誰が私を殺したの?
拙い文章ですがどうぞよろしくお願いいたします。
健やかなるときも
病めるときも
喜びのときも
悲しみのときも
富めるときも
貧しいときも
これを敬い
これを慰め
これを助け
この命尽きても
あなたを愛することを誓います
古い年が終わり新しい年が幕を明けた。
世間は新年を祝う行事で忙しい。
街中は喧騒で溢れえていた。
桐ケ崎家は、華族に連なる家柄。
新年から挨拶に来る人たちが絶える事がない。
年明け3日目
その日は親戚や、親しい友人などが朝から訪れてた。
この日を過ごしきれば、明日は家族水入らずで過ごせる。
遅くなったが使用人も二日ほど休みを取らせることになっていた。
朝からひっきりなしに訪れる客人をもてなし一息つけたのは夜九時を回っていた。
居室のある二階のサロンで、この家の主人と奥方がメイドの入れる珈琲を飲んでいる。
「お父様!お疲れのところ申し訳ありません」
入口に清楚な佇まいの娘が現れた。
「あぁ、大丈夫だよ。ちゃんと覚えてるから」
「ありがとうございます」
安心したように微笑んだ娘に主人はは若干疲れたように告げる。
「ただ、もう遅い。弟妹たちは休ませるぞ」
「もちろんです。お父様もお疲れなのに申し訳ありません」
「仕方ないさ。彼も忙しい人間だ。それに何度も合ってるけど好青年じゃないか」
「心配なんです」
「なにがだい?」
「私みたいな女とあの方が釣り合うのかなって」
心配そうな娘に、父親と母親は顔をあわせて笑い出す。
「何を心配しているんだい?家の娘はとびきりの美人さんだ」
「えぇ、教養も知性も美貌も備えているのはあなたくらいよ」
両親に褒められて、娘の頬がバラ色に染まる。
そこに、物腰の丁寧な初老の男性が気配を潜めてやってきた。
「お待ちの方が起こしです」
「そうか、では、下の第一サロンに・・・いや、こちらに呼び給え」
「かしこまりました」
見本のようなお辞儀をして男性が下がる。
「お父様?」
娘は父の言動に驚き見張ったら。
2階サロンのあるこの空間は家族意外立ち入り禁止になっている。
心配そうな娘の頭を優しくなでると、目尻に笑いジワを浮かべた。
「これから家族になるのだろう?だったらこの場所に呼ばないとな」
「お父様」
娘の顔が嬉しそうに綻んだ。
「失礼します」
初老の男性の後ろに、やや緊張に顔を強ばらせた背の高い青年が背筋を伸ばして立っている。
「ようこそ。婿殿」
そう言って父親と母親は青年を迎え入れた
その年の桜が満開に咲き乱れる頃。
その家から幸せそうに頬を染めた花嫁が誕生した。
日中の茹だるような暑さが少しは涼しくなる夜。
既に全ての人が眠りについてあろう時刻。
屋敷の中で、ゆっくりと動く影があった。
カタンという音が廊下に響き、夜の当番に当たっていたメイドは、室内から顔を覗かせる。
廊下が薄暗いためランタンを持ち、音が聞こえた方へゆっくり歩みを進めた。
後ろに気配を感じ、振り向き灯りで確認しようとするが、頭に強い衝撃を感じメイドは二度と確認することができなくなった。
影はゆっくり歩き続け、一つの部屋で止まる。
そして、音を立てないようにドアを開く。
天蓋付きの広いベットの中央で、無邪気な顔をして男の子が眠っている。
昼間たくさん遊んで疲れたのだろう。抱き上げられても起きる様子がない。
部屋に備え付けられている風呂場に到着すると、水が張ったままの浴槽にその男の子を落とした。
慌てた男の子がもがくが、男は肩を強く押して水から上がれないようにしている。
暫くするともがいていた男の子は弱まり、二度と動くことはなかった。
静かに影は部屋を出た。
部屋を出た時目の前に執事の姿があった。
驚く執事の口を塞ぎ、暑くて風通しをよくするために開いていた窓から突き落とした。
執事は、鈍い音と共に頭から落下した。
窓から視線を外すと、影はまた一つの部屋に入る。
沢山の人形に囲まれて眠る妖精のような女の子。
躊躇せず影はその子の首に手をかけ力を込めた。
目を覚ました女の子は驚愕の瞳で影を見つめる。
すがるように影の手をつかもうとしたが、途中で力なくベットに落ち二度とその手が上がることはなかった。
影は額を伝う汗を拭うと、再び歩き出す。
影が向かう先は書斎。
そこでは、仕事の途中で寝てしまったのか、ソファーに深く腰を下ろし、顔を上にして寝ている男性がいた。疲れているのか、口が空いている。
影は持っていた小瓶の中身をその男性の口に流し込む。
すると、瞬く間に男性が起き上がり首を押さえながらもがき苦しみ始めた。
口から泡を出しながら男の手が影に向かって伸びる。しかし、影に届くなく力尽きた。
影は小瓶の指紋を拭き取り男性に持たせると、再び歩き出す。
そして、今度は一際大きい部屋にたどり着く。
そこでは女性が、静かな寝息をたてている。
影はゆっくりベットに近づき、両腕を大きく振り上げた。
開けた窓から月明かりが差し込み、持っていた剣の刀身がきらりと光った。
胸元を正確に狙って、勢いよく振り下ろす。
女性は二度と目覚めることはなかった。
影はゆっくりと廊下を歩く。
そこにひとりの女性が不思議そうに立っていた。
「起きてたんですか?」
初めて影が喋った。
「遅いので迷子かと思って、迎えに来ちゃったんです」
「それはそれは」
微笑んだ影は女性の肩を抱いた。
「ありがとうございます」
向かう寝室の途中に階段があった。
「愛していましたよ」
影はそっと、女性の耳元で囁いた。
幸せの絶頂にいるはずのその夏の夜。
桐ケ崎家は歴史から姿を消すことになった。
その数年後、あるひとつの企業が大きく成長をし始めた。