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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第四章

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迷宮マニアへの一歩

「突破出来たみたいだね。おめでとう」



 四人PTで七十九階層の探索を終えてクランハウスに帰ってきた努は、その途中の騒ぎでダリルたちが七十階層を一回で攻略出来たことを知っていた。努の言葉にダリルは頭を下げ、ディニエルは軽い返事を返した。


 ゼノは七十階層からギルドへ帰った途端に待機していた妻に引きずられていったので、クランハウスにはいない。コリナはオーリが戦勝祝いに用意していた豪華な夕飯の前菜をばくばくと食べている。



「当然だろ。負けてたらぶっ飛ばしてたところだ」

「おめでとうっす!」

「ありがとうございます!」



 一緒に帰ってきたアーミラとハンナもダリルに賛辞の言葉を送る。努は祈祷師の活躍が大きかったと言うことを聞いていたのでコリナを褒めると、彼女は食事の手を止めて恐縮したように何度も頭を下げた。



「今日は、私も見学させて頂きました。……あまり無茶はしないで下さいね」

「えっと、はい。善処します」



 心配ではあるがあまり差し出がましいことを言えないオーリは、無理矢理作ったような笑顔でダリルへ食器を渡す。そんな彼女の様子に何だか申し訳なくなったダリルは後ろの黒い尻尾を下げた。


 そんなオーリの様子に気づいた努はポケットに入っていた球体のウンディーネを机に置いた後、二人に話を振った。



「僕は見れなかったから、七十階層のことちょっと話してよ」

「あ! 私も聞きたいっす!」



 そうして夕飯を食べながら依頼組PTの話が始まり、ダリルを中心に七十階層の総括が話されていく。無言のディニエルのことを少し気にしているダリルは、当たり障りのないことを話しながら食事を進めた。


 途中からディニエルが手を抜いていたことにダリルは気づいていたが、別に彼女は相応の仕事をしていた。むしろ自分より活躍しているといっても良い。なのでダリルはディニエルに対して何も言えないし、彼女も気にしていないので口にしない。


 コリナもまだ自己評価が低く周りには強く出れないため、ダリルやディニエルに対しては何処か遠慮がちだ。なのでダリルが少し無茶すぎる行動を取っていたことや、ディニエルの手抜きに対して口をつぐんでいる。



「そんな感じで突破出来ました」

「……ふーん。そうなんだ。いやでも、一回で突破出来るとは正直思ってなかったよ。お疲れ様」



 そんな三人の微妙な雰囲気を努はある程度察し、ほとんど口を挟まずに食事をしているディニエルに目をやった。そして不思議そうに首を傾げたディニエルに努は苦笑いを零すと、キッチンにいるオーリに視線を投げかけた。



「オーリさんから見て三人はどうでした?」

「……いえ、私自身まだダンジョンには詳しくはない素人ですので、変に口を挟むのはよくないかと」

「いやいや、最近はちょこちょこ神台見ているって聞いているので、大丈夫ですよ。何か気になることがあったのなら言ってみてもらえますか?」

「……わかりました。では少々お待ちを。資料を持って参ります」



 桶に水を貯め終わったオーリは見習いに皿洗いを任せると、小走りで二階へと上がっていった。そしてすぐに紙の束を持って帰ってきた。その紙の量に皆一様に驚いている様子である。



「これは迷宮マニアの方に作成して頂いた資料になります。これを元に評価をするならば、今回の七十階層攻略は快挙と言えるでしょう。ただし問題がなかったわけではありません。まずダリルさん」

「は、はい」

「今回は明らかに無茶をしすぎです。一歩間違えれば貴方は間違いなく死んでいたでしょう。……それに周りの見える貴方ならもっとゼノを上手く使えたはずです。何故一人でのタンクに固執したのか、これがわかりません」

「す、すみません」



 先ほどとは打って変わってばしばしと意見を言ってくるオーリに、ダリルは犬耳を硬直させながら謝った。そしてその隣で欠伸をしているディニエルにも矛先が向いた。



「貴女も欠伸をしている場合ではありませんよ、ディニエル。貴女はゼノとメルチョーが死んだ時、明らかに手を抜いていました。あれはどういうことですか?」

「別に。もう無理だと思ったから矢を節約しただけ」

「ならばせめて他のPTメンバーに声をかけるべきです。自分の意思だけで仕事を放棄するなど言語道断です」

「…………」



 そう言われたディニエルは無言になったが、引く気はないのか依然としてオーリをじっと睨んでいる。わざわざオーリが資料を持ち出して議論し始めたことに努は興味深そうにしていて、他の者たちは彼女の機嫌を損ねたくないのかそっと食卓から離れている。



「コリナはどうだったんです?」

「コリナさんにはそこまで悪いところは見受けられなかったと思います。良ければ資料の方、ご覧になりますか?」

「あ、どうも」

「……こっちに飛び火してくる前に退散するぞ」

「……待避ー。待避するっすー」



 オーリから資料を受け取った努は食いつくように中身を読み込んでいく。その様子を見てハンナやアーミラは小声でそそくさと食器を片づけて二階に避難し、リーレイアも二人に連れられていった。机に置かれていたウンディーネはぷるぷると震えている。


 その後三人はオーリと努にたっぷりと聴取され、流れで反省会が行われることになった。



 ―▽▽―



「おぉー」



 エルフ特有の長い耳を毛糸で編まれた防寒具で包んでいるディニエルは、以前とはまるで違う感覚に声を上げていた。コリナの使用した冒険神の加護により寒さに耐性がついたディニエルは、防寒具さえ着ていれば普段通りの力を発揮出来るようになっている。



「ぬ? 何だい二人とも! 元気がないではないか!!」

「……いえ」



 昨日オーリと努に付きっきりで反省会をやらされたダリルとコリナは、これからやるべきことを考えて難しい表情をしていた。ダリルは限界の境地にこだわりすぎないこと、コリナはスキル回しと効果時間の把握について練習するように言われている。


 昨日のオーリはいつもと違い何だか逆らえなさそうな雰囲気があり、ダリルは首を縦に振ることしか出来なかった。コリナも努に死を予見する死神の目については褒められていたが、彼にとっての祈祷師の基本である立ち回りを勧められていた。


 ちなみに今は元気なゼノも昨日妻にこっぴどく叱られているため、そこまで脳天気なわけでもない。ディニエル以外は全員自身の成長を望んで悩み、その光景を見ているメルチョーは微笑ましそうにしている。


 そして依頼組PTは七十階層突破後も、休むことなく七十一階層の雪原の攻略に取りかかった。とはいえ雪原階層の情報は努率いる攻略組PTが知り得ているため、依頼組PTは黒門捜索に手間取ることはない。


 それに雪原階層は景色がほとんど白いため、真っ黒な黒門は比較的見つけやすい。雪原階層の環境はコリナのスキルによってかなり軽減出来るため、寒さも全員問題はない。


 モンスターは基本群れで襲ってくるため脅威ではあるが、事前に知っていれば対処出来る範囲である。特に雪原階層で動きを早く慣らしたいディニエルが率先して狩っていったため、特に苦戦するような戦闘はなかった。


 雪原階層にもボルセイヤーと同じ中ボスのようなモンスターは存在するが、今回は黒門に絡まないランダム出現のため依頼組PTは運良く出会うことはなかった。


 そうして依頼組PTは時々モンスターの対処に追われながら二日に一階層のペースで進んでいき、おおよそ三週間で八十階層までたどり着くことが出来た。


 八十階層に続く黒門を前に、メルチョーが感謝を表明して目礼する。



「ご苦労さんじゃ。年寄りのわがままに付き合ってくれてありがとの」

「いえ、こちらこそありがとうございました」



 ダリルは七十階層突破後にメルチョーがわざと死んだであろうということを、オーリから聞いていた。だが七十階層でメルチョーが死ななければ自分は限界の境地には至れなかった。そのことだけはわかっていたのでダリルは頭を下げた。


 その後メルチョーは一人一人に言葉をかけた後、一度八十階層に潜って取りあえず死んですぐに転移出来るようにした。メルチョーは吹雪対策や魔流の拳に使う魔石を確保した後、本腰を入れて八十階層に挑むとのことだ。


 そうして無限の輪が攻略組PTと依頼組PTに分かれて、二ヶ月が経過した。メルチョーとの依頼も終わりまた一つのPTへと戻った無限の輪。そのクランハウスの扉を叩く者が二人いた。


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聖騎士ウザすぎて、読むのやめるわ。 気持ち悪い。 、
[気になる点] ディニエルいい加減ウザイな
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