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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第四章
178/410

エイミーおねえさんとゼノおにいさん

「ふぅ」



 金色の調べのヒーラーである狐人のユニスは、軽く息を吐いて黄色のふわふわとした尻尾で地面を叩く。その隣には同じヒーラーである後輩の狐人が、銀色の髪に付いた雪をふるふると払っている。



(まだまだ、こんなものじゃ駄目なのです)



 ユニスはステファニーと比べてヒーラーにとって基礎的な部分は劣る。ロレーナのように独自の立ち回りを使うことも出来ない。だがしかし、置くスキルや撃つスキルの習得期間は一番短い。それに努が行っていた避けタンク兼任ヒーラーを一番間近で見た者でもある。



「ヘイスト」



 ユニスは努がやっていたように避けタンク兼任ヒーラーを練習している。現状はただの劣化タンクと化しているため、普通にタンクを入れた方がいいレベルだ。だがユニスは暇があれば避けタンクをこなす練習をめげずにしていた。



(あいつを越えるには、まだ足りない)



 全ては努を見返すためだ。あのいつもにたにたしている憎たらしい顔を崩してやりたい。その一歩としてユニスはお団子ヘイストを開発し、実戦投入出来るレベルまで鍛えている。このおかげでレオンはヘイストが切れる前にいちいちヒーラーの下に戻る必要がなくなったため、お団子ヘイストは一定の評価を受けていた。


 だがこれだけではまだ努をあっと言わせるには遠い。そのため最近ユニスは撃つスキルにも着目していて、何か努と違うことが出来ないか試している。


 ユニスが色々なことを考えながらレオンに付いていくと、隣を歩いている後輩のヒーラーは彼女の持っている白杖をじっと見た。



「先輩の装備って、あれですよね。あのツトムと同じですよね?」

「ん? そうなのですよ」

「もしかしてファンなんですか?」

「は?」



 意味深な目でそんなことを言ってきた後輩に、ユニスは拒絶するような声を返す。



「そんなわけないのです! あいつのファンになるなら死んだ方がマシなのです!」

「えぇ……。でも休みの日とかいつも神台であの人のこと見てますよね?」

「ふん。あいつの人間性なんて骸骨スケルトン以下だから、視界に入れたくもないのです。でもヒーラーだけは上手いから、仕方なく見ているだけなのです」



 ユニスは努と同じ物である白杖を握る。まずは形からとユニスは努と同じ装備を購入し、自分の体型とわざわざ合わせている。ダンジョン産の装備は加工するのに結構なお金がかかるのだが、ユニスは構わずに装備を揃えた。


 努のことは金色の調べに来たときやスタンピード戦、火山での指導などを経ても未だに嫌いであるが、ヒーラーとしての実力だけは認めていた。だからこそユニスは努の装備を最初に真似たのだ。それは最適解を選ぶということもあったが、一番の目的は同じ装備で努を負かしたかったからである。


 そして練習と実戦を重ねてきたのだが、まだまだ上手くいっている実感はない。にも拘らず肝心の努は最近シルバービーストの一番弟子とやらと一緒にダンジョンに潜っていたので、ユニスは若干腹が立っていた。



(今に見てろなのです)



 ユニスは努を見返すために、今日もヒーラーとしてダンジョンに潜っている。



 ―▽▽―



「ふぁ~あ」



 ユニスが打倒ツトムの野望をはせている時、当の本人は雪原階層に入った途端に大きな欠伸をしていた。すると隣にいるエイミーが様子を窺うように覗き込んでくる。



「ツトムがダンジョンで欠伸なんて、珍しいね」

「そうかな」

「そうだよ!」

「そうだね」

「ほら! なんか返事も適当だし! 昨日の夜なにかしてたの?」

「ちょっとスキルの練習をしててね。まぁ迷惑はかけないから」



 お団子ヘイストを再現しようと青ポーションを片手に部屋で練習していたら、気づけば朝だった。徹夜明けの努は栄養ドリンク代わりにポーションを飲み、エイミーをしっしと払った。



「はっは! 寝不足かい? なら今日は私に任せてくれたまえよ!」

「いーや! わたしに任せて!」

「ふっ。エイミー君は最近PTに参加しきりだろう? そろそろ休んだ方がいい」

「眩しっ! ちょっと近寄らないで! 眩しい!」



 すると今度は耳にがんがんとくる声を発しながら、ゼノが白い歯を輝かせながら絡んでくる。そして負けじとエイミーもやって来たがゼノの鎧から溢れる輝きに目潰しをされていた。


 その背後では今にも混じりたそうにうずうずしているハンナと、クランリーダーなのに情けないと努を睨んでいるアーミラが大剣を肩に担いでいる。今回のPTメンバーは、タンクがハンナとゼノ。アタッカーはエイミーとアーミラ。ヒーラーは努といったくせ者揃いとなっている。



「エンバー!! オーラ!!」



 白魔道士の努がヒーラーとして雪原階層に潜る時は、祈祷師のコリナと違いダンジョンの環境対策が出来ない。そのため環境対策の道具が必要になるわけだが、聖騎士のゼノが持つエンバーオーラが非常に役立つ。


 そしてエンバーオーラを付与された努は、目に悪いくらい輝いている自身の身体を見やった。



「……これ、光量抑えられないの?」

「……そうか。今日はコリナ君がいないのか。では仕方ない」



 ゼノは心底残念そうに肩を落とすと、パチンと指を鳴らして銀色に輝くエンバーオーラの光量を抑えた。ディニエルが見ればゼノに向けて弓を構えそうな光景ではあるが、幸いにも彼女は神台を見ていない。光量の抑えられたエンバーオーラを全員に付与したゼノは、自分のものだけ異様に輝かせていた。


 するとエイミーがゼノへ返すように指をパチンと慣らした。それを見たゼノは片眉を上げた後に笑うと、再び返すように指を鳴らす。


 パチン、パチンと二人が指を鳴らす音が合っていくと、ゼノがいきなり凛々しい声で歌い始める。するとエイミーもデュエットして同じような歌を歌い始めた。困惑する努の横でハンナが必死に指を鳴らそうとしているが、肌が擦れる音しかしない。


 神の眼が二人の周りをくるくると周り、ハンナも混じり始めようとした頃。その大きな歌声を聞いて近寄ってきた雪狼がゼノに飛びかかる。するとゼノは銀色の盾を雪狼の顔面に叩き込んだ。



「よし。では次の演目は、雪の上でダンスと洒落込もうではないかっ! 乱舞のエイミー君! 君の得意な演目だろう!?」

「よーし! 行くよっ! 双波斬!」



 銀の盾を掲げたゼノに軽く剣を合わせたエイミーは、背後を守るように位置取って双波斬を飛ばす。ハンナはその早い展開に付いていけずキョロキョロとしている。



「いつから俺らのPTは劇団になったんだ?」

「いや、知らんけど」



 ぺっと唾を吐いて龍化したアーミラに努はヘイストをかけると、踊るように戦っている二人にも支援をかける。ハンナもようやく正気を取り戻したのか雪狼のヘイトを取り始めた。



「踊れ踊れ! こんなものではないだろう!?」

「うわー! なんか光ってる!?」



 気づけばゼノと同じようにエイミーのエンバーオーラの輝きも増している。雪が光を反射して非常に眩しく、雪狼もその光量に思わず怯んでいる様子だ。



(お前ら仲いいな)



 二人とも同じエンターティナーの雰囲気がしたので努は合わないと思っていたが、意外にもゼノとエイミーの相性は良いようだ。王都で有名な劇団の定番曲を歌いながら、二人は次々とモンスターを倒していく。



(ユニットでも組めばいいんじゃないかな)



 神台の前で観衆に手を振るエイミーおねえさんとゼノおにいさんを努は想像しながら、無駄に光っている二人を中心に支援した。そして雪狼を殲滅し終わると、ゼノとエイミーはお互いを褒め称えていた。



「少しはやるみたいだね」

「ふっ。そちらこそな」

「凄いっすね二人とも!!」



 やんややんや言い合っている三人に、アーミラはガキのお遊びでも見るかのような目を向けている。ちなみに三人は全員アーミラより年上である。



「おい、あいつらダンジョン舐めてんだろ」

「ま、多少の悪ふざけは目を瞑ろうよ。初階層とか階層主戦じゃないんだしさ」

「ちっ。それじゃあアレか? 俺も歌えなきゃ駄目なのか?」

「たまにはそれもいいんじゃない? ちょっと歌ってみれば?」

「あ?」

「悪かったよ」



 凄んできたアーミラに努はまぁまぁと手をやる。



「勿論ふざけすぎるのも駄目だけど、真面目すぎるのも良くないよ。最近アーミラは根を詰めすぎ。そんな焦らなくても成長してるから心配するなよ」

「うるせぇ。俺はまだまだ強くなる。立ち止まってる暇なんざねぇんだよ」

「大丈夫だって。僕が保証してるんだから」

「……ほんとうぜぇわ、お前」



 アーミラはジト目で努は少し見上げた後に、けっ、と雪を蹴ってどすどすと歩いて行った。


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