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仲間

作者: 鳴瀬七瀬

 私の住むマンションの裏手には、心もとない街灯で照らされている小道がある。そのオレンジとも赤ともわからない色が、私はあまり好きではなかった。

 仕事で疲れて帰ってきて、シャワーを浴びてゆっくりネットでもしようかとデスクに腰を据えた瞬間だった。


『ぎぃえっぎぃ、あがぁあぁ』

 物凄い奇声が聞こえる。私は窓に近寄った。おそらく外からだろうと思い、カーテンの隙間から様子を伺う。


『なんで俺だけがぁ! ちくしょうぉお馬鹿野郎死にやがれぇぇあぎぃぃ』

 なんだ。酔っ払いがくだを巻いているのか。そう納得したが、私は無意識に声の主を探していた。

 それはすぐに見つかった。街灯の近くでふらふらと立ち、時折万歳をするように両手を挙げたり、または敬礼の真似をしている。四六時中、せわしなく動きながらも絶叫は止めない。

 このままじゃ近隣から苦情が警察に行くだろうな。そう思ってカーテンから離れようとした時、それまで動き回っていた男の動きが止まった。

 ヤバい。部屋の電気は点けたままだ。男はこちらを凝視するように固まっている。


 関わり合いにならない方がいい。私かカーテンから離れ、すぐに電気を消したら相手に部屋がバレると思って、そのままにしてベッドに潜り込んだ。


 もし男が私の部屋に来たらどうしよう……考えると心臓がバクバクしたが、昼間の疲れと施錠しているという安心感から、ほどなく眠ってしまった。


 悪夢を見た。自分は食品工場のようなところで、一生懸命、串に肉を刺していた。何本も何本も刺したあと、声が聞こえた。

『大事にしろよ……自分のなんだから』

 はっとして手元を見る。串刺しになった肉は、自分の顔の肉団子サイズに縮めたものだった。


 冷や汗と共に私は起きた。妙にリアルで気持ちの悪い夢だった。

 ふと手元を動かすと紙が手に当たった。寝ぼけながら、何だろうと思って紙を見ると、凍りついた。

 それはB5サイズの紙で、スクラップブックのように写真がたくさん貼ってあった。画質からみて写メをプリントアウトしたもののようだ。


 まず、あの赤い道で伸びをしている男

。自撮りのためピントがずれている。写真の上から『本日電波微弱! 善きかな!』という文字が書きなぐってある。

 次に、赤い道から見えるマンションの私の部屋の灯りを撮ったもの。文字は『ストーカーの居城ヲ発見!』

 次は、走っているせいでブレてしまっているがボロボロのスニーカーの写真。文字は『急行する! 仲間に応援ヲ要請する』

 私のマンションの郵便受け。そう、私のマンションはオートロックではないのだ。文字は『目標は何人潜んでいるかわからナい』

 マンションのエレベーターに乗る男の自撮り。高く天に腕を掲げている。文字は『だが我ならば勝利は間違いナい!』

 私の部屋のドアの前に立つ影。文字は『是より潜入する』


 私はがくがく震えだした。この紙がここにあるということは、奴は本当に部屋に『潜入』してきたのだ。

 とりあえず警察に、と立ち上がろうとした時足がもつれてベッドから転げ落ちてしまった。

 足を捻ってしまった。床に這いつくばって痛みをこらえる。何か、目の端に違和感が走った。

 涙をこらえてベッドの下を見る。


 痩せさばらえて髪を振り乱した男が、ギラギラした狂った目で私を見つめていた。


 けたたましい叫び声を私が上げたおかげか、男はベッドの下から素早い芋虫のように飛び出ると家から逃げ出した。

 それから警察に連絡したのだが、奴は遂に捕まらなかった。


 警察には一笑に付されたが、私には気がかりなことがある。

 奴の写真に書かれた文字……。

『急行する! 仲間に応援ヲ要請する』

 仲間。その、仲間とやらが何人も押しかけてきたら私はどうなってしまうのだろうか。

 あれから私は窓の外を不用意に覗くのは、やめた。








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