすいことは事実だ。


 だが一軍に採用するかとなると難しい。以前二軍だったアーミラとリーレイアの冬将軍戦を見た後では、そう判断せざるを得ない。それに九十階層主も出血耐性が高いため、相性も大分悪い。そのため今回はエイミーを抜いて一軍アタッカーを選ぶことは、努の中で決まっていた。



「ん? 何かおっきい石があるっすよ?」



 努がそんなことを考えながら歩いていると、物理的に頭がお花畑になっているハンナが花道の先にある大きな石碑を指差していた。



「んー、一体何だろうねー。ハンナ、調べてきてくれる?」

「わかったっすー」

「…………」



 白々しい顔でハンナにそう言いのけた努に、ゼノが半分呆れた顔で大袈裟に首を振っている。リーレイアとアーミラもあまりいい目で努を見てはいないが、何も言うことはなかった。



「んー、これって……」



 近づいてみるとそれは石碑と言うよりも、墓に近かった。そしてハンナが墓に触れたと同時に、青々と晴れ渡っていた空は反転したように赤く染まった。



「え」



 地面に咲いていた花はみるみるうちに枯れ果て、その下からは骸骨が顔を覗かせた。人間の他にも獣や鳥の骨が花がなくなった地面からは見え始め、空からは血を思わせるような液体が雨のように降り注いだ。



「いたっ!」



 ハンナが頭に乗せていた花輪からは棘が生え、彼女の頭は途端にちくちくとし始めた。ハンナはすぐに頭を振って花輪を落とした。そしてその際に、自分の周りを飛んでいた天使が変貌していたことにも気づく。



「ひやぁぁぁぁ!?」



 天使の目はくぼんだように真っ黒で、可愛らしかった羽は穴だらけ。白い髪も所々抜け落ちて頭皮が見えていた。そんな天使とは言えないモンスターは、先ほどと同じようにハンナの周りを飛び回っている。



「ぎゃああぁぁぁ!? なんっすかこれぇぇ!?」



 八十一階層では稀にこのようなモンスターが出ない場所に飛ばされることがあるが、そこでは天国から一変して地獄に様変わりするような演出が発生する。そしてそれは努たちがスタンピードに行っている間にも発生していて、探索者たちが阿鼻叫喚する様は新聞でも報じられていた。


 八十一階層でそんな現象が稀に発生することは、クランハウスにある新聞を読んでいたハンナ以外の四人は知っていた。そのため慌てふためいて青翼をばさばさとしているハンナに対して、努は腹を抱えて笑っていた。そして他の三人も軽く笑った後、戦闘態勢に入った。


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