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誰が私を殺したの?7

「真里報告がある」


ドア越しに声を掛けるが真里からの応答はない。

不思議におもった龍弥がドアを開けると水の流れる激しい音が聞こえる。

まるで、浴槽から溢れた水が勢いよくタイルに落ちる音だ。


「真里!?」


一歩中に脚を踏み入れた龍弥が立ち止まった。


「龍弥?」


微動だにしない龍弥を不審そうに眺めた美樹が顔をのぞかせる。


「ひっ!」


口を抑えて美樹が後ずさった。


「どうしたの?」


祥子をその場に下ろし、春樹と雪夏も浴室を覗き込む。

そこには、

浴槽に沈んだ璃紅と頭から血を流した真里の姿があった。


「璃紅!真里!」


春樹が浴槽に沈んだ璃紅を持ち上げるが、力が入っておらず、その体も冷たい。

真里のそばにしゃがんだ雪夏は首元に指を当てて、春樹を見上げ静かに首を振った。


「なんで・・・なんでこんなことになったのよ!」


美樹が髪を振り乱しながら叫ぶ。

その問いに応えられる人間なんてこの場所にはいない。


「誰か、浴槽の栓を閉めたか?」


龍弥が浴槽を睨みつけながらみんなに問う。


「誰も閉めてないよ。真里さん以外僕達が最後にここを出たから断言できる」

「じゃぁ、何で浴槽に水が溜まってるんだよ。水がなきゃ璃紅は死ななかったかもしれないだろう」

「真里よ!真里がやったのよ!」

「はぁ?」

「真里はずっと璃紅のことが好きだったの!だから」

「殺したって?」

「そうよ!」

「あのさ、璃紅は助かったかもしれないんだぞ。それなのに殺してどうする」

「でも、こんな姿で生きていくなら、いっそう・・・そう思ったって不思議じゃないわ!」

「美樹。真里も死んでるんだ。それはそう説明する」

「心中よ!璃紅を殺したあと、自分も死んだのよ」

「アホらしい」


憶測すらならない、美樹の妄想を眉をしかめた龍弥は春樹と力を合わせて水の中から璃紅を引き上げる。

すると、勢いよく浴槽の水が排水口に流れていく。


「そっか、璃紅の体が排水口の蓋の役割をしていたんだ。だとすると、水が溜まるのを真里がただ見ているわけがない」

「うん。真里さんの方が先に死んのかもしれない」

「真里は何で頭を打ったんだ?」

「おそらくこれじゃないかと」


春樹は先程少し離れた場所にあった石鹸を龍弥に見せた。


「石鹸?」


その言葉に雪夏が息を飲む。


「もしかし、私のせい?」


雪夏は両手で口を抑えて涙を耐える。


「どういうことだ?」

「雪夏さんのせいじゃないよ。これは事故だよ」

「春樹説明しろ」

「最初に言っておくけど雪夏さんのせいじゃないからね。だから責めないでね」

「分かった」


この浴室を出る間際の雪夏の真里とのやり取りを説明した。

そして、自分の推測を付け足す。

石鹸を渡された真里は、血を落とそうとする。

血を落とした後床に置いたままにしてうっかり踏んで滑り、頭を浴槽に打ち付けてしまう。

打ちどころが悪かったのか真里はそのまま息を引き取る。

そして、浴槽に水が溜まり動けない璃紅が水死してしまう。


現実離れした話に首を横に振りたくなるが、春樹の推測が現場を見ると一番近かった。


「責めるまでもないな。立派な事故だ。むしろ真里の不注意だ」


声も出さずに静かに涙を流す雪夏の頭に龍弥は軽く手を置いて優しく叩く。


「お前のせいじゃない。泣くな」


慰めの言葉に首を横に振り、雪夏は自分を責め続けた。



二人の遺体は、浴室からエントランスホールに一番近い室内にシーツをかけて安置された。

残されたのは五人。

暖炉のあるサロンは避けて、2階の居住スペースのサロンに集まっていた。

璃紅が事故を起こした場所にいるのは落ち着かないのだ。

それぞれが何かを思案しているのか、この部屋に来てから誰も言葉を発していない。


「ねぇ、お腹空かない?」

「えっ」


美樹が静寂を破って声を上げる。

このタイミングでのそのセリフ?呆れたように春樹が声をあげる。


「えっ?何よ!お腹が減っちゃいけないの?自然の摂理でしょう?」

「誰もそんな事言ってないじゃないですか?」

「何よ!私を悪者にしたければすればいいでしょう」


バンと机を両手で叩き、春樹を睨みつける。

まるで酔っ払いに絡まれたみたいに会話がかみ合わない。

というか、美樹が人の話を聞かない。

昔から自己中心的なところはあったが、ここに来てからその傾向が顕著に現れているような気がする。

春樹は静かにため息をついて龍弥を横目で見ながら微かに首を振る。


「美樹そんなに怒鳴るな。イライラしてるのはお前だけじゃない」


龍弥の静かだが怒気のこもった口調にに美樹は悔しそうに唇を噛み締めそっぽを向いた。

謝る気はないのだろう。不貞腐れたまま険悪な時間が流れる。

そんな雰囲気に落ち着かないのか雪夏が泣きそうな顔をしてオロオロしている。。

その視線に気がついた春樹が安心させるように微笑んだ。


「いつもの事ですよ」

「そうなんだけど、慣れなくて」


苦笑いを浮かべる雪夏に春樹は仕方無さそうに笑った。


「ちょっと一息いれましょうか?」

「えっ」

「お腹空くとイライラしますしね」

「じゃあ、私食べ物とってきます」

「僕か行きますよ」

「食いもんなんてあんのかよ?」

「ありましたよ。冷蔵庫に」

「あっ、直ぐに行ってくるね」


慌てて立ち上がった雪夏の肩を龍弥が掴み再び腰を下ろさせる。


「俺が行く。雪夏は祥子を見ていてくれ」

「えっ、でも」

「美樹お前が言い出したんだ行くぞ。春樹、お前場所わかるんだろう?」

「ええ。雪夏さんと一緒に回ったから分かります」

「じゃぁ行くぞ」


龍弥は春樹と不貞腐れている美樹を引き連れて部屋を出て行ってしまった。

残されたのは、雪夏と祥子。

雪夏は生気の抜けた祥子の横に移動する。


「大丈夫?」


俯いている祥子の顔を覗きんだ。

しかし真っ青な顔をして、よく見ると瞳孔も開いている祥子から答えはない。

膝の上に置かれた手を取ると、氷の様に冷たい。

雪夏はその手を両手で包み込み温もりが早く戻るよう祈りを込めてさする。


どれくらい時間が経ったのだろうか、食料を手に戻ってきた。


「変わりはないか?」

「うん。全く反応ないの。人形のように体も冷たくなってるし」

「そうか」


テーブルの上に三人は食事を並べていく。

雪夏も手伝おうとしたけど、龍弥に止めらた。

今は祥子の手を握ってて欲しいと。


「もういいよ、祥子は私が見るから」


ぶっきらぼうな美樹の言葉に、雪夏は手を離そうとするが祥子の手がいつの間に縋る様に雪夏の手を握り締めている。


「先に食べちゃって、私まだお腹すいてないし」


雪夏は微笑みを美樹に向けながら言った。


「あっ、そう」


祥子が自分より雪夏を選んだのが気に入らないのか、美樹は瞬間ムッとしたが、ここで怒鳴っても自分の分が悪いと分かっているのか口を閉ざした。


面白くなさそうにスマホを取り出していじる。


「やっぱりダメか」


美樹がサンドイッチ片手にスマホを操作する。


「美樹、食事中はやめろっていつも言ってるだろうな!」

「確認よ確認」


通じないスマホに飽きたのかポケットにしまう。


「あっ!」


その行動を見ていて、雪夏は声を上げる。


「何よ!」


ビクッと肩を震わせて美樹は雪夏を睨む。


「ごめんなさい。私忘れてたの」


そう言って、ポケットから取り出したのは、画面に罅の入ったスマホだった。


「さっき私の足元に転がってきて、後で返そうと思って拾ってきたのだけれど・・・・」


返す相手はもういない・・・


「これって」

美樹が覗き込みながら言う。


「画面真っ黒じゃん、電源入ってないの?」

「えっ?電源?」

「やり方知らないの?貸して」


アタフタと電源を探す雪夏から馬鹿にしたように鼻で笑った美樹はスマホを取り上げる。

電源を入れると、暗証番号をいれる画面に切り替わる。


「ねぇ、浩太って何入れそう?」

「ん~オーソドックスに誕生日?」

「へ~、春樹は誕生日なんだ。今度見てやろう」

「やめてくださいよ」

「あれ?浩太の誕生日じゃない」


番号が違っていたのか切り替わらない。

美樹の赤い爪が何度も画面をタップする。

む~と唸りながら適当な番号を入れていく。


「祥子さんのは?」

「祥子の?」

不思議そうにしながらも入力すると画面が切り替わった。

待受は祥子と浩太の仲良く並んでいる二人だった。

いつも仏頂面している浩太もこの時ばかりは、口角が微かに上がっている。


「あっ・・・」


待受にするくらい仲のよかった二人。

もう見ることのできない光景に全員言葉を失う。

昨日まで続くと思われた日常が数時間前に失われたのだ。


「これ、祥子さんに渡してもいいかな?」

「えっ?」

「だって、私が持っているより祥子さんが持ってる方が浩太さんも嬉しいかなって」

「そうだな」


龍弥から肯定の言葉を得た雪夏は、自分の手を握っている祥子の手を優しく外し変わりにスマホを持たせた。


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