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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第三章
135/410

七十階層、マウントゴーレムへ

 ダリルの重鎧冷却に必要な氷魔石や、ディニエルの属性矢。皆の予備装備と大量のポーション、その他防暑の備品などをオーリがメモを取りながら確認している。


 無限の輪のクランハウスでは今日の夕方から挑む予定である七十階層に向け、着々と準備が進められていた。あと一時間ほどで準備を終えた後は六十九階層で黒門を探しだし、神台しんだい前に観衆が集まる時間帯に七十階層へ挑む予定である。


 備品の準備が進められている間、ハンナとアーミラはしきりに身体を動かしたりと落ち着かない様子だ。二人はこのPTが七十階層でどこまで通用するか、期待で胸が張り裂けそうだった。



「あー! 早く行きたいっすね!」

「だな!」



 現在七十階層を突破しているクランはまだ変わっておらず、アルドレットクロウとシルバービーストだけだ。金色の調べは勝負にはなっているものの、まだ中盤で崩れることが多く突破には至っていない。紅魔団もアルマが一軍に復活したが、未だ黒杖を封印しているためヴァイスにしか期待は寄せられていない。


 今の状況なら三番目争いに食い込める可能性も十分に見込める。なので二人はわくわくとしながらダンジョン攻略のことで話し合っていた。


 そんな二人とは対照的にダリルは非常に緊張した様子だった。火山階層でアーミラとも話し合うことが出来ることになったはいいが、階層主相手に一人でもある程度行動するように努から言われてしまっている。



(上手くやらなきゃ……)



 ガチガチに緊張してしまっているダリルは何処か動作もおぼつかない。祈るように震える手を組んでソファーに座っている彼は、誰の目から見ても緊張していることが丸わかりだった。


 そんなダリルの前にいるディニエルはいつもと全く変わらない表情で、ソファーに座りながらうつらうつらとしている。七十階層では一番重要なアタッカーとしての役割があるためプレッシャーの感じる立場だが、彼女は今から休日だと言えば喜んで寝てしまうような様子だった。



「ツトムさん。最終確認終わりました」

「ありがとうございます」



 そしてオーリの備品確認も終わったため、皆はダンジョンに潜るため一度部屋に戻って装備へ着替えた。ディニエルを最後に五人がリビングへ揃う。


 努は耐熱性が非常に強い灼岩のローブを羽織り、ダリルはドーレン工房で資材を投じて何度も試行を重ねて作られた耐熱性の高い重鎧を着込んでいる。安い一軒家なら買えてしまうほどの資金を投入した甲斐もあり、現状作成出来る耐熱装備の中では性能が良い。


 ディニエルはDEX(器用さ)が上昇する新緑のシャツに、シェルクラブの宝箱からドロップしたシェルボウを持ち出している。それは彼女が持っている弓の中でも中々貴重な物で、火竜戦に用いられていたものだ。


 ハンナとアーミラの装備は見慣れた装備で変わらない。ハンナは避けタンクという役割上民族衣装のような装備は外せないし、アーミラも赤い革鎧を愛用しているので変わっていない。



「それじゃ、最後に作戦確認しようか。ダリル。お願い」

「はい」



 マウントゴーレム戦の流れや作戦の大筋を決めているダリルは強ばった顔で頷く。その後三十分ほどは作戦の確認が成された。特にハンナはディニエルのことを気にしてか、途中何度かダリルに質問して確認を取っていた。


 指で何かを数えるようにしてハンナはあれこれ考えている。そんな彼女にディニエルが目を細めながら話しかける。



「初めてだし、多少の失敗は構わない。最低限の流れさえ把握してればいい。細かいところは私が合わせる」

「あ、そうっすか?」

「無駄に考えて動きが鈍る方が厄介。貴女から機動性がなくなれば価値がない」

「……もう少し言い方を考えた方がいいっすよ」



 ディニエルの容赦ない言葉にハンナは呆れたように返す。そう言い返されたディニエルはきょとんとした目を向けた後、少し考え込んだ。そして思いついたのかハンナを見返す。



「ハンナは好きに動きなさい。私の腕なら合わせられる」

「考えてそれっすか……?」

「ん。なにか問題ある?」



 金髪のポニーテールを揺らして心底不思議そうに小首を傾げたディニエルに、ハンナは残念な子を見るような目をした後に頭を押さえた。



「まぁいいっすよ。なら任せるっす」

「うん。任せて」



 ディニエルは今回一番重要な役割であるにもかかわらず、まるで気負った様子もなく淡々とした口調でそう言った。自信が滲み出ているようなディニエルにハンナは若干対抗心を燃やしつつ、ゆっくりと深呼吸して気分を落ち着けていた。


 ダリルとアーミラは特に会話を交わしていない。アーミラはダリルから話しかけれない限りほとんど会話をすることがない。ダリルが緊張している様子はアーミラも察していたが、いざ戦闘になれば治るだろうと思っていた。


 それを見かねた努が緊張をほぐそうにも、緊張の元である彼に話しかけられるとダリルは更に表情が固くなってしまう。努はどうしたものか考えた後にアーミラを頼った。



「アーミラ。ダリルが緊張してるみたいだから、何か言ってあげてくれない?」

「は?」

「頼むよ。僕が言っても逆効果みたいだし」

「あんなもん放っておきゃいいんだよ。七十階層入ったら治んだろ」

「そうかなぁ……」



 以前の火竜戦より緊張した様子のダリルに努は一抹いちまつの不安を覚えながらも、時間になったのでギルドに向かうことにした。


 ギルドに着くと食堂で観戦態勢を整えているガルム、エイミー、カミーユが席に座っていた。努はダリルの緊張をほぐすきっかけになると思い、PT申請を終わらせた後はその三人の方へ向かった。



「どうも。今日は皆揃ってお休みなんですね」

「七十階層挑むんでしょ!? そりゃ皆休むよ!」



 ポテトフライの束が入っている袋を持ち上げながらエイミーが元気に叫ぶ。それから努は少しの間その三人と席を一緒にした。


 ダリルは案の定ガルムと話すことで緊張はある程度抜けたようだった。まだまだ緊張している様子はあるが、先ほどの死にそうな顔よりかは大分マシになった。


 アーミラは笑顔のカミーユといくつか言葉を交わすとすぐに帰って来て、その様子を微笑ましそうに見ていた努の横腹を手刀でつついた。



「見てんじゃねぇよバーカ」

「痛い痛い」



 的確に骨をつつかれて努は嫌がっていると、カミーユも近づいて来て混じった。その途端にアーミラは露骨に苦い表情をしてすぐに離れる。そんな娘の様子にカミーユは苦笑いしながら努に話しかけた。



「最近神台は見れていなかったが、上手くいっているようで何よりだ。出来ればこれからも娘をよろしく頼みたい」

「えぇ。こちらこそ」

「うぜぇ」



 握手を交わす努とカミーユを見て、アーミラは吐き気がすると言わんばかりに大口を開けてえづくフリをした。


 そして努は全員と軽い会話を交わした後、無限の輪は六十九階層へ潜り七十階層への黒門を探し始めた。



 ――▽▽――



 もう見慣れてきた六十九階層を無限の輪は探索し、赤い岩が立ち並ぶ場所に存在する黒門を見つけ出すことが出来た。いよいよ初めての七十階層への突入である。気負っていないのは努とディニエルくらいで、他の三人は少し緊張している様子だ。その中でもダリルはまるで寒気でも覚えているように手を擦り合わせている。



「よし、行きましょう」

「おっす!」

「あぁ!」



 ハンナとアーミラが緊張を吹き飛ばすように大きな声で返事し、ディニエルはこくりと頷く。ダリルもかろうじてその声に気づいたように頷いて返事した。


 努を先頭に黒門へ入っていき、無限の輪は火山の階層主が存在する七十階層に足を踏み入れた。


 ドームのように岩が積み重なっていて空の見えない場所。努たちの前には海のように溶岩が広がっていて、後ろには浜辺のように陸地が存在している。努がダリルの重鎧に手を当ててバリアを付与している間に、五人の足元へズシンと振動が来た。


 その振動は一定の間隔で五人の足元を揺らす。そして広大な溶岩の中からゆっくりと、真っ黒な外見をしたマウントゴーレムの頭が見え始めた。どんどんと歩いてきて溶岩から上がってくるマウントゴーレム。その姿は今まで見たこともないほどの大きさだ。努から見ればまるでビルが動いているかのような迫力がある。


 その巨大なマウントゴーレムの姿を実際に目にしたハンナ、アーミラ、ダリルは呆気に取られ、ディニエルも興味深そうに観察している。その間に努は全員の装備にバリアを付与させた。これで多少の攻撃ならばバリアが勝手に守ってくれるため、ダメージを抑えることが出来る。


 ゆっくりとした動作で溶岩から全貌を現したマウントゴーレムは、頭や肩に乗った溶岩をボトボトと落としながら陸地に足を踏み入れた。努のヘイストとプロテクが全員に行き渡ると、マウントゴーレムは重々しく巨大な腕を振るった。するとその腕から丸い岩の塊のようなものが次々と放たれる。



「ハンナ、マウントゴーレムよろしく。ダリルは――」

「わかってます!」

「……了解。ある程度任せるよ」



 ダリルに強い語気で返された努は目を丸くした後、そう言って飛んでくる丸岩に当たらないよう位置取った。そのひび割れている丸い岩は地面に落ちると、徐々に手と足、頭が形成されてゴーレムとなった。


 努はフライで上がって次々と形成されていくゴーレムを眺めていると、アーミラとディニエルがゴーレムになる前の岩を次々と砕いていく。ハンナはマウントゴーレムに一人向かってヘイトを取り、ダリルは形成されたゴーレムたちを引き付けるためコンバットクライを広範囲に放つ。


 マウントゴーレム戦の主な戦闘分担は二つに分かれていて、一つは本体のマウントゴーレムを削るハンナとディニエル。もう一つはマウントゴーレムから形成されるゴーレムを引き付けるダリルとアーミラである。


 マウントゴーレムは序盤動きが鈍いため、下手なタンクでも容易に無傷で引き付けることが出来るだろう。ただその代わりに様々なゴーレムを次々と生み出すため、最初はそちらの方が厄介である。


 一般的な岩で構成された人型のゴーレムは勿論、火山階層で確認されているマグマゴーレム、ボムゴーレム、スロウゴーレムなど種類が多い。特にその中で厄介なモンスターは、ボムゴーレムとスロウゴーレムだ。


 ボムゴーレムはその名の通り爆発する岩を生成することが出来て、追い詰められると自爆する習性を持っている。スロウゴーレムは自身から生成される岩を投げての遠距離攻撃を得意とするモンスターだ。


 そしてその二体は基本的にセットで生み出されて射出されるため、ボムゴーレムが生成する爆弾岩をスロウゴーレムが投げるという連携が非常に厄介である。空中で炸裂して岩の破片が撒き散らされるため、全てを避けるのはほぼ不可能で威力も高い。



「コンバットクライ!」



 そういった広範囲系の攻撃はVIT(頑丈さ)の低いハンナだと分が悪い。なので次々と増えていくゴーレム軍団はダリルが引き付けるというのが戦闘の流れになっていた。


 ダリルのコンバットクライは非常に制御が上手く、マウントゴーレムを避けてゴーレム軍団のみを引き付けられている。



「おらぁ!」



 アーミラは鋼の大剣で次々とゴーレムの弱点である関節部分を狙い、どんどんと屠っていく。ディニエルもゴーレム生成の多い序盤はアーミラと一緒にゴーレムを倒していく。


 ハンナは一人でマウントゴーレムと対峙することになるが、相手の動作はとてもゆっくりである。努ですら容易に避けられるような攻撃しかしてこないので、彼女が死ぬようなことは有り得ない。



「カウントバスター!」



 ハンナは様々なスキルを使ってコンボを溜め、たまに新スキルのカウントバスターを織り交ぜてダメージを稼いでいく。ただ打撃や斬撃はマウントゴーレムに通りづらいため、そこまでのダメージ量は稼げない。


 その後もハンナは四人から離れた場所でサンドバッグのようにマウントゴーレムを叩き続けた。マウントゴーレムはちょこちょこと動くハンナを掴もうと腕を伸ばすが、余裕を持って回避されて頭に蹴りをお見舞いされた。


 マウントゴーレムの背中や足から粒のような丸岩が次々と落ち、それはゴーレムとなってたまにハンナへ岩などを投げたりする。しかし大部分はダリルが追加のコンバットクライやウォーリアーハウルで受け持ってくれるため、ハンナは飛び道具をあまり飛ばされず楽な戦闘をこなしていた。


 そんなハンナとは違い、四人の方は中々苛烈な戦闘になってきていた。ディニエルは何処を見ても歩いているゴーレムにうんざりしたように矢を番え、アーミラは龍化を解放して目に見えるゴーレムたちを無茶苦茶な攻撃で次々と倒していく。



「ホーリーウイング」



 努も支援回復を切らさずに攻撃スキルを使って援護しているが、ゴーレムの数は増えないが目減りもしない。とにかく次々とマウントゴーレムから生成されてくるため、その処理に追われていた。


 ゴーレム軍団のヘイトを一身に集めているダリルは次々と爆弾岩を投げつけられたり、直接殴り飛ばされたりと一方的に痛めつけられているように見える。しかしプロテクでAに上がったVITと努の回復によって倒れる気配は微塵もない。


 赤く発光したボムゴーレムがゴロゴロと転がってきて、ダリルの近くで自爆。その爆風に煽られてダリルは吹き飛ばされるが、すぐに受身を取って立ち上がると大盾をしっかりと構え直す。


 ハンナが引き付けているマウントゴーレムの方にも気を配り、定期的にウォーリアーハウルで生成されたゴーレムたちを引き寄せる。彼が重鎧と大盾を打ち鳴らしている間に、また片腕をなくしたボムゴーレムが転がってきて自爆した。


 吹き飛ばされたダリルを追撃するように、二体の自爆体勢を整えたボムゴーレムが転がってきている。ダリルは視界を巡らせてアーミラとディニエルの位置を把握すると大盾を前に構えた。



「シールドバッシュ!」



 ダリルは大盾で一体を受け止め、他のゴーレムがいる場所へ狙って押し飛ばす。ボムゴーレムは他の者を巻き込んで自爆してしまった。


 しかしもう一体のボムゴーレムはダリルの横腹目掛けて体当たりした後、白い光をひび割れた体から噴いて自爆した。



「ぐぅぅっ!!」



 一番威力の高い自爆を至近距離で喰らうのはいくら頑丈なダリルでも効く。瞬時に緑の気体がダリルの身体に着弾し、怪我は癒されて痛みもなくなる。しかしボムゴーレムに自爆される機会が先ほどよりも大分増えたことをダリルは感じていた。


 ダリルはその理由を考えて龍化しているアーミラに目を向けて一瞬視線を彷徨わせた後、飛んできた岩を大盾で受けながら叫んだ。



「ディニエルさん! しばらくはアーミラさんが仕留め損ねたボムゴーレムを中心に! 倒して下さい!」

「ん、りょーかい。ダブルアロー」



 ダリルの要請を受けたディニエルは氷矢を次々と放ち、赤いボムゴーレムを鎮火させていく。ボムゴーレムは一定のダメージを受けると身体を赤く発光させて自爆体勢を整え、突進してきて近くで自爆する。


 しかし自爆には熱が必要なため、冷やされてしまうと爆発することが出来なくなる。そのためディニエルの放った二本の氷矢が突き刺さったボムゴーレムは、赤い発光が収まり自爆することが出来なくなった。その間にディニエルが次々と矢を放ってボムゴーレムを倒して粒子化させた。


 龍化中のアーミラは本能的に攻撃するため、たまに目移りして仕留め損なうことがある。そのことを理解したダリルの指示のおかげで、ボムゴーレムの自爆による負担を抑えることが出来た。


 そして時間が経つにつれてゴーレムの生成される数が減ってきたので、ディニエルは努の指示を受けてマウントゴーレムの方へ向かい始めた。


『ライブダンジョン! 支援回復のススメ』の発売日は12月10日ですが、書店では早めに売っているところがあるそうです。

五万字ほど加筆して読みやすいよう全体的に改稿もしているので、よければお手に取って頂けるとありがたいです。よろしくお願いします。

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