表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Letter to you

作者: 水瀬葎那

『今日は、卒業式だった。

高校の三年間なんて、あっという間だった。

名前を呼ばれて、卒業証書を受け取ったとき

しみじみとそう思った。

卒業式と一緒に、あんたの通夜が行われた。

あんたの、あのあほらしい笑顔。

棺おけの上に飾ってあったよ。

ほんと、あほらしいよね。あんたの笑顔。

その顔見たとき、皆泣いてるのに

私だけ笑っちゃったよ。

・・・なんかさぁ。私とあんたって、三年間も

付き合ってたんだね。

すごいよね。なんか。

私さ、最初あんたに告白されたとき

絶対長続きしない、って思ったんだよ。

友達と賭けだってしたし。勿論、長続きしない方に賭けた。

・・・それでも、なんかあんたといると楽しくってさぁ。

このあほらしい笑顔を、ずっと隣で見ていたいなーって

思っちゃったんだよねぇ。

その時の私、ホント私らしくなかった。

今でも笑っちゃうよ。あんただって、笑うでしょ?

すっごいあほらしい笑顔浮かべて。

でも私は、その笑顔が大好きだったんだよ。

・・・ホント、私あほみたい。

だってさぁ、時々ふっと思っちゃうんだよ。

あんたと一緒にいるとき。

あんたともしかしたら、結婚するかもって。

私がしわくちゃのばばあになっても、あんたは

相変わらずその笑顔で、笑ってるんだろうなって。

たまに想像しちゃったりもしてさぁ。

ほんっと、あほだよねぇ。

・・・でも、こんなあほ同士だから一緒にやってこれたのかもしれない。

あんただったら、そういうだろうね。

・・・・・・なんかさぁ、今でもあんたが死んだのが信じられないよ。

だって、気付いたら隣で笑っていそうなんだよ。

あんたのことだから、どうせへらへら笑ってるんだろうけどさ。

・・・ほんっと。なんで、死んじゃったかなぁ。

しかも、卒業式の前日って。あほですか。

つーか、もうあほ通り越してばかだよ。あんたは。

ばか。あほ。・・・なんで、死んだのさ。

あんたさ。言ったじゃん。

私と喧嘩して、私がすねて家に帰ったとき。

電話でいいのに、わざわざ家まで訪ねてきてさ。

「仲直りの言葉はうまく言えないけど、とにかく

俺が愛してるのは君だけだから。一生愛すことを誓う」って。

それ、仲直りの言葉じゃないじゃん。絶対。

つーか、そんなキザな言葉を恥ずかしがらず

言えるあんたはあほだよ。

・・・それでも、私はそれがなんか嬉しくてさ。

仲直りしちゃったんだよねぇ。

・・・一生愛す事を誓う。私、あの時の言葉

ちゃーんと全部覚えてるんだよね。

一生って・・・。無理じゃん。死んじゃったじゃん。

なんで死んだの?私が悲しむの知ってるじゃん。

・・・猫をかばってトラックに轢かれた、だっけ。

あんたの死因。・・・ほんっと、あんたらしい死に方だよ。

何、猫をかばってって。あほですか。

あほだよ。うん。あほだ。

・・・・・・こんな手紙書いてる私も、あほだけどさぁ。

もしかしたら、あんたのあほがうつったのかも。

それだったら、困るなぁ。

・・・こんなときも、あんたはあほな笑顔で

笑ってるんだろうけどさ。

・・・これ、あんた宛て。でも、あんた死んでるじゃん。

それを知りながら、書いてる私。

あほですか、私。

どうするの、この手紙。出そうにも、どこに出せばいいの。

あんたの死んじゃってからの住所って、どこよ。

天国?それとも地獄?・・・ほんと、今の私をあんたに見てほしいよ。

すっごいあほだからさ。

・・・あーあ。あんたと一緒に卒業したかったなぁ。

本当に死んじゃったんだね。・・・今でも生きてるんじゃないの?どこかで。

それで、蔭であほな私の姿を笑って見てるとか。

・・・・・・そうであって欲しいけどさ。・・・無理なんだよね。

・・・死んじゃったんだよね。・・・ホントに、死んじゃったんだよねぇ・・・。』



目を閉じる。手が疲れた。ペンを置く。

少し伸びをして、今まで書いた手紙を読み返してみる。

心の中でどこに出すんだと、自問自答しながら書いた手紙。

その手は、止まることはなかった。

むしろ、すらすら書いていた。自分でも驚きだ。

立ち上がる。棚の上に置いてある写真たてを手に取る。

あいつと二人で撮った写真。

あいつのあほな笑顔に、思わず笑ってしまう。

「・・・ほんっと、なんで死んだかなぁ・・・」

思わず言葉が出てしまう。

でも、かまわず言葉を続ける。

「・・・つーか、卒業式の前日ってありえないからね。

一緒に卒業しようって言ったのあんたでしょ?

だから、私勉強頑張って、ギリギリで赤点免れたんだよ」

息を呑む。あいつの顔を見詰める。

「・・・それなのに、死ぬなよなぁ。あほですか。あんたは」

窓から光が差し込む。もう、日は暮れ始めていた。

「・・・ほんっと・・・あほだよ・・・」

写真たての上に、涙が落ちる。

光が涙に反射して、とても綺麗だった。

「・・・っ・・・・・・」

涙が止まらない。泣いたって、悲しみは消えていかないのに。

写真たての上に、涙が次々と落ちてゆく。

涙を袖で拭う。写真たての上の涙も拭った。

あいつの笑顔が見える。

その横で、幸せそうに笑っている自分。

それを見たら、笑いが零れた。

写真たてを持ったまま、机に向かう。

写真たてを机に置き、ペンを手に取った。


『しょうがないから、祝ってあげる。

だからあんたも、ちゃんと天国で祝ってよ。

卒業おめでとう。

・・・あと、こんな言葉私らしくないけどさ。一応書いとくよ。

・・・大好き。・・・あっちでも、あほらしく笑っててよね』


ペンを置く。涙が止まらない。

袖で涙を拭いながら、写真たてを手にとる。

笑っているあいつの顔を見て、思わず笑う。

涙を拭う。笑いながら泣いているなんて、あほみたい。

心の中でそう思いながら、あいつの顔を見詰める。

そして、写真たての中のあいつにキスをした。


「卒業おめでとう」

あいつの声が、どこからか聞こえたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すっごく切なくなりました><。 「あほ」って何回も罵倒しているのに、それが「スキだよ」に聞こえてきちゃいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ