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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第三章
129/410

ユニスの真意

 レオンの決めた方角へ進んでいる間、無限の輪は金色の調べの者たちと各自交流していた。元、金色の調べであるディニエルはユニスに嫌われている様子だったが、他の者とはそこまで険悪になっていないようでバルバラや他の二人とは普通に喋っている。


 ハンナ、ダリルはタンクの者たちと中心に交流を取り、アーミラは同じ大剣士であるアタッカーの女性やレオンと普段の口調で喋っていた。有名人のレオンにも怖気づくことなく会話をしていて、彼は面白そうにアーミラを見ている。



「……なに見てやがるです」



 努の隣で様子を窺うように頭の上にある大きな黄色の狐耳を動かしていたユニスは、見下ろされていることに気づくと半目で睨んできた。努は相変わらずなユニスの様子に軽く鼻で笑った。



「頑張ってるみたいだね」

「……ふん。もう金色の調べは六十九階層なのです。なのにツトムは随分と余裕そうなのですね」

「せめて七十階層突破してから威張ってくれよ。三強に入れないユニスさん」

「こいつっ……!」



 迷宮マニアのヒーラー評価記事をしっかりと見ていたユニスは、努の嫌味ったらしい言葉を聞いて怒ったように黄色い狐耳を立てた。つんと通った高い鼻からふんすー、と息が漏れる。



「ふんっ! あんな記事気にしてないのです! 迷宮マニアと言っても所詮素人の集まりなのです! そんな奴らの評価なんて気にする方が馬鹿なのです!」

「そうかな。あの人たちは頭も柔軟だし、評価は妥当だと思うけど」

「言ってろなのです。私はツトムと違って別に評価なんて気にしないから、関係ないことなのです」

「そう」



 視線を逸らしたユニスを努は気にした様子もなく前を歩くレオンの後ろをついていく。しばらくお互い視線を合わせないまま歩くと、レオンの言っていた通りモンスターの群れが前に現れた。


 地獄蠍ヘルスコーピオンというサソリ型のモンスターと金色の調べ、無限の輪PTは対峙する。



「んじゃ、最初は俺らがやるわ」

「了解です」



 努はレオンと視線を合わせて言葉を交わした後にクランメンバーへ待機するように伝え、今回は金色の調べの戦闘を見学することにした。


 金色の調べは無限の輪とPT構成が同じで、アタッカーに関してはかなりレベルが高い。アーミラにとっては良い参考になるだろう。



「ヘイスト、プロテク」



 ユニスが白杖を振って四人に支援スキルを付与し、重騎士のバルバラと聖騎士のタンクが全体ヘイトを稼いで地獄蠍の注意を引く。するとレオンが目にも止まらぬ速さで早速一匹を長剣で串刺しにし、アタッカーの大剣士も青い気を纏いながら向かう。


 やはりユニークスキルである金色の加護(ゴールドブレス)を持つレオンは頭一つ抜けて強い。彼単体を見た場合間違いなくアタッカートップを争えるほどで、一騎当千の活躍をしていると言えるだろう。


 大剣士のアタッカーは七十レベルでスキル回しが洗練されている。外のダンジョンで戦ってきたカミーユより剣技で劣る分、神のダンジョンに特化した立ち回りは彼女の方が上手い。今まで母だけを模範としていたアーミラは最初興味なさげだったが、段々と食い入るようにアタッカーの女性を見始めた。


 ダリルも同じジョブであるバルバラをじっと観察していた。実力で言えばダリルの方が上ではあるが、だからといって学べないことがないわけではない。ハンナはレオンの無茶苦茶な動きに口端をヒクつかせていて、ディニエルは特に興味がないのか欠伸をしている。


 ユニスの立ち回りは努から見ると正に無難と言える。良くも悪くもない、至って平凡な白魔道士と言えるだろう。ただステファニーやロレーナの後に見るとどうしても粗が目立つ。ステファニーには基礎の支援回復でかなり劣るし、ロレーナのような卓越したヘイト管理や連携などの特異性も見えない。



(まぁ、よくやってるんだけどね)



 しかし努は別にユニスを過小評価してはいない。ステファニーやロレーナは古参だが、ユニスは四年前に初めて神のダンジョンへ潜った中堅だ。二人と差があるのは当たり前である。人柄を加味した評価は高くないが、ヒーラーの腕に関しては一定の評価をしていた。ただステファニーとロレーナが上手すぎるだけだ。


 それにまだタンク二人の動きが甘い。バルバラは大分マシになったし、スタンピードでの黒竜戦でガルムと一緒にタンクをしていた者も成長している。だがダリルと比べるとまだ洗練されているとはいえない。


 努が金色の調べの一軍PTと同業者であるユニスの秒数管理やヘイト管理、戦況を見ているかなどをチェックし終わる頃には地獄蠍の群れが討伐されていた。レオンが目にも止まらぬ速さで落ちている魔石を回収する。



「お疲れ様です。じゃあ次は僕たちで」

「おう、よろしく頼むぜ。んじゃ、行ってくるわ」



 レオンはそう言い残すと風を舞い上がらせながら偵察に向かった。その間他の者たちは金色の調べのクランメンバーと交流を取っている。特にアーミラは大剣士の女性へ食いつくように質問をしていて若干引かれていた。



「何か私に言うことがあるのではないですか? ツトム」



 するとユニスが誇ったような顔でてくてくと歩いてきて努を見上げた。どうやら先ほどの戦闘に関しては自信があるようだ。努は目を細めて胸を反らしているユニスを見下ろした。



「まぁいいんじゃないですか」

「……は? それだけなのです?」

「それだけです」

「他に何かないのですか?」

「ないですよ」

「……ロレーナと、ステファニーにはどうせ色々と教えてるくせに」



 拗ねたようにそっぽを向いてそう言ったユニスに努は心底呆れたような表情をした。



「……あのさ、僕の立場で考えてみてくれ。ロレーナはお世話になったシルバービーストのメンバーで、ステファニーは教えを請うてきた。だから教えた。でもお前に仕事以外でわざわざ時間をかけて何かを教えたくなるか?」

「確かにツトムの立場から見たら教えたくはないですね。ステファニーはツトムに媚びて、私は媚びてないのです。ですが、ツトムも私の立場になって考えるべきなのです。もし私がツトムに媚びたらどうなりますか?」

「媚びるじゃなくて、教えを請うが正しいけどね。そもそも、ただ単にユニスが僕に教えを請いたくないからじゃないの?」

「ふん。とんだ勘違いです。私は強くなれるなら尻尾を振って地面に寝転がって腹を見せてもいいのです。ただそこまですると、レオンに対する裏切りになるからやらないだけなのです」



 ユニスの主張に努はまるで意味がわからないといった顔をしていると、今度は彼女が呆れたように首を振っていたずらめいた視線を向けた。



「まぁ、性格の悪い貴方にはどうせパートナーなどいないからわからないでしょうが、そんなことをすれば浮気になるのですよ。浮気の意味わかりますか?」

「……えーっと、誰かに教えを請うと浮気になるの?」

「ふん。今更しらばっくれても無駄なのです。ツトムはステファニーにどうせ、その、変なことをしているのでしょう。私はあの人みたいにはならないのです」

「ちょっと待て。なにかおかしくなってきてる。僕はステファニーに何もしてないぞ」

「そんなわけはないのです! ステファニーは頭が狂ってるみたいにツトムを褒め称えているのです! まるで狂信者みたいだったのです! どうせ私にもあのようにしろと強要するつもりに決まっているのです!」



 悪を裁く正義の味方のようにビシッと指差してきたユニスに、努は何だか疲れたように肩を落とした。だがユニスはスタンピード後の祝勝会で、ステファニーの努に対する狂信を見ていたのでそう思うのも無理はなかった。



「教えて下さいと言ってくれれば、普通に教えるよ」

「私はレオン一筋なのです。レオンが私だけを選んでくれるまで諦めないのです。もし選んでくれたら田舎に帰ってたくさんの子供と……」



 何だかメルヘンな妄想に囚われ始めたユニス。努が助けを求めるように周りを見ると、金色の調べのクランメンバーたちは揃って首を振った。こうなるとユニスはしばらく帰ってこないらしい。



「帰ったぞー、って、何だこりゃ?」

「あぁ。どうも。実は……」



 丁度偵察から帰ってきたレオンに努が事情を説明し終わると、彼は黒い岩の天井を見上げて金の短髪をかりかりと気まずそうに掻いた。



「わかった。なんか、上手いこと伝えとくわ」

「お願いしまーす」



 レオンに全て丸投げした努は彼に伝えられた方向に向かって探索を始めた。そしてすぐにモンスターの群れを発見したので、無限の輪の戦闘が始まった。その戦闘は非常に安定している。


 タンクであるダリルは非常に安定感のある立ち回りで、ガルムやビットマンと並ぶほどの実力者だ。あまり自分で考えて動くことに自信が持てないという欠点も努の指示によって解消している。


 ハンナの避けタンクも火山階層の環境に慣れてきたおかげでどんどんと洗練されていく。彼女がアタッカー時代に長所とされていた、背中の翼を使った緩急のある空中機動。攻撃しながらタンクを請け負うその役割は彼女の天職と言えるだろう。


 アーミラもボルセイヤー戦からは非常に好調だし、ディニエルは洗練されたアタッカーなので文句のつけ所がない。あまりダンジョン攻略や練習などへ自主的に参加しないなど怠惰な部分もあるが、今のところやるべきことはきっちりやっているので問題はない。


 モンスターの群れをあっさりと殲滅し終わり努が魔石を拾っていると、ダリルが興奮した様子のバルバラに話しかけられていた。



「凄いな! 噂通り強いねダリル君!」

「いや、僕は別に凄くないですよ。ガルムさんとツトムさんのおかげです」

「そうなのか? 私から見ればガルムさんにも負けてないと思うが」

「いやいや! それはないですから!」



 バルバラにそう言われたダリルは慌てたように黒い尻尾を立てて両手を振る。バルバラは少し不承そうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。



(もっと自信持っていいんだけどな)



 努がそう思いながら魔石を拾い終わると、レオンが金の狼耳を伏せ気味にしながら近づいてきた。



「あ、ツトム。ユニスには説明しておいたから、多分大丈夫だぜ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いや、でもアルドレットクロウのステファニーって、ツトムとなんもねーんだな。てっきり何かあるのかと俺も思ってたぜ」

「えぇ……。なんもないですよ。普通にヒーラー教えただけですし」

「そうなのかー。何かすげぇツトムのこと慕ってるみたいだからよ。俺がツトムの話題出したら超食いつきよかったし」



 意外そうに目を丸めるレオンに努もあまり意味がわからずに首を傾げている。するとレオンが場を持ち直すように目を輝かせて努に尋ねた。



「そういやさ! ハンナちゃんのやつ、俺にも真似出来そうじゃね?」

「あー、でもレオンさんは剣士ですからね。全体ヘイトを稼ぐスキルがないから少し厳しいかもしれません。ただ頑張れば出来るとは思いますよ。ユニークスキルありますし」

「ほーん。そうか……。ありがとな!」



 レオンは顎を押さえて考え込んだ後、笑顔で努にそう言うと背を向けた。努がレオンの避けタンク運用について妄想していると、後ろからローブを軽く引っ張られた。



「…………」

「何ですか?」



 努が振り返ると何やら思い詰めた顔をしたユニスが佇んでいた。努の問いにユニスは意を決したように彼の顔を見上げた。



「ツトムは、教えを請えば私にも教えてくれるのです?」

「尻尾を振って地面に寝転がって腹を見せたらいいよ」

「…………」

「冗談だよ。それで、何か聞きたいことがあるの?」



 半目で憎々しげに睨みつけてきたユニスに努が茶化すように言うと、彼女はため息を吐いた後に真剣な目で彼を見上げた。



「一度、うちのPTのヒーラーをしてみて欲しいのです」


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[一言] ユニスってこんな侮辱をする妄想クズだったか 努の対応は優しすぎだね
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