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Acacia  作者: 七緒なお
2/24

桜と君と2

ザワザワと話す声、バタバタと急ぐ足音

始業式が始まる前の体育館は、色々な音で溢れている。



私の通う、ここ櫻華高校は、クラス変えがなく、

3年間持ち上がり形式をとっているので、

今年も、芙美と同じクラスだ。


『藍澤結夢』と『上野芙美』――出席番号1番と2番。

2年5組の列の先頭で、2人でコソコソと話をしていた。


「――芙美、いた?」

騒がしい館内。そんなに声を潜めなくとも周りに聞かれる心配はないだろうが

芙美にかけた声は必要以上に小さくなってしまった気がする。


「んー……いないみたい…」

芙美はキョロキョロと辺りを見回して、目的の人の姿が見えない事に

少し落胆しながら答えた。


「まだ来てないのかな?」

「そんな事はないと思うんだけど…。今朝は早めに出るって言ってたし…」

そう言いながら、芙美はまだキョロキョロと探している。



探し人とは、芙美の恋人。

中学3年生の時に、家庭教師をしてくれていた彼。

何でも、父親の取引先の息子らしく

父親が勝手に相手方と決めてきた家庭教師話に最初は反発していた芙美も

彼に会い、接していくうちに、いつしか想うようになっていたという。

家庭教師の期限は高校入試まで。

このまま会えなくなるのは嫌だと思い、高校入学と同時に芙美から告白をしたら

実は相手も芙美の事を…という少女漫画のような展開だったらしい。

『なんか笑っちゃうでしょ』と芙美は恥ずかしそうに笑っていたが

とても羨ましく思えたのを覚えてる。

自分の好きな人が、自分の事を想っていてくれて

気持ちが通じ合う…それは奇跡に近い事だと思う。

16歳の高校2年生。自分だって、今までそれなりに好きな人ができたりした。

でもそれは、いつも私の一方通行ばかり。

だから、好きな人と、気持ちを通い合わせる事ができて

いつも幸せそうに彼の話をする芙美を見ていると

まるで自分の事のように嬉しくなる。


そして今日から、私達が通う、ここ櫻華高校に

その芙美の恋人が来る事になったのだ。

私も何度か会った事のあるその彼を、今こうして2人で探していたのである。



そうこうしてるうちに、始業式開式の時間になった。

ザワザワ騒いでいた生徒達も、皆自分の席に着き、舞台に視線を向ける。

舞台上では、始業式の進行担当の教師が、開式を伝えていた。


「――あ、いた」

その時、芙美が更に声を潜めて、後ろから背中を突付いてきた。

私は視線だけで後ろを向き、芙美の指の先を追う。


「右から3番目」

耳打ちされた人を見る。


「あ、ホントだ。今日はかっこよさ2割増?」

芙美にだけ聞こえるくらいの声で、ちょっとふざけて言う。


「でしょ?………なんてね」

少し照れながらそう言う芙美は、嬉しそうな…けれどもどこか切なそうな顔をしていた。


「大丈夫だよ。芙美と彼なら…」

「…ん。ありがと……」


芙美の指の先は、舞台上。

そこには、新任の教師達が並んでいた。



好きな人と両思いになれたと嬉しそうに言っていたのがちょうど1年前。

それから、いつも幸せそうに彼との話を聞かせてくれていた

芙美の様子がおかしかった、あの日。

どうしたのかと聞いたら、辛そうな切なそうな…何とも言えない表情で

『彼の就職先が、櫻華高校に決まった』――そう芙美は答えた。

彼の就職先が決まったのは純粋に嬉しかった。

自分は彼が家庭教師をしていた元教え子で

彼の教え方や授業のわかりやすさ、おもしろさは1番わかっていた。

“教師”と言う職業は、とても向いていると思う。

でも…何も自分が通う高校の教員に決まらなくても…そう言いながら

力なく笑った芙美の表情を、今でも覚えてる。


『教師と生徒』の恋愛。

世間では“認められない関係”

例え『家庭教師と元教え子』という関係が恋愛に発展したのだとしても

思いが通じ合った時に、高校生と大学生だったとしても

恋人が自分の通う高校の教師となった今、それは認められない恋愛に変わる。

でも、結夢は知っている。幸せそうに笑う芙美を。

嬉しそうに恋人の話をする芙美を――。

世間では認められない関係だとしても、自分だけは応援しようと思った。



峰岸頼人みねぎしよりとです。担当教科は化学です」

舞台上では、芙美の恋人が挨拶をしていた。

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