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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第四章
165/410

死神の目

「皆さん! 爆撃が来ます! 一度上空に上がって下さい! メルチョーさんは僕が背負います!」



 マウントゴーレムがボムゴーレムを大量に振りまいて爆撃の準備をしだすと、すぐにダリルが指示を出して全員が空に待避しだす。一応メルチョーが上手く飛べないことも考慮し、ダリルは肩を貸して上空に上がっていく。



「水」

「へぇ?」

「水筒ちょうだい」

「あ! はい!」



 ダリルの指示通りに上空で待機していたコリナはディニエルに促され、背負っていたマジックバッグをごそごそとして水筒を取り出す。冒険神の加護で暑さは大分軽減されているので以前よりは楽だが、それでも一時間経てば多少喉がかわく。空になった水筒と交換したディニエルは少し水を口に含んだ。



「コリナ君。私にもくれるかな?」

「どうぞ」

「ありがとぅー!!」



 荷物持ちも兼任しているコリナはゼノにも水筒を渡そうとした。すると下から突き上げるように轟音が響き、コリナはびっくりして手にしていた水筒を落としてしまった。それを素早い動作で拾ったゼノはその中身を自身の頭にばしゃばしゃとかけ、銀髪をバサッと掻き上げる。



「おや、これは……水も滴るいい男というわけか」



 そんな言葉をぬかすゼノを無視してコリナが慌てて下を見ると、マウントゴーレムが両拳を地面に叩き付けて溶岩を噴出させていた。そして地表から吹き出る溶岩に触れたボムゴーレムが次々と爆発していき、地面が炸裂していく。



「はぁ~。怖いですねぇ」



 コリナは気が抜けたようにため息を吐いた後、戦々恐々とした様子で地上にいるマウントゴーレムを見ている。火竜戦の時もそうだったが、コリナは七十階層に挑むのはこれが初めてである。なのでマウントゴーレム全ての行動が初体験なため、休憩中でも心が全く落ち着かなかった。



「今のうちに皆さんは精神力を回復しておいて下さい。これから先はどんどん余裕がなくなりますので」

「は、はい」



 思わず姿勢を正しそうになるほど真面目なダリルの雰囲気に、コリナは手を後ろに組みながら頷く。そしてゼノに声をかけにいったダリルの背中を見送った。


 勿論コリナとて神台を見て予習は行っているが、やはり実戦となると勝手が違う。そのため的確な指示を出してくれるダリルはとても頼りになる。ただコリナの記憶ではダリルも一度しかマウントゴーレムを倒していないはずなのだが、まるで何回も倒しているのではと錯覚するほど彼は全体的な指示出しが出来ていた。



「ゼノさん。ゴーレムが十体を切ったら僕と交互にマウントゴーレムの抑えに入って下さい。その時になったら伝えますので」

「了解した」



 そしてそのことはゼノもわかっているのか、今回は火竜戦の時とは違いダリルの指示に従う素振りを見せていた。それはダリルの指示出しが良い証拠である。



(凄いなぁ……)



 やはり自分とは違う立場にいるのではないかと思うほど、ダリルの姿はコリナから見ると輝いて見える。ギルドでユニークスキル持ちの探索者、レオンやヴァイスを見かけた時と同じような感覚だ。



「あ、コリナさん。これからは無差別の熱線が飛んでくるので、灼岩のローブでしっかり防いで下さいね。あとは全体攻撃が来るまではいつも通り支援して頂ければ大丈夫です」

「はい。あ、お拭きしましょうか?」

「あ、すみません。ありがとうございます」

「失礼しますね」



 鎧に冷却用の氷魔石を補充しながら汗を垂らしているダリルにコリナはそう言うと、マジックバッグからタオルを取り出した。そして浮かびながらダリルの後ろに回って首回りからしっかりと汗を拭き始める。


 しっとりとしている黒髪をわしゃわしゃとタオルで拭き、最後に垂れた犬耳を揉み込むようにして汗を拭き取る。そのまま犬耳をほじるようにして仕上げたコリナを見ていたディニエルが、手をポンと叩いた。



「その手があったか」

「あはは……」

「え? 何ですか?」



 がしゃがしゃと氷魔石を鎧に補充していたダリルは、何故か訳知り顔をしている二人を見て首を傾げていた。


 そして地上のボムゴーレムが全て爆発し終わったことを確認すると、ダリルが先んじて味方と距離を取った後にコンバットクライをマウントゴーレムへ飛ばす。それを皮切りに中盤戦が開始した。


 地面に撒かれたゴーレムたちは先ほどよりも数が少なくなったが、代わりにマウントゴーレムの動きは潤滑油を差されたように滑らかである。それはダリルへの負担が高まることを示している。


 コリナもそのことはわかっていたのでダリルへの回復を重視する意識はしているが、かといってゼノへの支援も忘れるわけにはいかない。少なくなったとはいえゴーレム集団はまだ二十体以上存在するため、先ほどのように囲まれて袋叩きに遭えばすぐに死んでしまうだろう。



(うん。無理だ)



 コリナはダリルとゼノに支援回復をしながらアタッカーにも願いを飛ばそうとしたが、この調子では無理だと感じて諦めた。


 以前神台で見ていた無限の輪のマウントゴーレム戦。その中で見た努の支援回復をあわよくば真似しようと思っていたが、実戦を通じてとても真似出来ないと実感した。


 タンクへの支援回復に加えてアタッカーへも支援をし、全体の指示出しを行って攻撃スキルまで使う姿はコリナから見れば無茶苦茶である。支援スキルの時間管理だけで頭は一杯になるし、タンクがどの程度被弾しているかも随時確認しなければならない。そしてそのどちらかを怠ればタンクが途端に崩れ、PT全体の危機に繋がるだろう。


 努の行っている立ち回りなどとても真似出来ず、最低限の支援回復しか出来ない。指示出しなんてそもそもしたことがないし、攻撃スキルなんてスキル名を忘れてしまうほど使用していない。


 その努の立ち回りだけでもヒーラーから見れば驚愕に値するが、コリナはその中でも精神力管理とヘイト管理には度肝を抜かれていた。


 精神力管理だけならばまだコリナにも真似出来そうだった。祈祷師は聖なる願いで精神力を自分で回復出来るし、いざとなれば青ポーションもある。努も度々青ポーションを使用していたので、費用にさえ目を瞑れば誰でも真似出来るように見えた。なのでコリナは最初それを真似しようとした。


 しかし実戦で何も考えず努のようにどんどんと支援回復や攻撃スキルを使えば、ヘイトを取り過ぎてすぐにモンスターの標的となる。それはアルドレットクロウの二軍三軍の白魔道士が証明しているし、祈祷師のコリナでもそうだった。


 勿論それはヘイトを取れる優秀なタンクの存在があるからということもあるが、それを抜きにしても明らかにおかしかった。それを努に聞くと支援スキルに込める精神力を場合に合わせて変えているとのことだが、そんなことをすれば効果時間も変わってしまう。そうなれば支援管理もままならないはずだ。



(いや、無理無理。私は自分に出来ることをやろう)



 努の真似をしたところで頭がこんがらがって支援回復が疎かになることは目に見えている。それよりかは最低限だろうがタンクだけは崩れないよう支援回復に集中する方がいいし、事前に努からも自分の立ち回りを信じるように言われていた。


 このPTメンバーはとても強い。前のようにギルドの斡旋で組んでいたPTとは比べものにならない。タンクはヒーラーが狙われないよう十分にヘイトを取ってくれるし、支援回復を切らさなければ死ぬ気配がない。以前のPTでは支援回復を完璧に行おうが死の気配がぷんぷんと漂っていた。


 アタッカーには特有のプライドというものはなく、罵声も飛ばさない。それどころかタンクに対して気を遣っているような節が見られる。にもかかわらずモンスターを倒す攻撃力は十分にあり、とても頼りになる。



(私が無茶をした方が逆に危険だよね)



 死の気配を感じ取る勘を頼りに蘇生の祈りを事前に複数使ったり、自腹で生臭い青ポーションをがぶ飲みしなくともこのPTは問題ない。それはここまでの戦闘でわかっていたので、コリナはタンクの支援回復に努めることにした。



「ディフェンシブ」



 VITが上昇するスキルを唱えながらダリルはマウントゴーレムの拳を大盾で受け、大きく吹き飛ばされて地面を転がる。だが六十レベルを越えてディフェンシブをかけたダリルのVITはA+まで上がり、ガルムよりも二段階高い。


 それに支援を受けて更に一段階上昇しているし、ドーレンの作成した重鎧もその頑丈さを更に引き立てている。そのためマウントゴーレムの拳や蹴りは痛い攻撃ではあるが耐えることは出来る。


 ただ掴まれたり踏みつけられたりすれば即死で、熱線攻撃も対策していなければ瀕死の重傷を負う。今回は熱線攻撃には対策しているので問題ないが、もしそれがなければ非常に厳しい戦いを強いられることになる。


 マウントゴーレムに殴られては吹き飛び、ディニエルの合図が聞こえると多少の被弾覚悟で出来るだけその場に留まらせる。そんなダリルの行動に合わせて癒しの願いや祝福の光を複数展開し、スキルを回して重点的に支援回復を行っていく。


 時偶放たれる熱線攻撃もダリルの着ている赤鎧には効いていない。ドーレンが前回の反省を活かして改良を加え、灼岩のローブの効果を再現することに成功した渾身の一作。その前では熱線の威力は無と化す。


 それにダリルのマウントゴーレムを相手にする立ち回りが素晴らしい。マウントゴーレムとの距離が近すぎれば掴み攻撃や踏みつけをされ、遠すぎては遠距離攻撃の岩散弾やゴーレム生成をしてくる。だがダリルは常に中距離を保って熱線攻撃や殴り蹴りなどの攻撃を誘発させていた。


 勿論そういった攻撃も強力ではあるが、即死の拘束攻撃や味方を巻き込みかねない遠距離攻撃をされるよりかはマシである。それはギルド職員でのマウントゴーレム戦でガルムがしていたことだが、ダリルはそれを神台で見て完璧に真似していた。


 そのおかげでダリルはマウントゴーレムを相手にしても安定した立ち回りを見せ、コリナからすると非常に楽だった。だがだんだんとゴーレムの数が減るにつれ、マウントゴーレムの動きはどんどんと速くなっていく。


 マウントゴーレム戦を研究していたダリルも流石に消耗が厳しくなってくる。祝福の光などでコリナも疲れが取れるよう支援しているが、少し怪しくなってきた。


 すると突然横合いから銀の光が差し、マウントゴーレムを包み込んだ。



「少し休みたまえ! 時間を稼ごう!」



 ゴーレムはまだ十一体であるがゼノが機転を利かせ、コンバットクライを放ってマウントゴーレムを引きつけた。予想外の出来事にダリルは一瞬思考が固まったような表情をしたが、息が切れて返事をする余裕もないのかすぐに引いた。


 ゼノが引きつけていたゴーレムたちはアタッカー二人がすぐに殲滅し、一対一となる。ゼノの表情には巨大なモンスターと対峙しているとは思えないほど、自信に満ちあふれたものだ。負けるという雰囲気を一切感じないような立ち振る舞い。



(駄目かも)



 しかしコリナの予感は警報を鳴らしている。ゼノの死。その未来を告げていた。


 コリナにとってマウントゴーレムは初見のため、その勘は外れるかもしれない。しかしコリナは看護婦として、もうどのような手を施しても死が避けられない者を何十人も看取ってきた。それに加えて趣味の神台観戦。そして死がありふれた実戦を経験して得た勘は、彼女の大きな力である。


 それにゼノはマウントゴーレムと相対することは初めて。それがコリナの予感をより色濃いものにさせ、彼の首に死神の鎌がかかっているように見えた。



「蘇生の願い」



 もしゼノが死ななかった場合は精神力を無駄にしてヘイトも稼いでしまうという事態を引き起こす行為を、コリナは迷うことなく決断して手を組んだ。



「行くぞっ!」



 そんなコリナの行動を知らないゼノは果敢にマウントゴーレムへと向かっていった。


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