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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第五章
228/410

第二スタンピード開幕

 ブルックリンから魔袋の存在については知らされていたため、今までのように障壁の中で悠長に待ち構えていては敵に余裕を与えることになることはわかっていた。そのためクリスティアはこちらから打って出ることを決め、大手クランたちに準備を始めさせた。


 巨大なモンスターである老骨亀はルークの召喚したマウントゴーレムで抑え、大量にいるモンスターは迷宮制覇隊やアルドレットクロウを中心とした多くの精鋭で跳ね返す。そして今回の不安要素であるオルビスとミナについては、ユニークスキル持ちの紅魔団、金色の調べ、無限の輪の少数精鋭で対処することになった。



「少女の方は虫系のモンスター。オルビスは動物系のモンスターの特徴があると思われる。少女は甲殻が異常に硬いことが判明しているため、紅魔団に任せる。オルビスは金色の調べと無限の輪で当たれ。異論はないか」

「異論なーし」

「……問題ない」

「大丈夫です」



 レオン、ヴァイス、努はクリスティアの指示に頷くと、人が動き回っている中でクランごとに纏まり始める。そして総勢十人の無限の輪と、二十人ほどに厳選された金色の調べは隣同士に集まった。



「ふん、またお前と一緒なのですか」

「…………」

「は? 私を無視するとはいい度胸なのです!」

「うるさいな」



 相変わらずなユニスを努は杖で遠くに押しやると、準備運動をしているレオンに声をかける。連携についてはお互い邪魔にならない程度には出来るので、努はこの中で一番戦闘能力に長けているであろうレオンに合わせることにした。



「ほーう。そんなに期待してくれちゃうわけ?」

「今度は男が相手ですし、問題ないでしょう」

「ちょちょーい!! 別にそれは関係ねぇから!」



 ミナ相手に不覚を取ったことは努も知っているが、それでもレオンのユニークスキルと戦闘能力については信頼を置いていた。金色の調べというクランの評価は低いが、レオン個人の評価は中々に高い。


 他にもユニスの後輩である銀色の狐人や、顔見知りであるタンクのバルバラなどと努は言葉を交わした後、改めて無限の輪のクランメンバーを見据えた。



「アタッカー陣は無理しないように。あとアーミラ、大剣の振りはいつもより抑えてね」

「わかってるっつーの」

「ならいい。タンク陣は、アタッカーのサポートよろしく。多分ヘイト系のスキルは効かないから、そのつもりで立ち回ってね」

「あぁ」



 今回の相手は元人間で知性があるため、コンバットクライなどのヘイト系スキルは通用しないだろう。そのためタンクたちはその頑丈さを利用した戦闘をこなしていくことになるが、ガルム、ダリル、ゼノならば問題ないだろう。



「ハンナは今回アタッカー寄りで立ち回ってくれる?」

「……わかったっす」



 拗ねている様子のハンナは渋々といった様子で頷く。何やらハンナが努に反発していることは既にクランメンバー全員が把握しているため、特に驚いている者はいない。



「ハンナちゃ~ん。機嫌直しなよ~」

「ほ、ほっといてほしいっす」

「ツトムの愚痴ならわたしがいくらでも聞くからさ~」



 そんな中エイミーはいつもと違う様子のハンナをからかい、当の本人は邪険そうにしているが拒んではいないようである。そんな様子を見て先ほどまで心配していたガルムも少し呆れたような顔をしていた。



「そろそろ始まるから、気を引き締めてね」

「うんー」

「ツトムに言われなくてもわかってるっす!」

「はいはい。ならいつも通りで頼むよ」

「……むー」

「ハンナ。切り替えろ」

「は、はいっす!」



 軽くあしらわれたハンナはもにょっとした顔をしたが、ガルムに軽く背中を叩かれたことで切り替えたのかようやくまともな顔付きになった。


 そしてカンチェルシア家とバーベンベルク家の障壁が徐々に開かれていく。対モンスター魔道具を準備している騎士たちはここまで大きい規模のスタンピード戦は未経験のため、ほとんどの者が緊張した様子である。



「よし、問題ないな」

「新しいスキル試そーっと」



 アルドレットクロウに在籍している多くの高レベル探索者たちは互いの装備の点検をし始め、その中にはステファニーやビットマンの姿も見える。毎日しているためかその動きは訓練された兵士のように洗練されていた。



「ちょっと試したいことあるから、火竜貸してくれない?」

「了解です」



 マウントゴーレムに乗っているルークの提案を、召喚士の男は快く了承する。その他の召喚士たちも火竜やシェルクラブを召喚し、大型モンスターが集結し始めた。



「アルマ、大きいの一発お願いね」

「任せて」

「…………」

「ヴァイスからはアルマに何かないのー?」

「ちょっと、セシリア」



 少数精鋭の紅魔団はセシリアを中心に打ち合わせをしていて、ヴァイスは腕を組んでその話を黙って聞いていた。そしてセシリアに意見を求められたヴァイスは、黒い瞳を動揺したように揺らした。それから十数秒沈黙した彼は、じっとアルマの目を見た。



「……ツトムと話してから、アルマの空気が変わった。もう、問題ないだろう」

「そ、そうかしら?」

「期待している」

「…………」

「あー、凄いにやけてるー」

「う、うるっさいわねぇ! 別に嬉しくなんてないんだからっ!」



 セシリアにからかわれて耳まで真っ赤にしているアルマに、ヴァイスは不思議そうな顔をしている。そんなヴァイスを見て周りのクランメンバーたちはどうしたものかと首を振っていた。



「じゃ、いっちょやりますか!」

「あまり無茶は駄目なのですよ」

「わーってるよ。安全第一で頼むぜ!」

「おー!」



 二十人に絞って編成された金色の調べのクランメンバーたちは、元兵士や傭兵経験者の女性が多い。金色の調べはアタッカーのレベルが高く、女性ではあるが戦闘経験が豊富な者ばかりである。そんな彼女たちが惚れ込むレオンの実力も高く、ヴァイスやカミーユが一目置くほどである。



「障壁を開ける! 総員、準備は出来ているか!」

「うるさいなぁ」



 バーベンベルク家の号令を隣で聞いているブルックリンは嫌そうな顔をしながら、次々と障壁を開閉させて探索者たちを円滑に前へ進ませていく。何重にも張られた障壁の中を一枚ずつ進んでいく探索者を見ているブルックリンは不満げだ。


 そして空に浮かんでいるクリスティアは全員出撃準備が出来たことを確認すると、拡声器を手に取った。



「総員出撃。スタンピードを殲滅せよ」



 ただ事実を告げるようなクリスティアの淡々とした声と共に最後の障壁が開き、探索者たちは一斉に出撃した。



 ▽▽



 気づけば地平の彼方までの数が出揃っているモンスターの群れは、普通の者が見れば圧倒されるだろう。現に障壁内の安全圏で魔導砲の装填をしている騎士には余裕がなく、ブルックリンも数万を超えるモンスター相手に数百人で出て行った探索者たちには懐疑的な目を向けていた。



「デカいのはマウントゴーレムで対応するから、周りの雑魚よろしく!」

「はーい!」



 気安くクランメンバーと声を掛け合うルークは、バリアで覆われたマウントゴーレムの頭に座っている。そしてマウントゴーレムは先ほどと違って大分赤みが増していた。


 マウントゴーレムは最初動きが鈍く、その間は身体からゴーレムを作り出して自身を守らせている。そして時間が経つにつれてその身体は赤みが増し、運動能力が上昇していくようになっている。


 七十階層に何度も挑んでは殺されているルークはその構造もよく理解しているため、先ほど火竜のブレスでマウントゴーレムの身体を温めていた。それによって赤みを増したマウントゴーレムの運動能力は上がり、既に中盤以降の性能となっていた。



「いっけー!」



 ルークを頭に乗せているマウントゴーレムはその巨体に見合わぬ素早い動きで走り出し、地上のモンスターは軽く蹴散らしながら老骨亀目掛けて進んでいく。あれほどの巨体があそこまで素早く動くのは異質で、初めてマウントゴーレムを見た者たちは驚いている様子だ。



「滅茶苦茶やりやがるなぁ」

「ルークに続け続け!」

「最初からあの状態はずるくない?」



 老骨亀の顔面に飛び膝蹴りを浴びせているマウントゴーレムを見て、七十階層で散々苦しめられた探索者たちは楽しげに笑っている。そしてマウントゴーレムによって作られた一本道に火竜やシェルクラブが続き、他の探索者も続いた。



「雑魚は私たちで引き受ける。無限の輪、金色の調べ、紅魔団は先へ進んでオルビスを自由に動かすな。倒すのが厳しければ時間を稼ぐだけで構わない」

「あいよー」



 暴食龍から作られた弓から放たれる一矢で数十体のモンスターを一度に倒しているクリスティアは、三つのクランにそう指示する。そして三つのクランも段々と閉じ始めた道に入っていく。


 一見すればモンスターの群れの中に入っていくことなど、自殺行為に見えるだろう。装備を着たゴブリンやオーク、コボルトで構成された軍隊のようなモンスターたち。それに地中へ潜む虫系のモンスターに、空には翼を持ったモンスターも滞空している。


 確かにある程度の装備を固め、人の意思によって配置されたモンスターたちは脅威だろう。いつものスタンピードとは勝手が違うことは事実だ。



「三でコンバットクライだ。行くぞ、一、二、三!」

「コンバットクライ!」



 だが嫌な場所に配置されているとはいえ、所詮は知能の低いモンスターであることには変わりない。闘争本能を刺激されるコンバットクライ、ウォーリアーハウルなどで容易に釣り出せることは変わりなく、迷宮制覇隊を中心とした部隊によってモンスターたちは上手く分散されていく。



「双波斬!」

「♪」



 シルフと契約しているエイミーが放った双波斬は、迫り来るモンスターたちの足を真っ二つに切断した。上から奇襲を仕掛けようとしたワイバーンはディニエルや他の弓術士の矢によって倒れ、地を這う虫系のモンスターは黒魔道士などの放つスキルによって焼かれていく。


 タンクたちによって分散されて壁が薄くなったモンスターの群れでは、高レベル探索者たちの進撃を止めることは不可能だ。一日のほとんどを神のダンジョン探索に費やしているアルドレットクロウを筆頭に、大手クランの探索者たちはモンスターと戦うことこそが日常だ。それも普段は五人という限られた人数でモンスターを捌いている、一騎当千の者。その者たちが数百人で手を組んで戦うとなれば、相手になれるモンスターは限られる。



「なんか火竜っぽいの出てきたよ! アタッカーあと四人くらいこっち来て!!」

「おい、あのタンク囲まれすぎだろ! 誰か援護してやれ!」

「あー、大丈夫、大丈夫。いつもと違って支援と回復めっちゃ来るし。余裕っす」



 大量のモンスターから一人のタンクは袋叩きにされていたが、彼は数人の祈祷師に願われているおかげで延々と回復されていた。全体支援をかけている音楽隊によって今回ヒーラーは支援スキルを使用しなくていいため、この状況では回復に専念することが出来る。更にヘイトも多くのタンクが引き受けてくれるため、モンスターを怖がることもない。



「メテオ!」

「メテオ!」

「メテオストリーム!」



 他にも数十人の黒魔道士たちから放たれるスキルでの圧倒的な面攻撃に、複数の様々な姿形をした精霊たちが一斉に放つ精霊魔法。更に吟遊詩人によって構成された音楽隊の常時支援など、普段の五人PTという枠組みでは有り得ないことがスタンピード戦では行える。


 そんな探索者たちが相手ではたとえ人によって配置されて装備を着込んだモンスターでも相手にならず、女王蜘蛛クイーンスパイダーや火竜などの大型モンスターでなければ話にならない。



「上空から複数の竜を確認。地上からも大蛇の出現が確認された。引きつけは既にこちらで行っている。竜はアルドレットクロウ、大蛇は無限の輪が当たれ。紅魔団、金色の調べはそのまま二人を抑えろ」



 ただスタンピード側もそのことは予測していたのか、すぐに老骨亀の他にも大きなモンスターが出始めていた。クリスティアの指示に大手クランたちは従い、迷宮制覇隊から送られた案内役の者に付いていった。


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