夏―その1
先客がいた。
何日かぶりに上った屋根には、鳥が残した糞が白い斑点を残している。何と言ったか――ああ、そうだ。今朝のニュースで言っていた"黄砂"のせいだろうか。緑の筈の屋根は、黄色っぽく薄汚れていた。
そんなに汚れた場所であるのに、堂々とした態度で、先客は寝転がっていた。
たしか……名前は、ユウヒ。
隣のおばさんがそう呼んでいたのを思い出す。
ユウヒは私のことを目を細めて見ている。警戒されているのだろうか。けれど、そもそも人の家の屋根で、勝手にくつろいでいる方が悪いだろう。我がもの顔で、でんと寝そべっているユウヒはいかにもふてぶてしい態度だ。
私が少し近づくと、ユウヒはのっそりと体を起こした。そして不機嫌そうな声を上げる。
「オレの昼寝を邪魔する気かよ」
初夏の日差しに照らされて、ユウヒの頭は黄金にも似た栗色に輝いている。神々しいばかりに輝くそれらとは全く異なり、うっとうしそうに私を見る顔は非常に気にくわなかった。
腹がたったのでだんまりを通すと、ユウヒはゆっくりと腰を上げた。今にも飛びかかってきそうだ。
「せっかくいい日向ぼっこだったんだ。邪魔するな」
ふしゅー、と空気が風船から抜けるような、いかにも間抜けた音がしたが、これはあくまでもユウヒが私を威嚇している証拠だ――ちっとも怖くなんてないのに。
夏の匂いを抱いた風が、やわらかに私を撫でていく。いつの間にかもう夏であるのだなぁ、としみじみとした感慨に浸っていると、気付けばすぐ傍にユウヒがいた。
白い前歯をちらりと見せて、ユウヒは意地悪くわらった。
「じゃあな」
ああ、最悪だ。
まだ屋根に上ったばっかりだったというのに。