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二話目

感想してくれたらむせび泣きます、白猫@です。どうぞよろしくお願いします。

遠くの地平線にうっすらと見える街がとりあえずの目標だ。どれだけ遠いかは分からないが、こんな何も無い大草原でぼおっとしていても埒があかない。人だ。多分会話は普通に出来る筈だから、人に会ってこの世界についての情報を収集しなければ。文字は多分読めないと思う。他の小説の設定ではもっぱらそうだった。今まで読んできた小説の様にテンプレ通りで行けば、の話だが。


そうこうして歩き出して早2時間近くは経っただろうか。俺は近くで生えていた木の影に座り込んで休憩していた。電子時計で時刻を確認して、すぐに頭を振って時計を腕から外した。異世界の時間と元いた世界の時間が合う訳が無いからだ。それに時計を付けていた部分が蒸れて若干気持ち悪かったし。


「あっつ…」


それにしても、かなり温度がある。俺が死んだのは丁度12月の中間で、学校が終わりかけていた頃だった。当然学校に着ていくのも冬服なのだが、それがもう死ぬ程暑い。半袖でも大丈夫なんじゃ無いかって位だ。一応脱いで手元に丸めているが、それでも暑い。


「このままだと、あそこに辿り着く前に水が足りなくて死ぬかもなぁ…」


ほぼスタート地点と変化無く地平線の向こうの街の影。辿り着くか本当に不安になってきた。野宿をするにしても日本でぬくぬく育ってきた俺にそんなサバイバルスキルなんて無いし、水も食料も無い。


「あーあー…暑い暑い…って、ん?」


俺はばっと身体を起こして耳を済ませた。遠くの方から確かに馬の蹄の音がするのを確認して、立ち上がって音のする方、街の反対側のほうに視線をやった。


「…あれって、馬車、か?」


遠くで道の真ん中を通るそれは、確かに映画やアニメの中で見かける馬車そのものだ。馬が二体、それを操縦する男が1人、馬車から少し顔を出して男と談笑している幼女が1人。幼女は遠目から見ても可愛さを振りまいている。何あれ天使か。


何はともあれ、俺にとってはカモがネギ背負って鍋の中で銭湯している様にしか見えない。俺は大きく手を振って馬車の方へと向かって行った。


「おーい、おーい!そこのおいちゃん!」

「ん?」


ようやく俺の存在に気付いた男が、俺を見て顔を強ばらせた。


「何だお前!『黒の棺屋』か!?く、来るな!来たらどうなるか分かってるんだろうな!」

「はい?」


俺の姿を確認した男がいきなり騒ぎだした。幼女も怯えた顔で男の背後に隠れる様にこちらを伺っている。やべっ、何か誤解を生んでいる気がする。


「俺は別に危害を加える気はねえよ!」

「う、嘘を付け!『黒の棺屋』め!俺は結構強いんだぞ!村では4番目に力持ちだったんだ!」

「ほお、そりゃすげえ。でもとりあえず落ち着いてほしい」


俺はこれ以上誤解を招かない様に近づくのを止め、一定の距離を保って笑顔を作った。ここでこいつらを逃す訳には行かないんだ。ようやく出会った異世界最初の人間、しかも移動手段も持ち合わせている。目的地は多分遠くに見える街だろう。何が何でも一緒に引っ付いて行ってやる。


「俺はその『黒の何とか』ってやつは知らないし、武器の類いも持っていない。ほら、見ろ。金すら持ってない」

「…ほ、本当か?」


手を万歳して何も持っていない事をアピールしつつ、男の問いに強く頷く。


「…お父さん。この人、悪い人じゃ無さそうだよ…?」


ここで、幼女(天使)が俺の味方になった。俺は内心で幼女の可愛さにむせび泣きつつ、幼女の言葉にうんうんと頷いた。


「い、いや…だけど、念には念をだな」


男はまだ少しだけ疑いを持っているらしい。だけど、後少し揺すぶれば何とかなりそうだ。


「俺、実は金もないし、ここがどこかも分からないしで困ってるんだ。で、とりあえず向こうに見える街を目指そうと思ってるんだけど、いかんせん食料も水も無い。な?おいちゃん達だけがたよりなんだ」

「…ああ、もう!分かった、分かったよ!でも、不審なことしたり言ったりしたら容赦なく振り落とすからな!」


一気に畳み掛けて、俺はようやっと馬車への切符を手に入れたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なるほど…つまり、気が付いたらここにいた訳か…」

「お兄ちゃん、大変なの?」

「まあ、大変って言えば大変かな」


その後、俺は男の隣で馬車に揺られながら男、ケーベンス・リスとその子供のリリスちゃんに隠す所を隠して事情を説明した。ケーベンスはかなり良い人だったらしく、俺の話を聞くとすぐに先ほどの態度を謝ってくれた。俺は俺でいきなり話しかけてしまった事を詫びた。


「それにしてもニホンって言ったか?そんな国、聞いた事もねえが…」


そりゃそうだろう。日本はこの世界には無いのだから。そこら辺は余り深く聞かれては困るので、俺から話を振りに行く。


「それで、ここって一体どこなんだ?あの街っぽいのは?」

「私っ!私が教えて上げるー!」


すると、リリスちゃんがずいっと馬車から身体を乗り出して説明役に買って出た。


「ここはねー、なんぼく数千kmに広がるちょうこうだい草原、『シュガット大草原』。向こうに見えるのはここら辺で一番大きな街、『シュガット』。私達は今から、シュガットにあきないをしに行くんだー」


言葉足らずな発音ですらすらと説明してくれるリリスちゃん。


「へえ。じゃあおいちゃんは商人だったのか」

「おお、そうだぜ。商い始めてこの道20年の大ベテラン様だ」


商人か。本当に異世界だな、おい。俺はリリスちゃんの頭を撫でつつ、そんな俺をもの凄い形相で睨んでくるケーベンスに問いかけた。


「おいちゃんは一体どんな物を売ってるんだ?」

「俺か?俺はー、そうだな。冒険者相手の武器を主に取り扱ってんだ。その他にもポーションやら何やらだな。とりあえずリリスを撫でる手を止めろ」

「冒険者!?武器!?」


聞き捨てならない単語を聞いて、思わずリリスちゃんを撫でる手に力が入り更に巧みになった。リリスちゃんは気持ち良さそうに俺の手の平に頭を擦り付けてくる。猫みたいだ。


「ぼ、冒険者って事は…冒険ギルドもあるのか?」

「そりゃあるだろ?確かシュガットにも冒険ギルドの支部がある筈だぜ。シュガット自体が結構デカい街だから、その規模も言うに及ばずだな。そろそろ怒るぞ。リリスから手を離せ」

「まじか!うおおお!燃えてきた!」

「リリスを撫でんなっつってんだろ!」


ついに牙をむいたケーベンス。リリスちゃんはそんなケーベンスなんてどこ吹く風、俺の撫でテクの虜になって破顔している。


「えへへー」

「リリスうううう!」

「ふっ。俺の撫でテクニックは神様をも魅了した。全ての幼女及び犬猫は俺の前では無力なのだ」

「お父さんに撫でられるよりも気持ちいいー」

「ぬおおおおおおおおおお!」


がくっと肘を膝につくケーベンス。俺は頭から顎に撫でる手を浸食しつつ、話を続けた。


「なあ。冒険者って、どうやったらなれるんだ?」

「ああ…?そりゃ、冒険ギルドに行けば誰だって…ああ、でも金が必要だ。確か1000コルくらい」

「コル?それは金の単位か?」

「何だ、コルも知らないのか…?」


ケーベンスは俺の手の内で幸せそうにするリリスちゃんを一瞥して大きなため息を吐いて、コルについてぼそぼそと説明を始めた。


コルはこの世界全域での共通の通貨単位らしい。1円に付き1コル。貨幣は下から石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、ミスリル貨の6種類で、石貨は10コル、銅貨は100コル、銀貨は1000コル、金貨は1万コル、白銀貨が10万コル、ミスリル貨が1000万コルだ。白金貨やミスリル貨は日常生活ではまず目にする事は無いらしく、殆ど出回っているのは石貨、銅貨、銀貨、金貨のいずれらしい。


「なあ、所でそろそろリリスから手を…」

「もっと撫でてー♪」

「おう、勿論だ」

「くっそおおおおおおお!」


完全敗北したケーベンスがそろそろ可哀想になってきたので、俺はリリスちゃんから手を離した。名残惜しそうに俺を見つめるリリスちゃんには悪いが、乗せてもらっている手前ケーベンスの気分を害するのは良く無い。もう遅いかもしれないが。


「お兄ちゃん、冒険者になるつもりなの?」

「ん、まあな。やっぱ男なら冒険者だろ」


俺は胸を張って無垢な問いかけにそう答える。するとケーベンスがこれまた大きなため息を吐いた。


「やめとけやめとけ。冒険者なんて、命を捨てに行くようなもんだ」

「そりゃどういう意味だよ」

「最近魔物の数が増えてきていて、冒険者の死亡率が高くなっているらしい。更に、『黒の棺屋』まで出っ張ってんだ」


何度目かの『黒の棺屋』。聞けば結構ヤバ目の8人の盗賊団らしい。実力もあるし頭もあるので、その被害はかなり拡大しているそうだ。


それにしても、冒険者に武器を売る商人が冒険者になるなって…全く発言力が無いんですが。


「『黒の棺屋』ねえ…まあ、何とかなるんじゃね?」

「その自信はどっから湧いてるんだよ…」


危機感の無い俺の発言に、ケーベンスは呆れた様に肩を落として視線を前に戻した。俺についてはもう諦めたのだろう。まあ、俺も初対面の人にそこまで肩入れされるなんて事期待していなかったから良いが。多分、この世界の人の命は元いた世界よりも低いだろうし、ケーベンスにしてみれば少し助けてやったやつが冒険者になって死ぬ程度どうってことないんだろう。


「お兄ちゃんお兄ちゃん。ニホンって所のお話してー」

「うん。良いぜ」


それから俺は、たまにケーベンスも織り交ぜつつリリスちゃんと雑談を交わした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「でっ………っけええええええええ!」

「うるせえよ!」


時刻は夕方。太陽が地平線にどんどん近づいて、ついに空も薄い茜色に染まり始めた頃、俺を乗せたケーベンスの馬車はシュガットに辿り着いた。地平線の彼方でその姿を確認出来ていたので、ある程度巨大な街だと言う事は予想していたが、逆方向でその予想を裏切られた。デカい。大きな山みたいだ。


「そりゃあな。古代の大迷宮の上に積み上げられる感じででっかくなってきた街だ。かなりデカい」


そう言いながら、ケーベンスは馬車を凱旋門みたいにデカい街の門に近づける。するとそれに気付いた門兵が馬車を止めた。


「久しぶりですね、ケーベンスさん」

「ああ。やっぱり武器やポーションはここで売った方が良いからな」

「そうですか。ああ、はいはい。商業ギルドのカード、確かに拝見しました」


門兵は馴れ馴れしい感じでケーベンスと言葉を交わす。どうやらここには何度か訪れていたらしい。ケーベンスが懐からトランプ程の大きさのカードを出し門兵に手渡し、門兵はそれを確認してケーベンスに返した。


「そのカードは?」

「しょうぎょうギルドのカードだよー。身分証明にもなるから、街に入るのにお金が必要なくなるの」

「…身分証明が出来ない人は?」

「お金取られるよ?」

「oh…マジか」


すっかり失念していた。街に入るのにはお金か身分証明が必要らしいが、俺は勿論その両方を持ち合わせていない。どうしよう。


「仕方ねえ。ここは俺が払ってやるよ」

「おっ。良いのか?」

「冒険者になるんだろ?しばらくここを拠点にするから、俺んとこで武器買いに来い」

「そりゃ勿論贔屓にするぜ」


気前よく銀貨を一枚取り出し門兵に手渡すケーベンス。今回ばかりは本当に助かったぜ。街に入る前に詰んだかと思った。


「じゃあ、通っても良いですよ」

「おお。じゃあな」


門兵と二言言葉を交わし、馬車を前進させ門をくぐる。


「おお、おおおおおおお!」

「お前さっきからオーバーリアクションだな!」


くぐって街に入った瞬間、俺は余りの熱気に圧倒された。


街はやっぱり中世ヨーロッパでよく見られるレンガを使った建造物で構成されていた。門を出るとすぐ大通りになっていて、人が有り得ない程沢山いた。リンゴをかご一杯に持って歩く町民、槍や剣、杖を持った冒険者達、そしてケーベンスと同じく馬車で移動したり、隅で露店を展開している商人達。とにかくたくさんの人間がそこにはいた。


だが、俺が一番驚いたのはそこでは無い。人混みの中でちらほら目に映る猫耳やうさ耳、エルフ耳。そう、何と獣人やエルフが当たり前の様に人混みに紛れていたのだ。アメージングだぜ。


この世界には、人間は幾つかの種族に分かれている。一つ目が俺やケーベンス、リリスちゃんの様な『人族』。二つ目が先ほどから人混みを歩く猫耳少女やうさ耳おじさんなどの様な『獣人族』。三つ目がエルフやドワーフなどの『精霊族』。これら三つの種族が存在する。差別やなんやらはまだ根付いているらしいが、それも表立ったものでは無いし裕福層の連中が勝手に騒いでいるだけらしいので街にはそんな雰囲気は一切無い。人族と獣人族が親しそうに談笑しているのを見て、日常ではそう言ったものはまず見られないのだろう。


俺、決めた。獣人やエルフやドワーフの友達を一人づつ作る事に決めた。俺の目標の中に加えておこう。


「こりゃ楽しくなってきたな!俺、もう行くわ!サンキューなおいちゃん!リリスたん!」

「何だ、もう行くのか?じゃあなミナト。絶対に武器買いに来いよ!後リリスにもう触れんなよ!」」

「じゃーね、お兄ちゃん!後たんってなにー?」


俺は馬車から飛び降りて、ケーベンスとリリスちゃんに手を振った。リリスちゃんが不思議そうな顔で首を傾ける姿を目に焼き付けた後、俺は人混みに紛れてその場を去った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その後、露店を冷やかしたり、人に話しかけて仲良くなったりして冒険ギルドの支部までやって来た。場所はさっき仲良くなったおばちゃんに聞いたので、後は入って冒険者になって稼ぐだけだ。


冒険ギルドの支部は、この街の規模が規模なのでかなり大きな建物だった。いかにも冒険者の巣窟ですって感じの巨大な骨を使った装飾に、冒険ギルドを示す緑と赤の旗。入口は常にあけ離れていて、地面を擦る位長いのれんがはためいていた。


「ちーっす…」


俺は恐る恐る喧騒が響く冒険ギルド支部ののれんをくぐった。瞬間、かなりきついアルコールの匂いが鼻孔を刺激した。


見ると、冒険者達が木で出来たテーブルを囲って木の器になみなみ入ったビールを打ち付けて騒いでいた。テーブルには肉を基調にした様々な料理が並んでいる。ギルド支部って食事も出してんのか。


騒いでいた何人かは俺に気付いた。俺の学生服の姿に一瞬眉をひそめたが、すぐに騒ぎの中に入って行った。


「失礼しますよー」


その横をすすすっと通って行って、カウンターらしき所で本に何やら書いているオレンジ色のショートヘアの

受付嬢に声をかける。


「は、はひっ。あ、す、すみません。少々お待ちを」


少女はすぐに本をしまい、営業スマイルをかろうじて作って「ど、どうも」と腰を曲げた。


「何か御用でしょうか?」

「冒険者登録したいんだけど」

「あ、はい。分かりました。失礼ですが、お名前と年齢をお聞きしても?」


そう言って受付嬢は何やら知らない文字が書かれた紙を取り出してペンを手に持った。


「うん。織部湊。16歳」

「オリベ…ミナト様、ですか?」

「上が姓で下が名前」

「ああ、そうなんですね。いや、珍しい名前だったもので」


にへへと恥ずかしそうに笑う受付嬢。小柄で華奢だが、出る所はきちんと出ているその少女のはにかみは百点満点だった。可愛い。


「ミナト様。早速ですが、登録料1000コルをいただきます」


可愛かったのだが、その言葉を聞いて俺はぴしっと固まった。余りに獣人やらエルフやらに夢中になっていた物だから、お金について完全に失念していたのだ。


そんな俺を見て、受付嬢は困った顔で恐る恐る伺ってきた。


「も、もしかして、お金が無いので?」

「…ど、どうしよう…」


なにか、何か問題を解決する手は無いか。俺はとりあえずポケットに手を突っ込んだ。すると、昼辺りに入れてずっとポケットの中に入れっぱなしだった時計に手が触れた。


「これ…」

「何でしょうか、それは…?」


時計を手に取って取り出す。今は夕方だが、時計が指しているのは夜中の3時半あたりだ。この世界が24時間周期で動いているとも確証はつかないし、そもそも電池が切れればすぐに使い物にならなくなる。同様の理由でもう一つ入っていた携帯電話も使い道は無い。という事は、だ。


「これで何とかならない?」


俺は時計と携帯電話を受付嬢に手渡した。


「ええ?そう言われても、一体どんなアイテムなのか…」


そう言って俺が手渡しした時計を受け取り、困惑の表情をする受付嬢。


「な?駄目か?多分この世で一つしか無いものだと思うけど」

「そんなレアなアイテムなんですか?んー…私にはちょっと判断がつきませんが…」

「そこを何とか!な、な?」

「わ、分かりましたよぅ…でもお金足りなかったら、後で返していただきますから」


身を乗り出した俺に折れて、顔を赤らめて頷く受付嬢。茶色の紙を取り出して携帯電話と時計を包み込んで奥へと持って行ってしまった。よかった、大丈夫だった。さようなら俺の1万5千円の腕時計。彼女がいた頃にカッコ付けたいが為に買って、その後直ぐに親友に彼女を寝取られた思い出の品である。ふぁっきん。


「では、冒険者登録に移させていただきます。担当するのはこの私、冒険ギルド支部の受付嬢カタリナ・トゥワーレです」

「よろしく、カタリナちゃん」

「はい。よろしくされました」


カタリナはまた微笑んで、先ほど俺の名前と年齢を書いた紙を俺に差し出す。


「まずは契約文を確認してください。読めなかったら代読致します」

「読めないから代読お願い」

「分かりました。ええっと、『まず第一に、死んだ場合は冒険者本人の責任であって、冒険ギルドは責任を問われない。第二に、冒険者はランクで格付けされ、その実力に応じた依頼のみをこなすものとする。第三に、一度受けた依頼を破棄する場合、違約金を徴収する。第四に、冒険者はランクに応じて冒険ギルドのサービスを受けれるものとする』…これで全部です」

「なるほどね…」


一番最初に死について出てくるとは。冒険者という職が死に近いという事を良く現している。ランク付けや違約金に関しては前世で好きだったモンスターをハントするゲームのそれそのものなので特に問題はない。


「了承いただけましたか?」

「うん」

「では、次は冒険者カードを発行します。このカードに…」


と言って取り出したのは、トランプ程の、枠だけ金色で装飾された無色透明のカードだった。それと、針も一本取り出す。


「ミナト様の血を付けてください。どの部位でも良いです」

「分かった」


俺はカードと針を受け取り、針で自分の指の先をぷつっと指し、出てきた血をカードに付けた。


「うおっ」


血をつけて少しの間の後、カードが白い光を発した。なのに全く熱く無い。


「何だこれ?」

「冒険者カードには特別な魔法が掛けられております。使用者の血液を分解して解読し、使用者の情報を可視化する効果が付加されています」

「へえ!すっげえ!」


光はどんどんと勢いを無くして行き、ついに発光を止めた。すると、透明なカードにずらっと文字が書いてあるのが見て取れた。


「カードにはお客様の名前、年、レベル、各ステータス、所持スキル、所持金が表示されています。ステータスや所持スキル、所持金は任意で消す事が出来ます」

「ふーん…」


カードには


『ミナト・オリベ:16歳

LV:1

力:C

防御:B

魔力:C

魔防:C

素早さ:B

持久力:C 


スキル:魔法の才(全属性魔法の才能)、異世界人(レベルアップ時のステータス上昇補正)


所持金:0        』


とあった。確かに名前、年、レベル、ステータスやスキル、所持金が表示されているのを確認して、俺はステータスやスキル、所持金を非表示にした。


「なあ、ステータスの横にあるのって何なんだ?」

「ステータスは下からG、F、E、D、C、B、A、S、SSの9つにランク付けされております。レベルが上がれば各ステータスも上昇します。スキルは本人の能力です。持ってる人はあんまりいません」

「へえ」


俺、二つも持ってるけど大丈夫かこれ。魔法の才は多分神様がくれた特典だろう。異世界人の方は今俺がまさにそうなのだから仕方が無い。テンプレチートスキル乙ですね分かります。


カタリナは「それはそうと…」と前置きをして、にっこりと微笑んだ。


「おめでとう御座います。これでミナト様も晴れて冒険者です」

「おう。ありがとうな」


祝福してくれたカタリナに礼を言う。カタリナはそれに笑顔で答えて話を続けた。


「では、細かい説明をさせていただきますね。まず冒険者のランク付けです。ランクは、G、F、E、D、C、B、B+、A、A+、S、SS、SSSの12ランクに分かれます。冒険者の総合実力で上がったり下がったりしますので、高いランクになっても油断は禁物です。次に依頼についてです。知っての通り冒険ギルドはあらゆる人からの依頼を冒険者の方々に委託する形で提供しております。依頼にもランク付けがされています。下からG、F、E、D、C、B、B+、A、A+、S、SS、SSSの12ランクに分かれています。冒険者は、自分のランクの一つ下か同じランクのものしか受ける事は出来ません。依頼を失敗した場合は違約金を徴収致します。それと、冒険ギルドが直々に特定の冒険者に依頼をお願いする事がありますが、冒険者である以上、断るのは難しいのであしからずです。

以上です。質問はありますか?」

「ない。強いて言うならカタリナちゃんに彼氏がいるのかどうかを聞きたい」

「なっ…しっ、仕事以外の質問は受け付けませんっ」


赤い顔をして首を振るカタリナは本当に可愛い。でへへ。もっといじめたい。


が、残念な事に俺にはそんな暇は無い。今日の宿代やら食事代やらをとっとと稼がないと、食事水無しの野宿をしなければ行けなくなるからだ。


「早速依頼を受けたいんだけど、どこで受けれるの?」

「えっ。今からですか?依頼ならここで受けれますが…もう何時間かで日も落ちますが…?」

「今日一日分の宿代稼げたら満足だから。何か簡単な依頼ぷりーず」

「…分かりました。ただし、夜になると魔物達が凶暴化しますのでご注意ください」

「ありがとう」


カタリナちゃんが提示した依頼の幾つかを物色する。討伐系は数が少なく、その殆どが採取系や調査系らしい。武器が無い俺に討伐系は荷が重いので、とりあえず簡単そうなものを一つピックアップした。


「はい。薬草の採取ですね。薬草を30本集めて、指定の袋に入れて持ってきてください。これがその袋です」

「おう。あ、一応薬草がどんなものか見せてもらっても良い?」

「はい。こんな感じの草です」


そう言って、カタリナちゃんはちょっと分厚めの本を取り出して開いて、俺に見せる。よもぎに良く似た特徴的な草だ。これならすぐに見つかりそうだ。


「よっし。じゃあ行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいです」


俺はカタリナに手を振って、意気揚々と冒険ギルド支部から出て行った。







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