夏―その2
どぉん、と大きな音が空に轟いた。
驚いて空を見上げれば、ぱらぱらと光の粉が降りそそいできた。
真っ赤な大輪の花が夜空に咲いていた。雲一つない黒々とした空には数多の星が輝いているのに、それらをしのぐ眩しいきらめき。そっと夜空に溶け込んでいく花は、きれいだった。
「花火、綺麗だなぁ」
私が思ったのとほぼ同時に、溜め息混じりの少し高い声が響いた。振り返れば、思った通りに姉だった。姉はいつもと同じく、まっすぐで黒い髪を肩あたりまで垂らし、花柄のパジャマを着て立っていた。けれど、いつもと違うのは姉に寄り添うように立つ小さな影。今日は弟も一緒に外へ出てきたらしい。
どぉん、どぉん。
空が、輝く。それを見つめる姉と弟の顔も、色鮮やかに照らし出される。わぁ、と小さく歓声をあげる弟の瞳は、花火になんて負けないくらいきらきらしていた。姉は、そんな弟の様子を見て顔をほころばせている。
私は一度二人から視線を外し、空を見上げる。
しっとりとまとわりついてくるような闇。夜の帳は町に降り、喧噪を鎮め、やわらかな静謐が私たちを抱く――そんな日常をぶち壊し、貫くように響く花火の音。ほの暗さを打ち砕いて、華々しく散る花火の姿。降り注ぐ光の粉は果たして、優しく瞳の中に舞いこむのだろうか。花火を見上げる人々の顔は、どれもこれも輝いている。濡れた瞳が、きらきら、と。
ふと振り返れば、ユウヒがごろりと屋根の上に横たわって、空をじっと見上げていた。今日もこいつは勝手に人の家の屋根に上っているのか。
おどかすように近づくと、今日のユウヒは珍しく大人しかった。小さく欠伸をして、私を目を細めて見る。
「よう。……お前のとこの姉弟、仲いいな」
普段よりも幾分柔らかな声でユウヒが喋った。私が驚きに口を噤んでいると、ユウヒは歯を見せて笑った。
「オレだって、なんとなくしみじみとしたくなることだって、あるんだよ。たまにな」
投げやりだったが、よく耳をこらせば秘めた溜め息が聞こえてきそうだった。
何があったの、と問おうとした時
――どぉん
一際大きく響く音。空気の震えがここまで伝わってきそうだった。
まあ……今日はここまで、かな。