プロローグ 第1話
辺りを照らす赤い光
耳を突き刺す警告音のサイレン
それに怯えるように逃げ惑う研究員たち
一部では火が燃え上がり、さらに一部では辺りが血で染まっている。
そんな最中、とある研究室で二人の少女が閉じ込められている。
私は動揺を抑えられずにいた。中の探索をしているなかでこのような状況に陥ってしまったのだから…。相棒はどうにかして抜け出そうとモニターに向かっているがどう足掻こうが解除するのは無理だろう…
ましてやいつ研究所が崩れてもおかしくない…、まさに絶体絶命の状況である…
どうしてこんな事になったのだろう…
事の発端は1週間前、講義が終わって早めに家に帰ろうとしていた私に掛けられた1本の電話だった。
「メリー、今からサークル活動始めるわよ!いつものカフェテラスに集合ね!」
・・・、これである。こんな感じで毎回不定期にこうして電話してくるのだ。忙しいからまた今度ねって言うことも考えたが、事実、私も暇なのである。だから私は毎回のように彼女の待つカフェテラスに向かう。
挨拶が遅れたが、私の名前はマエリベリー・ハーン。あだ名は呼び辛いことからメリーと呼ばれている。京都の大学で相対性精神学を学ぶ学生で、非公式サークル「秘封倶楽部」のメンバーである。自分の特異的な能力に興味を示した相棒が誘い込み、境界の境目を見える地へ足を運んだりしている。
そんな活動を約1年続けているからか、彼女から電話などがあれば必ず集合しろという暗黙の了解みたいなものが出来てしまった。今日はどんなことを言い出すかと、呆れるかつワクワクしながらカフェテラスに向かうのだから私もあいつみたいになりつつあるかもと小さく苦笑した。
私が通う大学は敷地内には研究所や情報管理棟など様々な施設がありかなり広大なのだが、そんな敷地内にひっそり建っているカフェ店がある。それは普通の学生生活を送る生徒には卒業しても気づかない場所なのだ。思えば、蓮子と始めて会ったのもここだった。
店員に紅茶を注文したところで、外のガーデンでカプチーノを飲みながらショートケーキを食べる相棒の姿があった。
「まったく、ここに来るたびにケーキ食べるんだから…、少しは控えたら…」
「何言ってるのよメリー、普段動いてるんだから甘いものぐらい食べたっていいでしょ」
「どうだか…」
不貞腐れつつも美味しそうにケーキを食べる彼女こそ、私の相棒、宇佐見蓮子である。
私をこの秘封倶楽部に勧誘した張本人であり、唯一の親友でもある。
そんな彼女はケーキを食べ終わり満足そうな顔でカプチーノを飲んでいる。そんな相棒に私は問いかけた。
「で、今回はどんなことをするつもりなの?できれば危険が無いようなものがいいけど」
「今回はそんな案件じゃないわよw、むしろ安全な方よ」
怪しい…、実際半年前に私は無茶して入院しているのだ。出来れば、もう二度とこのような目には遭いたくない。その事を感じ取ったのだろうか、蓮子は宥めるのと同時に真剣な顔で言う。
「そういえばあれからもう半年経ったのか…、あれ以降自粛してたけど安全は絶対に保障する、もう危険な目には私も遭いたくないしね…」
その事に関して蓮子は反省しているようだ、そう感じながら改めて蓮子に尋ねる。
「で、一体どんな事をするつもり…」
「とある新聞記事にね…、気になる文章を見つけてね、持ってるから見てみて」
そして渡された記事には次のようなことが書かれていた。
科学都市東京 研究所消滅事件の裏が暴かれる?
2週間前に起こった東京の科学研究所が突然火災を起こし、消滅した事件について政府調査隊は現場検証や生き残った研究員の供述から次の仮設を考えた。
現場検証の結果から、火元の形跡はなくそもそも火災はなかったのではないかという結論に至った。しかし、生き残った研究所の研究員は確かに火災は発生したという発言を残している。さらに、研究員の口からは、「実験対象が突然暴れ始めた」、「そこはまるで地獄のようだった」、「悪魔が現れた」など意味の分からない発言も残されている。
実験対象は4人いたとされているが、機密事項で守られているため詳しいことは分からない。しかし、研究所は消滅していることから死亡したという説や実際には生きており普通の生活をしている説もあるが、科学都市東京は一切情報を開示しない。
今回のような事故を他にも起こしているようであれば、政府が直接調査に踏み出さなければならないと調査隊隊長は語る。
京都に首都が遷都されて約20年経つが、今なお首都と科学都市の溝は埋まっていない。早急な対策が待たれる。
読み終えた私のところに店員は紅茶を置くのが分かった。お礼をいって紅茶を一口飲んでから蓮子に感想を伝える。
「この事件に関しては私も興味はあったわ、いろいろな考察があってネットだと話題になってるしね。でも、どこに気になる文章があったの」
「それはもちろん消滅したことよ」と興奮したように切り出しいつものように論説を始める。
「そもそも、消滅したじゃなくて消失したていうのが正しいんじゃないかしら。だって、火災は起きてないし、焼け跡すらないってことは間違いなく空間を捻じ曲げて研究所ごと無くしたというのもあり得ると思うし、火災だって幻覚でそのように見せさせたんじゃないかなって」
今の発言から私は大体のことを悟った。
「じゃあ、その研究所に境界の境目があるかもしれないから、現地にいって確かめに行こうってこと?」
「さすがはメリー、話が早くて助かるよ」
「そうじゃなくて。それって大丈夫なの?そこに何があるか分からないし、安全が保障されているなんて思えないし…」
当然のことだ、また自ら危険覚悟で進んだら危ない目に遭うなんてもう御免なのだから。
しかし蓮子は私を落ち着かせるようにこう言う。
「心配ないって、ただその跡地に行ってどうなっているのか見るだけだから。それが終わったら少し観光して帰ればそれで済む話だし、ねっ」
不安でしかない。しかしよく考えてみると確かに蓮子の言う通りである。何もなければそこで終わり、あとは何もない、それでいいのではないか?
「分かった。でももし危険な目に遭いかけたらすぐに逃げるからね」
そしてその後は二人で旅行の計画をたて、サークル活動は終了した。
何もなければそれでいい、何もなければただの科学都市東京の観光旅行で済むのだからとメリーは出発前日までそう言い聞かせた。
しかし、期待も空しく先にあげた危険な状況に陥るなんてことを今の私には知る由もない。
この作品を読んで頂き、ありがとうございました。
今回、初投稿そして超長編シリーズの第1部としてスタートしました。
読んで頂いてもお分かりですが、勉強中の身でありまだまだ下手くそでございます。
しかし、今後皆様に楽しく読んで頂くために頑張っていく所存です。
皆様のコメントそして応援をよろしくお願い致します。