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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第三章
133/410

ババァじゃ不満か?

 個人練習や連携の練習に入ってから三日。努は午前中いつものように龍化して襲いかかってくるアーミラにメディックをかけて解除していたが、少し違和感があった。



(……動きが、少しずつ変わってないか?)



 龍化時のアーミラはまるで飢えた野生動物のように動いている。ステータス上昇も含んだその動きは速く、並大抵のモンスターでは対抗できない力を持つ。だがその動きは単調なので先が読みやすいため、努は余裕を持ってメディックを当てることが出来ていた。


 しかしこの三日間でアーミラの動きが少しずつ変わってきているように努は感じていた。何処か人の意思が見えるような、そんな動きが時偶混じる。まるでBOTと人がたまに入れ替わっているような動き。



「アアアアアァァ!!」



 そして耳が痛くなりそうな咆哮にも何処か怒りのようなものが混じっているように思える。アーミラの変わってきた動きに努はヒヤヒヤしながらメディックで龍化を解除した。



「あっ、とっ」



 アーミラは意識を取り戻し、その勢いを殺してすぐにフライを持続させる。まだ龍化解除時にある慣性を制御するのに苦労しているが、もう下にすぐ落ちることはなくなっていた。三日でそれが出来るというのは彼女のセンスが高いというのもあるが、やはりダンジョン攻略後もフライの練習を積んでいたことが一番大きいだろう。



「アーミラ。龍化中、本当に意識ないの?」

「あぁ? ないぜ」

「そう……」



 龍化中の動きは確かに変わっているのだが、アーミラにはまだ意識が芽生えていないと聞いて努は首を傾げる。それから一時間ほどフライ制御の練習を二人で行ったが、龍化中の動きは更に意思を感じられるようになっていく。



(いや、明らかに意識あるでしょこれ)



 二時間前とは比べ物にならないほど龍化時の動きが違っているアーミラに、努は胡散臭そうな顔をしながらメディックを当て続ける。今までの龍化解除はモンスターを相手にするようにしてきたが、今は人を相手にしているような感覚がある。間違いなく今までの龍化と違うことは明白だ。


 努は何とかメディックをアーミラに当て、横にある慣性を制御して空中に留まったアーミラに近づいた。



「アーミラ。絶対龍化中意識あるでしょ」

「……ちっ。バレたか」



 アーミラは悪戯を白状するように唇を尖らせながらゆっくりと近づいてくる。努は呆れたような目をしながら腰に両手を当てた。



「何で嘘をつくんだよ」

「それは……こうしたかったからだよ!!」

「ちょ」



 アーミラはそう言うやいなや努の腹に突然タックルし、そのまま一回転した後に下へ投げ飛ばした。努はフライで勢いを殺したものの、スライムクッションにどっぷりと顔を埋めることになった。



「はっ! ざまぁみろばーーーか!!」

「……この野郎」



 フライ練習で鬱憤うっぷんを溜めていたアーミラは清々したように言うと、近づいて来てべろべろと舌を出して努を小馬鹿にした。努は怒ったようにスライムクッションから顔を上げたが、もの凄い楽しそうな顔をしているアーミラに毒気を抜かれた。



「はぁ。まぁいいや。龍化を制御出来るようになったんだね。おめでとう」

「……別に、そこまでじゃねぇけどな。少しだけ意識があるだけだ」

「ふーん。ってことは火竜戦前のカミーユと同じくらいか」

「あぁ。一発ぶん殴ってやると思えるようになっただけだ」

「怖いわ」



 片拳を握ってニヒルな笑みを浮かべているアーミラに努はそう返すと、龍化練習を切り上げて訓練場を出た。



「マウントゴーレム戦には間に合わないだろうけど、その後は龍化の連携を色々試してみようか」

「あぁ」

「そうなると僕も少しは楽できそうだなー。メディックわざわざ当てなくて済みそうだし」

「ババァは確かそれやってたよな。安心しろよ。すぐ超えてやっから!」



 アーミラは上機嫌そうにけらけらと笑いながら努の背中をバンバンと叩き、痛い痛いと彼は嫌がって距離を取った。



「すぐ人を叩くな。僕はダリルみたいに頑丈じゃないんだからな」

「わりぃわりぃ。許してくれな」

「くっつくな」



 まるで同性と接するように肩を組んできたアーミラを努は軽く睨みつつ、彼女と再び距離を取る。するとアーミラはからかうように努を覗き込むようにした。



「んだよ。つれねぇな」

「はいはい」

「あーあーやっぱババァの方がいいのかー。それならさっさと結婚でもしちまえよ。そしたら俺はずっとツトムとPT組めるしよ。いいことづくしじゃねぇか」

「しません」

「んだよ! ババァじゃ不満だってのか!?」

「それで怒るならまずその呼び名を止めような……」



 いきなり不機嫌になったアーミラに努は突っ込みながらもギルド食堂に向かった。



 ――▽▽――



「つかれた」



 ディニエルとハンナの練習に付いてきた努は、彼女の呟きに苦笑いを零した。午後の休憩が終わって六十八階層に潜った途端にそんな言葉を発したからだ。



「まだ一分も経ってないですよ」

「あんな元気の塊と三日も付き合わされる身にもなってほしい。正直練習も無駄な部分が多い」

「あぁ、そうなんですか?」

「ハンナはあまり休憩しない。それのせいでバテて、練習の質も上がらない。無駄な時間は嫌だ。それならその時間休んでいても変わらないじゃん」



 まるでピクニックにでも行くみたいに口笛を吹きながら探索しているハンナを見て、ディニエルは重苦しいため息を吐いた。



「そうですか。なら後でハンナにはちょっと言っておきますね」

「まるで三歩歩くたびに頭が空っぽになってるみたい」

「こらこら」



 とんでもないことをのたまうディニエルに努は少し顔を険しくさせながら言うと、彼女は肩をすくめた。



「なんであんなずっと練習出来るのかが不思議」

「……ディニエルはダンジョン探索、楽しくないんですか?」



 そう言って野暮ったい瞳でハンナを見つめるディニエルに努は尋ねる。彼女は腕を組んで目を閉じた。



「楽しいけど、全てをかけるほどじゃない。アーミラとかみたいに、休日まで練習する気にはなれない。寝たり、本を読んだり、他にも楽しいことはある」

「うーん、そうですか。でも全くダンジョン攻略が楽しくないってわけではないんですよね?」

「うん」

「それなら別にいいと思いますよ。それでキチンと仕事をこなしてくれればね」

「そう」



 ディニエルは感情の全く読めないような瞳で呟くと、マグマゴーレムを見つけてヘイトを取りにいったハンナに目を向けた。そしてある程度ハンナがヘイトを稼いだ後に一本の矢を手に取って放った。


 それは放つと風を吸い込んで音を放てる特殊な矢である。その音色を響かせる矢がハンナの頭上を過ぎ、彼女はその音を聞くとマグマゴーレムから距離を取った。ディニエルは氷矢を番える。



「ストリームアロー」



 氷属性の入った特殊な矢が一本上空に放たれ、一度光ったと思うと流星群のように降り注ぐ。弱点属性の膨大な矢がマグマゴーレムに次々と突き刺さっていき、光の粒子となって消えていく。一気に減る精神力にディニエルは眉をひそめながらすぐに位置を変える。


 鏑矢かぶらやという射ることで音色を放つことが出来るものでディニエルが合図し、ハンナがその音色を聞いて離脱する。それがストリームアローを組み入れる際にディニエルが決めた連携だ。


 鏑矢は様々な種類の音色を響かせることが出来るので、他の合図にも使えるだろう。なので他にも何か連携の際にそれを用いて何かしようと努は思っていたが、アーミラとハンナは何かを記憶することは苦手だ。なのでマウントゴーレム戦ではストリームアロー時の合図としてしか運用しないことにしていた。


 ただハンナは頭があまり良くなくてもやる気はある。そのためディニエルが放つ鏑矢の音色と指示を噛み合わせられるように、今のうちから努力していた。



「これは……手数を落とせっすね!!」

「違う。撤退」

「ん、そうっすか。すまないっす。よし! もっかいお願いするっす!」

「…………」



 ディニエルから送られてくる無言の訴えに努は思わず視線を逸らした。恐らくこんな調子でハンナは延々とディニエルを練習に付き合わせているのだろうなと思うと、先ほど彼女が言った鳥頭発言もしょうがない気はした。


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