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Acacia  作者: 七緒なお
10/24

Turn around to me4

その後の中間テストは散々だった。


――あの日、どこをどう帰ったのか…気が付いたら自分の部屋にいた。

『……ごめん。聞かなかった事にさせてくれ』

先生の掠れた声が、あの言葉が耳から離れない。

自分の、感情に任せたあの行動に、情けなさが募って涙が止まらなかった。

勉強しなきゃと惰性で机に向かっても、頭に入ってくる訳もなく。

ただただ時間だけが過ぎていくだけだった。



テスト返却も粗方終わり、各教科とも普通授業に戻り始める。

あんなに楽しみだった数学の授業も、今は苦しいだけ。

出席をとる時や練習問題を当てられた時、『藍澤』と私を呼ぶ先生の声に

『お前には関係ない』 『ごめん』 『聞かなかった事にさせてくれ』

――そう続けられるような気がして、私を呼ぶ先生の声に心臓が忙しなく脈を打つようになった。

以前は緊張と高揚から上がっていた脈拍が、今は“恐怖”から上がる。

先生から発せられる呆れ、困惑、咎め、そして拒否………あの日沈黙の中で感じた、それらの恐怖から。

先生が黒板に向かっている時だけ見つめられた背中も、今は見る事ができない。

この“1番の席”も、今なら席替えに大賛成したくなるくらい、ツライモノでしかなくなっていた。

先生が通り過ぎた時に僅かに香るタバコの香が、あの日の教官室を思い出してしまうから――。


今日の数学は6時間目。1日の最後の授業だった。

今となっては、毎日ある数学の授業がちょっと恨めしい。

長く感じた授業がようやく終わって、小さく嘆息する。

なんとなく後ろから視線を感じた気がして振り返ると、そこには心配そうな芙美の顔。

あの日の事を、私はまだ芙美に話せないでいた。

あの後すぐに週末、そしてテスト…と、話すタイミングがなかったから。

――いや、本当は自分のしてしまった事があまりにも滑稽に感じて話せなかったのかもしれない。

でも…あの、先生に質問に行くと言って1人残った金曜日の放課後から

週が明けたテスト初日の月曜日の、私の態度の変化に芙美は何か気付いているみたいだった。

そして、それが先生と関係があるとわかったのか、先生の話題には触れてこなかった。

だけど、決して自分から聞き出そうとはしない。

私から話すまで待っててくれる、そういう芙美の気持ちが今の私には有り難かった。

「芙美。帰り、いつものカフェに寄ってかない?」

うまく話せるかわからないけど。

私の話を聞いた芙美の反応が怖くない、と言ったら嘘になるけど。

芙美に聞いてもらいたい、と思った。


いつものカフェで、私はミルクティー、芙美はストレートティーという、いつものメニューを注文して。

運ばれて来た紅茶を少し飲んで落ち着いたところで、あの日の事を話し始めた。

途中、何度か言葉が続かなくなったり、涙が出そうになったけど

芙美はただ黙って、私の話を聞いてくれた。

「………そっか」

全部話し終えた後、芙美はポツリと一言そう言った。

「…うん。今まで話せなくてごめん…」

「結夢が謝る事じゃないでしょ?…それにしても……燈吾先生も酷いわよね」

「や、でも…先生は“先生”だもん……私は生徒だし…」

「うん、それはわかってる。だけど、私が言いたいのはそうじゃなくて。

 『聞かなかった事にさせてくれ』ってやつ。酷くない?」

「………それは…」

「だって、そうでしょ?結夢はちゃんと“好き”って自分の気持ちを言ったんだよ?

 …振るなら振るで、ちゃんとはっきり言ってくれた方が諦めもつくのに。

 そんな“聞かなかった事に”なんて中途半端な言い方……酷過ぎ」

それは…確かに心のどこかで私もそう思っていた。

もっと直接的な言葉で振ってくれたら、

今すぐには無理だけど…それでも、先生を諦めて前に進めると思うのに。

実際の今の状態は“想いが報われる”という意味では“諦め”がついてるけど

“先生が好き”という気持ちは、消えそうにもなかった。

だけど――…。

「…振られた事には変わりないよ……」

「結夢……」

「…あんな突然…感情的に気持ちをぶつけて…。振られるのは当たり前だよ…」

「そんな事ないよ。私がもし結夢の立場だったら…きっと同じ事したと思う」

「………」

「ねぇ、結夢?無理して…自分の気持ちに嘘をつくのだけはダメだよ?」

「…………うん」

「私はいつでも結夢の味方だからね?」

「……ありがと、芙美…」

そう言って芙美に小さく笑って見せる。

うまく笑えてるかわからなかったけど、芙美は優しく笑い返してくれた。


無理して諦めなくても…もう少しの間想い続けてもいいかな。

まだ全然気持ちの整理なんてついてないし

相変わらず先生を見るのは辛いけど。

いつか自分の中で、この恋を終わらせられるまで――。

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