誰が私を殺したの?4
多少に前後はあったものの集合場所には全員が集まっていた。
「誰かいたか?」
「地下がありましたけど、誰もいませんでした」
「こちらも客室のような部屋がたくさんありましたが、誰もいませんでした」
「こっちも、いなかったよ~」
「同じだ。屋敷の人間の居室があったが誰もいなかった」
「どうするの?」
「そうだな・・・」
「ねぇ!立ったままなの?私疲れた!」
「じゃぁ、さっきテーブルと椅子がいっぱい合った部屋に行こうよ!」
全員は座れる場所へと移動する。
「へ~、広い上にテーブルもいっぱいあるじゃん」
思い思いの場所に座りながら一息つく。
「あっ!暖炉がある!!」
目ざとく発見した美樹が暖炉のそばに近づく。
「服も濡れてるし、寒いし、春樹!暖炉つけてよ」
「付けるのはいいですが、大丈夫ですか?」
「平気でしょ?人もいないし。風邪引くよりマシじゃん」
美樹の言った通り、この屋敷に入った瞬間真夏だというのに異様に寒さを感じていた。
ノースリーブの腕をさすりながら言った美樹の言い分に春樹はちらりと龍弥を見る。
肩をすくめた龍弥は好きにしろとばかりの態度だ。
「分かりました」
苦笑いを浮かべた春樹は暖炉の横に積んであった薪を組む。
「火がないですね」
「これ使え」
そう言って浩太が投げたのはライターだ。
何故、浩太がライターを持っていたのかは誰も突っ込もうとしない。
浩太が出さなかったら龍弥が出していただろう。
薪と一緒にあった小枝に火をつけて、その火を組んだ薪に移す。
「湿気てないといいんですが」
春樹の心配は杞憂に終わった。
暫くするとパチパチと音を立てて燃えだした。
「あったか~い」
女性陣が火の前に集まり暖を取る。
「璃紅」
「なんですか?」
「これ読めるか?」
隣のテーブルに座った璃紅に龍弥は何かを投げてよこした。
「本ですか?」
「あぁ、昔の字っぽくて読めなくてな」
パラパラとページをめくった璃紅は何度か頷く。
「大丈夫、掠れて読めないところもありますが読めますね。日記っぽいようですが」
「読んでくれ。何か参考になるかもしれん」
「分かりました」
8月28日
素敵な人に出会えた。
その人を初めて見たとき、頭の中で鐘がなった。
私の運命の人。
やっとお会い出来た。
9月3日
あの方のすぐ側に立つことができた。
素敵な優しい香りがする。
なんの香水をつけていらっしゃるのかしら?
私もあの香水が欲しい。
9月13日
あの方の名前が分かった。
龍二様というお名前だ。
なんて雄々しいお名前なんでそう。
あぁ、龍二様
10月7日
龍二様とお話することが出来た。
たった一言だけど。
もう、死んでも良い。
10月21日
嬉しすぎて心臓が止まってしまいそう。
あの方の手の感触が今も残っている。
11月6日
死んでしまいたい。
龍二様とのダンスで緊張して足を踏んでしまった。
もう、恥ずかしくて生きていけない。
11月20日
私は今現実の世界にいるのでしょうか?
もしかしてここは天国かもしれない。
今日という日を一生忘れない。
12月5日
初めて龍二様と街を歩いた。
龍二様はとても物知り
アイスクリンという冷たいお菓子をおごってくれた。
頬が落ちるほど美味しかった。
12月15日
10日も龍二様のお顔を見ていない。
何かあったのか心配です。
12月16日
龍二様とお会いできた。
でも、顔が白く体調がお悪い様子。
心配です。
12月20日
もう、生きていけない。
死んでしまいたい。
龍二様のいない人生なんて考えられない。
12月24日
なんて素敵なクリスマスイブなのかしら?
サンタさんが私に最高のプレゼントを持ってきてくれた。
私は今この世界で一番の幸せを手にしています。
12月31日
今年は最高の年でした。
神様、龍二様に逢わせてくださって、ありがとうございます。
どうぞ来年も素敵な年でありますよに。
1月3日。
もう、ドキドキが止まらない。
昨日からほとんど寝ていない。
肌の調子は大丈夫かしら?
今日、龍二様が家の両親に挨拶に来る。
〇月〇3日
私は今日結婚する。
愛しいあの人と。
朝から屋敷の中が忙しい。
祝福の言葉もいっぱいもらった。
これから先どんなに苦しくても龍二様が居てくれれば生きていける。
あの人さえ側に居てくれればどんな困難にも立ち向かえる。
永遠に一緒にいられますように。
「最後の日付は掠れて読むことができないな」
ところどころ変色してしまったり、虫食いがあったりで全部読む事は出来なかった。
「この子は結婚して幸せに暮らしたのかな?」
「さぁな。これ以降は全部白紙だ」
真里の言葉にパラパラと日記をめくった璃紅は白紙を確認する。
この二人がどうなったかこれ以降は書かれていない。
「なんか、かわいそう」
全員が二人の行く末を思っていたとき、小さな声が室内に響いた。
声の主は雪夏。
痛ましそうに眉をひそめている雪夏に向かって祥子が首をかしげた。
「なんで?」
「私だったら、日記なんてもの人に読まれたくないわ」
「でも、死んじゃってるかもしれない人に遠慮してどうするの?」
「祥子さんは、死んだあとメールとか読まれて嬉しい?」
「あっ、それは嫌かも」
「でしょう?」
二人の会話を聞いていた璃紅が日記を手に徐に立ち上がる。
全員の視線が集まる中、璃紅はゆっくりと暖炉に向かう。
「璃紅くん?」
「燃やしてやろう、もう誰にも読めないように」
そう言うと璃紅は暖炉にそれを投げ入れた。